5 名前:あらすじ 投稿日:2006/08/21(月) 22:29:33.83 ID:/0vFFr730

突然の異形襲来により、陥落の危機を向かえたアリアハン。

レーベの村人Aブーンは、ひょんなことからアリアハンの少年ギコに助けられ、
謎の傭兵クーと共にロマリアを目指すことになる。

が、ロマリアは乱れきっていた。
旅の扉を潜った途端捕縛されたブーン達。
アリアハンの使者であるギコの願いもむなしく、反故にされようとする同盟。

然し、そこで立ち上がったのはクーだった。

王への反論が呼んだのは、歓心か、憎悪か。
クーは捕らえられ、異形との交戦を強いられる。

地下牢に放り込まれたギコ達は、兵の尽力によって逃亡。
幽閉された弟王の救出を目指し、カザーブで加わった武道家ジョルジュとともに、
北西シャンパーニの塔へと向かう……
 


9 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/21(月) 22:34:14.72 ID:/0vFFr730
■□■□■□■□


 割れんばかりの歓声がコロセウムを包んでいる。
 胞子を撒き散らす茸の異形が、かさを分断され転がりまわる。
 屍獣は間接を砕かれ、殺人蜂は羽根を切り裂かれて地に落ちた。

川゚−゚) 「………」

 コロセウムの中央には女が一人。
 魔物の血で汚れた剣が、一振りで冴え冴えとした横顔を取り戻す。

 この施設、元々は魔物同士を戦わせる為に建設されたらしい。
 民の鬱屈を向けさせるのに、賭博は好都合と言う事だろう。

 そこへ登場した女剣士は、異常な熱狂をもって迎えられた。
 「なぶり者にされる哀れな囚人」から、「魔物を圧倒する剣士」へと、観客の期待は変遷する。
 コロセウムには連日多くの民が押し寄せた。
 クーにせよ、何体魔物を切ったのか覚えていない。狂乱は早数日を数えていた。



10 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/21(月) 22:37:36.42 ID:/0vFFr730

 ロマリア王は執拗だった。
 疲労に倒れる事がないようにか、戦いには休憩が挟まれる。
 一息に魔物を送り込む事はしない。
 夜はベッドが用意され、湯浴みもできる。
 が、出現する異形達は段々と凶悪になっていった。
 組み合わせのいやらしさもある。
 眠りを誘引する茸、毒を持つ蛙、麻痺を齎す蜂 ――…
 
川゚−゚) (まるで蛇だな。この気質、ロマリア人にはないものと思っていたが……)

 コロセウムの中ごろを見上げるクー。
 視線の先には、ひときわ豪華な観覧席に身を置く王の姿がある。



12 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/21(月) 22:38:50.88 ID:/0vFFr730

川゚−゚) (……)

 ―― 視線は合わなかった。
 そこには、憤怒の形相で立ち上がった王がいた。
 激昂し、酒杯もろとも兵士を突き飛ばすと、ぶるぶるふるえながらクーを見下ろす。
 王の口に消えた、何ごとかの呟きは、勿論クーには聞こえなかった。

川゚ー゚) (あいつらめ……動いたか。 さあ、どう出る ――…)


 陽が翳り、夕日が地平に落ち掛かる頃、コロセウムの外周を歩いていた少年は聞いた。
 観客席から上がったどよめきが、悲鳴へと変わるのを。


■□■□■□■□



13名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/21(月) 22:39:36.71 ID:/0vFFr730

( ゚Д゚) 「ぐッ―…!」
(;^ω^) 「おぽおん!!」
( ゚∀゚) 「気合い入れろよ! そらッ!」

 螺旋階段に、人と魔物がひしめきあう。

( ^ω^) 「ギコ、階段が終わるお!!」
( ゚∀゚) 「よし、お前ら―… どけえッ!!」

 交戦していた魔物をジョルジュが扉に投げ飛ばす。
 頚椎の砕ける鈍い音と共に錠が砕け、砂交じりの突風が階段に吹き込んだ。

( ;゚Д゚) 「む、無茶すんなゴルァッ…!」
( ゚∀゚) 「鍵なんざこうしちまえば無いのと同じよ!」

 尚も追い来る異形を豪腕の一閃で黙らせると、三人は一気に扉を潜った。



14 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/21(月) 22:41:11.49 ID:/0vFFr730

 シャンパーニの塔は、異形の巣窟になっていた。
 ロマリア兵の姿は無かった。
 見事な彫刻が為された壁は、魔物の糞や死液でぬらぬらと汚れている。
 おそらく何年も、まともに人間が入った事などないのだろう。
 朽ち掛けた剣の柄を蹴り飛ばし、ギコが頭をかき回す。

( ゚Д゚) 「――… ロマリア王は、何に冠を守らせてるんだゴルァ……」
( ^ω^) 「ロマリアって、前からあんなDQN国だったのかお?
       いくらなんでもひどすぎるお」
( ゚Д゚) 「少なくとも、一年前まではそうじゃなかった筈だ。
      サスガ兄王も、アリアハン王と会合してたしな…」



15 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/21(月) 22:42:54.27 ID:/0vFFr730

 喋る二人の後ろ。ジョルジュは先程から引っかかっている、何かの記憶に眉を寄せていた。

( ゚∀゚) (……? シャンパーニ。ロマリア。なんだっけか、あの噂……
      確か、ロマリア王が誰かとつるみ始めたってえ話……)

 記憶の引き出しを開けて見ても、そこにはアッサラーム女の乳が詰まっているばかりだ。

(*゚∀゚) (ムッハー! やっぱアッサラーム女の乳は違うねえ! うずまりたいぜ……) 
( ^ω^) 「……おっ!! 1G見っけだお!!」

 ニヤニヤと笑うジョルジュを尻目、ブーンが身を屈め ―――…



19 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/21(月) 22:59:28.95 ID:tml06FXC0

 次の瞬間、うなりをあげて射出された矢が、ブーンの背中を掠めて向かいの壁に突き刺さった。

( ゜ω゜) 「ぱ・・・・・・・・・・・・・・・」

( ゜ω゜) 「ぱおおおおおおおおおんッ!!」
( ;゚Д゚) 「な、なんだこりゃッ!アロースリット!?」

 アロースリット。盗掘者撃退の為の罠だ。
 壁の中に空間があり、そこに射手が潜んでいるのである。
 レリーフの獅子の口からちらりと鏃が覗き、すぐさま第二矢が射かけられた。

( ;゚Д゚) 「わ…… 罠だッ!! 走り抜けるぞゴルァッ!!」

 ギコが盾を翳し、ブーンを蹴り飛ばして勢い良く走りはじめる。
 遅れまいと走り始めたジョルジュは、思わず叫んだ。
 思い出したのだ。
 ロマリア王と繋がる、彼の者の名前を。



20 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/21(月) 23:02:48.83 ID:tml06FXC0

(;゚∀゚) 「盗賊カンダタだッ!!カンダタ一味が、ロマリア王の後ろにゃついてんだ!!」
( ゚Д゚) 「……か、カンダタ!?誰だそりゃあ!?」
(;゚∀゚) 「前ーーに、ダーマ神殿を破門された男でよう!
      バハラタあたりで悪事を繰り返してたんだが、最近、ロマリアに拠点を移した筈だ!」
( ^ω^) 「そいつがどうかしたのかお!?」
(;゚∀゚) 「ええい、鈍いぜお前ッ! 金の冠を守ってんのは ――…」

 ジョルジュの足に筋肉が盛り上がる。
 砂履く床を踏み付け跳躍する。
 一気に扉を蹴り開け、着地した先、野太い男の笑みが彼を歓待した。




21 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/21(月) 23:04:11.70 ID:tml06FXC0

( ゚∀゚) 「その、カンダタ様じゃねえんですかい! ……なあ!」

 即座にジョルジュの体が沈む。放たれた足払いは虚空を刈り取り、低く風をふるわせた。
 その風が止まぬ内、衝撃がジョルジュの上体を穿つ。
 殺気 ――…
 飛びのく間もあらば、粉砕されたのは、今しがた自分がいた石畳。
 
( ゚∀゚) 「へッ。噂どおり、やるようだねえ」

 歓喜とも恐怖ともつかないものが、ジョルジュの体をめぐっていた。
 うなじの毛が逆立ち、毛穴が開く。
 鼓膜がふくらみ、耳孔が狭まって、音が遠ざかる。




22 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/21(月) 23:06:40.74 ID:tml06FXC0

 目の前の男は ―― 異様であった。
 縄じみた筋肉が、防具など付けない上半身を縦横に覆っている。
 ぼろの僧衣はそこかしこが破け、行き倒れた死者のようだ。
 浅黒い肌に走る傷が複雑に絡み合っている。四肢を覆う様は、何かのまじないにも見えた。
 そして、覆面と、斧である。
 僧兵の付ける頭巾を改良しているのだろう、こちらからは目しか窺う事が出来ない。
 斧は巨大にすぎた。
 血を吸い、どす黒く変化しているその逸物を、まともに受ければ命はない。

 ジョルジュの頭から、全ての事柄が消えた。
 唯一残っている理性が、最後に叫ばせたのは ――…

( ゚∀゚) 「ギコ、ブーン!! 構うなよ! 金の冠は任せたあッ!!」

 その一言だった。



28 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/21(月) 23:43:13.64 ID:tml06FXC0

( ^ω^) 「おっ、おっ、おっ・・・・・」

 頬をじっとりと伝う汗。
 鎖鎌を握る手がぬるつく。高みに吹く風も、火照った顔を冷やしてはくれなかった。
 ギコの背中が遠い。
 柱の影にへたりこむブーンの目に、塩辛い汗が伝って落ちた。

( ゚Д゚) 「、、 くっそ……!」

 ショートソードの一撃を受け流し、返す刀で喉元を狙う。
 手ごたえはある。だが、それは、鞣革を切り裂いたものだ。
 即刻後ろに引き、別の剣をやり過ごす。
 複数人を相手に、ギコの集中は切れ掛かっていた。




30 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/21(月) 23:45:15.46 ID:tml06FXC0

( ^ω^) (ギ、ギコ…… どうしようだお、どうしようだお。
       勿論僕は何にもできないけど、胸が痛むお……!)

 飛び退ったギコの肩を、ショートソードが切り裂く。
 鮮血が散った。
 息を呑むブーン。
 が、ギコも負けてはいない。懐に誘い込んだ盗賊を盾で弾き、後続もろとも
一気に二人を転ばせる。追撃は鮮やかだった。一人の足の腱を削った刃先が、
今一人の手首を斬りつける。

( ^ω^) (……、、 すごいお!! もしかしたら、もしかする… 、  お?)

 悪寒が走った。
 首に感じる感触は、冷たく、堅く ――

「動くな!!」

 そして、熱い。



31 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/21(月) 23:45:51.98 ID:tml06FXC0

 弾かれたようにギコが振り返る。
 その眦が怒りに赤く染まった。何事かをわめきながら、ブーンへ近寄ろうとし ――…

( ゚Д゚) 「、、 て、めえら……!」

 なすすべも無く、止まった。

盗賊 「ヒャヒャヒャ……!大人しくするんだな。一歩でも動いてみろ。
    こいつの馬鹿面と胴が…」

 ブーンの首筋で、何かが生き物のようにうごめいた。
 熱いものが肩を濡らす。

盗賊 「永遠にお別れしないといけねえからな……」



41 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/22(火) 00:18:40.07 ID:BsEbW9bK0

( ゜ω゜) 「・・・・・・・・・・・・・、、 ギコッ!!いいんだお!!」

 ブーンの悲痛なまでの叫びが、塔をふるわせた。
 生臭い笑いがブーンの耳朶を覆った。盗賊の刃が深く埋まる。

( ゚Д゚) 「……、 お前……!!」

 まさに、一触即発。
 ギコと対峙する盗賊達に、揺らぎようのない余裕がうまれた。
 緊張は嘲弄に変わり、年若い戦士への堪えきれない侮蔑が膨れ上がる。
 切っ先がギコから外される。
 彼の喉元に突きつけられているのは、最も堅い刃。仲間の生死なのだ。



42 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/22(火) 00:20:20.64 ID:BsEbW9bK0

( ゜ω゜) 「金の冠なんて気にする事ないお!! やっぱり人命は世界より重いお!!
       今すぐ盗賊さんにトゥゲザー! してドゥー!! ロマリアに下るお!!」  
( #゚Д゚) 「そっちかよ!! この世界にどんだけその人命があると思ってんだゴルァッ!!
      死ね!使命のために死ね!!」
( ゜ω゜) 「のおおおおおおん!!」 



 二人のいさかいが、遠い山にこだました。



44 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/22(火) 00:23:46.20 ID:BsEbW9bK0

 静寂 ――…
 呆気に取られた盗賊達を呼び覚ます戒めは、一人の男に奪われている。
 武道家と大盗賊の戦いを尻目、形容しがたい空気が、シャンパーニの塔を覆っていた。

 ブーンの首筋から刃が逸れる。
 僅かな―― 瞬きの間の事だった。
 だが、その一瞬。フロアにまばらに残る、盗賊の一人が、指先をブーン達に向け――

?「………」

 突如として巻き起こったカマイタチが、ブーンを戒めていた盗賊を弾き飛ばした。



47 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/22(火) 00:47:05.17 ID:BsEbW9bK0

( ゜ω゜)  「ッ―…!?!?!?!?」
( ゚Д゚) 「で、 かしたッ…!!」

 ギコの口中で弾けたのは喝采。
 弾丸もかくやの飛び込みが、呆けた盗賊二人を斬り倒す。

盗賊 「な、 うわあああ……ッ!!」

 一人が上げた叫びが、盗賊達を恐怖の連鎖で縛る。
 左から襲い来る剣戟を凌ぎ、ギコは冴えた頭で、この集団の力を測っていた。
 答えは出ていた。



48 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/22(火) 00:47:36.51 ID:BsEbW9bK0

( ゚Д゚) (こいつら……将ありきだぜ、ゴルァッ!!
     一人一人は大した力じゃねえッ……!)

 一瞬の攻勢が、場を左右した。
 今や舵はこちらにあり、盗賊達は波間を漂う雑魚に過ぎない。

( ゚Д゚) (……やるじゃねえか、あいつ!)

 盗賊達と剣を交えながら、ギコはブーンを窺った。
 目を見開き、放心している。
 自分のしでかした事に、まだ実感が湧かないのだろう。そうギコは思った。
 彼は知らなかった。彼らの窮地を救ったのが、ブーンではなかった事を。



49 名前:ロマリアの愚王編 投稿日:2006/08/22(火) 00:48:17.26 ID:BsEbW9bK0



?「………チッ。 小童どもが……」

 声は、余りにも小さく、発した本人にも届かない。
 シャンパーニの塔に風が吹く。
 僅かな風である。
 誰にも知られず、風は何処かへ消える。
 いずれまた吹く事があるのか、自身にもわからぬままに ――…



 

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