10 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:01:42.27 ID:Pu1O83EQ0

午後八時。
VIPホテル前は騒然としていた。
多数の車両が駐車してあるホテル前の広場。
その外側には非常線を張る警官。
ブーンは身分証明書を見せて非常線を抜け、広場に車を止めた。

ホテル前では麻薬班のチームと重犯罪課のチームが円陣を組んで打ち合わせをしている。
重犯罪課のメンバーは五人で、自動小銃を携行し、カーキ色の制服を着込み威圧的だ。
二人はその円陣にそっと近付き聞き耳を立てた。

打ち合わせを盗み聞きした結果、
現在ホテル内にいるのは荒巻と身体強化者のみであること。
ホテル従業員ならびに宿泊者は既に非常線外に退避完了していること。
ホテルの出入り口は全て重犯罪課が押さえていること。
突入はまさに今、重犯罪課を先頭にし麻薬班がサポートに当たること。
以上の事がわかった。

11 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:05:28.24 ID:Pu1O83EQ0

川 ゚ -゚)「よし、麻薬班の後に続いてついていこう」

( ^ω^)「そんなのすぐバレますお」

川 ゚ -゚)「許可は出ているんだ。バレてもいいさ」

その時、円陣の方から聞き覚えのある声が響いてきた。

( ゚∀゚)「なんだ、お前ら。少年課と分室がこんなとこで何やってんだ」

声をかけてきたのは麻薬班のジョルジュだった。

( ^ω^)「速攻バレましたお」

川 ゚ -゚)「私達にも現場に入る許可が下りたのです。
最後方から行きますので、ご迷惑はおかけしません」

( ゚∀゚)「んあぁ、まぁ、許可があるならいいけどよう。邪魔だけはすんなよ。死ぬぞ」

13 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:09:28.43 ID:Pu1O83EQ0

( ^ω^)「流石ジョルジュさん、話が早いですお」

( ゚∀゚)「まぁ、なんだ、俺ら麻薬班もオマケみたいなもんだからな。
    処理は全部重犯罪課がやるだろうさ」

ジョルジュはややなげやりな調子で答えた。
本来握っているはずの主導権は重犯罪課に持って行かれたようだ。

その時、重犯罪課のリーダーのモララーが号令を発した。

( ・∀・)「本部から突入指令だ!
ゾンビ学者とマッチョのケツに二つ目の穴をこさえてやれ!」

モララーはベテランの重犯罪課員で、数多くの事件で功績を挙げている男である。
カーキ色の制服に身を包み、精悍で鋭い容貌をしている。
号令をかけた後、ホテル入り口に向かって歩き始めた。

( ゚∀゚)「おぅ、行くぜ。お前ら遅れんなよ」
 

15 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:13:28.21 ID:Pu1O83EQ0

重犯罪課のメンバーが正面玄関から突入する。
それに続いて麻薬班が突入し、残りの面子は裏口を固めた。
ブーンとクーは更にその後に続いた。

ホテル内はがらんどうで、静まり返っていた。
その中を武装した一団が踏破する。
目標の部屋まで一切の躊躇は無かった。

荒巻の逗留している部屋のドアを前にして、重犯罪課は左右に分かれ、ガスマスクを装備した。
モララーが声をひそめて指令を出す。

( ・∀・)「的は身体強化者だけに絞れ。荒巻はとりあえず無視して構わん。
    室内は狭い。面で斉射すればいくら身体強化者でもかわせないはずだ。
    兆弾に気をつけろ」
 

17 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:17:28.63 ID:Pu1O83EQ0

言葉が終ると同時に、皆は一斉にガチャリという音を鳴らして安全装置を外した。

( ・∀・)「突入!」

号令とともにドアを破り、催涙弾を投げ込むと同時に突入する重犯罪課メンバー。
その様子を少し後ろから伺う麻薬班。
さらにその後ろにブーンとクー。

炸裂音の後、部屋の中から自動小銃の斉射音が響いた。
何かが壊れ弾ける音。
そうして幾程の時間が流れたのであろうか。一瞬とも一分とも感じられる時間の後、
重犯罪課の五人が銃撃しながら部屋から後ずさりし、じわじわと後退し始めた。

18 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:21:28.55 ID:Pu1O83EQ0

( ・∀・)「くっ、バ、バケモノか!?」

モララーは我が目を疑っていた。
確かに銃弾は命中しているはずである。しかも、文字通り蜂の巣に。
それでもこの怪物は一歩一歩前進してくるのである。

重犯罪課リーダーとして四年間、重犯罪課に通算十年間勤め上げてきたモララーだったが、
こんなに信じられない、訳のわからない恐怖を受けた経験は初めてだった。
去年のキャンディ一斉摘発の時にも身体強化者を何度も相手にした。
しかし、銃弾が当たればそれらは直ぐに沈黙したのだ。
今日の相手は全く別物である。

( ^ω^)「なんだかおかしいお・・・皆さがってくるお」

川 ゚ -゚)「嫌な予感がする。我々はもう少し下がろう」

( ^ω^)「賛成ですお」
 

22 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:25:28.82 ID:Pu1O83EQ0

二人がまさにさがろうとした時、重犯罪課メンバーは全員廊下にまで押し返されていた。
もはや銃声は聞こえない。
そして、部屋から身の丈二メートルは超えているであろうガスマスクを着けた巨躯が現れた。

( ゚∋゚) 「・・・・・・」

その男――おそらく――はガスマスクを脱ぎ、無言で一歩一歩確実に歩み寄ってくる。
その目には何も映っていない様だった。意思という物が欠落しているように思える。
重犯罪課メンバーは皆恐怖に目を見開いていた。
今そこにある死が見えていた。
死が歩いて近付いてくるのだ。

( ・∀・)「撃てッ!怯むな!」

モララーの必死の号令に反応し、重犯罪課が一斉射撃を男に浴びせる。

狭い廊下で弾丸を避けようともせずに男は迫る。
弾丸は男の身体に命中してはいたが、まるで鋼鉄の様な身体にそれは跳ね返されていた。
糞!とモララーは毒づく。


 

27 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:29:26.44 ID:Pu1O83EQ0

( ・∀・)「全員ホットロード装填!頭だ!頭を狙え!」

そう叫ぶと弾薬が過剰に詰め込まれた弾丸の弾倉を小銃に詰め込み、フルオートで発砲した。
今までの銃声とは違う音が響く。
重犯罪課の最後の一斉掃射に大男の歩みが止まった。
弾丸が顔面に命中し、大男の顔が跳ね上がる。
しかし、致命傷にはなっていない様だった。

( ^ω^)「バケモノですお・・・」

ブーンが呟いた瞬間、大男が動いた。

( ゚∋゚) 「・・・・・・」

その巨躯からは想像も出来ない速度で重犯罪課の五人に接近する。
それと同時に重犯罪課のメンバーが一人空中に浮いた。
大男の強烈な蹴り上げを受けたのだ。

29 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:33:27.14 ID:Pu1O83EQ0

( ・∀・)「牽制しつつ後退!麻薬班は総勢ホテルの外へ退避!」

モララーの号令に重犯罪課がじりじりと下がり始める。
麻薬班は後ずさりしながらホテルの出口へ向かった。

大男と重犯罪課四名とジョルジュとブーンとクーが廊下に残っている。

( ・∀・)「お前達、何をしている!早く撤退しろ!」

( ゚∀゚)「おれは一応責任者だからな。面子ってものがある」

ジョルジュはそう言って懐から銃を取り出した。

( ^ω^)「これはまずいお。早く逃げるに越した事は無いですお」

川 ゚ -゚)「確かに私達は足手まといだからな」

( ・∀・)「早くしろ!持たんぞ!」
 

31 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:37:27.18 ID:Pu1O83EQ0

モララーが叫んだ時、大男は再び突進をした。
車に跳ねられたかの様に重犯罪課のメンバーが二人壁に叩きつけられた。
鈍い音がして、二人は動かなくなる。

( ・∀・)「糞!撤退だ!格好付けて死ぬこたぁない!
    手持ちの装備じゃコイツはやれない!全員撤退!」

大男はさらに突進した。
強烈なアッパーカットを食らい、もう一人の重犯罪課メンバーが天井に叩き付けられる。
どさり、と砂袋のような音を立てて落下したその身体は、もう動く事は無かった。
廊下で動いているのはもはや大男と四人だけであった。
大男は静かに体制を整え、モララーに向かって歩を進める。

( ・∀・)「俺がここで食い止める!お前らは早く逃げろ!」

( ゚∀゚)「嫌だね。俺は借りを作るのが嫌いな性質なんでね」

そう言ってジョルジュは大男めがけて発砲した。

( ・∀・)「馬鹿が。おい、そこの二人、早く逃げないか!」

川 ゚ -゚)「ブーン、私達に出来ることは無い。ここは逃げよう」

( ^ω^)「元よりそのつもりですお。ジョルジュさん!死んじゃだめですお!」
 

33 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:42:10.02 ID:Pu1O83EQ0

ブーンがそう言い終わるや否や、当のジョルジュは大男に弾き飛ばされていた。
正面からショルダータックルを受けたのだ。
ジョルジュは消火用具が詰められている鉄製のケースに打ち据えられ、意識を失った。
ブーンが慌てて駆け寄る。

( ^ω^)「ジョルジュさん!しっかりするお!」

ブーンの呼びかけ虚しく、ジョルジュの意識は戻らない。
しかし、息はあるようなので、今すぐ死ぬということは無いだろう。
無論、内臓などがやられていなければの話だが。

ブーンがジョルジュに駆け寄っている間、モララーは必死の抵抗を行っていたが、
奮闘虚しく大男に捕まってしまっていた。
両手でモララーの首を絞める大男。
ミシミシという音を立ててモララーの頚椎が歪む。
――絶体絶命。
一部始終を離れて見ていたクーの脳裏にそんな言葉が浮かんだ。

しかし、そんなクーの視界に大男に向かって動くものが入り込んだ。
焦点を合わせると、それは消火器を持ったブーンだった。

35 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:45:26.98 ID:Pu1O83EQ0

( ^ω^)「うわあああぁぁ!!」

川 ゚ -゚)「お、おい!やめろ!戻るんだブーン!」

クーの静止の言葉も聞かずに、絶叫して突っ込んでいくブーン。
大男の直ぐ脇まで突進したブーンは消火器を噴射した。
白い煙が大男の顔面を襲う。
大男の目に大量の消化剤が吹き付けられた。

( ゚∋゚)「ヲヲヲヲヲ・・・」

大男が初めて口を開き叫ぶ。
モララーを掴む手が少し緩んだ。
モララーはこの好機を逃さなかった。
自動小銃を大男の口にねじ込み、血の泡をふきながら声を絞り出す。

( ・∀・)「お休みの時間だ・・・クソッタレ・・・」

銃声が響いた。

口内から後頭部を撃ち抜かれた大男は、モララーを掴んだまま仰向けに倒れていった。
ドスンという重い音と共に大男はその活動を停止した。
ブーンがモララーに駆け寄り、大男の手から救出する。
モララーは何度か咳き込み血を吐いたが、命に別状は無いようだ。

38 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:49:26.81 ID:Pu1O83EQ0

( ・∀・)「た、助かったぞ・・・流石に死ぬかと思ったが・・・」

( ^ω^)「喋らない方がいいですお」

( ・∀・)「俺のことはいいから・・・荒巻を確保しろ・・・」

( ^ω^)「わ、わかりましたお」

クーが恐る恐る近付いてきた。

川 ゚ -゚)「やった・・・のか?」

( ・∀・)「この小僧のおかげだがな。さぁグズグズするな、部下の死を無駄にせんでくれ」

( ^ω^)「荒巻を確保しにいきますお」

川 ゚ -゚)「あぁ、わかった。行こう」

二人は駆け出した。

39 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:52:55.05 ID:Pu1O83EQ0

( ・∀・)「おい、麻薬班の・・・くたばったか?」

( ゚∀゚)「残念ながら生きてるぜ・・・身体は動かねぇがな」

ジョルジュの意識は回復していたが、全身に痛みが走り足に力が入らない。

( ・∀・)「お前、ウチに来いよ。給料いいぜ」

( ゚∀゚)「うるせぇ、もうこんな目に遭うのはたくさんだ」

( ・∀・)「いい素材なんだがな」

( ゚∀゚)「ハッ、気が向いたら考えてやるよ。期待するなよ」

( ・∀・)「いい返事を待ってるぜ。
    ところであの二人、荒巻をとっつかまえられるかな・・・」

( ゚∀゚)「さぁなぁ、なんせ分室と少年課の刑事だからな」

40 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:56:03.73 ID:Pu1O83EQ0

一拍おいてモララーは驚きの声をあげた。

( ・∀・)「なんだと・・・そんなもん素人じゃねぇか。なんでこんな現場にいるんだよ」

( ゚∀゚)「分室の親分が訳ありでね・・・局長に顔が効くんだよ」

( ・∀・)「なんだよそりゃ・・・ゆっくり休憩も出来ないじゃねぇか」

そう言うとモララーは銃を杖にして立ち上がった。
フラフラと二三歩歩みだすが、そこでまた倒れてしまう。

( ・∀・)「心細いが・・・神頼みしかねぇか・・・」

モララーは通信機を手にとり、増援チームを要請した。

 

41 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 15:59:26.39 ID:Pu1O83EQ0

一方、ブーンとクーは遂に荒巻と対峙していた。
一連の事件の元凶であり、キャンディ精製者であり、確実に死んだはずの男と。
そして、状況はブーン達にとって極めて不利であった。
何も考えずに部屋に突入したブーンに向かって、荒巻は銃を構えている。
ブーンに照準が向いている限りクーにも何も出来ない。

数十秒ほどの沈黙の後、荒巻はその口を開いた。

/ ,' 3「ワシとこうして対峙しているという事は、クックルは倒されたのか」

その老人は静かに、しかし、威圧的に話し始めた。
飄々とした印象を受ける外見なのだが、中身はまるで違うようだ。

( ^ω^)「あの大男なら倒したお。アンタはもうここまでなんだお」

/ ,' 3「銃を向けられて言う台詞じゃないなぁ。ちっと頭が悪くないかい」

一瞬怯んだブーンだったが、立つ足に力を込めて言った。

( ^ω^)「アンタを捕まえる前に聞きたいことが山ほどあるお」

ブーンの突然の切り出しに意外な表情をみせる荒巻。
一瞬の躊躇の後、荒巻は言った。

45 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 16:03:27.78 ID:Pu1O83EQ0

/ ,' 3「まぁ、ここまで来たんだ。それなりに事情はわかっておるのだろう。
   祭りはもう終わりだ。いや、始まりもしなかったかな。何が聞きたいのかの?」

( ^ω^)「まず、アンタは死んだんじゃなかったのかお?」

/ ,' 3「死んださ。ワシは三人目の荒巻だよ」

荒巻の言葉に戸惑うブーンとクー。

( ^ω^)「三人目?」

川 ゚ -゚)「どういう意味だ」

/ ,' 3「荒巻スカルチノフは全部で十一人いるのだよ。ワシは三番目。
   簡単に言うとスペアだな」

( ^ω^)「ひょっとしてクローン人間だ、とでもふざけた事を言うのかお」

/ ,' 3「ご名答」

50 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 16:07:26.70 ID:Pu1O83EQ0

( ^ω^)「そんなもの作れる訳無いお!」

/ ,' 3「ところが、二十年前にクローン人間作成技術を完成させた男がいたのだよ」

川 ゚ -゚)「二十年前?」

/ ,' 3「その男の名こそ荒巻スカルチノフ。オリジナルの荒巻だ」

荒巻の言葉に混乱するブーンとクーは、
発するべき言葉を見失い、失語状態に陥ってしまった。

/ ,' 3「ワシ等クローン十人はみてくれは完成したのだが、細胞の寿命が短かった。
   二十年前に生まれて、二十年経ったらこの姿だ」

( ^ω^)「な、生まれてから二十年でその姿なのかお・・・・」

荒巻の姿。
薄くなった白髪。
皺だらけの顔面。
乾燥した皮膚。
どれをとっても老人のそれであった。
 

53 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 16:11:27.13 ID:Pu1O83EQ0

/ ,' 3「ワシ等はオリジナルに対して愛憎という感覚を持ち合わせていた。
   本物の荒巻スカルチノフになる為、一人称はワシにしたし言葉遣いもオリジナルの真似をした。
   そして、二人目がオリジナルを超えんが為・・・」

語尾が小さくなった。

―――殺したのだよ創造主を。

囁くような荒巻の言葉に、やはり返す言葉が無い二人。

/ ,' 3「二人目のクローンは愛する対象を失い、恨むべき対象を倒した。
  我々を後に待っていたのは恐るべき停滞だった。
  だが、二人目だけは停滞しなかったのだよ。
  オリジナルの研究を引き継ぎ、
  憎むべき対象を、オリジナルから己を生み出した世界に変えていったのだ」

56 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 16:15:41.92 ID:Pu1O83EQ0

( ^ω^)「世界を憎んで・・・どうするんだお」

/ ,' 3「二人目は考えた。
   自分達クローンは短命で終る。
   ならばその短い時を、自分達を産んだ憎むべき世界を壊す為に使おうと決意したのだ」

川 ゚ -゚)「逆恨みもいいところだな。歪んでいる」

/ ,' 3「そう。屈折した逆恨みだよ。
   だが、二人目はそこに生きる意志を見出したのだ。
   そしてその屈折した想いは、オリジナルの残した潤沢な資産を伴って、
   ある形となって結実した」

( ^ω^)「ある形・・・それは・・・」

/ ,' 3「これだよ」

荒巻は上着のポケットから球体を取り出した。

( ^ω^)「キャンディ・・・」

58 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 16:19:27.16 ID:Pu1O83EQ0

荒巻はブーンが確認するのを待って、キャンディを再び懐へ戻した。

/ ,' 3「そう。二年前に二人目が精製に成功したのだよ。人を怪物に変える薬を。
  そして、二人目の悲願は果たされた」

川 ゚ -゚)「悲願というと、世界を壊すということか?」

/ ,' 3「左様。すなわち秩序の破壊だ。
秩序を破壊する事によってこの世界に復讐しようと考えたのだ、二人目は。
もっとも、秩序を破壊できたのはこの街だけだったがの」

( ^ω^)「全てはアンタらの歪んだ想いが引き起こした事だというのかお」

/ ,' 3「正確に言うと二番目が望んだ事だ。ワシ等はキャンディには一切関っておらんかった」

( ^ω^)「おらんかったと言う事には、今は関係しているって事だお」

/ ,' 3「その通り。去年二人目が君達に殺されてから、三人目のワシが後を継いだのよ」
 

61 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 16:23:26.73 ID:Pu1O83EQ0

少しの間を空けてブーンは言った。

( ^ω^)「アンタも世界に復讐したかったのかお?」

/ ,' 3「世界と言うのは大げさだが・・・
既存の秩序を壊したかった点においては二人目と同じだな」

( ^ω^)「じゃぁ何故子供を狙ったんだお。世界の秩序に子供達は直接関係無いお」

/ ,' 3「手っ取り早い兵隊を集めたかったんだよ。
  子供なら主義思想もまだ未熟だ。
  然るべき方法さえ知っておれば優秀な兵士になる」

川 ゚ -゚)「キッズアーミーか・・・。本気でそう思っていたのか」

吐き捨てるようにクーが言った。

/ ,' 3「勿論。更に言うなら、子供は世界の未来を背負う者。
  未来を壊してしまおうなんていう面もあったがね」
  なんにせよあの高岡という子は扱いやすかったな」

川 ゚ -゚)(子供が未来を背負う・・・私と同じ考え・・・だが、この男と私は違う・・・)

クーは荒巻を否定する

64 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 16:27:26.47 ID:Pu1O83EQ0

( ^ω^)「何故高岡を起点に選んだんだお?それに高岡親子を援助したのは何故だお」

/ ,' 3「そうだなぁ、高岡親子を援助したのはまぁ気まぐれだな、これは。
   だから、あの親子がどうなろうとワシの知ったことではないな。
   高岡をキャンディ配布の起点にしたのは、彼女が不幸だったからだ」

( ^ω^)「不幸・・・」

/ ,' 3「左様。母の為に身を売る少女。不幸ではないか。
   不幸に付け込み、その不幸を埋めてやると、人は簡単に篭絡できる」

( ^ω^)「お前は!」

ブーンは叫んだ。

/ ,' 3「まぁそう興奮しなさんな。結局あの娘はキャンディをばら撒かなかった。
   安易な思いつきで計画を立てると失敗すると言う典型例だな」

65 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 16:31:27.03 ID:Pu1O83EQ0

( ^ω^)「思いつき!お前の思いつきで死んでいった人が沢山いるんだお!」

川 ゚ -゚)「落ち着けブーン」

クーがブーンの肩に手を乗せ、冷静になるように促した。

川 ゚ -゚)「もう一つ聞きたい事がある。
     お前はキャンディを改造したか?」

荒巻は目を細めた。

/ ,' 3「気が付いていたか。確かにワシはキャンディを改良し、性能を上げたのだ」

やはりな、とクーが呟いた。
ブーンは二人の話についていけない。

( ^ω^)「キャンディを改造?どういう意味だお?」
 

68 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 16:35:26.36 ID:Pu1O83EQ0

川 ゚ -゚)「まず、今回のキャンディを服用した者の死に方に疑問があったんだ」

/ ,' 3「ほう、やはり死人が出たか・・・改良の余地有りだな」

荒巻の態度にまたもブーンは過剰に反応したが、クーがたしなめた。

川 ゚ -゚)「・・・高岡の死に際は錯乱状態になったんだ。
     麻薬班の連中に教わったのだが、
     既存のキャンディの副作用で死ぬ場合はただの心臓麻痺だ。
     興奮はすれど、錯乱すると言う報告は目に当たらなかった」

/ ,' 3「なんと、あの娘は死んでおったか。またもや計画外だの」

荒巻の発言を意識的に無視するようにクーは続けた。

川 ゚ -゚)「次はしぃの死だ。ブーンの推理によると後追い自殺なのだが・・・。
     私は違うと思う。
     しぃはキャンディの副作用によって異常行動をとり、結果死亡した・・・」
 

72 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 16:39:26.28 ID:Pu1O83EQ0

( ^ω^)「それじゃ二人ともキャンディの副作用で・・・死んだんですかお?」

川 ゚ -゚)「そう考えるのが妥当だと思うな」

/ ,' 3「お嬢さんはなかなか鋭い観察眼を持っているとお見受けした。
   その通り、ワシの精製したキャンディは、ほぼ完璧に人の理性を破壊するのだよ」

( ^ω^)「な、そんなもの・・・秩序の破壊どころの騒ぎじゃないお」

うろたえるブーンに荒巻は続ける。

/ ,' 3「ワシのキャンディは人を狂わせる。
   だが狂った人間を統率する術があるとしたらどうだ?楽しいだろう」

川 ゚ -゚)「そんなことできるはずが・・・」

クーの言葉を遮って荒巻は言う。

/ ,' 3「できるのだよ。私が開発した催眠技術によってね。
   その成果こそ君達が倒したクックルなのだよ」


73 名前: ◆K/ms5.N0fc [異常行動はタミフルがモデルですw] 投稿日:2007/03/07(水) 16:43:33.78 ID:Pu1O83EQ0

川 ゚ -゚)「あの大男か・・・。身体強化が発現した者を催眠術で使役したのか。
     そんな事が出来るのかとは言うまいか。十分理解不能なことが起きているしな。
     ついでに聞いておこう。あのバケモノはなんなんだ?
     既存のキャンディで身体強化した者でも、
     銃弾を弾き返すほどの力は得られないはずだ」

/ ,' 3「それはワシが開発したもう一つの効力だ。
   従来の身体強化をさらに強めることに成功したのだよ。
   まぁ、先ほどから話題に挙がっているが、理性の崩壊はその副作用なのだがね」

( ^ω^)「全部わかったお。お前等の歪んだ心が沢山の人を殺したんだお。
      高岡やしぃや麻薬班の皆や重犯罪課の皆や・・・僕の妹を」

/ ,' 3「どうやら君にも私怨があるようだね。
   まぁ、私の方こそ私怨の塊のようなものか。
   さて、喋り過ぎたかな。ワシ等の馬鹿馬鹿しく間の抜けた復讐劇も終わりにしよう」

そう言って荒巻はブーンに向けていた銃を自らのこめかみに当てた。
 

75 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 16:47:26.08 ID:Pu1O83EQ0

( ^ω^)「荒巻!?」

川 ゚ -゚)「それがお前の解決法か!?」

/ ,' 3「ワシは三人目だ。残り八人。まだまだ楽しめるよ君達は。
   もうこの世でワシがやるべき事は無くなったよ。後は全てが面倒な事ばかりだ」

( ^ω^)「ここでお前が自殺したら救われない人が沢山でるんだお。罪を償うんだお!」

ブーンが叫んだが、荒巻には届かない。

/ ,' 3「罪?私は罪など犯した覚えは無いよ。ただ自分の思想を成就させただけだ。」

( ^ω^)「そんなの勝手な自己満足だお。ただのエゴだお!」

/ ,' 3「人とは元来エゴイストなのだよ。あぁ、ワシは人外だがの」

熱くなるブーンに反して、クーは冷静さを取り戻していた。


 

77 名前: ◆K/ms5.N0fc [] 投稿日:2007/03/07(水) 16:51:45.80 ID:Pu1O83EQ0

川 ゚ -゚)「死ぬのはお前の勝手だが、この世に生きるものには責任というものがあるのだよ」

/ ,' 3「そんなものは知らぬわ。残ったものは残ったもの同士よろしくやればいい」

川 ゚ -゚)「では最後に教えろ。残りのキャンディと荒巻は何処だ?」

/ ,' 3「それはお楽しみと言う事でとっておきたまえ。今知る必要は無いよ」

( ^ω^)「荒巻!お前は・・・お前は・・・」

ブーンは荒巻にかけるべき言葉が思いつかなかった。
ただ、この結末は間違っていると、彼の全身の細胞が告げていた。

( ^ω^)「間違ってるお!お前が死んでも何の解決にもならないお!」

/ ,' 3「この世に解決せねばならぬ事などあったかの。あやふやな位が一番いいのだよ」

一瞬の間の後、荒巻は言った。

/ ,' 3「では、この素晴らしくも醜い世界とお別れだ。お二人さん、しっかりやれよ」


渇いた音が響いた。
 

 

 

back < >

inserted by FC2 system