「俺は負けたのか・・・・・・」
その一言にビロードは口ごもる、内藤は土下座をして許しをもらった
それは勝ち負けではなく、絶対の上下関係により生まれた未来の構図であり
ベットの上で痛みに泣き叫ぶ現実であった
「俺は負けたのか?」
内藤は自分が土下座をして許してもらったことを忘れていた
あまりに信じられない現実、敗者ではない・・・・・草食獣
草を食べ肉食獣に食われるだけの草食獣
猫に悪戯半分に命を弄ばれて死ぬに死ねないネズミ
内藤は本能で土下座をした
生きるために、この現実を打破するために
本能の土下座、理性ではなく、本能で土下座をした
内藤は土下座をすることで逃げたのだった
野生の動物は「逃げる」と言うことで危険を回避する、それが野生動物の最大の延命であり当然の行為
命を守るための誇るべき行動、そう当たり前の行動
しかし・・・・内藤は人間だ
野生の動物ではない、内藤にとって逃げる事は・・・・自信の全ての否定であった
32 名前: ◆TWITbguOWY 投稿日: 2006/06/06(火) 01:36:26.68 ID:wmBIl2TQ0
「俺は戦士の誇りとして戦って死ぬぜ」
なにかの漫画で見たセリフ、内藤はこの言葉をカッコイイと思った
これを座右の銘にしよう、俺はどんな喧嘩も戦って死ぬ
逃げる事は恥だ!!恥じるべきなら死を選ぶ!!
「ああ、ああああ・・・・・うぁぁぁぁぁあああああ」
再び大声で泣き出す内藤
( ><)「待ってくださいね・・・いま痛み止めを」
痛いのは顔じゃない
戦いに負け、逃げて、死ぬ事の出来なかった、弱虫の自分に泣いているのだ
生きている事が、こんなに辛い事とは
34 名前: ◆TWITbguOWY 投稿日: 2006/06/06(火) 01:49:52.81 ID:wmBIl2TQ0
1週間の時間が流れた
痛みは無くなったが、傷は残っている
最初は痛くて物も食えなかったが、腹はとても空いていた
ビロードの1000ペリカ、どうやら俺に痛み止めを打つ為に殆どを使い
病み上がりの内藤に飯を食べさせるために、自身には何も食べないで過していた
俺がマズすべき事は決まっている
バーボンハウスの連中に頭を下げて、仕事を貰い飯を食わしてもらうこと・・・・・
自分の飯ではなくビロードのための飯を手に入れなければならなかった
「そんな体じゃ無理ですよ、もう少しケガが治ったら、働きましょう」
止めるビロードを無視してバーボンハウスの仕事を管轄している、ドクオと言う男の所へ向う
1階の末端、職案と呼ばれている部屋には一人の男が新聞を見ていた
('A`)「・・・・・よく来たな、話は聞いてるぜ」
職案を仕切っている男は痩せていて、あまり冴えない顔をしていた
35 名前: ◆TWITbguOWY 投稿日: 2006/06/06(火) 01:56:22.55 ID:wmBIl2TQ0
「内藤といいます、お願いします、仕事を下さい、できれば直ぐに飯が食える奴を」
見ず知らずの奴に頭を下げる、考えられない行為である
今までの内藤なら、こんなことはしなかっただろう・・・・だが
今の内藤は空気の読める男ここで問題を起こすなんてもってのほか
しかし、それは内藤が人として成長したわけではなく、再び制裁をされることへの恐怖から頭を下げている
心の奥底の内藤は「なぜ俺が頭を下げなくてなくてはいけない!!!」と怒り狂っている
しかし、ここで騒げば・・・・今度こそ死ぬ
死ぬわけには行かない・・・・・俺は死ぬ事は出来ない
いや、死を恐れて逃げた男・・・・・・・逃げた俺はこれからも死から逃げなければいけない
死から逃げる・・・・だから頭を下げ続ける
「お願いします!!仕事を下さい」
36 名前: ◆TWITbguOWY 投稿日: 2006/06/06(火) 02:03:30.87 ID:wmBIl2TQ0
('A`)「本当はお前にやる仕事は無い・・・・と突っぱねる所だが、まあ反省してるみたいだしな」
ドクオはゴソゴソと書類を取り出す
('A`)「ここに名前書いてくれ、んで・・・これを1階の中央のトイレ掃除してる奴に渡せ
そうすればそのまま、便所掃除の仕事をさせてもらえ」
「ありがとうございました」
足早に職案を後にする内藤
早く仕事をしなければ・・・・まずは飯を確保する話はそれからだ
1000ペリカと言う金も返さなければならない
とにかく、今は働くしかない
このVIPで生きるために・・・・働かなければならない
1階の中央トイレにモップを持ってフケっている男がいた
男に紙を渡すと「やっとサボる事が出来るぜ」と喜んで内藤にモップを押し付けてくれた
ただの汚いモップ、だがこのモップが今の内藤を支え、自分に飯を与えてくれる生きる糧
内藤は力の限りトイレの床を掃除した
38 名前: ◆TWITbguOWY 投稿日: 2006/06/06(火) 02:12:11.59 ID:wmBIl2TQ0
便所の汚い床を磨き上げていると、サボっていた男が帰ってきた
「おーい、そろそろ飯にすんぞ」
仕事をしていれば朝昼晩飯は保証される
後はそこからの頑張り次第で、賃金を貰う事が出来る
「よくさぼらなかったなwwww」
男は内藤を誉めてくれた
どうやらがむしゃらに床を磨いていたら1時間たっていたようだ
食堂へ向うとビロードが席を取ってくれていた
( ><)「内藤さん、お仕事決まってよかったですね、僕も仕事が終わってこれから昼食なんです」
食堂で飯を食うのは初めてだ
食堂へ来るのは3回目だが、まだここでご飯を食べた事は無い
ここのシステムをまだ理解していなかった
( ><)「内藤さん、ここでは日替わりランチがメインなんですけど+ペリカ次第で色んなものが食べれるんです」
今日の日替わりランチはハンバーグ定食だった
ライスを大盛りにしてもらうにはペリカを払えばいいらしいが、内藤にはそんな余裕は無かった
便所掃除の男から、その日の飯が食える食券を貰い、列に並んだ
40 名前:
◆TWITbguOWY 投稿日:
2006/06/06(火) 02:19:39.41 ID:wmBIl2TQ0
列が進むにつれいい匂いが内藤の鼻を刺激する
まだ鼻は痛むが、消毒液の匂いよりはマシだった・・・・内藤のトレーに茶碗一杯の飯が盛られる
湯気が立つ白米、小鉢にはほうれん草のおひたしが入っていた
メンイのハンバーグが乗った皿が置かれる
焼きたてのハンバーグ・・・・自分が生きてきた中でこんなにうまそうな物を見たことが無い
涎が垂れそうになる
早く自分の席に持っていこうとするが後ろから呼び止められる
「待てよ!」
その言葉に内藤はビクっとした
もしや、この前の件で自分には飯がもらえないのではないかと思った
恐る恐る振り返り、声の人物に目を向ける
( ^ω^)「・・・・・なんでしょうか?」
声の主は食堂で料理を作ってる受刑者だった
「あんた・・・・・味噌汁忘れてるぜ」
定食に付く味噌汁をくれただけだった、内藤はホッとした
42 名前:
◆TWITbguOWY 投稿日:
2006/06/06(火) 02:23:45.77 ID:wmBIl2TQ0
席に戻りビロードを待つ
一週間ぶりのまともな食事を目の前にして
がっつきたい気持ちを押さえ、ビロードの帰りを待つ
目の前には肉汁が溢れているハンバーグが香ばしい肉の香りを放つ
肉
肉肉肉
生唾を飲みビロードの帰りを待つ
( ><)「お待たせしましたー!おなか空きましたね!早く食べましょう」
待ち望んでいたビロードが帰ってきた
内藤はビロードが席に着くと、直ぐに立ち上がった
( ><)「どうすたんですか内藤さん?」
( ^ω^)「この飯はお前が食えよビロード」
43 名前:
◆TWITbguOWY 投稿日:
2006/06/06(火) 02:28:07.41 ID:wmBIl2TQ0
(;><)「ちょっ、まってくださいよ!なに言ってるんですか」
( ^ω^)「いや・・・そのさ、俺まだ口のかの傷が痛くてさ、唾が出ては傷を刺激してさ
全然食欲が出ないんだよ・・・・・いや、まじでwwああ、痛てえww」
ビロードの声を無視して席を立つ内藤
( ><)「・・・・・唾が出るって事は、おなか空いてるって事じゃないですか」
「・・・・・・・くだらねぇな」
内藤はトイレに戻り床に膝を着いて泣いていた
自分には飯を食う資格は無い
どんなに食べたくても、今は食べちゃダメだ・・・・あいつに受けた借りを返さなくちゃ
飯は食べれない
トイレの便器を磨いていると後ろから声をかけられる
「おい、内藤・・・ちょっと来い!」
トイレ掃除の男だ、なんだろうと思い付いていく
男は内藤にパンを渡した
「命令だ、これを喰え」
気がつく内藤は無意識にパンにがっついていた
( ^ω^)「あぐっ、あぐっ、あぐっ!!うん、ふが!あぐ」
「無理しやがってよ・・・・お前の姿見て腹が空いてないなんてうそが通ると思ったか?」
内藤は泣きながらパンをかじった
パンの味なんて気にしないで生きてきた、しかし
なにもつけないパンがこんなにうまいとは思わなかった
143
名前: ◆TWITbguOWY 投稿日:
2006/06/06(火) 22:31:53.40 ID:wmBIl2TQ0
1週間の時間が流れた
あれから内藤は毎日毎日トイレ掃除をしていた
モップで床をゴシゴシと、VIPの無限とも思えるほどのトイレを黙々と磨いていた
飯を食べる事ができる幸せと、労働の達成感を味わい、尚且つ報酬を貰う事が約束されていた
そして今日は、内藤にとって人生初の塀の中の給料日になる
「まだ一週間しかたってねぇが、お前はよく働いてるよ」
( ^ω^)「ありがとうございます」
内藤は労働の素晴らしさを覚えた
それが生きていくことでどんなに必要かが、体を通して伝わってきた
入所当初からの反省房行き、バーボンハウスの連中からの制裁
このVIPで生きていくための全てを体だけで覚えた内藤だった
148
名前: ◆TWITbguOWY 投稿日:
2006/06/06(火) 22:35:53.66 ID:wmBIl2TQ0
汚い茶封筒を、中身まで破かないように慎重に給料袋を開けて中を覗く
( ^ω^)「・・・・・1300ペリカ」
1週間は・・・・・たった7日しかない
それでもその1週間で内藤は自分の命を救ったビロードが、なけなしの金で買った痛み止めと同等の金を手に入れた
( ^ω^)「ありがとうございました!!」
便所清掃の男に深く頭を下げると、内藤はビロードの元へ走っていった
手に握り締めた茶封筒は、今まで出もったどんなものよりも重く感じた
ビロードの居る部屋を勢いよく開ける内藤、ドアがバタンと大きな音を出し、ビロードに内藤の帰りを伝える
( ><)「内藤さん、どうでしたか?初めてのお給料は?感激しますよね」
ビロードに給料袋を渡す内藤だがビロードはそれを受け取ろうとはしない
「それは内藤さんが働いて手に入れたお金です、内藤さんが使ってください」
内藤はビロードの答えなど分かっていた、だから
( ^ω^)「これは俺の金だ、だから俺が何に使おうと関係ない、だからお前にやる」
しばらく押し問答になるが、内藤は大人気ないので、ビロードのポケットに強引にねじ込んだのだった
( ^ω^)「俺は金の管理ができない、お前が金庫番をしろ!命令だ」
内藤なりの必死の言い訳であった
「わかりましたよ内藤さんと」とビロードは素直にお金を受け取った
149
名前: ◆TWITbguOWY 投稿日:
2006/06/06(火) 22:41:12.35 ID:wmBIl2TQ0
このVIPには遊技場があるらしい
娯楽施設があるとは聞いたが、1週間働く事しか頭になかった内藤には、遊技場など自分の相応しい場所ではないと
誘いを全て断っていたが、内藤が誘いを断ってる姿を見たビロードは内藤を遊技場へ行かないかと誘う
本当ならこのまま寝るつもりだったが、「ビロードの誘いを断るのは忍びない」とまんざらでもない様子で
遊技場へと向った
遊技場は人でごった返していた
麻雀の卓のようなテーブルにイスが4つ、それが所狭しと配置されており、どれも満席状態だった
しばらく席を探しながら歩いていると、後ろの方から声をかけられた
「おい内藤!こっち来いよ」
声の主は便所清掃員だった
( ^ω^)「どうもどうもwオジャマしまーす」
席はちょうど2つ空いておりビロードと内藤は席に座らせてもらった
( ><)「こんばんは>< それと、お久しぶりですドクオさん!」
便所清掃員の隣には職案のドクオが座っていた
('A`)「なんだお前等?もうこんな所での遊びを覚えたのか?」
( ^ω^)「仕事を紹介してもらってありがとうございました。今じゃこんな所まで来れる様になりました、へへへw」
150
名前: ◆TWITbguOWY 投稿日:
2006/06/06(火) 22:42:41.48 ID:wmBIl2TQ0
芸能人ドンジャラルール
普通のドンジャラとルールは同じだが、上がりの時の役が多様なドンジャラ
それぞれ芸能人の組をあわせて、グループを多く作ることで役を作っていく
創作ドンジャラである、皆が納得する役を作り続けられれば、点数はどんどん高くなるが
あまり強引な役を作ったりすると無効になるときがある
一度作った役は半荘が終わるまで使用は禁止となっている、作りすぎにご注意を
なんとなく覚えたルールでドンジャラをする内藤
ビロードは経験者らしく、さっそく手牌をテンパイさせてリーチをかけていた
内藤はよく分からないまま 「タモリ」の牌を捨てる
( ><)「ロン!!内藤さんそれロンです!!!」
ビロードが手牌を見せる
( ><)「タモリ、さんま、たけしでBIG3、3翻 これにリーチ、1発をつけると・・・5翻8000点(満貫)です」
よくわから無いまま内藤は点数を支払った
151
名前: ◆TWITbguOWY 投稿日:
2006/06/06(火) 22:48:40.41 ID:wmBIl2TQ0
それからまた1ヶ月の時間が流れた
( ^ω^)「ツモ!メンチン・・・・ダチョウ倶楽部、ドラ2、12000点(跳満)だな」
( ><)「内藤さん・・・・本当強いですねぇ」
仕事が終わるといつも内藤は遊技場に来ていた
よく分からないまま負けたのが悔しかったので、いつもここで練習をしていた
内藤のゲームにたいしての上達は早く、またたくまにドンジャラを憶えて行った
まずは役を覚えることからはじめ、ある程度の盲牌で牌をできるだけ自分の近くへともってくる工夫を練習していた
いつのまにか知らない相手とも打つようになり、自然と他の受刑者たちとも内藤は打ち解けていった
トイレ清掃の最中、ドンジャラをした相手と会うこともしばしば
そのたびにドンジャラの話で盛り上がり、いつしか内藤の周りにはドンジャラで出来た仲間と
談笑する内藤の姿が目に付くようになっていった、ビロードは仲間が出来ていく内藤の姿を喜んでいたが
内心自分が薄い存在になるのではないかという不安を感じていた
( ><)「僕じゃもう相手になりませんよ・・・・」
('A`)「俺も内藤には勝てないな」
いつしかこのメンツで集まるようになっていた
たまに便所掃除の男も加わるが、便所掃除の男は他にも知り合いが多く、遊技場では引っ張りだこだった
内藤のドンジャラの強さは瞬く間に広まっていった
そして・・・・ふたたびバーボンハウスの耳にはいっていった