( ^ω^)が歌手になりたいようです-第二部

2006年3月。ブーンはVIP大学春休みの真っ只中にいた。 

( ^ω^)「ふいー暇だお。ギターでも弾くお。」 

ブーンの夢は歌手・・・シンガーソングライターになる事だった。 
しかしシンガーシングライターになるには歌唱力もさることながら 
自分で曲を作らなければいけない。なのでブーンはバイトをしてギターを買った。 
まだまだFがやっと押さえられるようになったくらいでコードチェンジももたつくし、 
曲など全然作れるような段階ではないのだが好きなバンドのスコアを買って、 
弾いて歌っているだけで時間を忘れた。 

( ^ω^)「レミオメロンは良い曲が多いお。」 

レミオメロンとはスリーピースバンドでブーンの好きなバンドの一つである。 
ブーンは今このレミオメロンの楽曲の中の一つ、「3月メロン」を練習している。 
タブ譜自体はアルペジオが多く初心者には大変なのだが 
コード進行は優しいのでそれならば初心者でも弾きやすい。 

( ^ω^)「僕もこういう優しい曲が作れるようになりたいお。」 

「メッ、メールが着たわよっ!私は別に気にしてないんだからねっ!メッ、メールが・・・」 

ピッ。 

( ^ω^)「メールだお。誰からだお。」 


件名:暇なんだが 

キョヌーレコードでもいかね? 


送信者はドクオだった。どうやら彼も暇を持て余してるらしい。 

( ^ω^)「うはwwww行く行くwwwwww」 

( ^ω^)「ドクオ!待たせたお!」 

('A`)「おせーよ。・・・まあいいや行こうぜ。」 

( ^ω^)「キョヌレコ行くの久しぶりだおwwワクテカwwwww」 

キョヌーレコードは相変わらず豊富な品揃えでブーンとドクオは暇になると 
いつもぷらぷらとやってきた。お金がなくても視聴したり、欲しいCDを眺めるだけで楽しく 
二人で最高4時間程いたこともある。 

( ^ω^)「おっ、真空エローのアルバムだおwww欲しいお。しかし高いお。」 

('A`)「ネグロポップもいつの間にかアルバムだしてやがる・・・ 
でも前スリップ072gのCD買ったばっかだし・・・ああー悩む・・・」 

二人がそんな事を話してる時だった。 

('A`)「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」 

ドクオが何かを発見したらしく顔色が変わる。 

( ^ω^)「どうしたんだお。キモイお。」 

('A`)「わせdrftgyふじこp;@」 

ドクオはものすごい混乱状態でプルプルと指をさした。 
その方向には一人の男性がいてCDを選んでいるようだった。 

( ^ω^)「なんだお。あの人が何だって…!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 

ブーンは驚きのあまり血の気が失せる。 

( ^ω^)「くぁwせdrftgyふじこlp;@!!!」 

('A`)「亜wせdrftgyふじこlp;@:!!!」 

お互い興奮のあまり何をいってるのか分からなかったが 
とりあえず視線で合図を送り二人で走りだした。 

('A`)「嗚呼嗚呼あああああああああああああああの」 

( ’_’)「うん?」 

ドクオは体中の勇気という勇気を振り絞ってその男性に話しかける。 

('A`)「うえあえあたうhふぁはいあ;じゃfんjふぁ」 

( ’_’)「え?」 

( ^ω^)「ああああああああの、す、す、ススキさんですかお!?ウpログフィッシュの!!」 

ブーンがそういうと男性は一瞬驚いた顔をしてそれからとても照れくさそうに笑った。 

( ’_’)「うん、そうだよ。」 

( ^ω^)('A`)「あああああああ握手して下さい!!だだだだ大ファンなんです!!!!!」 

二人の声が重なった。 

( ’_’)「ああ、もちろん。どうもありがとう。」 

そう言って彼は気さくに右手を差し出した。 

( ^ω^)('A`)「亜wせdrftgyふじこlp;@!!!!」 

夢のような出来事から1時間後。ドクオとブーンはまだ自分の右手を見つめていた。 

( ^ω^)「はあ〜。もう僕は一生この手を洗わないお。」 

('∀`)「俺も・・・手袋買おうかな・・・」 

( ^ω^)「てか僕はさっきから幸せのあまり吐きそうなんだけどドクオはどうかお?」 

('A`)「あ!?お前も!?俺もさっきから吐き気とまんねんだ!今めっちゃゲロしてえ!」 

どうやら幸せとは極限に達すると吐き気を催すらしい。そう二人は思った。 

ちなみに先ほど二人が握手してもらった男性は人気インディーズバンド 
ウpログフィッシュのベースボーカルのススキさんという人である。 
独特だが力強く優しい歌詞と曲、ベースボーカルの真っ直ぐな歌声と 
ギターボーカルのヒネたような歌声、 
そしてライブの時必ずメガネをとばすドラムとのスリーピースバンドである。 

( ^ω^)「僕もあんな風にいろんな人から憧れられるようになりたいお。」 

('A`)「ああ、お前歌手になりたいんだもんな。そういやお前歌とか作ってんの?」 

( ^ω^)「それが・・・歌メロは浮かぶんだけど肝心のコード進行がさっぱり分からないんだお。」 

ブーンは大学1年の終わりごろから曲を作ろうと努力していた。 
当時はまだギターを持っていなく家には楽器といえばリコーダーぐらいしかなく 
歌メロは浮かんでも曲に仕上げる事はできなかった。 
そしてそれはギターを購入した今も変わらず、歌メロが増えていくばかりで 
肝心のコード進行、曲の肉付けが中々できないでいた。 

('A`)「マジか・・・おまえ音楽理論とかは勉強してるのか?」 

( ^ω^)「うー。ネットで見たり本屋で立ち読みしたりしてるけど中々難しいお。」 

('A`)「しょうがねえな・・・じゃ俺もあんま詳しく知らんけど知ってる事は教えてやるよ。 
今から俺ん家来いよ。」 

( ^ω^)「うほっwwwフラグキタコレwww」 

('A`)「ばっwwwwなんもしねえよwwwwww」 

( ^ω^)「相変わらず汚い部屋だおw」 

ドクオは地方出身で東京のアパートで一人暮らしをしていた。 
そして彼の部屋はいつも大量のCDが無造作に置かれていた。 

( ^ω^)「ふいー。お茶くれお。お茶。」 

ブーンは散らばるCDを適当によけて腰をおろす。 

('A`)「ねえよ。ほら水。」 

どんっと乱暴にテーブルの上に水を置いた。 

( ^ω^)「うはwwwwうめぇwwww」 

('A`)「おまえ本当ずうずうしいよな・・・さて、よっこらセックスと・・・」 

そう言ってドクオは押入れからギターを取り出す。それを見てブーンは驚く。 

( ^ω^)「あああああ!!ドクオ!お前いつのまにギター買ったんだお!?」 

('A`)「いつの間にって高校の時だけど・・・んあ?言ってなかったっけ?」 

ブーンはもう何度もドクオの家に足を運んだが、一度だってギターを見た事がなかったのだ。 

( ^ω^)「言ってないお!僕が前バンドに誘った時は 
音楽はやるより聴くのが好きとか言ってたのにアレ嘘だったのかお!?」 

ブーンのその問いに、ドクオは自虐的に笑った。 

('A`)「バカヤロ。アレは嘘とかそんなんじゃなくてだな・・・」 

( ^ω^)「ん?どういう事だお?」 

('A`)「・・・いや、なんでもない。さ、始めるぞ。」 

そういってドクオはギターのチューニングを合わせ始めた。

('A`)「で、お前コードはもちろん知ってるよな?」

( ^ω^)「まだ弾くときはコード表なきゃ全部は無理だけど・・・
一応名前は全部覚えたお。」

('A`)「よし。とりあえずスケールとかそんなんは自分で勉強しろ。
そこは教えるのメンドイ。」

( ^ω^)「ええ!!なんでだお!!そこが一番気になるお!?」

('A`)「うるさい。お前の部屋には何でも知ってる魔法の箱があるだろ?
それに質問しろ。わかりやすいサイトがいっぱい出てくるから」

いまいち納得のいかない答えだったがとりあえずブーンはうなずく。

('A`)「今日はお前によく使われるコード進行というのを教えてやろう。」

( ^ω^)「え!?そんなのあるのかお!?」

('A`)「そりゃコードの数だって限界あるからな・・・。
それにずっとCだけ、とか、ずっとAだけ、じゃ曲にはならないだろ?
だから自然にコード進行も偏ってくるんだ。」

( ^ω^)「ほほう。そういう理由でパクりとかも生まれてくるのかお?」

('A`)「うーん。それはちょっと違うな。でもま、曲作りも最初の方は
パクってもいいと俺は思うぜ。」

( ^ω^)「ええ!僕はパクリをしてまで売れたくないお!
自分の力でのし上りたいお!自分の力で世界を制したいお!」

ドクオの言葉に思わずブーンの口調は強くなる。

('A`)「ちょwおまえ夢でけえな。そういう意味じゃねえよ。落ち着け。」

( ^ω^)「じゃどういう事なんだお?」

('A`)「いいか。おまえは歌メロこそ作ったことあるものの、
コード進行に関して何も知らない、理論も分からないバカだ。ここまで良いな」

( ^ω^)「ちょっと言い方は気に障るけど・・・まあいいお。」

ブーンの言葉を聞いて、ドクオは話を続ける。

('A`)「だからな、最初は自分の好きなミュージシャンの好きな曲の
コード進行をパクる。で、それに適当に自分で作った歌メロを乗っける。」

( ^ω^)「ふんふん。」

('A`)「そうするとな、この部分でこの進行はおかしいなって部分が
少なからずでてくるんだよ。」

( ^ω^)「ほう。」

('A`)「だからその部分は自分でコード表でもなんでも見て
その歌メロに一番合うコードを見つける。そんでまたおかしい部分を見つけてって
そんな作業を繰り返していくと、あっという間にオリジナルの完成だ。」

( ^ω^)「なるほど。でもそれでもパクリはパクリだお。」

('A`)「そんなこた分かってるよ。でもな、そういう作業を続けていくうちに
段々と自分でもどういう風にコードを展開させていけば良いか分かるんだよ。」

( ^ω^)「ああー!そういう事かお。把握した!」

('A`)「美術だって最初は好きな画家の模写から始めるんだ。
後はいかにそれを自分流に昇華させていくかだ。」

( ^ω^)「うーん。説得力あるお。」

('A`)「でもまあ、俺もだがおまえも好きなミュージシャン多すぎるし・・・
そん中から好きな曲選んでパクれっつっても大変だよな。
だから今日はさっきも言ったが一般的によく使われるコード進行を紹介する。」

( ^ω^)「wktk。」

('A`)「メモっとけよ。たとえばC→F→C→F。これは一番簡単だな。
それからC→Em→Dm→Emあとは・・・」

ドクオは次々にコード進行を喋りだす。
ブーンは必死でメモをとった。

('A`)「・・・とまあそんなトコかな。あとは今教えたコードに
sus4、add9なんかを使ってアレンジしてくとますます曲っぽくなってくからな。
てか、試しにやってみるか。じゃ俺弾くから、おまえ適当に歌ってみろ。」

そう言ってドクオはギター弾き始めた。
コード進行自体はとても単純なのに、確かに何かの曲のように聞こえてくる。

( ^ω^)「おおーすごいお。」

('A`)「いいから早く歌えや。思いつきでいいから。」

( ^ω^)「わ、分かったお。うはwwww緊張するwwww」

そしてブーンはドクオのギターに合わせて歌い始めた。
歌詞が全く思い浮かばずとりあえずらららと歌うだけであったが
それでも立派に曲として成り立っていた。

('A`)「おまえ、マジで歌うまいんだな・・・その顔は絶対音痴の顔なのに・・・」

ひとしきり演奏し終わった後、ぽつりとドクオが呟いた。

( ^ω^)「ちょww歌に顔は関係ないお!ジャンボマスターを見てみるお。
それにドクオだってギターめちゃくちゃうまいお!絶対才能あるお!
なんで僕とバンドやらないんだお?」

('A`)「おまえしつけーな・・・あのな、これぐらいのやつ世の中にいっぱいいるんだよ・・・」

( ^ω^)「そんな・・・聖司君・・・」

('A`)「誰が聖司だww」

ドクオはどことなく寂しそうな顔をしていたがブーンはそれ以上聞かない事にした。
彼は自分の事を話すのがあまり好きではないからだ。

( ^ω^)「お、もうこんな時間。アワビさんが始まるから帰るお。」

('A`)「おう。帰れ帰れ。」

( ^ω^)ノシ「ばいばいおー。」

ブーンが出て行った後、ドクオは台所から水を汲んできて、飲み干す。

('A`)「でもあいつ、あそこまで歌うまいとはな・・・そこらの歌手よりよっぽどじゃねえか」

空になったコップを台所にもって行きながら、そう呟く。

('A`)「俺もあいつぐらい才能があればな・・・。いや、才能があったってな・・・」

音楽は才能だけが全てではない。現に才能があっても無名のミュージシャンはたくさんいる。
それとは逆に、カラオケレベルの歌唱力だって
TVやラジオにたくさんでている人達もたくさんいる。
それはとても不公平だとは思うが、大衆がその人達を受け入れるというのなら仕方ない。
音楽や美術の世界において大衆の評価は絶対なのだ。
そしてブーンもまた、才能こそあるものの大衆からは全く評価されない
ミュージシャンの一人になってしまうかもしれない。

しかしそれでも彼は言った。真っ直ぐに。「歌で生きて生きたい」と。

('A`)「あいつはすげぇな・・・俺もあの時、あれぐらい・・・」

ドクオはふと、高校の頃を思い出していた。

('A`)「・・・また回想かよとか思うなよ。」

ドクオ、高校3年の夏。

('∀`)「うえへへへ・・・」

その日ドクオは珍しく上機嫌だった。
受験生なのにも関わらずバイトに精を出し、欲しかったギターがやっと買えたからだった。

('∀`)「俺の可愛いアコギちゃん・・・」

ドクオは音楽が支えとなって以来、一人でいろいろなライブに行った。
そしてその度に思った。「自分もあそこに立ちたい」と。

音楽が仕事になればどんなに嬉しいだろう。
そしてその仕事で一生食べていければどんなに嬉しいだろう。そう思っていた。

('∀`)「さあて、アコギちゃんの名前は何にしようかな〜」

コンコン

ふいにノックの音が響いた。ドクオの返答もまたずに乱暴にドアが開く。

(-@∀@)「おい!ちゃんと勉強はしてるのか!?」

('A`)「と、父ちゃん・・・」

(-@∀@)「ん?なんだソレは!?」

父は彼が大切そうに抱えているギターを睨みつけて言う。

('∀`)「あ、こ、コレ、今日買ってきたんだ・・・へへ。カッコイイだろ・・・」

(-@∀@)「お前は何をやってるんだ!?」

('A`)「!」

父の怒鳴り声にドクオはビクっとなる。

(-@∀@)「こんな大事な時期にバイトばかりしてると思ったら
そんなモン買いやがって・・・お前分かってるのか!?今年受験なんだぞ!?」

('A`)「わ、分かってるよ・・・」

(-@∀@)「まったくお前はこの時期にそんな余裕があるほど良い成績なのか!?
何度も言ってるが浪人なんて事になったら俺はすぐお前を追い出すからな!!
金だって一銭もださんぞ!!」

ドクオはじっとうつむいて父の話を聞いていた。その姿は叱られた子犬のようであった。

(-@∀@)「だいたいお前はいつも訳のわからん音楽ばっかり聴いてるがな、
そんなだから成績があがらないんだ!!」

('A`)「・・・・・・」

(-@∀@)「分かったらとっとと勉強しろよ!この馬鹿が!!」

そう言って父はまたドアを乱暴に閉め、階段を下りて行った。

('A`)「あーあ。また怒られちゃったよ・・・。」

ドクオの母はドクオが7歳の時病気で死んでしまった。
そしてその時から幸せな生活は一変した。
経済的には何も変わらなかったが、精神的に。
優しかった父が何かとドクオに辛くあたるようになったのだ。
事あるごとにドクオを殴るようになった。何度も知らない女を家に連れてきた。
やがて月日は流れドクオが音楽に夢中になりだしてからその傾向はますます強くなった。

父は音楽が嫌いだった。
特にロックなどは頭の悪い連中の作った頭の悪い音楽だと本気で思っていた。
だからそんな「頭の悪い音楽」を聴いているドクオが気に食わなかった。

今まで何度も父はドクオのCDを窓から投げ捨てた。
その度ドクオは怒るでもなく泣くでもなくただただ悲しそうな顔をして、
ゆっくりと投げ捨てられたCDを拾い集めていた。その姿がますます父をイラつかせた。

そしてある日、ついに父はドクオにたずねた。

(-@∀@)「なんでだ・・・?」

('A`)「へ?」

(-@∀@)「なんでお前はそんなに頭の悪い音楽ばかり聴いているんだ?」

父がそういうと、ドクオはおずおずと答えた。

('A`)「ロックは・・・俺の世界みたいなもんだから・・・」

(-@∀@)「なんだと?」

('A`)「俺、この音楽があるから、頑張ろうって思えるんだ・・・
この音楽に出会ったから、今、俺は頑張れてるんだ。」

そういうと父は笑った。

(-@∀@)「こんな騒音がお前の世界なのか!?これがあるから頑張れる?
寝ぼけた事言うのもいい加減にしろ!成績もロクにあがってないお前の
どこが頑張ってるっていうんだ!え?言ってみろ」

('A`)「・・・・・・」

父は、知らない。ドクオに友達がいないという事を。
一人教室で浮いていて、誰からも相手にされていないという事を。
それでも頑張って、自分を奮い立たせて学校に行っている事を知らない。
家族にも頼れずただ音楽を支えにして懸命に生きていることを、父は知らない。

(-@∀@)「こんなクズみたいな音聴いてるから、お前の性格もクズになったんだな!
・・・こんなもの!!」

置いてあったCDを父はすっと取り上げ、床に叩きつける。

('A`)「あっ・・・」

パキッ・・・という乾いた音をたて、CDケースは割れた。
そして父は出て行った。

(-@∀@)「まったく・・・あいつの話を聞いてるとイライラする!」

('A`)「あーあ・・・割れちゃって・・・」

ドクオは先ほど父が割ったCDケースを拾う。幸い中身は傷一つついていなかった。

('A`)「あんな怒鳴られた直後に音だしたらまずいよな・・・」

一人呟き、ドクオはヘッドフォンをしてCDケースからCDを取り出しコンポに入れる。
爆音が、ドクオの耳に響く。

('A`)「はぁー・・・良いなあ・・・」

今聞いているのはスリップ072gというミュージシャンのCDである。
このミュージシャンは内向的な歌詞、攻撃的なギターで構成された曲が多いが
たまにあるバラードは歌詞も曲もとても優しくその全てがドクオを魅了した。

('A`)「かっけー・・・」

初めてスリップ072gの音楽を聴いたときドクオは身震いをした。
鳥肌がたった。体ではなく、魂を切り裂かれたような感覚になった。
同じ曲を、何度も何度も何度も聴いた。涙がでた。
どうしようもない自分を認めてくれているような気がした。
「それでも良いんだ。生きていけ。死ぬ事だけは選ぶな」そう言われているような気がした。

('A`)「父ちゃん・・・」

爆音に身を任せ、ドクオが言う。

('A`)「もう何年も、俺の名前呼んでくれてないなあ。」

言って、自虐的に笑う。ドクオはいつの間にかこの笑い方がクセになっていた。
そしてそれはとても悲しい事だと、自分でも思っていた。

('A`)「もう俺の名前、忘れちゃったのかなー・・・」

涙が頬を流れたが、ドクオは知らないフリをした。

時は流れて9月。今日、ドクオの学校は3者面談の日だった。

( ´⊇`)「えー、それではドクオ君、
最終的に第1希望は一般でVIP大学を受ける、という事でいいのかな?」

('A`)「あ、はい・・・」

(-@∀@)「先生、コイツは本当に進学できるんでしょうか?」

父の問いに担任は不思議そうな顔をする。

( ´⊇`)「と、言いますと・・・?」

(-@∀@)「このバカ成績もあまりよくないし、学校から帰ってきたら
ずっと訳のわからない音楽聴いてるだけでして・・・」

父がうんざりした感じでそういうと、担任はクスクス笑う。

( ´⊇`)「全然問題ないですよ。正直言わせてもらえば確かにVIP大学は
少し厳しいかもしれませんが決して無理な訳ではありませんし、
それにドクオ君は授業態度も至って真面目ですから本当なら私は私立の推薦を
進めたいくらいです。」

(-@∀@)「・・・そうですか。」

( ´⊇`)「それにしてもドクオ君が音楽好きとは驚いたな。
将来はやっぱり歌手になりたいとか?」

担任のその質問に今まで相槌をうつぐらいだったドクオが初めて笑顔をみせる。

('∀`)「へへ、実は俺、ギタリストになりたいなあ・・・なんて・・・」

( ´⊇`)「!!ドクオ君!!」

ドクオがそういった瞬間、父はドクオを殴り飛ばした。

(-@∀@)「なにふざけた事言ってるんだおまえは!?」

( ´⊇`)「お父さん!!落ち着いてください!!お父さん!!」

床に倒れたドクオにさらに殴りかかろうとしている父を担任は必死で止める。

('A`)「父ちゃん・・・」

(-@∀@)「そこまでバカだとは思わなかったぞ!!18にもなって下らない夢見やがって!!
おまえ頭どうかしてるんじゃないのか!?」

( ´⊇`)「お父さん!」

(-@∀@)「くそ!離せ!」

( ´⊇`)「離しません!いいですかお父さん、今から私はとても個人的な意見を言います。
気に食わなかったら後で校長にでも教育委員会にでもこの事を報告してくださって結構です。」

担任はそう言って父を無理やり椅子に座らせる。

( ´⊇`)「お父さん。先ほども言いましたがドクオ君はとても大人しくて真面目な生徒です。
ただ、それ故にいつも損な役割に回ってしまうことが多いのです。
が、ドクオ君はいつも文句一つ言わずにその役割をこなしていました。」

(-@∀@)「・・・・・・」

( ´⊇`)「私はそれはとても素晴らしいと思っていました。
ただどうして彼はいつも自己主張をしないのだろう。
自分の意見を言わないのだろう。そう思ってもいました。」

('A`)「先生・・・」

( ´⊇`)「進路を決める時だって「父親に言われたから。」
そんな理由で彼はこの大学を選びました。
まるで自分の意思がないのです。誤解を恐れずに言えば、
その姿はまるであなたに動かされている操り人形のようにも見えました。」

(-@∀@)「なにい!?」

( ´⊇`)「けど、今、たった今彼は初めて自分の希望を口にしました。
夢を私たちに話してくれました。あなたも見たでしょう!?
彼がああ言った時の嬉しそうな、希望に満ちた顔を!
私は3年間彼の担任を勤めさせて頂きましたが、あんな顔初めてみました。
なのになぜあなたは彼を殴るのです!?親ならば一緒に子供の夢を喜ぶはずでしょう!?
夢を打ち明けてくれた嬉しさを感じるはずでしょう!?」

('A`)「先生、もう、いいよ・・・」

( ´⊇`)「ドクオ君・・・」

ドクオの一言で担任は我にかえったようだった。さっきまでの険しい表情が消える。
そしてドクオは無理に笑顔を作って、言った。

('A`)「ギタリストになりたいなんてさ、嘘だよ。嘘。
だいたいそんなんなれる訳ないじゃん。俺みたいなやつがさ。」

( ´⊇`)「そんな事ない!」

('A`)「いいよ先生。ちょっとさ、ホント、俺ただ二人が驚く顔見たかったんだ。
さ、父ちゃん行こう。」

そう言って、ドクオは父の腕を掴んだ。

(-@∀@)「・・・失礼しました。」

('A`)「じゃ、先生サヨナラ。・・・どうもありがとうございました。」

そう言って二人は教室から出て行った。

( ´⊇`)「・・・・・・」

帰り道、父はドクオにいう。

(-@∀@)「・・・本当か?」

('A`)「え?何が?」

(-@∀@)「本当にさっきのは冗談か?」

ドクオは強く拳を握った。爪が手のひらに突き刺さる。
その痛みでドクオは気持ちを紛らわす。そして明るくいう。

('A`)「当たり前じゃん!俺音楽好きだけど才能ないことぐらい知ってるしさ!
それにさっきも父ちゃん言ってたけど俺18だよ?
いつまでもバカなこと言ってらんないって!」

(-@∀@)「・・・そうか」

('A`)「そうだよ!・・・そうだよ・・・」

それ以上二人は会話をする事もなく家に着いた。

バタンッ。どさっ。

('A`)「ふうー・・・」

ドクオは自分の部屋に戻り敷きっぱなしだった布団に倒れこむ。

('A`)「ホント、何考えてんだよ、俺・・・」

誰に言うでもなくドクオは呟く。

('A`)「父ちゃんに殴られんの当たり前だよな!大体なれる訳ないじゃん!
俺みたいなヤツがさ!」

そう言ってドクオはさっきの担任の言葉を思い出す。

( ´⊇`)「そんな事ない!」

力強い、真っ直ぐな言葉だった。
担任が叫んだあの言葉はまるで刃物のようにドクオの胸を切りつけた。

('A`)「俺みたいな・・・うっ・・・うえっ・・・う、うああああああああああああ!!」

ドクオは声を上げて泣いた。どうかしてる、そう思ったが止まらなかった。

(;A;)「嘘なんて、嘘に決まってんじゃん!!あれが本音だよ!!!!!
でもしょうがねーじゃん!!父ちゃん心配させたくねーもん!!!!」

ドクオは泣き叫ぶ。布団を被って、声が外に漏れないように。

(;A;)「俺、音楽好きだよ!!!こんなに夢中になったもん他にねえよ!!!!
音楽なかったら俺なんてとっくに死んでたよ!!生きてる意味、ねえよ!!」

ドクオは拳を握り布団を叩く。何度も、何度も。
生まれてくるんじゃなかった。そうすれば、音楽になんて出会わなかった。
音楽に救われるなんて事はなかった。生まれてこなければ、良かった。

(;A;)「あああああああああああ!うあああああああああああ!」

ドクオは泣き続けた。その日はずっとずっと泣き続けた。
頭の中では魂を切り裂くあの歌が、ずっと鳴り響いていた。

1週間後・・・

('A`)「父ちゃん。」

(-@∀@)「なんだ?」

('A`)「今まで心配ばっかけてごめんな。
今、バイトやめてきた。これからは受験勉強に専念するよ。」

(-@∀@)「・・・そうか。頑張れよ。」

('A`)「うん。サンキュ。」

それからドクオはギターを弾くのもやめ勉強に専念した。
相変わらず音楽は聴いていたがギターはケースの中にしまいっぱなしになった。
寂しそうに横たわるギターを見る度、「俺には才能がない。」
そう自分に言い聞かせてまた勉強に戻った。
その甲斐あってか、ドクオは補欠ながらも無事VIP大学に合格した。
そして卒業式・・・

( V▽V)「・・・以上を持ちまして、ポーション高校の卒業式を終了致します。」

校長の挨拶も終わり、3年生は再び自分の教室へと戻っていった。

('A`)「(ふうー。終わった終わった・・・)」

ドクオも卒業証書を片手に教室へと戻る。
教室ではみんなそれぞれ写真を撮ったり寄せ書きを書きあったりしているが
友達のいないドクオには何の関係もない事だった。

('A`)「(さ、帰るか・・・)」

ドクオは鞄に卒業証書を入れ、帰る準備をする。その時だった。

( ´⊇`)「ドクオ君。改めて卒業おめでとう。」

('A`)「あ、先生・・・ありがとうございます・・・」

( ´⊇`)「いやあ、ホントVIP大学受かって良かったね。
4月からは花の東京で一人暮らしか。」

担任はそう言って、本当に嬉しそうに笑った。

('A`)「はあ、まあ・・・」

( ´⊇`)「なあ、ドクオ君。」

('A`)「なんすか?」

( ´⊇`)「先生は、何十年経っても君の先生だ。
だから俺はここでずっとずっと君を応援してる。
君の夢が叶うように、ここでずっと祈ってるからな。」

それはよくある励ましの言葉。反吐がでそうな綺麗言。
しかしそれでもドクオには涙が出るほど嬉しかった。

('A`)「先生、学園ドラマの見すぎっすよ・・・」

( ´⊇`)「そうだな。はは・・・」

照れ隠しで言ったドクオの言葉に、担任は苦笑した。

('A`)「じゃ、サヨナラ・・・」

( ´⊇`)「おう。いつでも戻ってこいよ。」

家に戻り、ドクオは4月から一人暮らしする為の荷造りを始めた。

('A`)「っと・・・これと、これと・・・あ、このCDも持ってこ。」

洋服を詰め、CDを詰めるともうほとんど荷造りは終わってしまった。

('A`)「こんなもんか・・・」

ふう。とため息をつく。そしてふっと、埃を被ったギターケースに目をやる。

('A`)「どうしようかな・・・」

ドクオはあれ以来、もうほとんどギターを弾かなくなった。
しかし、どうしても捨てることはできなかった。できるはずなどなかった。

「君の夢が叶うように、ここでずっと祈ってるからな。」


('A`)「・・・ちぇっ・・・」

軽く舌打ちをして、ドクオはギターを手に取る。

('A`)「最近、全然弾いてなかったよなー・・・」

ドクオはチューニングもあわせず。コードを押さえる。
ギターからはあの時と変わらない優しい音がでた。

('A`)「・・・」

('A`)「先生を無駄に祈らせちゃ悪いからな・・・」

そう自分に言い訳をして、ドクオは荷造りの中にギターを押し込んだ。

父には「ギターはもう捨てた。」そう嘘をついて・・・

そして4月。大学生活が始まりそこで初めてブーンという友達ができた。
とにかく気が合った。何でも話した。しかしどうしても自分の夢は話せなかった。
でもブーンはこの前話してくれた。自分の夢を。
恥ずかしくてはぐらかした自分とは違い、真っ直ぐに夢を語ってくれた。


('A`)「俺も・・・もう一回だけ、良いかな・・・?」
回想から戻ってきたドクオは呟く。そして、携帯を手に取った。


( ^ω^)「お?メールだお。」

ピッ・・・

件名:ばーか 

本文: 
おまえのせいで俺はまた馬鹿な夢を追いかけるハメになった。 
おまえのせいだバーカ。 








ありがとな。 


( ^ω^)「うはwww何だかよくわかんねwwww」 

笑いながらブーンは返信する。 

「らめええええええええええ!メール見ちゃらめえええええええ!らめ・・・」 

ピッ 

('A`)「お、ブーンからか・・・」 

件名:Re: 

本文: 
何だかよくわからないけどガンガルお! 
そんで二人で世界一のフォークデュオ結成するお! 


その文面に、ドクオは苦笑する。 

('A`)「ばかやろう。何となく察しついてんじゃねえか・・・」 

( ^ω^)「お、またドクオからかお?」 

ピッ 

件名:Re:Re 

本文 
ねーよwwww 
おまえが武道館でライブする時に俺をゲストとしてよべ。 


ブーンに返信を終えると、ドクオは大きくのびをした。そして言った。 

('A`)「さっ、頑張って父ちゃん説得しねえとな。 
あーあ、俺殺されるかも・・・」 

そう言って笑うドクオにもうあの自虐的な雰囲気は消えていた。 

 

 

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