5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:28:24.50 ID:ZE3Up+qD0

時は2ch暦69年。
日本のどこかにある平和で平凡で退屈な街、ニュー速市。
のどかというほど田舎ではなく、垢抜けているというほど都会でもない街。
そんな街に嫌気がさして若者は飛び出し、そして夢破れて帰ってくる。
そうやって人口は増えず減らず、名産品も観光地も特にないニュー速市は、大都市の衛星都市として凡庸に時を重ねていた。

これは、そんな街に突然舞い降りた世界的な大イベントのお話。

 

7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:30:07.88 ID:ZE3Up+qD0

ある日。世界の大企業が手を結び、ITアトラクションの新しい形を模索するというプロジェクトが立ち上がった。
世界中の人々が言葉の壁も国境の壁も越えて、まったく同じ条件で触れ合えるアトラクション。
移動の手間もなく、大きな費用もかからずに、世界中の人々と顔をあわせ、体を動かし親交を深める。
まさに夢のような話だが、夢は実現しないから夢という。

だが。
実現不可能と思われたそのプロジェクトを、昨今急速に発達した技術が可能にした。
高度なプログラムと、サービス提供用のサーバーの莫大な処理能力。
さらに超高速伝達を可能にする専用回線、強制睡眠・脳波接続を行うプレイポッド。
それらによって、仮想現実の世界を現実と同じように体験できるという夢物語が実現した。

Vision lncarnate Program。
通称VIPと名付けられたその新システムは、世界各国でテスターの募集を開始。
ニュー速市は奇跡的に、そのテスター都市の一つとして選ばれた。

 

10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:30:53.41 ID:ZE3Up+qD0

( ^ω^)「オンラインゲームの究極系・・・味や温度も感じられるなら、マンガ肉も食べられるかもしれないお!」
ハードゲーマーで軍オタの内藤。
星狐学園情報技術科に所属。

('A`)「おぉ、本物のポーションも飲めるかもな。何でも再現可能らしいからなぁ・・・夢が広がるぜ」
同じくハードゲーマー、ドクオ。内藤の友達。
とあるゲームの全国大会準優勝者。

ξ゚听)ξ「何でもありって想像するの難しいわね・・・現実にないような綺麗な景色とか見れるのかしら」
内藤の隣の家に住む幼馴染、ツン。
成績優秀、語学堪能。内藤の趣味に付き合っているため不本意ながらゲーマーに。

(´・ω・`)「けどなぁ・・・現実と同じ体感が可能なら痛みもあるんじゃないか?」
上記三人の担任、ショボン。
車はもちろんのこと、船舶、重機等の免許を持つ。歴史教師。

( ,' 3 )「痛みか・・・それは困るね。映画のようなアクションをすれば死んでしまいそうだ」
保健医の荒巻。
スキーやカヌー、キャンプなどアウトドアな趣味を持つスポーツマン。



 

11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:31:19.51 ID:ZE3Up+qD0

,,゚Д゚)「ドキドキするなぁ。説明はまだ始まらないのか?」
星狐学園近くに住む大学院生、ギコ。
元駅伝選手。地学専攻。旅行が趣味。

(*゚ー゚)「落ち着きなさい、ギコ。あと10分もあるじゃない」
中学時代からのギコの恋人、しぃ。
整体士。趣味は料理と読書。

(*゚∀゚)「ねぇねぇ、しぃ。賞金が出るって聞いたけどホントかな。欲しいものあるんだけど」
しぃのお姉さん、ダンサーのつー。
趣味はバイク、大型免許もち。

体育館に設置された大仰な装置の前に集められた彼らを、観客席のテスターに選ばれなかった者たちや友人が見守っている。
ステージ上には巨大なスクリーンが設置され、その周囲に小型のスクリーンが8つ。
巨大なスクリーンは全体を映し、小型スクリーンはそれぞれ8人の参加者をモニターする。
さらに、日本でテスターに選ばれた都市はニュー速市だけという事もあり、TV局も万全の体制で待機していた。
カメラの前で実況するアナウンサーの周りに、地元の中学生たちが群がっている。
そんな中、装置の点検を監督していたスーツ姿の男がマイクを手に取った。

 

14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:33:47.67 ID:ZE3Up+qD0

担当者「あーあー・・・はい、みなさんよく集まってくださいました。点検は完了しました。これより説明にうつりたいと思いますが、準備はよろしいですか?」
('A`)「おお、きたきた」
( ^ω^)「はやくやりたいおwww」

会場はいっせいに静まり、世界で同時に開始される大テストの説明が始まる。
説明といっても装置の起動などは全てスタッフが行う上に、テスト中、つまりプレイ中は現実とまったく同じ体感。
つまり、現実世界と同じように動ける。
仮想現実を体験するというよりも、違う世界に飛ばされるといった表現のほうがしっくり来る。
現実と違うことといえば、運営側の措置によって調整される痛覚処理くらいだ。

担当者「というように稼動中は現実と同じように動けますので、操作に関してわからないことなどは発生し得ません。痛みなどもその大きさに反比例して調整されますので、少々無茶なことをしていただいても結構です。では次に乗り物についてですが・・・」

ゲーム中には現実では触れることさえしない乗り物などもでてくるだろう。
その場合、運転方法はあらかじめプレイヤーが設定した方法が採用される。
実際運転できる人間なら現実と同じように。
そうでなければゲームの操作方法で、あるいは、違う乗り物の運転方法で。

担当者「さて、あとはプレイ中で確かめてください。何が起こるかはみなさんの行動で変わってきます。プレイ中に死亡すればゲームオーバーです」




 

15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:35:07.44 ID:ZE3Up+qD0

担当者「それでは、プレイポッドに搭乗していただきましょう。プレイヤー全員が準備できましたら即開始となります。どう進めばいいか等は、ゲーム中で説明されますのでご安心を」

内藤たち8人のテスターがスタッフに誘導され、それぞれのプレイポッドに乗り込む。
コンテナ型の装置に乗り込み、指示に従いソケットに手を通す。
スタッフがヘッドギアをかぶせると、視界は暗闇に支配される。
内藤は暗い視界の中、これから始まる体験に胸を躍らせていた。

( ^ω^)「い、いよいよだお!ばっちこいだお!」

全員のプレイポッドに電源が入る。
プレイヤーそれぞれが緊張して開始を待つ中、ヘッドギアから直接担当者の声が響いた。
装置の駆動音が聞こえ、意識がまるで眠りに落ちるように薄らいでいく。
おそらく、目が覚めたら仮想現実の世界。

担当者「それでは準備はよろしいですか?神様にお祈りは?恐ろしい目にあって小便ちびる心の準備はOK?・・・それではいってみましょうか。未知なる体験の先駆け、VIPシステム・ワールドテスト、みなさんの健闘を祈ります!」


 

18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:37:41.87 ID:ZE3Up+qD0

( ^ω^)「・・・はっ!?今何か不吉な台詞を聞いたような・・・って、ここは?まさかこれが仮想現実・・・かお?」

プレイポッドの中にいたはずの内藤が目を覚ますと、そこは晴天に包まれた大都市だった。
空気の匂い、風、照りつける太陽。
すべてが現実そのものだった。
あたりを見渡せば様々な人種の人々が集まり、ある人は歓声を上げ、ある人は頬をつねっている。

( ^ω^)「・・・うっひょぉぉぉ!すごいお!いや、ちょwwwこれ現実じゃね?wwww」

はしゃぐ内藤の近くで大気が揺らぐ。
その揺らぎは瞬く間に人型を作り、ドクオが仮想現実の世界に実体化した。
その光景を見て、内藤は今いる場所がまぎれもなく仮想現実、VIPシステムの世界なのだと実感する。
ドクオに続き、体育館にいたプレイヤーが次々に実体化していく。

('A`)「・・・おぉ・・・ここがそうか。すげぇな、人類の技術ってやつは!」
ξ゚听)ξ「ここは・・・これが仮想現実?すごい・・・」
(´・ω・`)「暑さも風も感じるな。いやぁ・・・信じられん。なんてこった」
( ,' 3 )「おや、外国の人もいるね。みんなまだ何をすれば良いのか聞かされていないのかな」
(,,゚Д゚)「しぃ、しぃ!すごいな!見えてるか?鳥だって飛んでる!もうすごいな!すげー!」
(*゚ー゚)「そうね、ビックリするわ・・・いい年してそこまではしゃぐギコにね」
(*゚∀゚)「あらまぁ、手厳しいねー」

 

21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:41:27.13 ID:ZE3Up+qD0

( ^ω^)「これで日本勢は集まったお?」
ξ゚听)ξ「そうね。私達星狐学園の生徒と・・・えっと」
(*゚ー゚)「あ、私達は市内に住んでいて・・・私はしぃ。こっちはギコに、姉のつーです。よろしく」
(,,゚Д゚)「どうも、ギコです。同じ日本テスター同士、頑張りましょう」
(´・ω・`)「これはどうも・・・こちらは高校生がいますからご迷惑をお掛けするかもしれませんが・・・」
(*゚∀゚)「いいえー。せっかく同じ場所から参加したんですから楽しくいきましょう」

('A`)「ん・・・なんか人が集まりだしたぜ」
( ,' 3 )「どこかへ向かうようだね。どれ、我々もいってみよう」

 

24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:42:38.07 ID:ZE3Up+qD0

( ^ω^)「何か配ってるお」
( ,' 3 )「ふむ・・・説明書的なものじゃないかな」
(´・ω・`)「なるほど。よし・・・ドクオ、とってこい。全員分だ」
('A`)「へ?なんで俺が・・・」
(´・ω・`)「いけ」
('A`)「・・・はいはい」

説明書を配っている仮説テントに、各国のテスターが行列を作っている。
それを眺めてから、ドクオはため息をついて歩き出した。
そのあとをつーがついてくる。

(*゚∀゚)「お姉さんもついていってあげよう。君、名前は?」
('A`)「あ・・・ドクオです。なんかすいません、どうも・・・」
(*゚∀゚)「良いよ良いよ。さ、暇だろうから並んでる間お喋りしよっかー」


 

26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:43:41.33 ID:ZE3Up+qD0

ドクオが長いこと並んで持ち帰ってきたのは、荒巻の言うとおり説明書のようだった。
そこには、体育館で説明されなかったことが書かれている。
まず、このテストは競争制らしい。
スタート地点で資金が渡され、最終目的地を目指し旅をする。
途中で資金を稼ごうが、だらだらとリゾートを楽しもうがプレイヤーの勝手だが、最初に目的地に到達したプレイヤーには賞金が出るようだ。
基本的にプレイヤーは個人進行だが、目的達成のためにチームを組むのも当然許されている。
その場合賞金はプレイヤー間での話し合いで処理してもらう。
ちなみに賞金額、20億円。

 

28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:45:00.81 ID:ZE3Up+qD0

( ^ω^)「・・・0がいっぱいだお」
ξ゚听)ξ「・・・20億!?」
(´・ω・`)「ほう・・・車のローンを払って、高い飯食って・・・良いな。実に良い」
(,,゚Д゚)「スタート地点ってここか?資金ってのはどこに・・・」

ギコがめくった説明書のページに、最後の説明が書かれていた。
この説明書を読み終われば各プレイヤーはこの仮想現実の世界のどこかにあるスタート地点に飛ばされ、そこから一人でスタートすることになる。
飛ばされた先で資金が渡され、それからは自分の知恵と体力で目的地を目指す。
ギコが声に出してその文を読み上げると、説明書は淡い光とともにかき消えた。

(*゚ー゚)「消えた・・・ということは、今から飛ばされるのかしら」
(*゚∀゚)「そうでしょ。だってほら、どんどん人が消えてってるよ」

周りを見ればさっきまでいた各国のテスターの数が半分ほどまで減っている。
説明書を読み終えたプレイヤーからスタート地点に飛ばされるようだ。
内藤たちも例外ではなく、いつ自分が飛ばされたのか認識できないまま、急に意識が暗転する。



 

29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:47:06.53 ID:ZE3Up+qD0

波の音が聞こえる。
頬にはやわらかい感触と、ほのかな潮の香り。
目を開けて起き上がると、一面に広がる大海が見える。
振り返ると、さっきまでいた大都市とは違った田舎町が見えた。

( ^ω^)「ああ・・・飛ばされたのかお。ちょっと乱暴だお、改善を提案するお」

内藤は砂浜にいた。
どうやらここが内藤のスタート地点らしい。
ふと気がつけば、内藤はその手に札束を握っていた。
この仮想世界の通貨なのだろうか、見たこともないような紙幣だが、なぜかその額は理解できた。
日本円にしておよそ100万円。この資金を元に目的地を目指さないといけないらしい。

(;^ω^)「ん?・・・そういえば、目的地ってどこだお?」

 

32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:52:29.37 ID:ZE3Up+qD0

( ^ω^)「おけおけ、落ち着くお内藤ホライゾン。ゲームの基本として村人がいるはずだお、まずは情報収集だお」

内藤は砂浜から町に移動した。
仮想現実とは思えないようなリアルな住人たちが内藤を出迎える。
住人は皆親切に接してくれたが、目的地は教えてもらえなかった。
AIで動いているだろう住人に混じって外国のテスターもいるようだが、彼らに話を聞こうにも内藤は日本語以外喋れない。

(;^ω^)「むぅ・・・困ったお。いきなり詰まるとは思わなかったお」

内藤はコンビニ前のベンチに座りコンビニで買った缶ジュースを飲んでいた。
今いる場所はどうも日本ではないようだが、プレイヤー以外になら日本語で話せるらしい。
そんな事を考えながらコンビニのほうを眺めていると、東洋系の男が出てきた。
男は内藤の視線に気付くと、気軽に声をかけてくる。

( ´_ゝ`)「なんだ坊主。そんなとこでボーっとして、暇なのか?」
( ^ω^)「・・・あーっと、プレイヤーですかお?日本の?」
( ´_ゝ`)「まぁ、一応な。アメリカ在住だからアメリカからインしてるんだけどな」
( ^ω^)「これは助かったお。良かったら目的地の場所を教えて欲しいですお」
( ´_ゝ`)「目的地っておまえ・・・知らんのか?コンビニ店員に聞けば教えてくれるってのに」

 

35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/11(火) 00:57:29.51 ID:ZE3Up+qD0

(;^ω^)「コ、コンビニ店員に聞けば良かったのかお。迂闊だったお」
( ´_ゝ`)「・・・ふむ。あんまり頼りがいはなさそうだが、一緒に来るか?ちょうど人手を探してたんだが見つからなくてな」

その男は兄者と名乗った。
この辺で相棒を探そうとしたらしいが、声をかけた相手は断るか、もしくは明らかに腹黒そうな人間ばかりで困っていたそうだ。
その点内藤は安全だと判断したらしく、内藤の隣に座り話し始めた。
兄者の話からすると、この仮想世界は地理的にいえば現実とまったく同じらしい。
内藤と兄者の現在地は現実でいうところのイギリス、ドーバー海峡に面した田舎町だ。
目的地はチベット付近、そのあたりにゴールがあるとか。

( ´_ゝ`)「んで、とりあえずユーラシア大陸に渡らにゃならん。となると船が必要なんだが・・・」
( ^ω^)「なんだが・・・?」
( ´_ゝ`)「高い。60万くらいする。こんな最初から資金の6割を失うのは避けたい」
( ^ω^)「はぁ。それって船を売ってる店があるんですかお?」
( ´_ゝ`)「ああ。道具屋に売ってるんだ。・・・そうだな、船以外に使えるものがあるかも知れんし、連れて行ってやろう」

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/11(火) 01:01:59.79 ID:ZE3Up+qD0

兄者についていった先には、小さな屋台があった。
どうもその屋台が道具屋らしい。
船まで取り扱う割りにあまりにも小さすぎるが、この仮想現実の世界では大きなものはカタログで選んだあと、しかるべき場所に実体化するようだ。

( ^ω^)「なるほど、さすがは仮想現実・・・それに色々売ってるお」
( ´_ゝ`)「けどなぁ・・・海渡れそうなもんは少ないな。船は高いし、カヌーはさすがに無理だろう」

道具屋のカタログには凄まじい数のアイテムが並んでいる。
日用雑貨から果ては戦車まで。
そんな中、内藤の興味を強烈に惹いたものがあった。

( ^ω^) (・・・!?こ、これは・・・!)

スクール水着に身をつつみ、オールを持った少女のフィギア。
現実ではお目にかかれないような、まさに神の御技といえる造型。
まるで生きているかのような質感。

( ^ω^) (素晴らしいお・・・まさに至高だお!購入、と・・・フヒヒ!)

20万という法外な値段だったが、内藤は兄者に気付かれないようにこっそりそれを購入した。
懐にいれていた紙幣の束から20万円分が消え、かわりに購入したフィギアが手の中に実体化する。
そのフィギアを懐に隠し、内藤は何事もなかったかのようにカタログをめくり始めた。


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/11(火) 01:11:53.82 ID:ZE3Up+qD0

やはり海を越えるのに使えそうなものは少ない。
船は高いから除外するとして、ほかに使えるのはカヌーとヨット、ゴムボートに水上スキー、イカダくらいか。
カヌーでドーバー海峡を渡るのは体力的にきついし、なにより時間がかかる。ヨットを操る術もない。
ゴムボートとイカダも現実的ではないだろう。

( ^ω^)「・・・ほかの道具と組み合わせるとかできないのかお?」
( ´_ゝ`)「なるほど・・・要は使い方か。そうだな、柔軟に考えてみるか」

兄者はまた最初からカタログをめくりだす。
内藤もそれに習い、カタログを遡っている途中、兄者が何かを購入した。
視線をむけると、兄者の手には長くて丈夫そうなロープが握られている。
さらに兄者はカヌーを購入手続きにはいる。

( ^ω^)「結局カヌーで行くんですかお?けど時間が・・・」
( ´_ゝ`)「ああ、いい事を思いついた。見ろ、あいつを」

兄者の視線の先で、プレイヤーらしき5人組が船を購入していた。
60万のクルーザーも、5人も集まれば買えないほど高い買い物ではないのだろう。
カタログから船が実体化した地点のアナウンスが流れ、5人組は外にでていった。

( ´_ゝ`)「よし・・・追うぞ。カヌーをあいつらの船が実体化した地点で指定して購入する、と」
( ^ω^)「・・・?何するつもりですお?」
( ´_ゝ`)「まぁ見てろ。俺に拾われたことを感謝させてやるよ。とりあえずロープもってきてくれ」


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/11(火) 01:18:58.41 ID:ZE3Up+qD0

( ´_ゝ`)「いやー、それにしても話のわかる奴らで助かったな」
( ^ω^)「最初からお願いすればよかったんじゃ・・・」
( ´_ゝ`)「それだとすんなり運んでくれなかったと思うわけよ、これが」
( ^ω^)「まぁ、そっかお。とにかくこれでドーバー海峡はクリアかお」

内藤たちのカヌーを引っ張り、クルーザーはドーバー海峡の半分を過ぎる。
5人組は現実よりも美しい海を眺め、あるいは空を眺め、アメリカライクにパーティーを開いていた。
カヌーの内藤と兄者は特にすることも無くただ座っているだけだが、それでも景色を見るだけで暇にはならない。
ありえないほど海は澄み、たまに海中を泳ぐ魚が見える。
空はどこまでも晴れ渡り、程よい日差しが眠気を誘う。
何気なく空を眺めていた内藤は瞼が重くなるのを感じ、視線をしたに向けた。
底さえ見えそうなほど澄み切った海の中が、一瞬だけ何かにさえぎられた。

( ^ω^)「ん?今何か・・・」
五人組リーダー「おーい、カヌーの二人組み!名前聞いてなかったな!俺はジョンっていうんだ!」
( ´_ゝ`)「兄者だ!運んでくれてありがとよ、ジョン!」
ジョン「いいってことよ!おまえらは何でこのテストに参加したんだ?」
( ´_ゝ`)「楽しそうだからだよ!お前はどうだ?」
ジョン「俺はそろそろ結婚するんだ!賞金が出るのは聞かされてたんでな、結婚資金さ!!」


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/11(火) 01:23:46.04 ID:ZE3Up+qD0

内藤は英語で返事を返した兄者に代わりに返事をしてもらおうと口を開きかけ、クルーザー前方の異変に気付いた。
開きかけた口が閉まらない。
クルーザーの前方では、大きな気泡がはじけていた。
ちょうど水中で空気を吐き出したように。
そのあたりの水面が盛り上がっていく。

( ^ω^)「な・・・気をつけるお!!」
ジョン「ん?なんだってジャップ?あーっと。日本語でなんていえば良いんd」

次の瞬間、ジョンが台詞を終える前に、巨大な水柱がたった。
10メートルは優に超えるだろう水柱の直撃をうけ、クルーザーが宙に舞い、五人組が投げ出される。
海面は荒れ狂い、投げ出された5人組は為すすべもなく海中に沈んでいった。

( ´_ゝ`)「おぉ!?な、なんだこりゃ!!」

水柱が収まり、また別の場所で水柱がたっている。
荒れ狂う海の上で、内藤たちのカヌーはなんとか転覆を免れていた。
クルーザーからはずれた縄を使い、兄者は何とか5人を助けようとする。
一番近くで何とか沈まないように頑張っていたジョンのもとにロープが届いたが、ジョンはロープを掴む前に力尽きた。
ジョンの体が力なく荒波に揉まれ、海中に消える。


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/11(火) 01:28:18.02 ID:ZE3Up+qD0

( ´_ゝ`)「ジョォーーーーーンッ!!」
( ^ω^)「ちょ、したに何かいるお!テラデカスwwww」

波立つ海面からわずかに見える水中に、激しく動く何かが見えた。
それは蛇のような動きをしていたが、蛇にしては大きすぎた。
やがて海面のうねりは内藤たちのカヌーにせまり、巨大な水柱がカヌーを押し上げる。
空中に放り出された内藤と兄者は、水柱を起こした犯人を見た。
爬虫類のような目に、魚類のエラと鱗、蛇のような体。
西洋の船乗りは海に住む大蛇シーサーペントを恐れたという。
それが本当にいるならば、きっと目の前の大蛇がそうなのだろう。

( ^ω^)「ふぉっ、ひぃぃぃ!食われるお!」
( ´_ゝ`)「おち、落ちる!逆さま!」

水柱は収まり、大蛇は内藤たちが落ちていく様子を眺めていた。
さかさまに落ちたカヌーから何とか這い出ると、頭上数メートルのところに大蛇の顔がある。
蛇ににらまれた蛙という奴だろうか。
仮想現実の世界だということなど忘れて、内藤はただ死の恐怖を感じていた。
内藤と兄者はひっくり返ったカヌーにしがみつき、大蛇を見上げている。
逃げても意味がないとわかっているのか、本能的な絶望なのか、二人はまったく動けないでいた。


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/11(火) 01:34:31.78 ID:ZE3Up+qD0

( ^ω^)「・・・」
( ´_ゝ`)「・・・死ぬかな、これ」

兄者が声をだした瞬間、大蛇の目つきが変わった。
内藤と兄者を見ながら、大きく反動をつける。

( ^ω^)「ちょ、声だしたら動き出したお!食われるお!」
( ´_ゝ`)「俺のせいか?俺のせいなのか!?・・・正直すまんかった!!」
( ^ω^)「ひぃぃぃぃぃ!!死ぬ前に酒池肉林したかったおー!!」

反動をつけた大蛇が、泣き叫ぶ内藤に迫る。
大きく開いた口から鋭い牙が見えている。噛まれれば明らかに即死、飲み込まれてばゆっくり溶かされるだろう。
兄者が逃げろと叫んだが、内藤の体は動かない。
一瞬の先に訪れるだろう死の痛みに、内藤は固く目を瞑った。
だがその痛みが訪れる前に、唐突に大声が響き渡る。

「やめいっ!!!!」


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/16(日) 23:20:19.48 ID:G/v0RorB0

( ^ω^)「・・・んぁ?」
( ´_ゝ`)「だ、誰だありゃ・・・?どっからでてきた?」

恐る恐る目を開けた内藤の横で、兄者が呆然と内藤の背後を見詰めていた。
その視線を追って振り返ると、ひっくり返ったカヌーに少女がたっている。
その少女はスクール水着を着て、オールをもっていた。
腰に両手を当て偉そうにふんぞり返った少女は、まっすぐ大蛇をにらんでいる。
大蛇はなぜかその少女に睨まれただけで動きをとめ、あろうことか少しずつ後退していた。
ない胸を堂々と張り、少女は内藤に視線を移した。
内藤を安心させるように微笑み、少女は高々と声をはり上げる。

少女「我こそはかかる天の兵打ち破り、六瀬七州統べたる大海の王!リヴァイアたんと呼ぶが良い!!」


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/16(日) 23:20:49.38 ID:G/v0RorB0

( ^ω^)「はい・・・??」
リヴァイアたん「そこの男、貴様が封印をといたな?褒めて使わす!手始めにこの窮地取り払ってくれよう!」
( ^ω^)「・・・はぁ。助かりますお」
リヴァイアたん「うむ!行くぞ、とうっ!天罰・てきめんっ!てきめんてきめんっ!!」

さっそうと跳んだリヴァイアたんは手にもったオールでペコペコと大蛇の頭を叩いた。
どう考えても効果はなさそうだが、それだけで大蛇は力なくうなだれる。
それどころか、大蛇はリヴァイアたんに従うそぶりを見せた。

( ^ω^)「・・・!?どういうことだお、これは?」
リヴァイアたん「私はレアアイテムのお助け召喚キャラじゃ!良い買い物をしたな男!」
( ^ω^)「ほう?ほほほう?レアアイテムのお助け召喚?そんなものがあったのかお・・・」
( ´_ゝ`)「いつの間にんなもんを・・・いやしかし、でかした」
リヴァイアたん「これでこの不心得者はお前のいう事を聞く。岸まで運んでもらうが良い!ではな、私はあと2回呼べるぞ!またな!」
( ^ω^)「助かったおー・・・あ、フィギアにもどったお」

フィギアにもどったリヴァイアたんをしまい、内藤は大蛇に乗り移った。
これで第一関門であるドーバー海峡はクリアできたことになる。
ほかのスタート地点でも同じようなことが起きているなら、ツンやドクオは無事なのだろうか。
内藤は少しだけ心配になったが、それよりも今またがっている大蛇が怖くてそれどころではなかった。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/16(日) 23:23:12.33 ID:G/v0RorB0

( ^ω^)「えーと・・・ドーバー海峡を越えたんだから、ここはフランスかお?」
( ´_ゝ`)「そうじゃねーの。で、どうやってチベットまで行くかなんだが」

大蛇は暴れだすこともなく、無事に内藤たちを送り届けた。
帰っていく大蛇を見送りもせずに内藤たちは地図を広げる。
飛行機か何かで一気に進めれば良いのだが、そううまくは進まないだろう。

( ´_ゝ`)「・・・内陸を行くか、地道に」
( ^ω^)「地図によるとロシア中部までレースがあるみたいだお。これに出れば資金の補充もできて良さそうだお」

フランス発、ロシア着の長距離レース。
ちきちきVIP猛レース。
参加費無料で、参加者全員には支度金20万が支給される。
話がうますぎる気もするが、飛行機を使うよりは危険も少ないだろう。
参加者もそれなりにいるはずだから、もしかしたら無傷で完走できるかもしれない。
内藤と兄者はさっそく手続きを済ませ、レースに使用するマシンを購入すべくフランスの道具屋に急いだ。


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/16(日) 23:24:43.65 ID:G/v0RorB0

道具屋は大勢のプレイヤーで賑わっていた。
皆一様にカタログを広げ、好みのマシンを探している。

( ´_ゝ`)「一人乗りばっかりだな・・・俺はこれにしよう」
( ^ω^)「んじゃ僕はこれだお」

レースの出発地点だけあり、カタログの8割はレース用マシンで占められている。
その中から兄者はブロッケンGを、内藤はサイクロンマグナムを選んだ。
購入完了の前に、操作方法の選択画面が現れる。

( ´_ゝ`)「・・・普通にハンドルで」
( ^ω^)「オリジナルってなんだお?・・・うーん僕はオリジナルで購入、と」

購入は完了し、レースのスタート地点に実体化完了したとアナウンスが入る。
スタート地点である凱旋門まで移動すると、たしかに購入したマシンが実体化していた。
大勢の観衆と参加者の完成が凱旋門を包んでいる。
参加者の中にもしかしたらツン達がいるかも知れないが、人が多すぎて探すに探せない。
内藤と兄者はそれぞれのマシンに乗り込みスタートに備える。

( ´_ゝ`)「一人乗りってことは、もうライバルだな。いっとくが負けんぞ」
( ^ω^)「ふ・・・僕はレースゲームうまいお?」


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/16(日) 23:28:23.68 ID:G/v0RorB0

兄者は最後に親指をたて、窓を閉める。
内藤も窓を閉めシートベルトをつけると、カウントダウンが始まった。
同時に、凱旋門が割れ巨大なリボルバーが出現する。
スタートを告げる祝砲だろうか。さすがに仮想現実の世界だと規模が違う。
派手な祝砲に否応にも気合がはいり、内藤はハンドルを掴もうとした。

( ^ω^)「・・・って、ちょwwwハンドルがないおwwwどうやって動かすんだおこれwww」

ハンドルどころか、内藤のマシンには計器以外に何もついていない。
サイドレバーやブレーキ、アクセルも当然なく、代わりにマイクがすえつけられていた。

( ^ω^)「マイクでどうしろってんだお!バカにしてるのかお!?」

内藤があたふたしている間にもカウントは進み、ついに祝砲が火を噴いた。
轟音と地響きの中、参加者のマシンが一斉に走り出す。
隣に配置されていた兄者は一瞬内藤を見て、猛スピードで走り出した。

( ^ω^)「くぅぅ、ハンドルにしときゃよかったお!動けお、マグナム!」

内藤が叫んだとたん、マシンはけたたましい音を立てながら急発進する。
参加者の一群に少し遅れ、ようやく内藤のサイクロンマグナムが走り出した。

( ^ω^)「・・・オリジナルってそういうことかお。声で動くのかお・・・」


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/16(日) 23:31:33.04 ID:G/v0RorB0

( ^ω^)「なんかこう、運転してる気にならないお・・・あ、曲がれおマグナム」

内藤は頭を掻きながら退屈そうに前方を見ていた。
声にだすだけで動いてくれるのは素晴らしいことだが、少しばかり盛り上がりにかける。
スピードの調整もいまいち出来ないので、いったい何キロでているのかすらわからない。
だが、それがかえってプラスに働いたようだ。
スタートしてそれほど時間はたっていないが、じょじょにコースアウトやクラッシュしたマシンが増えていく。
ハンドル操作に慣れていないプレイヤーだろう。

( ^ω^)「あんな団体の中で走れば事故っても仕方ないお。結果オーライだったかお?」

スタートしてすぐは好き放題走れたが、ある程度進むとコースは一本道になり、急カーブや砂地が増えていた。
普通に運転しているプレイヤーは慎重派と過激派にわかれたようだ。
出遅れた内藤だったが、ようやく最後尾の一団に追いついた。
その一団が邪魔をして、中々前に進めない。

( ^ω^)「むむ、邪魔するかお。こういう時はあれだお・・・いっけぇーマグナム!!」

原理を無視したような急加速。
最後尾の団体が進路を妨害するわずかな隙間を縫い、内藤は颯爽と走りぬけた。

 

 

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