1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/15(土) 17:18:44.18 ID:G47OqY/Y0

 
 

人生は遊びかも知れない。

だけど人生はゲームじゃない。
 
 
 
 


3 :第一話 :2006/04/15(土) 17:19:09.19 ID:G47OqY/Y0

日常とは日がな一日刻々と変化していっているものであり
平穏とは脆く絶えがたいものであり、何気なさの中にそこ、真価がある。

そういう事を、突きつけられた非日常の上で理解するには、僕らはまだ幼すぎた。
そして同時に、"突きつけられた非日常"そのものが突然すぎたのだと思う。



1/13  23:00  ブーン宅



瞼の重さと肩にかかった疲労感を軽減する為にも、と、椅子の背もたれに体重を掛けたまま、両手を突き上げて背伸びする。
腰から上げた手にかけて、疲れが天へと抜けていくイメージ。
あまり意味の無い行為だとは思うけど、それでもなんとなくしてしまうから人間不思議なもんだなと思って苦笑い。

( ^ω^)「今日もエロ画像見まくって満足だおwwwwウィニーはやっぱ便利だおwww」

パソコンの中に入ったままのCDロムを見ながら、ほくそえんだ。
明日ドクオあたりに自慢してやるおwww
口元に浮かべた笑みをさらに深めながら、また明日への楽しみを膨らませる。
ドクオから向けられる、自分(CDロム)への羨望の眼差しを想像すると、また笑みが零れているのが解った。


7 :第一話 :2006/04/15(土) 17:20:02.09 ID:G47OqY/Y0
 

( ^ω^)「さてと…そろそろ寝ないと明日遅刻するお…ツンがうるさいおー……」

人の門前で鈍間だとかアンタは亀だとか人を罵倒する幼馴染兼ご主人さ……いや友人の姿が容易に思い浮かんだ。
ツンを待たせたら、何を言われるか解ったもんじゃない。

最悪の場合――……

其処まで考えてから、猛烈な眠気に襲われる。

これ以上起きていれば本気で遅刻すると脳より先に体が判断を下したのだろう。
よろよろとベットに近づいて、そのままボクサーがリングにひれ伏す感じに沈む。
ボフッ。と音がして、ずぶすぶと自分の体が埋まるのを感じた。船を漕ぎ出そうとすれば、それはとても容易なことだろう。

それでも何となく――ベットの上に置いてあったテレビのリモコンが気になって。


( ^ω^)「何か嫌な予感がするお――……」


リモコンを付ければ、それは解消されるのかどうかはブーンには判断できなかった。
それでも、押してくる好奇心に負けて、
ブーンは何気なく、日常の中でそうするみたいに


リモコンの、電源スイッチを押した。


それがさようならの合図だとも知らずに。


9 :第一話 :2006/04/15(土) 17:20:40.63 ID:G47OqY/Y0

プチン。と音がした。
それがテレビの電源が付いた音だ、と理解するまでそう時間は掛からなかったけれど、
後から――、全て終った後から考えれば、それはブーンが日常の中で聞いた、最後の音だったのだろう。
もっとも、今のブーンには、重要なことではなかったのだろうけど。
とにかく、テレビからは映像よりも先に、音声がスピーカーから流れてきていた。
それをベットの中で薄ぼんやりと、ブーンは聞く。枕に顔を埋めながら、一欠けらの意識で。

「Today is……」

あ、これ英語だ。
目を瞑りながら思った。2ちゃんで英会話教室なんかやってたかお?
そこでふと、違う。と、脳味噌の深い部分が否定した。今のチャンネルは、2ちゃんではないはずだ。と言うか――ありえない。と。
そもそもテレビのチャンネルと言うものは、消した直前に見ていたちゃんねるのまま、写るはず。
確か、自分はつい2時間程前、テレ西でじゃぱねっと田代を見ていたはず。あの売り文句の口調が耳についてはなれないと愚痴も零した。

―――――じゃあ、この番組は何なんだお……?

枕から顔を起して、目を開けて、ブーンはテレビを見た。"そこに写っているもの"を、見た。

白いテロップが画面の下に延々と流れているのが見えた。
青白い顔で翻訳の女性が言葉を選んでいるのが見えた。
アメリカ人の男性が鬼のような形相で雄弁を振るっているのが見えた。

「本日、NASA本部は…大彗星の衝突が―地球であると発表を全世界に向け――またその件に関して国連常任理事国は――…
またすい星の衝突時刻は……今から凡そ20時間後と予測され…」
翻訳の女性の、震えた声が聞こえた。
審判のラッパか、もしくは悪魔の笑い声か。そんなものが聞こえた。

ガラガラと音を立てて日常が、 平穏が、何気ない、繰り返しの日々が 
崩れ落ちる音 を      聞いた。


12 :第一話 :2006/04/15(土) 17:21:16.48 ID:G47OqY/Y0

( ^ω^)「――――…………」
呆然と、テレビを見つめたまま動けなく無くなった。
三文映画だ、三文芝居だ。酷い出来だお。脚本家は誰だお――――変な、夢だ、お。
――――――――――夢?

( ^ω^)「そ、そそそ……そうだお! これ夢だお!! じゃなかったら下手な芝居だお! 
こんな世にも珍妙な物語のシナリオにも起用されないような内容――…テレ西ドラマも地に落ちたおー…」

自分自身を納得させているようにも取れる独り言を呟いた後、リモコンでテレビの電源スイッチを押した。
暴走しそうになる心を、屁理屈のような、駄々のような論理で無理矢理押さえつけた。
そうでもしないと、今この場で発狂でもしそうだ。――してしまえば楽になるか?
自分の中の誰かが扉を大きく叩く。

それでも其れに気付いてはいけない。


( ^ω^)「もう寝るお!! ツンが煩いお――……ツンは恐いお」


覚醒しそうになる意識を無理矢理羽交い絞めにして、目を堅く瞑る。
夢と現実の渡し人の尻を叩いて意識を沈み込ませる。また朝起きれば、どうでもいいような朝が戻ってくるお。


これは―――――悪い夢か、冗談にもならないようなドラマだお――――
テレビ欄の確認は、出来ないけど―――――
                       第1話【午後11時】終 →第2話へ


14 :第2話 :2006/04/15(土) 17:21:52.01 ID:G47OqY/Y0

1/14 7:30 ブーン宅

どんなに幸福でいようが どんなに絶望していようが、朝と言う物は平等に訪れる。つまりは、不変の原理。
ブーンにとっても。多分、世界中の人たちにとっても、それは一寸の狂いもなく、訪れる。

勿論、今日も。

もぞもぞと、ブーンの部屋の布団が動いた。目覚める瞬間とは、なんとも微妙な一瞬であるなと思う。
無意識と、意識の、間。半覚醒の淵。

布団の中で丸まりながら、ブーンは重い瞼を擦った。
睫毛についた目やにを採取しながら、イマが何時であるかを確認。7時30分。イイ目覚め。

( ^ω^)「――ふぇ…お、ぉお…良く寝たお。……何か変な夢見たお」

うわ言のように呟きながら、噛み殺す事も無く、大きな欠伸を欠いた。
っせーの…… と掛け声をかけて、脚を頭の方へ上げて 腰を浮かせて、掛け声一発。

( ^ω^)「とぉぉぉぉおおう! ブォォォォオオン!」

そのまま一気に起き上がる。

( ^ω^)「……ふっ…今日もいい調子だおwww満点だおwwww」


着地の際にちょっとよろける。「……勃ち上がり世界選手権の道は遠いお…」

16 :第2話 :2006/04/15(土) 17:22:14.69 ID:G47OqY/Y0

春先のひんやりとした気温が、露の湿気のように徘徊する廊下に出て、下に降りた。
自分の存在を誇示するように、わざと大きい音で駆け下りた。意味は無い。意味は無いけど、一刻も早く

笑ってくれる母の姿を、新聞紙を捲る父の姿を、確認したくて。


( ^ω^)「…母ちゃん! 起きたお!! 朝飯だおー!」
腹から声を出す。いいから返事してくれお…!!! 心は焦っていた。どうしようもなく。
( ^ω^)「…かあちゃ……………お……?」
誰も、いない。
何なんだお何なんだお何なんだお何なんだお何なんだお…ッッ!!
「だ、誰も…いないのかお…… とりあえず、コーシーでも飲むお……」
落ち着け、落ち着けばいい。大丈夫だお。まだ寝てるか、偶然、外出してるんだお。
独り言のように、呟きながら、ブーンは台所を見回した。何か落ち着けるものが欲しい。

――しょうがないから親父が大切に保管してた直挽き飲むおwwww
この内容でスレでも立てられるかな。なんて頭の隅っこで考えながら、
珈琲カップを食器棚から出して、其れの中に粉末のインスタントコーヒーの元を入れて、保温瓶から湯を出した。
湯気が立ち上り、瞬く間にコーシーの香りが台所に広がる。

( ^ω^)「……ちょっと…ぬるいお… 母ちゃん…親父…何してるんだお…早く帰ってくるお……」
いつも、舌火傷するほど熱い湯が入っているはずなのに。まあ、今日に限ったことだろう、と、仮定を切り捨てた。

( ^ω^)「…にしても直挽きコーシーうめぇwwwwwww」
食欲ツヨスwwwww
そうやってほくそえみながら、緩んできた緊張感にほっとしながら、コーシーの魔力に感謝しながら、
嫌な感覚に最後のトドメを、と、テレビの電源をつけた。

――――――――それが、本当の意味での、日常に終止符打つ事になる、なんてことも知らずに。


17 :第2話 :2006/04/15(土) 17:22:52.71 ID:G47OqY/Y0
 

何の支障もなく、テレビはついた。親父の趣向で、リビングのチャンネルはいつだって2ちゃんねるだ。
( ^ω^)「……」

   リズムが、崩れた。"世界終ったな" ブーンの中の誰かが、言った。

「――皇太子一族も今朝、地球を発った模様です。
また国内の各空港には、短い余生を国外過ごそうとする人たちがごったがえしている様子で、混乱に陥っております。
また警察庁ではくれぐれも単身で屋外に出ないようにと市民の皆様への呼びかけを強化しており、――」

のりの貼った背広、キリっ、としめたネクタイ。
理性を醸し出す黒ぶち眼鏡と、実績と経験をつんだが故に刻まれた額の皺。
全部、日常にありふれたものたち のハ
                  ズ

 のに―――――――――――――――
「えー、また無差別投票によって選ばれた10〜30歳までの5万2千人、有能な人材はすでに地球を発った模様です」
口から発せられる言葉が、紡がれる、言霊が。全て、全て。日常から平穏から繰り返しの日々からか け離れてい た   。

「火星での最低限の生活機能をもった今、人類はどこまで生き延びれるのでしょうか」
( ^ω^)「な……何でだお……!!!こう言うことって――解ったら即報告があるはずだお!!! なんで今になって!!!!!!!!!」
ブーンの中にあった全ての憤慨や怒りや不満が爆発した。
握りこぶしを机に叩きつけた。鈍い音がして、カップの中のコーヒーが揺れた。

そうだ。何、抜かしてるんだ。この男は…――――!!

一つ、ブラウン管の表面でニュースキャスターは息をついた。それらから、ブーンの浮かべた疑問と希望への、
いや、日本中、世界中の人が思った、言葉への回答を。絶望への引導を、無表情のまま、述べた。


18 :第2話 :2006/04/15(土) 17:23:27.45 ID:G47OqY/Y0

「これは、世界の、――国連の選択です。一国のメディアが、どうしようも無い事で。
確かに、すい星の衝突が判明したのは1週間前のことで御座いました。
しかし余計なパニックを招かない為、とアメリカを中心とした常任理事国、並びに非常任理事国が――
 全世界一斉報告だと決まったのは、日本時間の23時――――」

( ^ω^)「ふ……っ……ふざけるなぁぁぁッッ!!!!」

ブーンの、絶望からの叫び声が、静かな世界に。孤独に響いた。何も知らないほうが良かった。 もしくは、衝突が決定した時に、知らせて欲しかった!!
たった8時間ぽっちのタイムリミットで――僕に。世界中の人間に、何をしろと言うんだ――

「……報告は以上です…わたしの仕事も終わりです」

ニュースキャスターの顔に、この時初めて笑顔が浮かんだ。腹を決めた、清々しい男の顔。
立ち上がったニュースキャスターの全身を見た時、ブーンはこれ以上ないほどの吐気と頭痛に襲われるのを感じた。胸から下。調度腹のあたりが血に染まっていた。
多分――ニュースキャスターの物ではない血と、黄色い胃液の目立つ吐射物。胸に当てた手は、血に濡れていた。赤黒い、肌。
「日本のテレビ史上、最後の放送を担わせて頂いたことを、幸福に思います」
誰が、「担わせて頂いた」だ――アンタ、自分でもぎ取ったんじゃないのかお――。
「みなさま――、お先に、失礼させて頂きます」
アカペラの、なんともお粗末な君が代が、流れた。
唄い終わってから――キャスターは今時刑事ドラマでも見ないような拳銃を取り出して、口に含んだ。そのまま、引き金に手をかけて――

( ^ω^)「…………ッ!!」

スピーカーから銃声が漏れる前に、ブーンはテレビの電源を。
と言うより、コンセントをぶち抜いた。ブツン、と音を立てて画面がすぐさま暗転。ブーンの中の何かも、同時に切れたようで。


19 :第2話 :2006/04/15(土) 17:23:54.46 ID:G47OqY/Y0

( ^ω^)「う……う――うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉッッッッツ!!!!!」
そう叫びながら、テーブルの上に置いてあった物を全てなぎ倒す。
新聞紙も、タオルも。一輪挿しも、中身の入ったコーヒーカップも。全部。しばらく リビングには意味の無い破戒音が続いた。
肩で息をしていたブーンが、床に落とした新聞紙の上に何かあるのに気付いた。
先刻よりは、幾分か落ち着いてきた気分で、ブーンはそれ。茶封筒を手にとって、中身を見た。
( ^ω^)「……これは…なんだ、……お?」
かさり、と紙の触れ合う音が聞こえた。何か解ってるものよりも先に、
ブーンはまず白い手紙の方を見た。そこに何が書かれているか、知りたくて。

―ブーンへ、状況は理解できたか? このお金は我が家の財産の一部だ。最後の日くらい、自分の好きなように生きろ。――

達筆なその字は、父のものだ。一目でわかった。たったの2行だけだけど、父の威厳や、思いやりがひしひしと伝わってくる。
かさり。父の手紙に重なっていたもう一枚にも目を通し、やがて声に出して読み始めた。
( ^ω^)「……ブーンへ、状況は理解できたようですね。残念ながら、これはもうどうしようもない事のようです。
お前の成人姿が見れなくて母さんは少しだけ寂しいです。
父さんの言う通り、私達のことは気にしなくていいから、好きに生きてください。伝えたいことは…沢山あるけれど……――」
ブーンが息をのんでから、言いよどんだ。くしゃ、と強く手紙を握り締める。
……――なんで、どうして。      母ちゃん。

―最後に、一つだけ言っておきたい事があります。私は、貴方を生んでよかったと思っています。こんなことになるならいっそ……、とは思っていません。
貴方が笑ってくれた事。貴方が泣いてくれた事。貴方が母さんと、呼んでくれたこと。全部、幸せな思い出です。
ごめんね。母さん、身勝手だよね。でも――ありがとう、ブーン。私の息子でいてくれて、ありがとう。――
―母、父より― と言う部分が涙で滲む。封筒の中身はそう書かれた手紙と、2つの札束。200ペソの現金だった――

( ^ω^)「……う……あぁ……あぁああ……。」

押し殺した声は、やがて押し殺せず表に出ていた。涙は枯れることを知らず、ただ流れつづける。
膝をついて、肘もついて。ブーンははばかる事無く、大声で泣いた。一生分、泣いた。
そうしてブーンの涙も枯れた頃、インターホンが、無機質な家に響いた。
                 →第2話【午前7時30分】終 →第3話へ

 

 

20 :第三話 :2006/04/15(土) 17:24:35.38 ID:G47OqY/Y0

1/13 23.30  ドクオ宅

テレビ放送を見た後、ドクオは無言で立ち上がってテレビの電源を落とした。
PCでVIPの様子でも覗こうかと思ったが、報告と同時(もしくは、それの前後)にサーバー事態が死んだらしい。
飛んだ。ではなく、死んだ。もう生き返ることは無いだろう、と踏んだ。
お気に入りに入れてあるページの大半に表示された404ページを思い出し、少しだけ苦笑いを漏らした。

そんな最中も、ドクオは驚くほど静かな心でいられた。
もっとも、ドクオの持つその感情は冷静、というよりは、虚無に近いものだっただろうが。
生への執着も、死への渇望も。何も無い。
ドクオの中で無が生まれ、其れまでその中で渦巻いて、堂堂巡りだった一妻の感性や感情を消した。
――――いや、もともと、自分は何も持っていなかったのかも知れないけれど。

ベットに座って、揺れるカーテンをぼんやりと見ていた。
空は相変わらず黒く、雲は相変わらず白く。世界はその形を、変えていないようにも思えた。
――それをただの幻想だと打ち棄てるには。ドクオは弱すぎるし、強くも無い。


――もし明日、世界が滅びるとしたら、君は何をする? 何をしたい?――


その問いかけが、ただの妄想や理想で無くなった瞬間。人は言い表しきれない、闇と無に包まれるのか。

('A`)「笑えない、ジョーク」

ただ一言そう呟いて、ドクオは横になった。口に含んでいた常備薬でもある睡眠薬を嚥下する。通常の3倍程多めに。
そのまま腕を目隠しのようにして、硬く目を瞑った。
このまま逝けるなら、しめたものだし、無理なら無理でベットの上で死にたい とだけ思って、意識を手放した。


22 :第三話 :2006/04/15(土) 17:24:52.07 ID:G47OqY/Y0

1/14 8:00 ドクオ宅

ドクオを引き起こしたのは、控えめなノックの音だった。
規則的に叩かれるそれは、確実にドクオの部屋の入り口から発せられていたものだ。

寝返りを数回打ってから、ドクオは1度大きな欠伸をした。
時計よりもまず窓を見て今が朝であると言うことを確認して、失笑を漏らす。まだ図太く自分は生きているのか。と。

('A`)「誰」

ぶっきらぼうに、つっけんどんに。たった一言の、単語。母ちゃん? 確認作業に移った。
そして言いながら、だるい体に鞭打って起き上がり、ドアに近づこうと腰を上げた。
部屋の中の雰囲気が動くのが解ったのか、ドアの前の人物が軽く息を呑んでそれを制止した。

「――――っ、待ってくれ。ドアは、あけなくていい。すぐ、済むから」

ドア向こうから聞こえてきた凛、とした声の主を探し当てるくで、ドクオの中で何秒かの巡廻があった。
勿論、それには理由がある。
最有力候補としてあがっている人物が、今、この場に居る可能性は、足り得ないからだ。

今この場にその人がいる訳がない。
しかし声そのものは自分がよく見知るもの。

よけい、混乱する。
('A`)「――っぁあ……」
多分、今扉一枚挟んだ所にいる人の名。喉に詰った、一匙の"そうであって欲しい"の思い。
('A`)「――クー、姉さん?」

呼ぶ。


23 :第三話 :2006/04/15(土) 17:25:27.33 ID:G47OqY/Y0

扉の向こうから、やはり凛とした、あの声で返答が来た。その瞬間、ドクオの顔に光が宿り、背筋が伸びる。
('A`)「やっぱり! クー姉さんだ! どうしたの? いつコッチに戻ってきたの!?」
ドクオはそう言うとドアに向かって歩き出した。ギシリ、フローリングの床が軋む。
クー姉、 久々に口にした、懐かしい響き。キシリ、ドクオの心のどこかが軋む。

川゚−゚)「こっちに来るな!!」

強い拒絶。え。と、ドクオの脚と思考が、止まった。
鳥が羽ばたく音がして、ギシリギシリ。ドクオの心自体が軋む。

('A`)「――え? ど、どう言うことだよ、クー姉!?」
折角会えたのに! ドクオの感情の揺れ幅が大きくなる。"折角"と言う言葉には、色々なニュアンスが含まれているのだろう。
それもそう。ドクオとクーは もう10年にもなるか――それほどの月日の間を開けて、今日。世界が終る今日に、久々に会ったのだから。
原因は両親の離婚にあるのだが――そう言う深いところの話は、また後の事としよう。
扉向こうのクーが、大きく息を吸った。そうして、発する一言一言に、言霊を含めるみたいに、あの声で――言う。

川゚−゚)「最後、だから。最後の、挨拶に来たんだ。もう、帰ってはこないだろう。顔は、見せないでいいから」

"別れがつらくなる"から"決心が鈍る"から。
言わずとも、ドクオには、クーがそう言いたいのだろうなということは容易に汲み取れた。やはり、兄弟なのだなと思う。
深いところで、繋がっているのだなと。

('A`)「――だったら、余計、じゃないか。クー姉ちゃん。一緒に逝こうよ。
俺、もう腹に決めてるからクー姉ちゃん一人に背負わせるわけにはいか「そうじぁ――なくてッッ!」
ドクオの言葉を割って、クーがはっきりと、大きく声を張り上げて否定した。
え。と、再びドクオが戸惑う。


24 :第三話 :2006/04/15(土) 17:26:06.70 ID:G47OqY/Y0

川゚−゚)「私は一人で大丈夫だから」

それは。クーなりのオブラートに包んだ。ドクオにとっては、強かな"拒絶と否定"だった。
ドクオなりに要約すれば"お前はいらない"という事。クーも、それを解っている、ハズなのに。

自分がどれだけ死にたがっているのか、ということ。
自分がどれだけ生きていたくないか、ということ。兄弟、だから。解ってくれると思ってた。のに


川゚−゚)「ドクオ。お前には、姉らしい所なんて見せたことなかったな。すまなかった」

つらつらと、クーが述べる言葉は、全て過去形で。

孤独感と、突き離された、裏切りによる憤りの中で、ドクオはイマまでの自分の人生を振り返っていた。
苛められ、ボロボロにされ。グチャグチャになり。唯一見つけた、縋る相手にさえ、土壇場で、裏切られた、ドクオの人生。
ただ寂寞感ばかりが自分の周りを徘徊し、やがてそれさえも自分の周りから去っていった感じだな。
詩人のような考えを貼り巡られたドクオの瞳に、一筋の水が伝った。
其れを涙だと言うには、お粗末だった。その水にはドクオの感情が篭もっていない。
ただ数滴、嗚咽も漏らさず声にも出さず、ドクオは頬を伝う水を、自分の物ではない、他人のものだと言うように、静かに、受け止めた。

それらを一通り流し終った後、ドクオは自分の中で、何かが壊れる音を聞いた。

――ドクオの流した水は 涙ではなく。 ドクオの中に僅かに残っていた希望の水だったのかも知れない。今はもう、そう関係無いことだが。
辞世の句を述べるクーの方向へ、ドクオは黙って歩を進めた。逃げるなら逃げればいい。逃げなければ、このまま辱めでも受けさせて首でもしめればいい。
そんな  最悪な――、   思考回路。
引き戸である部屋のドアを勢いよく開け、廊下に正座する姉、クーの姿を認識した時。ドクオはクラクラと。   強い眩暈を覚えた。


25 :第三話 :2006/04/15(土) 17:26:41.85 ID:G47OqY/Y0

('A`)「クー姉さん…………?」
川゚−゚)「だから――来るなと。言ったのに」

くらくら くらり。

何だコレは。誰だコレは。――これが。この人がクー姉ちゃん……?
クーを見下ろす形で、ドクオは首を小さく傾げた。ただ純粋に、彼女の姿が――重ならない。あの、凛々しいある人の姿に。

川゚−゚)「君にこんな姿は、見せたくなかったんだよ」

落ち込んだように、ニヒルな笑いをしてみせたクーに対して、ドクオは何の反応も示せず、首の位置を戻す事すら出来なかった。
イレギュラーだ。完全完璧に、完全無欠なまでに、疑問が解けない。絶対零度の氷のように思えた。絶対に、何があっても溶ける事が無い。
「ドクオ君。そう言う、ことだ。さて――私はそろそろ逝くよ。ありがとう、さようなら。君は生きろ、私は死――」
立ち上がったクーが紡ごうとした「ぬ」の言葉を、ドクオの唇が摘んだ。クーが目を張る。クーの髪の毛にドクオの手が絡まる。
散髪屋に行ったとは、お世辞にも言えない。鋭利な刃物か何かで切られた、短くなった髪の毛へ。

川;゚−゚)「ちょっ……! ドクオく――」

服を破る必要は無かった。彼女をぐちゃぐちゃにする必要も無かった。
彼女は。クーはもう――自分がそうしようとしていた其れになっていたから。それでもクーは、ドクオに
会いに来た。どんなにされでも。気も強くもって、自分に会いに来た。
自分の矜持を粉々にされても。その肌に、汚らしい男の手が触れても。
そんなことを思えば――ドクオはこの時初めて、泣きそうになった。
叫ぶ事無く、 ドクオは一度、静かな涙を流した。自分のためではなく、クーの為に。只一度の、初恋の人のために。

愛してるとは言え無い。  ただ相手の柔かい唇の感触だけが、ドクオにとっての世界の全てになった。


26 :第三話 :2006/04/15(土) 17:27:02.90 ID:G47OqY/Y0

刹那のキスが終わり。どうしようもない静寂が二人を包み。
やがてそれはドクオの心へ落ちていった。

川゚ー゚)「お別れのキスか? 何だか、ロマンティックだな」
クーがくすくすと笑う。

焦燥と動悸。強い眩暈。

('A`)「ク、クー姉、クー姉さん。お、おれ、俺は――――」

じわりじわり。目頭が熱い。

半身を失う? クーがいなくなる? これまであるのが当たり前だった物がこんな意図も容易く?
明日を失っても良かった。自分がどうなろうが知ったことではない。

彼女さえ居てくれれば。
 彼女のいる世界があればそれで良かった。
それが一瞬で。この一瞬で、目の前で。崩壊する。ふざけるな――そんな、そんなそんなそんなそんなそんな――

――そんなこと、認められるか――

川゚−゚)「泣かないでくれ、ドクオ。死に心地悪いからな」
どうゆう言葉だよ。それ。
川゚−゚)「泣かないでくれ、ドクオ。私より一日でも、一秒でも永くでいいから笑っててくれよ」
それでも今から死ぬのか。私。コロコロとクーが笑う。
('A`)「何で――なんでそんなに。クー姉さんは――ッ」

笑ってられるの?

言おうとした言葉が、クーの人差し指に詰まれた。そうして彼女は穏やかに笑った後に。こう言う。


28 :第三話 :2006/04/15(土) 17:28:08.45 ID:G47OqY/Y0


川゚ー゚)「             ?」


聞こえなかったよ、何。と。言いながら、ドクオは目を張り、クーの口元へ耳を持っていった。
そうする間際、ドクオの唇に掛けられていた手がはらりと落ちる。

('A`)「――――――――……」

舌に雑草が絡まっていく。言葉が枯れる。
そうして全てを、奪い去られていく。自分が何か率先し様とする瞬間に、蹂躪するように、掻っ攫われていく。
あっけない、幕引きだった。道化だ。まったくもって味気なさ過ぎる。
そこにはなんのカタルシスもロジックもない。ただクーと言う一人の人間の灯火が消えた。それだけだ。

なのになんで。

('A`)「…う――う、ぅぅう……うぁぁあああぁぁぁああぁぁぁぁぁああッッッ!!!!」

心が、欠落するのか。

クーが言った言葉をドクオが聞くことは遂に無かったと言う。

                        第三話『カゲロウの日』終→第四話に続く

 

30 :第四話 :2006/04/15(土) 17:30:10.76 ID:G47OqY/Y0

1/14 8:30 ショボン宅

(´・ω・`)「彗星は地球と僕たちにひどいことしたよね」

砂嵐ばかりのテレビを見つけながら、虚勢を重ねて、ショボンが呟いた。
どうせ家族からの反応がないのは、重々解っている。

この家にはもう、誰もいない。

ショボンの家は、三人家族だった。父と、母と、自分。
多分、ショボンの家は何処にでもある平凡な家庭だっただろう。典型的で平均点な、そんな家族だっただろう。
結局は、世界の終わりと共に、それも崩壊したわけだが。
いや、まあ、世界の終わりよりも前に、ショボンの家は終っていたのかも知れないけれど、とにかく。

自分が発した言葉が空中に消えていくのを確かに感じ、どうしようもない寂莫に襲われる。
無言のまま、ショボンは手にもったリモコンでテレビチャンネルを順繰りに回した。

やはりどれも砂嵐だった。

国民テレビとして名高いNHKさえ、その有様だ。

(´・ω・`)「受信料払ってなかったのが、仇だったかな――はははは………はぁ」
そう自嘲気味に笑うと、途端に怒りのような、色々な感情が、胸の中から噴出してくるような感覚を覚えた。
蓋をしていたものが、一気に溢れ出してくる。これは何だろう。なんの感情なのだろう。
怒り? 悲しみ? 喜び? いや――――多分、これは。

(´・ω・`)「憤り、か………」

純粋な、ただただ、純度の高い、感情。支配される。自分のタイムリミットが。


31 :第四話 :2006/04/15(土) 17:30:59.95 ID:G47OqY/Y0

ふざけるな。

(´・ω・`)「諦めないのは、確かに格好悪い。でもね――」

独言、と言うより、むしろ宣言するように、ショボンがまた虚無に呟いた。
チチチ。鳥の鳴き声がする。  何も変っちゃいない。まあ、これから変るんだろうけど。
(´・ω・`)「それが生きる事へのものだったら。僕は諦める事を放棄してやる」
そう言い切った途端、ふつふつと、沸騰するようにショボンの腹の底から、何か湯のような物が胸にせりあがって来た。
例えるなら、静かな激流。
それが少し胸に点在して、残りが喉仏まで来てから、吐き出そうかどうかをショボンは一瞬迷った。

どうする。

そうして肝心な時に過ぎりやがる、両親の顔。
(´・ω・`)「…………」
ショボンは少しわざとらしく、逆に言えば彼らしく、口の端を吊り上げると、

(`・ω・´)「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉおお!!!!」

咆哮。
負け犬の遠吠えと誰かが言うなら、それでいいと思う。
犬だろうが何だろうが、その犬はまだ生きている。負けていても、生きているんだ。
聞こえてるか、皆 僕はまだ生きている。アンタだって、生きてるんだ。
生きろ、生きろ、生きろ、生きろ、生きろ

生きろよ。

そう思いながら、自身の息が切れるまで、ショボンは叫び続けた。
急な運動で肺は軋んで鈍痛を生むが、言うなればそれさえも、ショボンがまだ生きている証。遊びはまだ終っちゃいない。


40 :第4話 :2006/04/15(土) 17:59:23.86 ID:G47OqY/Y0

同時刻、ブーン宅

( ´ω`)「…………」

何もせず、グチャグチャになったリビングの中央で、ブーンは呆けていた。
このまま世界の終りを待つのもいいかもしれない。
それを怠慢だと嘲うなら、笑えばいい。自分の魂はさっきの暴動で抜けて行ったんだと思う。

何分、たっただろうか。冷蔵庫の再冷却スイッチが何回か入ったから、もう十分かそこらは、確実に経過しているだろう。
脳の浅い部分は、辛うじて生きている。けどそれも、今となればただの垂れ流しで。

幸いな事に、いや、それがブーンにとって幸いなのかは、置いておいて、
チャイムの無機質な機械音で、ブーンの意識は完全に引き戻された。


( ^ω^)「……だれだお?」

顔を上げて、無意識に苛ついた声を出した。誰だよ。『こんな時』に。
大仰にブーンは立ち上がると、玄関の方へ歩いていく。インターホンで出ないあたり、ブーンらしいと言うか。何と言うか。
一応、金属バット片手なのだが、とにかく。

ドアを開けるとそこには俯いたツンの姿があった。

予想もしない来客に、ブーンの思考回路は一瞬止まった。ちぐはぐだと、思ったのだ。
ツンは意外にも、私服ではなく、制服だった。紺の学生標準服。自分が着るブレザーと同じ色合いの、それ。


41 :第4話 :2006/04/15(土) 18:00:02.04 ID:G47OqY/Y0

その所為だろうか。

ツンが、どこか、ブレて見えたのだ。自分が切望していた、『日常』が、そこにあったからだろうか。


ξ゚听)ξ「……遅いわよ。バーカ」

第一声、ツンはそう言ったのだ。あ、あぁぁぁ…… ブーンの心が、芯から奮えた。
多分、『これ』はツンなりの、不器用な、心配りなのだろう。
彼女は必死で『いつものブーン』に呼びかけてくれているのだ「早く用意しなさいよ。学校遅れるでしょ?」 と。


( ^ω^)「……ごめん……」


ブーンが、弱弱しく呟いた。拳を握り締める。指先が白くうっ血し始めていた。
ブーンの謝罪は、勿論「遅くなってごめん」と言う意図の謝罪ではない。「もう戻れない」と言う意味の、ごめん。なのだ。

ツンも、ブーンのその声のトーンで理解したのだろう。フン、と鼻をならして、腕を組んだ。


ξ゚听)ξ「バーカ」


そうやって、笑ったのだった。


43 :第4話 :2006/04/15(土) 18:11:16.19 ID:G47OqY/Y0

え……。と、ブーンが弾かれたように顔を上げた。
鳩が豆鉄砲食らったような、馬鹿っぽい顔でツンを見つめた。ツンは笑っている。
ブーンの目の前で笑っている。『非日常』の中で『日常』的に、気丈に、綺麗に。それでいて、彼女らしく勝気な笑みで。
( ^ω^)「え……」
ξ゚听)ξ「解ってるわよ。もう戻れない事ぐらい。推して察しなさいよ、馬鹿ブーン。これは冗談社交辞令ただの挨拶よ」
ツンがため息をついて、まだ情けない顔のブーンを思い切りドついた。ちなみにグーで、だ。
ガスン、とか、ドコォ、とか、そう言う在り来たりな擬態音ではなく、メシッ、と。耳の奥で音がした。

( ^ω^)「っ…………ってぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇえ!! 何すんだお! 酷いお!!
人が激しく落ち込んでる時にそんなことやるのかお!? ツンの血は何色だおォォおッッ!?」
頭抱えてもんどりかえる。痛みはリアルだ。実直だ。素直だ。目の前のコイツと全然違って。
大体、メリケンで人を殴るなんて正気の沙汰とは思えない。
ξ゚听)ξ「っ…あははは! あははは!! その調子その調子!」

お猿のカゴヤ状態である。

(* ^ω^)「な に が だ お !!」
立ち上がって、両手で頭蓋骨抱えながら、ツンに講義し様として、止まった。
( ^ω^)「……ツン…?」
ξ゚听)ξ「…何やってんのよ。早く、私に突っかかってきなさいよ…っ!」

彼女の目から、何滴か、涙が流れていた。

( ^ω^)「…………」

そこで初めて、ブーンはツンがくれた真の心配りと鈍感な自分を感じて、悲劇のヒーローぶっていた自分自身を激しく恥じた。
そうだ。辛いのは、自分だけじゃない。 悲劇のヒーローやヒロインは、自分だけじゃない。


48 :第4話 :2006/04/15(土) 18:25:57.39 ID:G47OqY/Y0


( ^ω^)「…ごめん」

ブーンが謝罪する。
どんな意図で、なのかは、きっとツンはもう、理解してくれたのだろう。
ツンが鼻を啜る音がしてから、フン、と、彼女のリアクション芸当である鼻ならしが聞こえてきた。

沈黙が蚊帳のようにおりてから、何秒かして、ツンが切り出した。

ξ゚听)ξ「…ちょっと一緒にきてもらえない?当然学校は休みでしょ、どうせ誰も来てないし」

見れば、ツンは恥かしげにそっぱを向いている。こう言うところはかわいい奴だとブーンは思う。
彼女のそんな一面を、もっと見たかったとも、思う。

( ^ω^)「デートかお?」

首をかしげながら、ブーンが言う。因みに勿論、往復合戦。先刻の復讐である。

ξ*゚听)ξ「ち…ちがうわよ!!ちょっとあんたしかあてが無かって」
( ^ω^)「ツン、ちょっと待っててくれお」
はいはい、となだめてから、ブーンはツンの抗議を止めた。
何よ! と振りかぶった彼女の右手を見て冷や汗をかきながら、ブーンはリビングへと戻っていった。

リビングの有様は、先刻言ったようなものだ。ぐちゃぐちゃで、乱雑で。ただ純粋な破壊で埋め尽くされていた。
それを背徳の念を込めて、見つめて、ブーンは中央のテーブルへと足を進めた。
封筒を手にもって、手紙を制服のズボンに捻じ込んで、早くとか鈍間亀とか悪態をつくツンの元へと駆け足で戻った。


49 :第4話 :2006/04/15(土) 18:26:31.18 ID:G47OqY/Y0


( ^ω^)「ツン。これで遊びにいくお」


そういうと、ブーンは200万ペソの入った封筒を差し出す。
ツンが両手でそれをとって、中身を見てから、目を見開いた。


ξ;゚听)ξ「ちょ…何よこのお金…」


ツンが明らかに戸惑っている。当たり前だろう。学生自分の身には200万ペソなんて大金過ぎる。
見るのも初めてだろう。はわわ…と、ツンがうわ言のように何語ともつかない言葉を漏らしていた。

( ^ω^)「ブーンの全財産だお…これで一緒に遊びにいくお」
ξ*゚听)ξ「ふ…ふん、どうせお金で遊べるものも無いのに馬鹿じゃないの?…でも……」

ツンが言いよどんだ。じわりじわり。ツンの目に涙が浮かぶ。

( ^ω^)「……お?」どうしたのかお? ブーンが覗き込もうとして、
ξ*;凵G)ξ「そ…その…私のためなんかに…ウ…ウワァアアアン」
ツンに抱きつかれた。しっかりと抱きとめながら。大丈夫だお。と何回も何回も繰り返し言葉をかけた。
ブーンが思ってたより、ツンの背中は、小さかった。

                  →第4話『リ・スタート』終 第五話へ続く。 

 

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