137 :第4.5話 :2006/04/16(日)
12:23:55.64 ID:k/5K1XZq0
- 世界は終わらなかった。
それ所か今も自分の目の前にある。でかい面して自分を絡めとって行っている。
笑っちゃうよな、泣きたくなるよな。「ふざけるな」って怒鳴ってやりたくなるよな。
「クー姉さん」
ドクオは一言クーを呼んだ。ドクオの腕の中でまぶたを落とし呼吸をせず、
しかし薄く微笑んでいる彼女の名を呼んだ。それしか言葉が出なかったと言う方が正しいのかもしれない。
叫びたいのに、泣き叫びたいのに 姉さんを亡くした辛さで押しつぶされそうなのに
クーの名を呼ぶしかドクオにはできなかったといったほうが正しいのかもしれない。
クー姉さんがいなくなれば、世界はそれと一緒に自分や世界は消えて無くなると思ってた。
それでも変わらずに世界はあった。まだ続き続けて継続していた。何も変わっちゃいなかった。
腕の中のぬくもりも、変わらない。
138 :第4.5話 :2006/04/16(日) 12:24:48.54 ID:k/5K1XZq0
- クーとドクオが離れ離れになったのは、親の離婚が大きな理由としてあった。ドクオが小2 クーが小6の時のことだ。
元々ドクオの両親仲は険悪で、何かにつけては口論と喧嘩を繰り返していた。
それは今日の親父の浮気からご飯の炊き加減まで、仕様もないことから複雑なことまで色々な範囲に及んで、
ヒステリックな母親の叫び声から大抵始まる。
最初の内はドクオが泣き喚き無理やりその喧嘩を終結させていたのだが、
その内ドクオもその行為は無駄だと判断したのだろう。最後あたりは母親のその声を聞くなり
適当な本や漫画を持ってクーの部屋に非難することを平然とやってのける様になっていた。
その点に関してはクーは正反対だ。
親の喧嘩に関与することを、半ば執拗に拒んだ。
争いは見たくない、と、渋い表情で言い続けた。
ドクオが本片手に自分の部屋に入ってくるのを見てはその整った顔を歪ませ、無言のままドクオに手を差し伸べる。
握ってくれ、という意味だ。
ドクオは易々とそれに応える。
同じように自分もクーに手を差し伸べて、その小さな手で包み込むようにクーの手を握る。
その時はまだ、そうする理由が何故だか分からなかった。
ただクーの手の、自分のそれより低い体温を感じながら、くだらない喧嘩が終わるのを二人して待った。
139 :第4.5話 :2006/04/16(日) 12:25:41.79 ID:k/5K1XZq0
- ('A`)「…………」
ドクオは一度だけ、クーの手を強く握ってバイバイ、と口の中で言った。
(結果的に、ではあるが)クーの遺言を守ろうと、そう決意した瞬間だった
今ようやく分かった。クーが自分に手を差し伸べた意味。そうし続けた意味。
きっとクーは。
そうすることによって救いを求めて
そうすることによって救いを与えていたんだ。
自分自身に、ドクオ自身に。
どろどろと胸の氷が溶けていく。ドクオとクーはつがいだった。
ただの兄弟ではなく、相互依存と言う関係。
そうすることによって自我を保って、そうすることによって自分の輪郭の半分を手に入れていた。
クーの死によってドクオはもう半分の輪郭を手に入れた。
半分なくなってしまえば、全て消えると思っていたのだけれど…… どうやら違うらしい。
もしかすると、クー姉さんがくれたのかも知れないな、とドクオは思った。
今はそうとしか思えなかった。
140 :第4.5話 :2006/04/16(日) 12:26:04.44 ID:k/5K1XZq0
- 冷たいフローリング。歩きなれた自分の家。廊下。
クーの遺体を抱きかかえたままドクオは立ち上がり、自分の部屋へと足を進め、
ベットの上に彼女を乗せた。ギシ。ベットのスプリングが軋んだ。クーの体は覚悟していたより随分軽かった。
ギシ ギシ。
そんな胸の音は聞こえなかった。
ドクオは立ち上がり、クーの表情を見てから、少しだけ微笑む。
バイバイ、ありがとう。さようなら。俺は生きるよ、クー姉さん。
ドアノブに手を掛け、一気に引く。
「いってらっしゃい」
そんな凛とした声が、聞こえたような気がした。
ドクオは振り返らなかった。
第4.5話「容」 終 →第五話へ続く
194 :第5話 :2006/04/16(日) 18:40:57.44 ID:aHwNG/H90
- 1/14 8:50 ショボン宅
(´・ω・`)「…ああいった手前、どうするかね…」
自室の中央で大の字で寝転び、天井を見つめたままのショボンが呟いた。
上体だけ起こして、部屋の時計で時間を見た 8時50分。秒針が12を通り越した 51分。
(´・ω・`)「参ったな…特にする事がない」
本当に参った。
生きてやると高らかに宣言した癖に、やることがないとはとんだお笑い種じゃないか。
このままダラダラと部屋にいるには、エネルギーが有り余っているし――
そう思いながら、ショボンは床に手を着いて腰を浮かせる。立ち上がろうとして
そして止まった。
ショボンは視線の先にあったそれを手にとって、握り締めた。
ボトルキープの時に使い、ビンに掛けるキーホルダー。銀の装飾、草書の英文字で刻まれた自分の名前。
握る力が強くなる。
ショボンはそのまま立ち上がって、無言のまま部屋を見渡した。
もうこの部屋には帰ってこない。そんな覚悟とともに、住み慣れた自分の部屋の風景を刻み込む。
(´・ω・`)「ああ、そう言えば部活の仕上げ…まだだったっけな」
パソコン部の、自分たちの卒業式用に作った(と言うより作らされた)安っぽいプロモーションビデオ。
年間行事で撮ったビデオや写真をつぎはぎして作った、チープさ満点の。
195 :第5話 :2006/04/16(日) 18:41:36.87 ID:aHwNG/H90
(´・ω・`)「まあ、部長だし。下手にこの世に未練も残したくないしねぇ……」
弁解するようにショボンが呟いた。
最後の『作・情報科学部』の文字入れが、まだすんでいないだけの話。
そのまま放置しても、一向に構わない代物。
それでも。使命感感じる柄ではないけれど、自分の使命は真っ当したかった。
中途半端に終わらせるのは、癪に障った。
理由なんて些細なことだと思う。
この気持ちの根源を探ろうとも思わない。
ショボンは扉の方を見て、歩を進めた。
部屋のドアノブに手を掛けて。最期へ繋がるドアノブを引いて、扉を開いて。
自分がまだパジャマ姿であること気付いてまた閉じた。
196 :第5話 :2006/04/16(日) 18:41:57.87 ID:aHwNG/H90
同時刻、ブーン宅
ツンの泣く仕草なんて見たことが無かった。だから途惑った
ブーンの中にあるのは、負けず嫌いで勝気でいつも強いツンだから。
彼女の弱い部分なんて、見たことが無かったから
今日限りで、世界はその有り様を急速に変えていっている
素晴らしい展開も 胸糞が悪くなるような展開も、その中には含まれていて。
自分に降りかったであろう向こう50年の変化が今日いっぺんに来たのかな、とブーンは思った。
そんな事を思いつつ、玄関でツンを宥め続けるのも何だか悪い気がして来たブーンは
玄関に座り込む彼女を立たせ、リビングに誘導。
――――再三言う用ではあるが、リビングの惨状はあの通りである。
無茶苦茶。散らかっているとかそう言うレベルではない。
テレビの画面は、金属バットでぶん殴った所為でひび割れてるし、
テーブルの椅子の4脚中2脚はバラバラに分解され、
奥にある食器棚の中身はことごとくひっくり返され、床に皿だかコップだかの破片を散らばらせて、
ほとんどは原型を留めていない程に粉々に粉砕。
観葉植物なんかは横倒しにされて土や石が床に広がっていた。
197 :第5話 :2006/04/16(日) 18:42:21.17 ID:aHwNG/H90
- ( ^ω^)「…………」
ξ*゚听)ξ「……、……」
( ^ω^)「…………」
ツンもあっけにとられているのだろう。今時の泥棒でもこんな手荒な真似はしない。
続く沈黙にブーンの顔が引きつった。冷静になって考えてみるとこれは酷い。
壊して何が残ったと言うのだろう。
ξ*゚听)ξ「…普段ちゃんと掃除とかしてる?」
( ^ω^)「してないお」
そう言う問題では無いだろうとも思うのだけれど。
ξ*゚听)ξ「……バーカ」
今日何度目かの馬鹿発言が、リビングに響いた。
幸いな事に、椅子はまだ2脚残っていた。
自分と向い側の席にツンを付かせて、ブーンは生き残っていたカップを二組取り出して、
それに親父が重宝していた直挽きコーシーを入れる。
椅子に座って、俯き黙り込みながら涙を抑えるツンの姿を苦々しげに見てから、右手のカップを差し出した。
( ^ω^)「これでも飲むお」
自分が掛けるべき言葉が、見つからなくて。ツンに会話の発端を預けた。
コーシーに自分の顔が移りこむ。やはり苦々しげだった。
198 :第5話 :2006/04/16(日) 18:42:50.93 ID:aHwNG/H90
- ξ*゚听)ξ「ごめんねブーン… その…いきなり泣き出しちゃって」
( ^ω^)「いいお。そりゃあ、こんな事になるなんて僕も思ってなかったお 辛いのはよくわかr「違うのよ!」
ブーンの慰めに、ツンが震えた、しかし大きな声で否定した。
言葉を割り込まれて、ブーンが目を張る。またツンの目に涙が写る。
ξ*;凵G)ξ「違うの…違うのよブーン」
コーシーが揺れていた。ブーンの顔も歪んでいた。ツンは呟きつづける。
ξ*;凵G)ξ「違うの。ブーン、私ね嬉しかったの。
私なんかの為に、って だけどね。――――私は」
そういって、ツンが顔を上げた。鼻は赤く、目元が腫れている。こんな顔させたくなかった。
ブーンにはどうにもツンの表情の中にある心情を察することが出来なかった。
ツンの発言を考え直してみるとツンのそれには辛さよりも嬉しさの方が勝っているように思える。
そして、贖罪の念が、こもっているように思える。
ツンが自分に謝ることなどあるのだろうか?
むしろ自分がツンに謝らなければならないことの方が、多いように思えるのだけれど――
何秒かの沈黙があって、ツンがぽつりと呟いた。
199 :第5話 :2006/04/16(日) 18:43:21.61 ID:aHwNG/H90
ξ*;凵G)ξ「知ってたの。この世界が、終わること」
――――――?
ブーンの思考が止まる。
何、だって? 今、なんて? そう聞く間もなく、ツンが口を開く。
ξ*;凵G)ξ「騙してて、ごめんね」
245 :閑話休題 :2006/04/16(日) 20:45:01.29
ID:9exGuQHY0
彼女のバックに広がっていた赤色を、僕は一生忘れないと思う。
立ち入り禁止の張り紙も無視して、学校の屋上をうろちょろする男子が一人。
( ^ω^)「愛してる! …え、あ…、なんっか違うお…
ツン、僕はお前が好きなんだお! いや……之だとストレートすぎやしないかお?」
いやでも男なら…… と、堂堂巡り状態の思考回路。
さっきから同じような場所を行ったり来たり。
もう何だか訳がわからなくなって、仕方ないので屋上のフェンスに頭を預ける
フェンスにそうしていると、怒涛のように押し寄せていた
思考回路が少しづつだが停滞し始めるのが解った。
あー、とかうー、とか
其処らへんに転がっているような言葉を吐き出しつつ、
相手が来るのを待つ午後4時35分。
グラウンドを見下ろせば、サッカー部がランニングしている姿が見れた。
その掛け声と、隣の校舎で練習する吹奏楽部の音のずれたトランペットの音が
夕日に照らされる屋上に何処か遠くのほうで響く。
おーえすおーえす。ぷおおぉぉーん。ぷおぉーん。おーえすっ。
246 :閑話休題 :2006/04/16(日) 20:45:37.89
ID:9exGuQHY0
- ( ^ω^)「好きだ! やっぱこれかなおぉ……」
終わりが見えないとも思えた隘路に一筋の光が見えた。
よしっ! と膝を叩いて、ついでに頬も叩いて、目を静かに閉じて、深呼吸。
「何してんの?」
( ^ω^)「………………」
ぎゃーとかきゃー、とか、そういう類のことを言うべきなんだろうけど、
もう唐突なくらいの背後からの声に、完全に思考が止まった。
おーえすおーえす。ぷおおぉぉーん。おーえすぷおぉーん。
出鼻を素敵に挫かれたと言うか、
もうなんて言うか僕らしくてアホらしくて涙が出ちゃうだって初めての告白だもんとか、
声の主を確認するような真似はしない。
というか、もう解ってるから。振り返らずとも、解るから。
空笑いが漏れていた。ムードも毛もあったもんじゃないとはこの事だろうか
247 :閑話休題 :2006/04/16(日) 20:46:11.25
ID:9exGuQHY0
- ξ*゚听)ξ「一人でぶつぶつぶつぶつ。大丈夫?」
ハア、と。相手がため息をつく音がする。
( ^ω^)「――――あの、ぉ」
ぽつりともらす言葉が、遠くで響く日常の音を、かき消すように響いた。
ξ*゚听)ξ「な、何よ」
少しだけ緊張したような相手の声が、赤い世界に響いて、時間を削り取って行く。
( ^ω^)「さっきの言葉、聞こえてた?」「もうばっちり」
って言うか、私は此処に最初っから居たわよ。
即帰ってきた終了の意を持つ返答と、(社会的に)さようならの言葉に、嗚呼終わったなと実感。
それでも
諦めるような真似は、まだ出来なくて。やっぱ自分もガキなんだなと思う。
往生際が悪いなとは思うけれど――
一抹の可能性に、掛けてみたくて。まだ、終わってない。ってことを、信じたくて。
( ^ω^)「……へ、返答のほうは?」
ξ*゚听)ξ「アンタは。私に言わせる気?」
( ^ω^)「……僕はツンの口から聞きたいお」
はっきり、一言一言、言葉の中にある思いを、伝えるように。
248 :閑話休題 :2006/04/16(日) 20:46:45.03
ID:9exGuQHY0
何秒か何分か何時間か。
いや、時間って言うのは適切な表現ではないのだろうけど、
僕にしてみればそえとも思える時間経過。
そうした後に、また彼女がため息をついて、ぽつりと。
零れたような言葉で一言「OKよ」
( ^ω^)「…へッ?」
ξ*゚听)ξ「…二度も言わせるような無粋な真似させない」
( ^ω^)「……ッ……あ゛ー! もうッ!」
立ち上がって、抱きしめた。
( ^ω^)「な、僕の歯変じゃないかお?」
ξ*゚听)ξ「何で?」
( ^ω^)「む……いや、さっきから歯の浮くような台詞ばっか喋ってたから……大丈夫かなと」
ξ*゚听)ξ「全然変じゃないから安心して。どっちかって言うと可笑しいのはブーンの頭だから」
それでも――――クスクスと。ツンが愉しげに笑う声がする。つられて僕も笑った。
僕たちらしい、恋人としての始まりであり、友達としての終わりだったと思う。
空は以前変わらぬ赤に染め上げられている。
11 :第6話 :2006/04/17(月) 21:59:07.96
ID:i7jeuNFX0
- 私の家は、この界隈じゃあ、知らない人間はいない程の名家。
それに加えて、両親も結構名を馳せた名士であるらしく、自慢ではないけれど、私は一応上流階級の子だと思う。
だからこそ、なのかも知れないけれど私の基準はいつだって『あの家の子』と言うサークルの中にあった。
私が何か功績を挙げれば『流石あの家の子』
私が何かしくじれば『あの家の子なのに』
父も母も、事あるごとに『私の娘』『お父さんの子』
私は親の体面のために生まれてきたのだろうか?
誰も。大きなサークルの中にある小さな『ツン』と言う私を見てくれない
私の意識を 私の存在を、見てくれない
いや――見てくれないだけではなかったのかもしれない
私が見せなかったのもあるのかも知れないのか
私が見せなくなかったのもあるのかも知れないのか
きっと 失望されるから 私を――『ツン』を知ったら
きっと 目の色を変えるだろうから
多分、私でさえもあの家と言う殻に閉じこもって安心しきっていたのだろう。
12 :第6話 :2006/04/17(月) 21:59:43.31
ID:i7jeuNFX0
ブーンと出会う
あの日までは
第六話 【アナザーマインド】
人を疎遠している、と言うよりは徹底的に拒んでいたのだろうと思う
そうする事で、少しでもボロを出さないようにして。私は高貴な生まれの女の子を演じていた
結局はその仮面も
( ^ω^)「…? ツンは、笑えないんじゃなくて笑わないだけじゃ、ないのかお?」
中学1年。始業式の日
偶然同じ幼稚園出身で
偶然席が隣になったブーンに
いとも簡単に引っぺがされてしまったのだけれど。
ブーンと一緒のクラスになって、そして席が隣になったのが運のつきだった
アイツはいつだってそう 今だってそう。笑いながら、私に触れてくる。
サークル領域に足を踏み入れて、不可侵だったツンと言う存在を見てくれる。
13 :第6話 :2006/04/17(月) 22:00:23.27
ID:i7jeuNFX0
ブーンの性格は、あの通りだ。
黙っていても天性の気質からか あのほにゃほにゃした雰囲気からか、おのずと人が寄ってくる。
その能力は授業中だろうが休憩時間だろうが昼休みだろうが発揮されていて、
その為に私は
アイツと隣の席だったが故に私は
疎遠すべきだった人との交流を嫌が応にもすることになった。
でもそれに、心地良さを感じる私も居て
『ツン』を見てくれている人が居る事に安心している私も居て
だけど、もう戻れはしない。
どんな形であれ、私はブーンを裏切った
私の目の前で、困惑している彼が。
数日前のブーンが日常の中で笑っている所を私は2.3歩引いた所から、冷めた目で見つめてしまった
それは 原罪に等しい裏切り行為。
14 :第6話 :2006/04/17(月) 22:01:19.72
ID:i7jeuNFX0
- ( ^ω^)「……ツ、ン? それ、どう言うことだお…? 知ってた…って」
ξ゚听)ξ「…………………」
( ^ω^)「ツン。黙ってないで、何とか言ってくれお…!」
ブーンから出されたコーヒーに、私の顔が映っていた。
醜い
何て醜い顔をしているんだろう。目もとが腫れて顔は涙でぐしゃぐしゃ
これが報いなのだろうか?
そう思うと、また涙が浮かんで来た。必死で押える。
ξ゚听)ξ「…………ブーン」
声に出すけれど、それは震えていて。コーヒーの水面が揺れた 世界が歪む。
(; ^ω^)「な、何だお」
返事を出すブーンの声も、また震えていて
この真相を伝えたら、ブーンは何と言うだろう。
私を殴るのだろうか 椅子を蹴り倒して怒鳴り散らすのだろうか
伝えたくない
伝えなくちゃ
ξ゚听)ξ「――抽選、って知ってる?」
( ^ω^)「……あの、無差別に選ばれた人たちが火星移住する、って言う奴かお?」
ξ゚听)ξ「そうよ。それで――私の両親はそれに選ばれたの…… ううん」
一旦区切って、コーヒーカップを手に取った
じんわりと伝わってくる、暖かな液体の温度
15 :第6話 :2006/04/17(月) 22:02:12.87
ID:i7jeuNFX0
言わなくちゃ。
ξ゚听)ξ「正確には、私の両親はその推薦枠で通ったの」
優秀な人材として、選ばれた。言わば現代版、ノアの箱舟に。
( ^ω^)「……ツンは…? 通った、って言うんなら、ツンはどうしてここにいるんだお?」
ブーンが訝しげに聞いてきた。声のトーンが、若干落ちてきていた。
その質問で、私の中でせき止められていたものが取っ払われた
俯いたまま自嘲気味に笑って 言う。
ξ゚听)ξ「私はね、捨てられたの。両親に」
( ^ω^)「………なっ!!!?」
私の言葉にブーンが息を呑んで、私の喉が嘶くようにキュルキュルと音を立てた。
ξ゚听)ξ「聞いちゃったのよ全部、5日前の夜にね。
彗星衝突の話、推薦枠で通った、って話。私が見捨てられる話」
( ^ω^)「ツン!?」
ツラツラと淀みなく真実を話す私に、ブーンが戸惑ったように私の名前を呼んだ
それでも、私は言葉を続ける 伝えなくちゃいけない。これは私の責務。
ξ゚听)ξ「それなのに、私は。私はずっとブーンたちを裏切ってた
全部知ってて…全部知らないフリして――
何事も無かったみたい皆と一緒にただ笑ってた! 私は全部知ってたのに!!」
顔を上げて、ブーンを見た。この時初めてブーンを真正面から見た形になる
ブーンの顔は歪んでいた。私の目に溜まった涙のせいだった。
16 :第6話 :2006/04/17(月) 22:02:48.85
ID:i7jeuNFX0
- ( ^ω^)「ッ……もういいお!!」
その言葉と共に、ブーンがテーブルに拳を叩きつけた。肉がぶつかる音がして、その拍子に肩を揺さぶる
ξ*;凵G)ξ「ブーン…!? でも私ッ!」
( ^ω^)「もう、いいんだお……」
ブーンが顔を逸らした。ゆらゆら揺れる真っ黒なコーヒー
顔を逸らしたまま、ブーンが言葉を紡ぐ
どうしようもない私に、救いの言葉が掛けられる――
( ^ω^)「ツン、ワシントンと桜の話、知ってるかお?」
あ、それなら知ってるわよ。と、私は言葉を漏らして うる覚えの話の内容を、記憶の端を辿りながら言う。
ξ*;凵G)ξ「ワシントンが父親の桜の木の枝切っちゃったやつでしょ?」
うん。と、ブーンから肯定の相槌が打たれる
私はブーンの言葉を待った
( ^ω^)「でもそれを自分がやったんだと正直に告白して謝ったら、
父親は怒るどころか、その行為を誉めてくれた。ってやつだお」
ブーンの顔がこちらを向いて、目があった
真直ぐな視線こう言う時のコイツの目に、私は弱い。
ツン何でか、解る?
瞳の奥にそんな言葉があった。
17 :第6話 :2006/04/17(月) 22:03:24.26
ID:i7jeuNFX0
- ξ*゚听)ξ「ワシントンがまだ手に斧持ってたからじゃない?」
( ^ω^)「…………」
沈黙。
ち、違うお。
弱弱しくブーンが否定した。グゥ。
( ^ω^)「父親は、ワシントンの正直な心を誉めたんだお」
ξ゚听)ξ「……正直な、心」
私が反芻する。ブーンがそうだお。と、また優しい声で肯定
( ^ω^)「やってしまった事は、もう戻れないけど。
どうあれ、ツンは僕に打ち明けてくれたお。本当のことを、話してくれたお」
ξ゚听)ξ「……ブーン……」
( ^ω^)「それに、この部屋…実は僕がやってしまったんだけど……」
ブーンが私から視線を外して、部屋を見渡した。
最初に見た時も驚いたけど、部屋の中はぐちぐちゃで、誰かに襲われたのかとも思ったけど――
……ブーンがやったの…。
( ^ω^)「壊しても。何も残らなかったんだお。ただ、 ――ただ虚しいだけだったんだお」
それと同じだお。
目を細めさせて、ブーンが言った。
そしてまた私と目を合わせて、こう言うんだ
( ^ω^)「僕は。ツンがそうやって僕に言ってくれたことが、嬉しいお」
ありがとう。ツン。
18 :第6話 :2006/04/17(月) 22:04:15.35
ID:i7jeuNFX0
- ξ゚听)ξ「ッ……!」
( ^ω^)「さ。落ち着いたら、どこか遊びにいくお! 後悔ないように、パーッとやるお!」
ブーンが勢いよく立ち上がって、私の方へ手を差し伸べた
カラカラと笑って、幸せそうに笑って。
だからつられて私も笑った。
そう言う気分だったんだ。
殴られると思った 怒鳴られると思った
例え殺されても、文句を言う筋合いはないと思った。
でもブーンは、笑って私を許して
それどころか、お礼まで言って来て。
だから私も笑えた
ξ゚听)ξ「うん……ありがとう。 そうだ、 ブーン」
涙をふき取って、提案する。行きたい場所を、言ってみる。
世界の最期を、彼と過ごす。素晴らしい。
ξ゚听)ξ「学校、行ってみない?」
第六話【アナザー マインド】終 →第7話に続く
19 :第6話 :2006/04/17(月) 22:04:50.15
ID:i7jeuNFX0
- 蛇足。
( ^ω^)「外は危ないお ニュースでもそう言ってたし……何か武器をとは思うんだけれど…」
ξ゚听)ξ「どうするの?」
( ^ω^)「僕はバットかトンファーでいいお…そう言えば、ツンの武器、何だったんだお?」
まさか素手で来たわけでもあるまい。
ξ゚听)ξ「ええこのメリケンを」
(; ^ω^)「それは凄い武器を…」
……って、それで僕殴られたのかお!?(第4話参照)
(; ^ω^)「あのちょっとコツ掴んだわよって感じにヒットしたことから察するにまさか……此処に来る前何人か…!?」
ξ゚听)ξ「ふ〜ん♪ ふふ〜〜〜ん♪」
( ^ω^)「ツン…恐ろしい子……!!」
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