1章「わたしたちの、であい。」

1 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 20:27:15.20 ID:luQOV8NK0

あるよく晴れた休日の、午前中のことだった。
高校三年生になったばかりの私は、家で黙々と勉強をしていた。約1年後に控えた受験に向けて、私は早めの準備に
越したことはないと、休みの日にもかかわらず起きて顔を洗ってからすぐ机に向かったのだった。
私のお母さんは気ままなもので、部屋にあるベランダで洗濯物を干している最中もちらちらと私の様子を伺っては、
「こんなに晴れてるんだから外に出て遊んでくればいいのに」
と言う。勉強しないで遊んで来いという親も珍しいと思う。他の家のことは知らないけれど。
でも確かに、春の温かい日差しは私を外へいざなっているような気がしないでもない。とりあえずもう一ページ終わったら、
散歩でもしてこようかな。そう思った直後の出来事だった。
玄関のチャイムが家中に鳴り響いた。
お父さんは朝から用事があるといって出かけたまま、まだ帰っていない。お母さんはベランダで洗濯物を干してる最中
だったので一階に人は誰もおらず、玄関に出られるのは私しかいなかった。
反射的に部屋を飛び出した私は、階段を急ぎ足で降りて行った。

三年生になって行われたクラス替えでも知っている顔と知らない顔があったように、春は出会いの季節でもある。
そんな出会いの季節に、私とあの子は出会ったのだった。


2 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 20:29:23.24 ID:luQOV8NK0

三年生になって行われたクラス替えでも知っている顔と知らない顔があったように、春は出会いの季節でもある。
そんな出会いの季節に、私とあの子は出会ったのだった。

川 ゚ -゚)「あ、お父さん、おかえり」
( ・∀・)「やあ、ただいま」

休みの日なのに背広を着込んだお父さんは、なにやら落ち着かない様子だった。

( ・∀・)「とりあえず、あがりなさい、ツンちゃん」
ξ゚听)ξ「・・・はい」

お父さんの後ろにいたのは、仏頂面をした女の子だった。
まだ面影に可愛らしさが残っている。キッチリ制服も着ているし、スカートも短くない。多分中学生くらいじゃなかろうか?
身長はあまり大きくない。くるっと巻き毛が特徴的な、愛らしい感じの子。その仏頂面を除いては。
 

3 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 20:30:22.83 ID:luQOV8NK0

川 ゚ -゚) 「誰・・・なの?」

自然と私の声は低くなった。もちろん聞こえないだろうが、念のために二階にいるお母さんの耳に入らないようにするためだった。
なんでそうしたかって、お父さんの後ろめたさがどことなく伝わってきたからだ。
まさか隠し子?でもお父さんにそんな度胸はなさそうだ。いつも晩酌のもう一本余計にビールを飲むのにもお母さんにお伺いを
立てるような人だもの。
それにお父さんの血を引いてるにしては少し可愛らしすぎる・・・と、これは言い過ぎか。私もお父さんの血を引いてるわけだし・・・

( ・∀・)「立ち話もなんだから・・・クー、説明はお母さんも交えてするよ。だからお母さんを呼んできてくれないか」
川 ゚ -゚) 「わかった」

なんとなく重い空気になっていたので、私は二階に行ってお母さんを呼ぶことでワンクッションおけることを少しだけ喜んだ。
私の部屋に入ると、ちょうどお母さんは洗濯物を出し終えたところだった。


4 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 20:31:08.59 ID:luQOV8NK0

J( 'ー`)し「誰だったの?」
川 ゚ -゚) 「お父さん。話があるって下で待ってるよ」

お母さんは「そう」とだけいって洗濯籠を持った。私はお母さんに、あの「ツン」と呼ばれた女の子がお父さんと一緒に
来たことは言わなかった。
根掘り葉掘り聞かれても私はわからないし、お母さんがへそを曲げても困る。だからもしあの「ツン」という子が責められるような
存在だったら、その役目はお父さんが担うべきだと思った。
一階にお母さんと降りて、客間に入るとお父さんとあの子の二人はすでに座って並んでいた。お父さんが入れたであろう麦茶の
注がれたコップが四つ、机の上に置いてあった。

( ・∀・)「お母さん、クー、そこに座りなさい」

お父さんが言った場所には二枚の座布団が敷かれていた。いわれるがままに私たちはそこに座り、事の次第をお父さんが話すのを
待った。
お父さんの緊張が伝わったのか、私の心臓までドキドキしてきた。せっかくのいい天気で私は散歩に行こうと思っていたのに、計画が
台無しだ。でもそんなことをいっている場合じゃない。
数瞬の沈黙の後、ようやくお父さんはさっきの「座りなさい」から久々に口を開いた。その口からは普段聞けないような衝撃的な
ひとことが飛び出したのだった。


5 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 20:31:50.66 ID:luQOV8NK0

( ・∀・)「実は・・・この子を養子にしようと思ってな」
川;゚ -゚) 「・・・ホントに?」

これはさすがに普段あまり感情を表に出さない私でも驚いた。
でも意外だったのは、お母さんがその言葉に対して全然驚いていないことだった。どうしてだ?もしかしたら二人はグルなのか?
いろんな表情をごちゃまぜにしたような顔をしているであろう私をみて、お母さんは大きくため息をついた。

J( 'ー`)し「ごめんなさいねクー。あなたにはまだ言ってなかったけど、今日からこのツンちゃんが我が家の一員になることになったのよ。
   お父さんとお母さんが先に勝手に決めちゃったから、言い出しづらくて・・・ごめんなさい」

それにしてもあまりに突拍子のない出来事に、私はただただ驚くばかりだった。なにせ、この歳になって急に家族が増えるなんて
滅多にないことだろう。ペットじゃあるまいし、今私の目の前に座っている女の子はどこからどう見ても人間だ。
自己紹介を、との言葉に、その子は仏頂面のまましゃべり始めた。

ξ゚听)ξ「今年から高校一年生になるツンといいます。よろしくお願いします」
川;゚ -゚) 「は、はぁ、よろしく」


6 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 20:32:53.08 ID:luQOV8NK0

ツンちゃんは仏頂面のまましゃべり終えた。私は一気に先行きが不安になった。だってこの目の前にいる女の子は私に輪をかけて
仏頂面だ。もうひとりの自分が目の前に座っているようで・・・とここまで考えて、私ははたと気づいた。
私もこんな風に扱いづらそうなのだろうか?と。でも今考えても仕方のないことだ。今は目の前にいる女の子のことを少しでも知って
おかなくてはいけないと思った。
・・・状況に対して飲み込みが早いのは自分でもわかっている。どうしてこう、私はわめいたり騒いだり出来ないんだろうか。
でも私はなんとなく嬉しかった。今までずっと一人っ子で、きょうだいが欲しいと思っていたからだ。和気藹々と街を歩く彼らや彼女らの
姿を見ては、恥ずかしながら妄想に耽ったこともある。
私の、絶対に叶うはずのないであろう夢が、今ここに現実のものになった。そして私は、「現実」になってしまった「夢」は、なかなか
厳しいものであるということをこれから知ることになるのだった。

 

 

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