2章「わたしたちの、はじまり。」

37 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:14:29.19 ID:luQOV8NK0

翌日にあまりに衝撃的な出来事が起こったため、私はあまり寝付けなかった。目の下に隈を作って
不機嫌なオーラをそこらじゅうに撒き散らしていた。
とりあえずツンちゃんは部屋の準備がまだ出来ていないと言うことで、昨日はホテルに泊まった。
私はその段階で少々嫌な予感がしていた。

私の家に、ツンちゃんを入れられるようなキャパシティのある部屋はあっただろうか。いくら考えても思いつかない。
予想される展開としては、私の部屋に押し込められる展開という予想が一番可能性の高いものだった。
いくら配慮の足りない両親(昨日の出来事で十二分にわかった)でも、いきなり同じ部屋にいれるということは
しないだろう。甘やかな私の予想。きっともろくも崩れ去るに違いない。
学校についても不機嫌オーラはとどまることを知らず、その異様さを察知した友人のしぃが机に突っ伏している
私の元によってきた。
 

38 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:14:55.63 ID:luQOV8NK0

(*゚ー゚) 「いつにもまして今日のクーは近寄りがたいわね」

川 ゚ -゚) 「ほっといてくれ。今は眠くてしょうがないんだ」

(*゚ー゚) 「眠くなった原因を聞かせてくれれば、ほっといてあげてもいいんだけど」


チラリとおせっかいな友人を見やり、私はのっそり体を起こしてしぃにこう耳打ちした。「妹が出来たんだけど、どうしよう」。


(*゚ー゚) 「えええええええ!!!???」

川 ゚ -゚) 「シッ!!声が大きい」


普通の人間の反応はこんなものだろう。大抵はビックリするに決まってる。そしていろいろな憶測が脳みそを駆け巡り
いろんな物質が分泌されるのだ。
周りの痛いくらいの視線を浴びながら、私たちはより近くによってコソコソ話をし始めた。


39 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:15:38.56 ID:luQOV8NK0

(*゚ー゚) 「妹ができたって・・・どういうことよ。まさかお父さんが再婚したとか」

川 ゚ -゚) クー「うちのお父さんにそんなことが出来る度胸はないさ。遠縁の親戚の子なんだけど・・・」


かくかくしかじかと説明を終えると、しぃもなんとか納得したようだった。


(*゚ー゚) 「なるほどねぇ・・・義妹ってことね。そのツンちゃんも大変なのね」

川 ゚ -゚) 「ああ・・・でも私はずっと一人っ子だったから、きょうだいが出来て嬉しいんだ。昨日はwktkして眠れなかった」

(*゚ー゚) 「なんだ、自分が悪いんじゃない・・・心配して損した」

川*゚ -゚) 「誰も心配して欲しいなんて頼んでいないよ、おせっかいな人。でもありがとう」

(*゚ー゚) 「いいえ。私はクーのそういう素直なところが好きよ」


40 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:16:43.45 ID:luQOV8NK0

頑張って仲良くなりなさいと、しぃはいって自分の席に帰っていった。ちょうどチャイムがなるところだった。
私はこれからのきょうだい生活を思って、一人授業中ずっと妄想を繰り広げていた。一緒に甘いものを食べに
行ったり服を買いに行ったり。
服を交換こしてもいいな。お姉ちゃんはちょっと胸が大きいから・・・なんていって、キャアキャア鏡の前で
はしゃいだりして。
二人でベッドに入って、「あのね、お姉ちゃん、私好きな人がいるの」っていう恋愛相談なんかしちゃって。

そんなかわいいツンちゃんに対して私はお姉さん面して、それはそうこれはこうと偉そうに説明するのだ。
楽しい場面しか想像できなかった。
しぃと二人でご飯を食べているときも、私の頬は緩みっぱなしだった。さっきまで寝不足で鬱々としていたのに
そんな気持ちはどこか風に乗って吹き飛んでしまった。

今日家に帰れば、もうツンちゃんはいるはずだ。部屋のことなんかどうだっていい。私たちは仲良くなって
ほんとうのきょうだいになるんだ。
帰りのチャイムが鳴り終えるのももどかしく、私はいそいそとカバンにものを詰め込んだ。
「起立」「礼」
日直のいつもの儀式が終わったところで、私は鉄砲の弾のように教室から飛び出した。廊下は走るなと
後ろで怒鳴り声が聞こえたが知ったことじゃない。

いつもの倍は早く自転車をこぎ、私は家へ向かった。今の私ならば、自転車通学をしてる男の子たちにだって
勝てるに違いない。
風のようになった私は家に着くなり自転車を片付けるのもそこそこに、玄関のドアを思いっきり開けた。


41 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:17:38.71 ID:luQOV8NK0

川 ゚ -゚) 「ただいま!!」


玄関はしーんと静かだった。
家に帰ると、いつもこうだった。お父さんとお母さんは共働きで、小さい頃から私の家には誰もいなかった。
鍵だけ預けられ食卓に並んだ夕飯を電子レンジでチンする生活。
二人は夜遅くに帰ってきて、その時間には私はもう寝ている。

その二人が一生懸命働いてくれたおかげで私は高校にも行かせて貰っているし、受かれば大学にも行かせて
貰える予定だ。
きっとこれが幸せなんだ。幸せになるには何かを犠牲にしないといけない。きっとそれは「家族の時間」だったのだ。
そのうち私は家に誰もいないことが当たり前になっていた。大人になるにつれ、お父さんとお母さんがいったい
何をしているのかわかるようになって初めて、孤独が少し薄れたような気がしていた。

でも今は違う。私には妹が出来た。もう家に帰ってもひとりで寂しい思いをしなくてすむ。
私はここにきて、心の底ではずっと寂しいと思っていたことに気づいた。
いつからだろう、あんまり笑わなくなったのは。クールだねって、友達に言われるようになったのは。
だから玄関の静寂は、そんな私のかすかな希望を砕くには十分だった。

私は諦めきれずに、下駄箱をひっくり返した。でも出てくるのは見覚えのある靴ばかり。
年頃の女の子が履くような靴はどこにも見当たらない。


42 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:19:00.63 ID:luQOV8NK0

川 ゚ -゚) 「そんな・・・」


嘘だったって言うのか。昨日の出来事は全部なかったっていうのか?嫌だ。もうひとりは嫌なんだ。
家に誰もいないのは嫌だ。
「おかえり」って誰か言ってよ。私を迎えてよ。
機械的に暖まったご飯を食べるのはもうやだ。運動会にも授業参観にも誰も来ないのはもう・・・

私は泣き崩れた。溜まっていた今までの涙が、滝のように流れ落ちていた。
そんなときに、がちゃりと玄関の扉が開いた。


ξ;゚听)ξ「・・・クーさん?」

川 ; -;) 「ツンちゃん?」


43 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:19:56.47 ID:luQOV8NK0

そこには昨日の制服のままの彼女が立っていた。
あまり多くない荷物を背負って、扉を開けたままこちらを見ていた。
玄関で誰かが泣いてるなんて思いもしなかったのだろう。彼女はその大きな目をさらに
大きく広げて、私を見ている。


ξ;゚听)ξ「どうかしたんですか?」

川 ; -;) 「ううん・・・なんでもない。なんでもないんだ。よかった。いたんだ。
      誰かいたんだ・・・」


よく考えてみれば、ツンちゃんだって四六時中家にいるわけじゃない。誰もいない日だって
もちろんある。でも、それでも圧倒的に誰かのいない日は減るはずだ。
二人でご飯を食べる時間が増えるはずだ。

よかったと、心の底から思った。私は重たそうに背負っているツンちゃんの荷物を持ってあげた。
相変わらず彼女は仏頂面だったが、仏頂面同士の姉妹だっていてもいいだろうと、そう思った。

 

 

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