第5章「わたしたちの、しんじつ」
133 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:12:27.34 ID:M4KKdDfE0
- 気温35.6度。今季節は夏の真っ最中だった。
照りつける太陽は肌をじりじりと焦がしてゆく。街を行く女の子たちは
「肌が焼ける」とあちこちにクリームを塗りたくる、そんな季節。
私たち家族はこの休みを利用してとある避暑地にやってきていた。
最近家族で出かけることも少なくなってきていたが、ツンちゃんが
家に来たことでなんとなく結束が固まっていっているのはいいことだと思った。
そのツンちゃんといえば相変わらずの仏頂面だ。
134 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:13:20.19 ID:M4KKdDfE0
- 現地について駐車場を下りると、暑さはそれほど変わらなかったが、木陰が多く
ひんやりとしていた。
私たちが泊まるのは、ここから少し先に進むと湖があり、
そのほとりに建っているブーンヴィレッジというところだった。インターネットでの評判は
上々で、オーナーのブーンさんの作る料理は逸品とのことだった。
私は湖へ続く林道に、お母さんと二人歩いていた。
135 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:14:50.36 ID:M4KKdDfE0
- J( 'ー`)し「はぁ、こう暑いとやんなっちゃうけど、ここは街中と違って涼しいわね」
川 ゚ -゚) 「そうだな。空気もおいしいし、湖のほとりっていうことはマイナスイオン
もたっぷりでてるはずだ」
(;・∀・)「おーい皆さん、浸るのはいいが荷物を全部僕に持たせないでおくれよ」
ボストンバッグを抱えてかなりの重装甲になっているお父さんが、よろよろしながら
こちらへ歩いてくる。
ツンちゃんはその後ろから、自分の荷物だけをしっかり持って歩いてきていた。
ツンちゃんが今回の旅行についてきたのは意外だった。もしかしたら「家に残る」なんて
言い出すかと思っていたから。
お父さんとお母さんは彼女の参加をたいそう喜んだし、彼女もまんざらではなさそう
なので、これを期に私たちの間はぐっと近づくかもしれないと、私は夢想した。
何か含むものが彼女の中にあったとしても、それはあまり深く考えないことにした。
136 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:16:40.35 ID:M4KKdDfE0
- そして今回、私はある作戦を立てていた。
題して、「ああー、部屋に入ったらダブルベッドが1つしかないーじゃあ一緒に寝るしかないね」
作戦だ。長い。
これはすでに予約の段階で私とお父さん、それにお母さんが画策してわざと
やったことだ。
もちろん添い寝の相手はわ・た・し。男の人が二人寝ても余裕なくらいのベッドだと
聞いているので、多分大丈夫だろう。
我ながら大胆な作戦だ。こやつめ!ハハハ!
林道を抜けると、そこには大きな大きな紺碧の湖が広がっていた。そのほとりにある
ブーンヴィレッジは小ぢんまりとした佇まいで、湖との対比が印象的な建物だった。
137 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:17:39.32 ID:M4KKdDfE0
- ( ^ω^) 「いらっしゃいだお。部屋はこちらだお」
オーナーのブーンさん自ら私たちを部屋に案内してくれた。
歩き方に特徴がある人だ。両手を水平に伸ばして歩いている。
ヴィレッジの中は白を基調としたつくりになっていて、客室に来る前に
通った談話室には暖炉もあった。
ブーンさんはマンガを集めるのが趣味らしく、その談話室には
これでもかという数のマンガが置いてあった。
ここで3泊過ごすのかと思うと私の胸は躍った。湖では釣りも出来るようだし、
ボートも見かけた。森の中には川があって、水遊びも出来るとブーンさんは言っていた。
実は勉強道具を持ってきていない。だって、野暮じゃないか、そんなもの。
作戦通りに割り振りが決まり、お父さんとお母さん、私とツンちゃんというペアで
部屋に入ることになった。
138 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:18:07.86 ID:M4KKdDfE0
- ( ・∀・)「荷物を置いたら談話室に集合だ。何するか決めよう」
川 ゚ -゚) 「わかった」
ガチャリと部屋の扉を開ける。部屋の内装も白系統だった。
幾分か廊下などよりも柔らかな色使いがされている。クリーム色、といったところか。
ちょっと年代もののクローゼットに、鏡台。テレビはないみたいだ。
ちょっとしたソファに、問題のダブルベッドが部屋の中心部あたりに
デンとおいてあり、異様な存在感を放っている。
大きさは申し分なかった。というか、大きすぎるくらいだ。
139 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:18:47.87 ID:M4KKdDfE0
- ξ゚听)ξ「あの・・・ベッドがひとつしかないんですけど」
川 ゚ -゚) 「アーホントダネー、コリャアフタリデヒトツノベッドヲツカウシカナイネー」
ξ゚听)ξ「お部屋は変えられない・・・ですよね」
川 ゚ -゚) 「ソウダネー、ココノペンションハニンキガアルカラネー」
くっ、我ながら大根役者だ。不安になってちらりとツンちゃんの顔色を伺う。
幾分困惑はしているようだが、旅行の開放感からなのか、しょうがないと
いった風あっさりと頷いた。
140 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:19:32.42 ID:M4KKdDfE0
- ξ゚听)ξ「べ、別に一緒に寝たいとかそういうわけじゃないんですから」
川 ゚ -゚) 「わかってるよ」
ξ゚听)ξ「・・・」
第一段階クリア。
142 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:21:24.04 ID:M4KKdDfE0
- その日一日はとても楽しく過ごした。
お父さんが妙にブーンさんと気が合って、湖に一緒につりに出かけて
たくさんブラックバスを釣ってきた。でもお母さんの反応は薄かった。
だって食べれないじゃないってさ、そりゃそうだけど。
大漁に沸いた二人はちょっとガッカリした様子だった。
ツンちゃんはというと、むんずとバスの尾っぽを握り持ち上げて、
結構大きいなぁなんて言っていたっけ。意外に大胆な子なのかもしれない。
ご飯も噂に違わずおいしいものばかりで、特にヒラメのムニエルは絶品だった。
ツンちゃんが一口食べた途端目をまんまるくして、箸の動かすスピードが上がったのには
目を惹かれた。
夕飯を食べ終えたあとツンちゃんはさっさと部屋に戻ってしまったので、
私はさっきの談話室によってみた。そこには何人かの先客もいた。
その人たちは幾人かのグループをつくって、今読んだマンガについての談義に
花を咲かせていた。
ああやって一緒に読もうと思ってたんだけどなぁと、私はほんの少しがっかりした。
でもまだ時間はあるさ。
気になっていたマンガをいくつかピックアップして、ソファに座って読み耽った。
カチカチと、談話室のはずなのに私に響くのは時計の音ばかりだった。
143 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:22:25.80 ID:M4KKdDfE0
- なんかむなしい。家族で来ているのに、単独行動なんてあんまりだ。
読み途中の漫画を片付け、私は部屋に戻った。
扉を開けた先にツンちゃんはいなかった。荷物があるから脱走をしたわけでは
ないらしい。
このペンションはつくりが古めかしく、ちょっとした洋館のようだったので、
もしかしたら興味を惹かれてふらふらあちこち歩いているのかもしれない。
室内は空調が効いているが、なんとなくカラダのべたつきを覚えた私はお風呂へ
向かった。
ここのペンションは備え付けのお風呂以外に大浴場があるらしい。
せっかくだからと、大浴場のほうへ足を運ぶことにしたのだった。
途中外を通るところがあって、私はすっかり真っ暗になった空を見上げた。
いくつもの星が輝いて、空がとっても近く感じられる。
都会で見るような空とは違って、迫ってくるような力づよさがある。
煌く星々の中のひとつに、ニ連星を見つけた。寄り添う二つの星はとても仲が
よさそうだった。
私とツンちゃんもああいう風になれたらいいなと思った。
大浴場には先客がいた。そしてその先客のかごの中には、見覚えのある服が
放り込んであった。
まさかと思って入ってみると、そのまさか。先客はツンちゃんだった。
144 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:23:19.80 ID:M4KKdDfE0
- ξ゚听)ξ「あ、クーさん」
川 ゚ -゚) 「奇遇だね。お邪魔するよ」
ちょっと彼女は焦ったようだった。ベッドの付き合いの前段階は
裸の付き合いだなんて、ちょっとwktkしてしまうじゃないか。これも神様の思し召しかも。
私は体をささっと洗って、ツンちゃんが浸かるお風呂への侵入を果たした。
川 ゚ -゚) 「こちらスネーク。湯船への侵入に成功した。大佐、指示をくれ」
ξ゚听)ξ「誰の物まねですか」
ツンちゃんはMGSを知らないらしい・・・残念だ。
お湯というのは、体の緊張をほぐしてくれる。全身の強張りが取れて、
私はふぅと一息ついた。
しばらく湯船を楽しんだあと、私は口を開いた。
体の緊張がほぐれたからなのか、私はずっと考えていたことを口にした。
145 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:25:02.31 ID:M4KKdDfE0
- 川 ゚ -゚) 「ねぇ、ツンちゃん」
ξ゚听)ξ「なんですか?」
川 ゚ -゚) 「私はね、もうキミのことを本物の妹だと、そう思っているんだよ。私はずっと
一人っ子で、妹がほしかった。でも両親とも忙しくて、私がそんなことを言う
暇もなかった。だからキミが家に来たとき、私はすごく嬉しかったんだ。
ツンツンしてても、キミはイヌやネコじゃない。人間だ。こうして会話も出来る。
ツンちゃん、キミは私のことを姉だと思っていない、と言ったね」
ξ゚听)ξ「・・・」
川 ゚ -゚) 「それでもいいんだ。姉だって思ってもらわなくても、私はそんなことどうだって
いいんだ。ただ私は純粋に、キミとお友達になりたい。もっとツンちゃんのことを
知りたいと思ってる。そりゃあ、お姉ちゃんって呼んでもらいたいけど、まだ今は難しいだろう」
ツンちゃんは相変わらず無言だった。自分勝手かもしれないが、私はこれが言えて満足だった。
ツンちゃんと一緒にいると、こっちまでツンツンになってしまいそうだ。
素直なところが私のとりえだと、小学校から言われ続けてきたのに。
思っていることがなかなか言えない、もどかしいという気持ちは結構辛いものだと私は知った。
146 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:26:11.31 ID:M4KKdDfE0
- ξ゚听)ξ「そろそろ出ますね」
川 ゚ -゚) 「ああ、またな」
彼女がでていって、ぽつりと私は大浴場に残された。
彼女はきっと、言葉で何かを表現するのがヘタクソなのだ。
私の友達にも何人かそういう子たちがいる。かといって、それがダメだというわけ
じゃない。私だって、素直すぎるとしぃによく言われる。
一長一短あっての人間で、それがないと付き合っていてもきっとつまらないだろう。
画一的な人間が多い中で、彼女のような存在はある意味貴重かもしれなかった。
考えるのもいいが、そろそろ出るとしよう。のぼせてしまう。
部屋に戻ると、ツンちゃんはベッドに突っ伏して寝息を立てていた。
今日はあちこち歩いて疲れたのだろう。かくいう私ももう眠い。
壁にかかっている時計を見やると、午後11時半。寝るにはまだ少し早い時間だけど。
ツンちゃんの寝顔は天使のようだった。プニプニのほっぺたを、つい私は指でつついてしまう。
148 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:27:26.67 ID:M4KKdDfE0
- ξ--)ξ「むにゃ・・・うーん」
おっと、起こしちゃまずい。起こさないようにそっと毛布をかけてやる。私はその隣に
いそいそともぐりこんで、彼女のシャンプーの香りを楽しんだ。
女の子っていいにおいがする。
じんわりと暖かいベッドのなかは、昔一緒に寝たお母さんの布団の中に似ていた。
あったかくて、やわらかくて、いいにおいで。私は思わず涙がこぼれそうになった。
一定の間隔で動く彼女の背中におでこをつけて、今日は寝ることにした。
あっという間に、私は意識を失った。
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