7 : ◆nyobUWvc6o :2007/03/03(土) 23:06:06.88 ID:kaQLNSwA0

第一話

賃貸のボロアパートの狭い畳の上で天井から人がぶら下がっていた。
窓から差し込む真っ赤な夕日が、部屋の中まで紅く染めていた。

ガチャリと響く鍵の開く音。

ξ゚听)ξ「ただいまー」

ドアをあけ目にしたものは、人ではなかった。
なんとなくつついてみた。
ブラブラゆれた。
なんか楽しいかも。

ξ゚听)ξ「何それー、新しい遊び?」

ξ゚听)ξ「あははー。今降ろすからねーちょっと待っててー」

いすを引きずってきて、その上でぴょんぴょん飛び跳ねながら彼と天井を繋いでいる紐を切った。
どさりと彼が畳の上に落ちた。
いすの上に座り込む。
視界がゆがんだ。

8 : ◆nyobUWvc6o :2007/03/03(土) 23:06:36.43 ID:kaQLNSwA0

ξ;;)ξ「なんでー!なんでなのよー!おかしいじゃない。だって、おかしいじゃない!!」

そこからのことはあまりよく覚えていない。

私の叫び声に驚いた隣人が事態に気づき、通報。
救急車やら、パトカーやらが到着し結構大変だったらしいと知ったのはついさっき。
病院のベッドの上でだった。

目を開けると心配そうに覗き込む人の顔。
記憶を探り、アパートの大家だと思い出す。
お金のない私たちに鍋パーティーなどといって料理を振る舞ってくれたり、良くして貰っている。

「あぁ良かった。このまま目が覚めなかったらどうしようかと思ってたわよ」

どこにでもいそうなおばちゃんは、心の底からそう思ったようだった。

それから、さっきの話を聞いた。
話を聞いているうち、自分の左手首に包帯が巻かれていることに気づいた。
これが今私がここにいる理由か。
血が減った。
どうりで気だるいわけだ。

9 :愛のVIP戦士 :2007/03/03(土) 23:07:14.71 ID:kaQLNSwA0

そのうちに白衣を着た、医者と看護婦がやってきた。

<ヽ`∀´>「いやーよかったニダ、君の目が覚めて本当に良かったニダ」

頼りない顔をした青年が言う。

<ヽ`∀´>「もし2人とも死んじゃってたら、ウリが謝罪と賠償を請求されているところだったニダ」

簡単に死ぬ死ぬ言うな。あんたそれでも医者か。
・・・何かが引っかかった。
・・・・・・2人?

ξ゚听)ξ「2人ってどういうこと?」
ベッドから上半身を起こし、せまる。

医者がしまった、という顔をした。

<ヽ`∀´>「いやぁ、そのニダ、君は大丈夫だったんだニダ、ね?」

そんなあきらかな狼狽を隠せるわけがなかった。

ξ゚听)ξ「どういうこと!?内藤は、内藤はどうなったの!」

「ツンちゃん、落ち着いて。」

ξ゚听)ξ「落ち着けるわけないじゃない!だって内藤が、内藤が・・・」

10 :愛のVIP戦士 :2007/03/03(土) 23:08:17.00 ID:kaQLNSwA0

<ヽ`∀´>「そんなに睨まないでくれニダ。君が辛いのは分かるニダ、でもここに運ばれてきたときには手遅れだったニダ」

情けない顔をしながらうつむいた彼の顔は、今にも泣き出しそうだった。
手遅れとはいえ人を助けられなかったのを、彼なりに悲しんでいるようだった。

<ヽ`∀´>「それじゃ、何かあったらまた呼んでくださいニダ」

その最後の一言は、付き添ってくれている大家のおばちゃんにでもあり、恋人を失った反動で何をするかわからない患者を見張っている看護婦にでもあるようだった。

医者が出て行った後も、しばらくはおばちゃんが付き添ってくれていた。
これはありがたかった。
知り合いということで、心にブレーキがかかる。
そのときは看護婦と2人きりになると、本当に何をしでかすか自分でも分からなかった。

しばらくしておばちゃんが帰った後、私が落ち着いたと認めたのか看護婦は病室から出て行った。

一人になると、何もすることがなくなった。
よく考えると入院の準備なんて何もしていない。
着替えもないし、この入院治療費はどのぐらいかかるのだろうかと、くだらない考えばかりが浮かんだ。

この短時間でくだらないことも考えられるようになるのが嫌だった。
 

11 :愛のVIP戦士 :2007/03/03(土) 23:08:42.13 ID:kaQLNSwA0

でも、本当に内藤に何があったのだろう・・・。

何故。何で。どうして。何故。何で。どうして。

そればかりが頭の中で浮かんでは消えた。

考えても考えても理由はわからなかった。
それは私は私であって、内藤ではなく。
私が首を吊ったのではなく、内藤が首を吊ったのだから。

真意は内藤の心の中だけに。

12 :愛のVIP戦士 :2007/03/03(土) 23:09:05.42 ID:kaQLNSwA0

はっ、と気がつくと朝だった。

昨日は内藤がなぜ自殺なんかしてしまったのか考えているうちに眠ってしまっていたらしい。
こんなときにでも普通に睡眠をとれてしまう自分がさらに嫌いになった。

ξ゚听)ξ「・・・私なんか死ねば良いのに」

ふと、その考えが浮かんだ。
浮かび上がったアイデアは、連鎖的に頭の中に広がっていく。
内藤がいないなら、私なんか生きていてもしょうがない。

ちょうど、手近なところに花瓶があった。
それを手に取り、地面に叩きつける。

ガシャンと大きな音が響き、白い床の上に透明なガラスの破片が散乱した。
窓から入ってくる光がガラスできらきらと反射して綺麗だった。

私は、ベットから出てガラスの破片を拾う。
それも出来るだけ鋭く、とがっているやつを。

それから、左手首に巻いてある包帯をはずしていく。
よく見ると包帯がうっすらと朱くなっている。
傷口がまだふさがっていないのだろう。

13 :愛のVIP戦士 :2007/03/03(土) 23:09:30.36 ID:kaQLNSwA0

包帯を取った左手首を見ると、案の定傷口がまだ口をあけていた。

まじまじと見てみると結構グロい。
それに、空気に触れているので何かひりひりするし、動かすと痛い。

それでも、また内藤と同じ場所にいられるようになるのだと思うと痛みなどどうでもよくなった。

ξ゚听)ξ「内藤も苦しかったんでしょう?私だけが楽にいくのなんて嫌だもん」

そうつぶやいて、開いた傷口にガラスの破片を押し当てる。
押し当てて傷口を広げる。

ξ;;)ξ「っ痛」

赤黒い血がどろどろと湧き出してくる。

相変わらず痛いが、その痛みが何か心地いい。
心地よいはずなのに、なぜか涙が出てきていた。

ξ;;)ξ「もう少しでそっちに行くからね・・・」

手首に当てたガラス片を往復させ始める。

さっきよりも、血の出る勢いが少し強くなった。
それに比例して私の意識も、内藤に近づいていく。

14 :愛のVIP戦士 :2007/03/03(土) 23:09:51.79 ID:kaQLNSwA0

ξ;;)ξ「あと少し、あと少し・・・」

泣きながら。

それでも手は止まらずに、手首を切り続ける。

本当にあと少しで意識がなくなろうかと言うところで、邪魔が入った。

廊下を走る足音がしたかと思うと、いきなり病室のドアが開いた。

ξ゚听)ξ(あ、昨日の看護婦・・・)

( ,,゚Д゚)「何してんだゴルァ!」

ドアを開けるなりそう大声で言い放つ。

そして、私を見てもう一度。

( ,,゚Д゚)「何してんだゴルァ!!」

そう叫んで、私の腕をつかむ。

だいぶ血が抜けてふらふらだった私は抵抗できなかった。
そのまま、ガラス片を奪い取られ裂かれたシーツで腕をぐるぐる巻きにされた。
そしてそいつがナースコールで医者を呼ぼうとしたときに、意識がフェードアウト。

15 :愛のVIP戦士 :2007/03/03(土) 23:10:12.69 ID:kaQLNSwA0

・・・しなかった。
いや、出来なかった。

私の意識が飛びかけた瞬間。
抱きかかえられ。
耳元で。

( ,,゚Д゚)「起きろゴルァ!!!!!」

さすがに耳元で大声で叫ばれると驚いた。

でも、驚いたのは私だけではなかったようで。

あの医者がドアのところで震えていた。

<;`∀´>「び、び、び、びっくりしたニダ」

<;`∀´>「ギコ君、病院内では出来るだけ静かにして欲しいニダ」

( ,,゚Д゚)「すいませんだゴルァ」

( ,,゚Д゚)「でも、早くこいつを診て欲しいんだゴルァ」

ギコと呼ばれた看護婦がそういって私に注目を向けさせると、そのときやっと私に気づいたようで。

<ヽ`∀´>「血、血が出てるニダ。腕から血が出てるニダ」

16 :愛のVIP戦士 :2007/03/03(土) 23:10:36.58 ID:kaQLNSwA0

看護婦に止血されたはずなのに。
白かったシーツは元の色を失っていた。

だらりと垂れた腕を這うように、血が滴っていた。

その色が私に、忘れかけていた痛みを蘇らせた。

( ,,゚Д゚)「そんなの見れば分かるんだゴルァ。早く何とかしろゴルァ」

<ヽ`∀´>「分かったニダ。だから少し落ち着くニダ」

<ヽ`∀´>「とりあえず、彼女を処置室に運ぶニダ」

( ,,゚Д゚)「分かったんだゴルァ」

そういうと看護婦は病室を出て走り去っていった。
他の看護婦たちを呼びにいったのだろうか。

<ヽ`∀´>「腕を見せてみるニダ」

ξ゚听)ξ「・・・」

見せてみろと言われても、腕に力が入らない。
それに、ここで助けられてこの世界にしがみつくというのも嫌だった。
情けないし、内藤に合わせる顔がなくなると思ったから。

17 :愛のVIP戦士 :2007/03/03(土) 23:11:01.57 ID:kaQLNSwA0

そんな私の思いにもかかわらず、医者は勝手に私の腕をとり診察を始めていた。
シーツをほどかれ、血が流れ出る傷口を見つめられる。

<ヽ`∀´>「・・・これはひどいニダ。塞がりかけていた傷口を自分で開くなんて正気とは思えないニダ」

そうつぶやきながら、もう一度止血し直していく。

<ヽ`∀´>「だから、目を離さないようにってギコ君に言っておいたのに・・・」

<ヽ`∀´>「・・・優秀とは言っても、やはりギコ君はまだまだ経験が少ないニダ」

<ヽ`∀´>「ということは、やっぱりウリが一番優秀ニダ!ウェーハハハハハ」

訳の分からない独り言を聞かされているうちにも、少しづつ私の体から血は抜けていった。

そして、また意識が朦朧としてきたとき。

( ,,゚Д゚)「待たせたなゴルァ!」

あの叫び声が再び、数人の看護婦を引き連れて帰ってきた。

<ヽ`∀´>「遅かったニダ。止血し直しておいたから出血はさっきよりマシになったニダ」

<ヽ`∀´>「それでも、危険な状態にあることに変わりはないニダ」

<ヽ`∀´>「早く運ぶニダ」

( ,,゚Д゚)「分かったんだゴルァ」

それから、私はなされるがままにストレッチャーの上に乗せられて搬送された。

18 :愛のVIP戦士 :2007/03/03(土) 23:11:22.66 ID:kaQLNSwA0

正直、ストレッチャーの上で気を失ってしまいたかった。
でも、あの看護婦が「寝てんじゃねぇぞゴルァ!」などと喚くので、私の意識は失われないままだった。

処置室に運び込まれた私は、麻酔ですぐに意識を奪われた。

・・・そんなことをするなら、大声で叫ばずに放っておいてくれたらよかったのに。

私は、薄れゆく意識の中でまたどうでもいいことを考えた自分が嫌いになった。

 

 

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