第6幕:嵐の幕切れ



  高松駅も、やはり閑散としていた。まあ、現時点では四国の在来線が全て不通になっている
のだから、当たり前と言えば当たり前である。それでも、吹き抜けになっているロビーには
運行再開を待ってか、数人の姿が見えた。
 ドクオたちは、そのロビーを横切ってみどりの窓口へと向かう。窓口には、職員以外の
姿は無かった。
 ふたりが窓口に入ると、職員のみんなが顔を上げる。ふたりは、カウンターのうち一番近いのを選ぶ。

('A`)「あの……」

( ,,゚Д゚)「何だゴルァ」

('A`;)「……はあ、台風のせいで乗れなかった列車の切符を払い戻ししたいんですが」

( ,,゚Д゚)「ああ。そんなら切符をこちらに下さい」

('A`)(  ^ω^)「はい」

 ふたりは、それぞれ持っていた切符を渡す。
 
( ,,゚Д゚)「あー、木曜の夜行ね。これなら全額戻りますね」

('A`)「そうですか。…あ、あと、切符も買いたいのですが」

( ,,゚Д゚)「いつの?」

('A`)「明日です。ええと、区間は…ほら、ブーン。昨日の夜のメモメモ」

(  ^ω^)「わかったお……ええと……………あった」

 ブーンはポケットの中をガサゴソとまさぐり、四つ折にした小さいメモを取り出してそれを
広げる。

(  ^ω^)「えーと、とりあえず名古屋までの切符を買えばいいみたいだお」

('A`)「へぇ、名古屋か。じゃあ、明日の新幹線で空いている席はありませんか?」

( ,,゚Д゚)「新幹線だと、指定席特急券は岡山から名古屋だわな。ちょっと待て」
 
 事務員が慣れた手つきでタッチパネルを操作する。その間、ドクオたちは昨日のメモをあらためていた。

('A`)「名古屋からはどう行くんだ?」

(  ^ω^)「ええと……、路線バスを乗り継ぐみたいだお。名古屋から数えて3回って書いてあるお」

('A`;)「バスで3回の乗り継ぎとは、けっこう遠そうだな」

( ;^ω^)「まあ、もう予約入れてしまったから今さら行き先変更はしたくないお」

 それまでタッチパネルに向かい、うーんと唸っていた事務員がふたりに向き直って言った。

( ,,゚Д゚)「お客さんお待たせ。禁煙席でいいなら、岡山8時発のぞみ2号が並びで空いてるよ」

('A`)「煙草はそれ程吸わないからいいんですが、岡山で朝8時ですか。少々キツイですね」

( ,,゚Д゚)「まあ、台風で足止め喰らった連中が東京・大阪へ一気に帰るだろうからねぇ。
 朝早いのじゃないと空いてないだろうよ」

(  ^ω^)「いいんじゃないかお?早起きすればいい話だお」

('A`)「じゃあ、それお願いします」

( ,,゚Д゚)「あいよ。高松から岡山までは快速が30分おきに出ているから、それに乗りな。
 こっちはグリーンも指定席も満席だから自由席を早いとこ取っとけよ」

 ちょっとまってな、と言うと、再びタッチパネルを操作する。ガチャコン、ガチャコンと
機械的な音がして、事務員は数枚の切符を取り出した。

( ,,゚Д゚)「はい、コレが高松から名古屋の乗車券と、岡山から名古屋の指定席特急券。片道で
 いいんだね?」

('A`)「いいんじゃないか?ブーン。どうせ帰る時間なんか分からないんだし」

(  ^ω^)「おっおっ、なんだかミステリーツアーみたいだお。とりあえず片道でいいお」

( ,,゚Д゚)「じゃあ、料金は……なんだ、払い戻しのほうが高くつくのか」

(  ^ω^)「いくらですかお?」

( ,,゚Д゚)「ちょうど2万。まったく、こんな大金と一緒に切符を渡すのはこれが初めてだ」

 ブツブツと言いながらも、事務員は切符をふたりに渡す。

( ,,゚Д゚)「はいよ、失くさないようにな」

('A`)(  ^ω^)「どうも〜」
 

 ふたりは窓口から出て、ふたたびタクシー乗り場へと向かう。
 やがて、外の景色が見えてくる。風は相変わらず強く、鉛色の雲が上空で東へ東へと押し流されて
いる。横殴りの雨も強く、視界が悪いので乗ってきたタクシーを捜すのは難儀だった。
 それでもどうにか目的のタクシーを見つけると、急いでそばに駆け寄った。長岡はふたりを
見つけると、運転席から後部座席のドアを開ける。
  _
( ゚∀゚)「お疲れさんです、おふたりさん」

('A`)「ああ、短時間でも嵐の中だと体力を消耗するな……」

(  ^ω^)「本当に正午には台風は抜けるのかお?」
  _
( ゚∀゚)「車で待っている間にラジオで天気予報を聴いてたんですが、どうも今から
 段々弱まるらしいですよ。今が10時で、暴風域から抜けるのがやはり正午とか」

('A`)「ああ、それは有り難いな」
  _
( ゚∀゚)「さて……どこ行きますかね?」

(  ^ω^)「とりあえず美味い店を紹介してくれお」
  _
( ゚∀゚)「美味けりゃどこでもいいですかね?時間が少々掛かるかも知れませんよ」

(  ^ω^)「今日は時間が十分にあるから大丈夫ですお。美味い店なら少々遠い所ぐらい」

 把握しました、と言うと嵐の中タクシーは出発した。
 これから、何処へ行くのだろう。そして、何を食べるのだろう。
 



 車は、高松駅から線路沿いに伸びている国道を西へと向かっていく。しばらくするとビルばかり
だった周りの景色が段々変わり、郊外の住宅地らしい様相を呈してくる。
 西に走っているせいか、天気の移り変わりが速い。駅の天候と比べると、風雨は明らかに
弱まっている。鉛色だった空も次第に明るみを増し、明度を増して白に近くなりつつある。
  _
( ゚∀゚)「そろそろです。町の中心からは少し離れるんですが、安くて美味いんですよ」

 タクシーは左にウインカーを出すと、それまで片側2車線だった道路から左にそれるわき道へと
入っていった。ちょうど車が1台通れるだろうという道幅。わき道と言うより、路地と言った方が
適切かもしれない。
 タクシーはその道をゆっくり走る。やがて、小屋が見えてきた。建坪は20坪も無いだろう。見た感じ
かなり年季の入っている建物で、この風の中では廃墟に見えなくもない。今にも倒壊しそうな雰囲気だ。
  _
( ゚∀゚)「ちょっと路上駐車しますよ…と。ここです」

('A`;)( ;^ω^)「ここ…ですか?」
  _
( ゚Д゚)「見てくれに囚われちゃあダメですよ。そんなんじゃ美味いうどんにはあり付けませんて」

 長岡はタクシーから降りると、小走りで小屋へと向かう。ふたりもそれに従った。

 引き戸を開けると、狭い店内には外の荒天にも関わらず5人ほどがカウンターに並んでいた。
見たところ店員は男2人。顔つきからして兄弟のようだ。そのうち兄らしき男がカウンターに座り、
弟らしき男が湯気の立ち込める釜の前でうどんを茹でている。

( ´_ゝ`)「いらっしゃい。何玉で?」
  _
( ゚∀゚)「私は2玉」 そう言うと、くるりとドクオたちに向き直り「1玉から3玉まで選べますよ」
と続けた。

('A`)「じゃあ同じく2玉」

( ^ω^)「じゃあ僕は3玉食べますお」

( ´_ゝ`)「おk。弟者、2・2・3だ」

(´<_` )「おk、分かった。しばし待て」

( ´_ゝ`)「じゃあ、2玉の人は170円、3玉の人は240円だ」

 そういうと、四角い金属製の缶を3人に突き出す。缶のなかには小銭やら千円札やらが乱雑に
入っていた。あまり格好いい勘定のしかただとは言えない。
  _
( ゚∀゚)「はいっ……と。言い忘れてましたが、ここのメニューは『釜玉うどん』だけです。
 うどんが1玉で70円、卵代が30円。ほんの時々卵抜きで食べる人も居ますがね」

( ´_ゝ`)「流石タクシーの運転手だな。その通りだ」

('A`)「へぇ、そうなんですか」

( ^ω^)「思ってたより安いお」

(´<_` )「兄者、茹で上がったぞ」

( ´_ゝ`)「おk弟者。じゃあ、丼の中に茹でたてのうどんが入っているから、タッパーの
 刻みネギを入れて、ダシ醤油かけて、生卵を割り入れてくれ。後は適当にかき混ぜて喰うだけだ」

  3人は、それぞれが注文しただけのうどんを受け取り、店員兄者の言うとおりに盛り付けをする。
とは言っても、個人の好みに合わせて加減ができる。セルフサービスならではの特権である。
 店にはテーブルはあっても、椅子は無い。客はみんな立ち喰いをしていた。

( ^ω^)「長岡さん、そんなにネギを入れるのかお?」
  _
( ゚∀゚)「ええ。少々苦くなりますが、歯ざわりが良くなっていいんですよ」

('A`)「ダシ醤油は目分量でいいですかね?」
  _
( ゚∀゚)「あまり入れすぎると辛くなりますからね。最初は少なめで様子を見たほうが良いでしょう」

 そんなこんなあって、盛り付けが終了する。
  _
( ゚∀゚)「では、いいですね?それでは、いただきます」

('A`)( ^ω^)「いただきます」

 パキン。割り箸の割れる音。
 グチャグチャ。丼をかき混ぜ、思い切りうどんに卵を絡ませる音。
 そして、一心不乱にうどんを啜る音。

 ズズズズズ。

('A`)「熱ちち……」

( ^ω^)「ハムッ、ハフハフ!!」

 会話は無い。だが、それで十分である。
 箸が進めば、それが十分美味い証拠だ。

( ^ω^)「ハムッ、ハフハフ!!」

 ……それにしてもこのブーン、ノリノリである。

 5分もせず、3人は完食した。
 見事に器はカラッポである。
  _
( ゚∀゚)「みなさん食べ終わりましたね? では、片付けましょうか」

('A`)( ^ω^)「はい」

 そういうと、長岡を先頭に3人はめいめいの器を流し場に持っていく。

( ´_ゝ`)(´<_` )「また来てくれよ」
  _
( ゚∀゚)('A`)( ^ω^)「ご馳走様でした」


 雨は止んでいた。

 たしか、店に入ってから15分も経っていないはずだ。風はまだ少々強く、それだけが台風の残滓として
そこにあった。風が吹くたびに小屋の周りの植木がサワサワと揺れる。
 3人は、手早くタクシーに乗りこむと、ゆっくり息をついた。
  _
( ゚∀゚)「どうです? 熱かったですが、美味かったでしょう?」

('A`)「そうですね、喉越しが良かったです」

( ^ω^)「美味かったお。でも、本場のうどん屋はみんなあんな感じかお?」
  _
( ゚∀゚)「いえ、そこは千差万別。殆んどの店は『かけうどん』をメニューに置いてますが、あの店は
 『釜玉うどん』の専門店です。それに、あの店ではネギが自由に取れましたが、店によっては
 鰹節・ゴマ・天カスとかが自由に取れたりします」

 さて、とひと間隔おいて、長岡は2人に訊いた。
  _
( ゚∀゚)「次はどこへ行きましょうか?今は11時近く。台風はどんどん去っていくでしょう」

('A`)「そう言われてもなぁ、ブーン」

( ^ω^)「なんだお?」

('A`)「特に行きたい所なんて無いしなぁ……」

( ^ω^)「僕も同じだお。と言うことで、長岡さん」
  _
( ゚∀゚)「はい、何でしょう」

( ^ω^)「食後のひとときを過ごせる、適当なところに案内して下さい」
  _
( ゚∀゚)「かしこまりました。では」

 タクシーが走り去る。
 この天気なら、ゆっくり市内観光できそうだ。


第6幕:嵐の幕切れ               了

 

 

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