67 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/20(月) 04:35:03.29 ID:wZSdYgmw0
――ギコ――
同日 AM 9:51
ギコのゆったりとした歩速に、しぃも次第に疲れを癒してきたのか、
いつしか隣りで聞こえる深い息の音は聞こえなくなった。
ニュー速の地理に疎いしぃに代わり、ギコが道を先導するも、
正直なところ川は氾濫を始め、地割れは起き、ビルが倒れているせいで
今まで通りの近道は使えそうに無く、むしろ遠回りをしている有様だった。
(*゚ー゚)「……まだかな」
(,,゚Д゚)「道が荒れてて通れないせいで、えらく遠回りしちまってるしな」
足元の石ころを蹴飛ばしながら、二人で並んで歩く。
それから幾らか進むと、目の前に、軽トラックの荷台に何かを運んでいる人間を見つけた。
68 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/20(月) 04:40:21.81 ID:wZSdYgmw0
(*゚ー゚)「あれ、人!」
ギコ以外の生きている人間を震災後初めて見たしぃは、喜び、声を上げた。
ギコがしぃの口を塞ごうとしたが、既に時は遅かった。
その軽トラックの周りに集まる人間はその声に気付きギコたちを見た。
(,,゚Д゚)「バカ、こんな状況で不用意に声上げてんじゃねえぞゴルァ!」
しぃに小声でたしなめたが、しぃは不思議そうな顔をして返した。
(*゚ー゚)「え、でも、生きてる人でしょ?」
(,,゚Д゚)「だから、その生きてる人間ってのが皆が皆善人ってわけじゃねえだろゴルァ!」
「善人じゃないってのは、お前のことだろ、ギコ」
軽トラック付近にいる人間の一人が、大きな声でギコの名を呼んだ。
その声に聞き覚えがあるギコは、凄まじい速さで振り向いた。
(,,゚Д゚)「せ……」
( ・∀・)「よお、やっぱお前は死ぬようなタマじゃねえよな」
69 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/20(月) 04:40:50.72 ID:wZSdYgmw0
(,,゚Д゚)「先生!」
(*゚ー゚)「え?」
しぃが疑問符を頭に浮かべると同時に、ギコは軽トラックのほうへと走り寄った。
自分が軽率な行動を諌めていた筈なのに、としぃは心の底で呟いた。
(,,゚Д゚)「先生、大丈夫だったのか?」
( ・∀・)「ああ、何とかな。気を失ってるときにこの人たちに貰ってな。
それで、ニュー速グラウンドに避難してたってわけだ」
(,,゚Д゚)「でも、あんた自分の学校に行かなくてもいいのかよゴルァ」
( ・∀・)「学校では、地震当時学校に残ってる先生とか地域の人が
何とかしてくれるだろ。
でもこっちは動ける人が少なくてな、俺も手伝ってるってわけだ」
(,,゚Д゚)「なるほどだぞ。でもあんたが無事で良かったぞ、ゴルァ」
(*゚ー゚)「先生? 学校?」
二人のやり取りを、しぃは怪訝そうな顔で聞いていた。
その顔を察した『先生』と呼ばれる男が、自分の自己紹介を兼ねて話した。
( ・∀・)「俺は、モララーっていう、ニュー速にある学校の教師だ。高等部のな。
で、この悪ぶってる生意気な小僧の担任だな。
……君もうちの学校の生徒?」
70 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/20(月) 04:41:31.40 ID:wZSdYgmw0
先生……モララーは自分と同じくらいの位置にあるギコの頭をぽんと叩こうとしたが、
ギコは身をかわしその手から逃れた。
(*゚ー゚)「いえ、あの、私は本島のほうから遊びに来てて……
って、ギコ君、まだ高校生だったの?」
(,,゚Д゚)「……えー、あー……悪いかゴルァ!」
ギコが肯定するかのように悪態づき、顔を背けた。
(*゚ー゚)「……私より年下だったなんて……」
(,,゚Д゚)「ハァ?」
(*゚ー゚)「私、二十歳だよ」
(,,゚Д゚)「…………………………信じられるかゴルァ!」
(*゚ー゚)「嘘じゃないよー、ほらほら」
しぃはそう言って、ポケットから小さな板のようなものを取り出した。
そこにはしぃの顔写真と名前、生年月日などが書かれていた。
免許証だった。
(,,゚Д゚)「……」
ギコは唖然とした。
どう見ても自分よりも幼く見える少女が、
いや、女が、三つほど年上だとは、ギコには信じられなかった。
71 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/20(月) 04:41:58.48 ID:wZSdYgmw0
( ・∀・)「……で、なんでお前は名前も知らない少女と一緒にいるんだ?」
様子を見守っていたモララーが、口を開いた。
その言葉を聞き、しぃが説明を始めた。
(*゚ー゚)「実は……」
危ないところを何度もギコに助けてもらったことを話した。
話を聞いているうちに、モララーは驚いた顔をしてギコのほうを見たが、
ギコは顔を背け、モララーを見ようとはしなかった。
( ・∀・)「……そうか。お前が人を助けるようになったとはなぁ。
地震の前まではただ不貞腐れた悪ガキかと思っていたが……」
(,,゚Д゚)「べ、別に助けようと思って助けたわけじゃねえぞゴルァ!
俺の行く先にその女がいたんだ!」
( ・∀・)「照れるな照れるな」
(,,゚Д゚)「照れてないよ! ……あ、いや、照れてないぞゴルァ!」
ギコは顔を耳まで紅潮させ、また背けた。
もうこれ以上話すことはないという風だった。
72 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/20(月) 04:42:42.92 ID:wZSdYgmw0
*゚ー゚)「それで、これは何してるんですか?」
しぃが不思議そうに軽トラックの荷台を見ながら尋ねた。
荷台には青いビニールシートが掛けられており、中の様子を見ることは出来ない。
( ・∀・)「……まぁ、予想はつくとは思うんだがな、死体だ」
(*゚ー゚)「……」
( ・∀・)「やっぱりこのままにはしておけんからなぁ。
せめて連れ帰って、身元を確かめて、それから弔ってやらにゃ
成仏もできんだろ。
こんな時に弔うだの何だの、おかしいと思うかもしれんが、
こんな時だからこそ、な。人間らしいことせんにゃ、おかしくなってしまう」
(*゚ー゚)「……私も、そう、思います……」
しぃが消えそうな声で呟くと、モララーは少し微笑んだ。
( ・∀・)「そうだ、君、ニュー速グラウンドへ来るつもりだったんだろ?
乗れよ。今更荷台に人間乗せるななんて、警察官も言わんからな。
なあ、そうでしょ? 警察官のモナーさん」
モララーがトラックのそばに居る警察の制服を着た男に向かって言った。
その警察官は笑いながら頷いた。
( ・∀・)「……と、いうわけだ。
……ああ、安心しろ。お嬢さんをさすがに荷台に乗せようとは思ってない」
73 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/20(月) 04:43:07.25 ID:wZSdYgmw0
(*゚ー゚)「あ、ありがとうございます!
ね、ギコくん、いいでしょ?」
(,,゚Д゚)「ぎ、ギコくんなんて言うなよゴルァ!」
( ・∀・)「……悪いが、ギコには頼みたいことがある」
声を沈め、モララーはギコを横目で見た。
(,,゚Д゚)「……どうせろくでもない事なんだろ」
( ・∀・)「いや、これは結構ろくでもあってな。
……VIP商事に、とある図面がある。
危険察知が特別優れてるお前だ。それを借りてくるくらい、何とかなるだろ」
(,,゚Д゚)「……高校生にそれをやらせるつもりか……」
( ・∀・)「トイレでタバコ吸ってるの、見逃してやっただろ?」
(,,゚Д゚)「や、やっぱり気付いてたのか、ゴルァ!」
( ・∀・)「まぁタバコくらいのやんちゃなら、まだ優しいんだけどな。
なんにせよ、頼む。恐らく、今度の地震に関して、かなり重要なもんなんだ」
モララーはトラックで作業している警察官に聞こえないように、
口の横に手を添えて話した。
74 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/20(月) 04:43:36.56 ID:wZSdYgmw0
(,,゚Д゚)「……ドロボウだろ、それ」
( ・∀・)「違う違う、借りてくるだけだって」
(,,゚Д゚)「……まあ、いいけど……」
(*゚ー゚)「ちょっと待ってよ」
それまで黙っていたしぃが、語気を荒げてギコを制止した。
(*゚ー゚)「学校の先生でしょ? それが生徒にそんな危ないことやらせるなんて!」
( ・∀・)「……だよなぁ。言われると思ったよ」
(,,゚Д゚)「しぃ、これは俺の勝手だぞ。
いちいち口を挟むんじゃねえぞゴルァ!」
(*゚ー゚)「え……だって……」
本人の前で言う気はないが、ギコはモララーには並々ならぬ思い入れがあった。
普通の教師という人種は好かないが、しかしモララーは、
『普通』というところを脱している節がある。
それに、以前学校内での生活態度が悪いといわれ、反発したことがあり、
一旦は自宅謹慎処分にされそうになったのだが、
それをモララーにかばって貰ったという恩もある。
ギコとしては、そんなモララーのことが気に入っていた。
75 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/20(月) 04:44:20.27 ID:wZSdYgmw0
(,,゚Д゚)「……で、その図面ってのは、VIP商事のどこにあるんだ?」
( ・∀・)「あれはかなりの重要書類だからな、
社長室やそういうところに保管していると思われる」
(,,゚Д゚)「アバウトすぎだぞ、ゴルァ」
( ・∀・)「空き巣の得意なお前なら……」
(*゚ー゚)「空き巣?」
(,,゚Д゚)「おおおおおおおおおおっと、テレポーター!」
――そこまで感づいているとは……
改めてモララーの顔を見た。
ニヤニヤと含み笑いをしているその顔は、やはりどこまで知っているか、
検討をもつかせないものだった。
(,,゚Д゚)「……分かった。じゃあ行ってくるぞゴルァ。
しぃはニュー速グラウンドに先に行ってろ。
これ以上俺に迷惑が降りかかってきたら堪らんぞゴルァ」
(*゚ー゚)「……」
76 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/20(月) 04:44:40.44 ID:wZSdYgmw0
( ・∀・)「そういうことだ。
しぃちゃんは責任持ってグラウンドに連れて行くから、
ギコも気をつけろよ」
(,,゚Д゚)「あんたが危険な目に遭わせようとしてるくせに……」
ギコは呟くと、渋々歩き始めた。
ひび割れたアスファルトはやはり固く、こんな物が破損するような大きな地震と、
モララーの言ったその図面との間に、どのような関係があるというのだろうか。
しかし、ある意味での恩師と再会できたことは、ギコにとって予想外の喜びだった。
そうしてギコの背中は、ビルの森の中へと消えて行った。
( ・∀・)「……よし、ここいらの死体収容は終わったな。
帰りましょう。しぃちゃんは助手席に乗って」
モララーは助手席のドアを開け、しぃに乗るよう促した。
しぃはギコの消えて行った背中を見ながら、ゆっくりと助手席に座った。
( ・∀・)「(……あれさえあれば……)」
141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/20(月) 20:12:37.36 ID:wZSdYgmw0
――?――
日時不明
シャキンと白衣の男が出て行き、そして一人の男がケースから出てきて、数十分が経った。
男の脱走は未だ発見されておらず、この部屋に他の人間が侵入してくることはなかった。
誰もおらず陰鬱とした部屋は、蛍光灯の途切れ途切れに輝く光で、
さらにその不気味さを増していた。
一列に並ぶ五つのケースは透明で、中が透けて見えるようになっていたが、
既に開いているケースの隣に一人入っているだけで、他三つは全て空だった。
ケース内にいる16,7ほどの少年は、まるで石となったかの如く、動かなかった。
突如、小さな電子音がし、ケースの上部が開き始めた。
中の顔を青白くした少年が外気に晒され、徐々に肌は色を取り戻していった。
幾らかの時間が経った頃か、少年のまぶたは重たそうに持ち上がり、
久しく動かしていなかったのか、やはりこれも重たそうに体を動かした。
立ち上がり、視線を左右に向けた。
「……ここは……」
記憶にないはずの場所なのに、突然頭の中にこの施設の地図と、
通るべきルートが浮かび上がった。
「……カーチャン……」
呟くと、少年はこの施設の記憶など無いものの、定められたルートだけを頼りに歩を進め始めた。
それから一時間ほどして、地震は起きた。
195 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/21(火) 04:10:31.42 ID:L4YHYuOL0
――ドクオ――
同日 AM 9:53
大木が倒れていたりして、道筋こそ変わっていたものの、
フサギコ医院の傍にある巨大なニュー速体育館の頭はすぐ見えてきた。
ニュー速グラウンドは日頃より島民のスポーツ施設としてなかなかの賑わいを見せていた。
使用するものも多ければ怪我をするものも多かった。
そのため、ニュー速総合病院よりも近い場所に医療施設が出来ることは必然だった。
フサギコ医院はそうして出来た。
おかげで、居住区の怪我人はほとんどフサギコ医院の世話になっていた。
今回の地震でも、ニュー速グラウンドが緊急避難場所として指定されているため、
居住区にいた人の多くがフサギコ医院に厄介になっていた。
ドクオたちが、そんな人々の中から集められたボランティアの見廻り組と遭遇することも、
当然のことだったのかもしれない。
そのボランティアの人は、ドクオたちを見つけると、大きな声を上げて手を振ってきた。
二人いて、一人は長身で大柄な男、もう一人はか細い妙齢の女性だった。
手を振っているのは、男のほうだった。
196 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/21(火) 04:10:53.27 ID:L4YHYuOL0
「大丈夫ですか? 怪我は……足ですか?」
近寄って来た早々、女が背中の母の足を見て、痛ましい顔になった。
('A`)「すみません、カーチャン……母をフサギコ医院のほうで治療してもらえませんか?」
ドクオは母を男に預けながら言った。
「ああ、もちろんだ。多分、骨折となると優先的に治療がもらえるんじゃないかな」
母をあたかも赤子のように軽々と背中に背負い、男が頷いた。
('A`)「じゃあ、すいません、お願いします。俺はちょっと友達と合流してきます」
「友達? 一人じゃ危ないよ」
女のほうが心配そうな顔をするが、しかしドクオは躊躇うことなく首を振った。
('A`)「俺が行ってやらないと、向こうも心配でしょうから」
ボランティアの二人は顔を見合わせると、仕方ないという風な顔をした。
198 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/21(火) 04:12:26.76 ID:L4YHYuOL0
「分かった。じゃあ、俺たちはフサギコ医院のほうへお母さんを連れて行くよ」
('A`)「良かった。ありがとうございます。
あ、あと、この居住区周辺に、通り魔がいるそうです。
知り合った女の子が通り魔に襲われて、命からがら逃げてきたとか。
学校のボランティアの人も、何人か襲われたそうです」
「通り魔……? それは本当か?」
信じられないという表情で、男が顔をしかめた。
('A`)「その女の子が言うには、そういうことらしいです」
「……分かった。でもそれなら、なおさら一人じゃ危険だ」
('A`)「逃げ足には自信があるし、それにすぐその友人も合流します。大丈夫」
ドクオが自信満々に頷くので、二人にはもう止めようがなかった。
200 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/21(火) 04:13:45.88 ID:L4YHYuOL0
「……気をつけろよ。お母さんも心配するからな」
背中の母も、一つだけ首を縦に降ろした。
('A`)「はい。じゃあ、お願いします」
「ああ、任された」
ドクオは頭を下げると、振り向き、駆けて行った。
ツンの家の住所は聞かされていたので、何とかなるはずだ。
もし通り魔に会ったら、その時は全力で逃げればいい。
それに、三人を見つけさえすれば、ショボンが何とかしてくれるだろう。
久しぶりに枷を付けずに走ると、やはり体中が軽くなった気がした。
ある種の爽快感のようなものがあった。
自分たち以外に生きている人間もいた。
これなら、どうにかして生き延びることができそうな気がする。
ドクオはそう考えながら、走った。
201 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/21(火) 04:15:29.15 ID:L4YHYuOL0
ツンの家へと向かっている途中、曲がり角の塀の陰から、一人の男が出てきた。
腕を押さえ、よろよろと歩くその姿は、今にも倒れそうで危なげだった。
ドクオはそれに気付き、すぐさま駆け寄った。
('A`)「だ、大丈夫か!?」
どこかで見た事があるような背中だった。
その背中から、肩に手を置いた。
一瞬体をびくりとさせ、その男は振り向いた。
('A`)「しょ、ショボンじゃねえか!」
顔を苦渋の色でにじませたショボンが、ドクオに気付き、やあ、と一言呟いた。
いや、もしかしたらそれは呻いていたのかもしれない。
押さえる左腕の先には、力なく金属バットが握られていた。
203 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/21(火) 04:17:44.36 ID:L4YHYuOL0
(´・ω・`)「……しくじったよ……」
('A`)「ど、どうしたんだよ! それに、ツンは? ヒッキーは?」
ドクオが焦りながら、ショボンの押さえている腕に障らぬよう、
慎重に問い詰めた。
(´・ω・`)「……何が通り魔だ……あいつら……僕の腕を……」
ショボンは会話の節々で呻きながら、ドクオに事のあらましを語った。
(´・ω・`)「……僕が、後ろを守ろうかって言うと、あいつらは拒否した。
その時に、気付くべきだったんだ……。
それからしばらく、歩くと……突然、腕に鈍痛が走って……
必死に金属バットで応戦したんだ……。
あいつら、この先へ逃げていった……」
('A`)「……あいつらって、ツンとヒッキーか!?」
(´・ω・`)「それ以外に……誰がいるんだ……」
ドクオには信じられなかった。
一人はか細い腕の少女に、もう一人は自分より年下のヒキコモリの少年だ。
彼らが通り魔の犯人だったなど、信じられるわけがない。
204 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/21(火) 04:18:11.87 ID:L4YHYuOL0
だがショボンが襲われた。
これは事実だ。
現にこうして腕を押さえ、苦痛に満ちた顔をしている。
額からは嫌な脂汗がびっしりと浮かび、声を出すのも辛そうだった。
('A`)「でも、あいつらが……」
(´・ω・`)「でも、事実なんだ……僕は襲われ、やつらは逃げた……
くそっ……あいつら……」
('A`)「……分かった。ショボン、お前もフサギコ医院へ行こう。
カーチャンと一緒に治療してもらおう」
ドクオは、ショボンの右腕を取り、自分の首にかけた。
ショボンはやはり母より重く、背負って行けそうにないため、せめて肩を貸した。
(´・ω・`)「……ありがとう……」
('A`)「なに、困ったときはお互い様だ。
俺もお前に助けてもらったしな。それに、友達だからな」
二人はよろよろと歩き始めた。
ショボンの金属バットは、ドクオが持つことにした。
フサギコ医院にはもう通り魔の話は伝わっているだろうから、
本当ならこの場に置いて行った方が良いかもしれないが、
やはり何も武器がないというのは、不安だった。
母を連れ帰ってくれたボランティアの二人と出会えれば、誤解も解けるだろう。
そうして二人は、フサギコ医院へと向かうことにしたのだった。
母を連れ帰ってくれたボランティアの二人と出会えれば、誤解も解けるだろう。
そうして二人は、フサギコ医院へと向かうことにしたのだった。
119 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/22(水) 23:34:55.06 ID:TLXuEH350
141 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 01:44:54.36 ID:STu6v6u20
142 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 01:48:46.27
ID:STu6v6u20
145 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 02:07:45.12
ID:STu6v6u20
146 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 02:11:22.07
ID:STu6v6u20
147 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 02:12:21.64
ID:STu6v6u20
148 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 02:12:45.90
ID:STu6v6u20
143 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 09:57:25.04 ID:TIdpdzbH0
――ブーン――
同日 AM 10:38
( ^ω^)「はぁ……はぁ……」
昨日の疲れが取れきれないうちに走り始めたせいか、やはり体力の消耗は大きかった。
すぐに息は切れ、視界はぼやけ、背中は少し痛んだ。
本来ならこれだけ走ればすぐにでもたどり着けるはずなのだが、
地震のせいで地形が変わり、遠回りするしかなくなっていた。
これほど地形が変わるような地震で、果たして家は大丈夫なのだろうか……。
( ^ω^)「……カーチャン……」
この惨劇の舞台に置かれながら、それからまだ見ぬ友人やただ一人の母を想った。
一刻も早くみんなに会いたかった。
会って、再会を喜びあい、共に生きていきたかった。
そのために、ブーンは走った。
体が嫌がり、速度を落とさせようとも、ブーンは無視して走り続けた。
144 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 09:59:05.25 ID:TIdpdzbH0
しばらく走った。
この道、近い。
もうすぐ、すぐに僕の家に着く。
( ^ω^)「……ここを……」
右に曲がり、
( ^ω^)「……真っ直ぐいって」
トンネルをくぐり、
( ^ω^)「……犬小屋のある家……」
今は無いそれを、
( ^ω^)「……左に曲がれば……」
そこには僕の家がある
はずだった。
( ^ω^)「……え……」
145 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 09:59:42.73 ID:TIdpdzbH0
ブーンの家の敷地内にあったものは、
バラバラになった木材と、それを押しつぶすように上から覆いかぶさっている灰色の屋根だった。
( ^ω^)「……」
家は本来の高さより二分の一以下にまで圧縮されていた。
( ^ω^)「……カ」
ガラスの破片はまかれたように散らばり、折れた柱がささくれ立つ刺々しさをさらしていた。
( ^ω^)「……カーチャ……」
コンクリートの塀も家が潰れた衝撃のせいか、所々崩れ落ちていた。
結局、それがブーンの家だった面影は、被さる灰色の屋根でしかなかった。
( ^ω^)「カーチャン……」
少しずつ家が近づいてきた。
それが自分で近寄っていることに、ブーン自身気がつかなかった。
146 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 10:00:14.33 ID:TIdpdzbH0
もしかしたら、この木材の群れにちょっとしたすきまがあって、
カーチャンはそこで気絶しているだけかもしれない。
明らかに薄すぎる望みが脳裏に浮ぶ。
家に手を触れるが、だが灰色の屋根がブーン一人の力で動くはずもない。
重かった。
こんな重いものが降ってくれば、すきまなんて話はない。
受け入れられない現実がそこにあった。
認めたくないのに、足は勝手に前に出る。
知らなければ良かった、などという言葉は、こんな時に出てくるものかもしれない。
( ^ω^)「は……あは……ははは……」
自然と、笑いがこみ上げてきた。
悪い冗談。
エイプリルフールはまだまだ先だ。
147 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 10:00:34.08 ID:TIdpdzbH0
握りこぶしを作り、屋根を叩いた。
悲しみと怒りが、衝動となってブーンの体を動かした。
屋根は硬く、ブーンのこぶしは叩きつけられるたびに悲鳴を上げた。
それでも何度も叩いた。殴った。
手の感覚は研ぎ澄まされ、痛みをよんだが、だがそれも次第に消えていく。
( ^ω^)「はは……は……あ……あ……」
視界はぼやけ、喉には何か違和感がある。
眼窩からしずくが落ち、頬を濡らした。
自分が涙を流しているということにも気がつかなかった。
得体の知れない何らかの感情がブーンの中にあった。
心だけでなく、体全体を支配する、大きな感情だった。
ブーンの小さな体ではそれをとどめることは出来ず――
( ^ω^)「あああああああああああああああ!」
ブーンは、空に吠えた。
148 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 10:00:53.24 ID:TIdpdzbH0
( ^ω^)「……」
膝を抱え、うずくまっていた。
どのくらいそうしていただろうか。
涙はとうに枯渇し、頬に明確につけられたその跡は、風に撫でられ
ひりひり苦痛を与えられるはずだった。
だがブーンはそれすら感じなかった。
あの時湧き上がった感情は、ブーンのすべてだった。
それを放ったブーンには何も残されていない。
ただ抜け殻がそこにあるだけだった。
だから、その気配に気がつかなかった。
砂利の踏みつけられる音、そして何かが風を切る音。
それらが耳に入ったとき、ブーンの意識は途切れ、闇に落ちた。