421 ◆girrWWEMk6 2006/03/31(金) 23:45:27.49 ID:LZ08/oUY0

 

早い昼食の終末はいつもよりも遅くなり、体育館前の簡易厨房に食器を返すころには
もう昼の1時も半ばまで過ぎていた。

あらためてここにいる被災者の数を数えてみると、
体育館前のボランティアの数だけで50人は超えており、
ちょっとだけ覗き見した体育館の中にはかなりの人間がいた。
フサギコ医院にいる人間もあわせれば、500人はいるんじゃないだろうか。

平日の昼に起きた地震だけあって、居住区の人間は少なかった。
それでも、まだこの島にはこんなにもたくさんの人がいるのだ。

そうおもうと、ほんの少しだが元気が出る。
島の全人口、2万人なんて数え切れるものでもないし、
みなが一斉に集まるなんてこともないので、どのくらい多いのか感覚的な把握はしづらい。

でもこの500人は、今まで一度にみた人間の数で一番多そうに見えたし、
まだ500人も生きていると考えたら、
まさかこれだけの人間が一人残らず死滅するなんてこと、考えがたかった。

('A`) 「(……そうだよな。俺たちはまだ生きてるんだ。生きていれば、こそだよな)」

 

 

427 ◆girrWWEMk6 2006/03/32(土) 00:06:56.89 ID:7/f82+zH0

 

ドクオが一人で奮起していると、フサギコ医院前の道路のほうが突如ざわついた。

('A`) 「なんかあったのか?」

(´・ω・`)「さあ」

('A`) 「とりあえず行ってみるか」

母も眠っており、何もすることがないドクオは、面白そうなことがあれば食いつきたくなった。
もし何もなくても、通り魔を警戒しているボランティアの人間に協力でもすればいい。
自分の誤解を解いてくれたあの若い男女にでも話してみるか。ドクオはそう考えた。

小走りでショボンと二人、フサギコ医院前へと向かった。
遠めに見るところ、誰かが何人かの屈強な男に押さえつけられていた。

それを離れたところから見つめていた例の男女を見つけた。
駆け寄り、声をかけた。

('A`) 「……どうかしたんですか?」

「……ああ、ドクオくんか。ほら、通り魔っていう話もあってさ、
 みんな気が立ってるんだ。ぴりぴりしてさ。
 で、一応ここに入ろうとしてくる人の身元の確認とかしてるんだけど、
 それを聞かなくて、無理やり入ってこようとしたんだよ。
 やっぱり不穏分子ってやつ、入れるわけにはいかないからさ」

('A`) 「なるほどね」

 

433 ◆girrWWEMk6 2006/03/32(土) 00:20:27.14 ID:7/f82+zH0

 

遠くからでは、その不穏分子も大柄な男たちに押さえつけられ、よくその姿が見えない。
そうしてドクオは近くまで寄ろうと早歩きで近寄った。

男の背は平均くらい、だが肉付きは良く、どちらかというと太っているという印象があった。
そいつは押さえつけられながらも、わめき、必死に振り払おうとしていた。
だがその抵抗もむなしく、地べたに張り付くだけだった。

「どけお! ここにカーチャンがいるかもしれないだお! いちいち名前とか、うるさいお!」

その声、語尾には聞き覚えがあった。
いや、聞き覚えなんていうものじゃなく、今までその再会をずっと待ち望んでいた――

('A`) 「ブーン!」

ドクオの放った一言で、うるさかった男の動きがやんだ。

( ^ω^)「……懐かしい顔だお」

それは紛れもなく、懐かしき友人の姿だった。

 

436 ◆girrWWEMk6 2006/03/32(土) 00:32:03.30 ID:7/f82+zH0

 

('A`) 「よかった……そりゃツンに生きてたって話は聞いてたけど、
   こんなにあっけなく会えるなんてな……」

声は喉の奥で震えを起こし、眼窩には小さなしずくがたまった。

('A`) 「おい、どいてくれ! こいつは俺の友達なんだ!」

ブーンのそばに駆け寄り、押さえつけている男たちを急いで退かせた。
ようやく自由になったブーンは立ち上がり、砂埃を手で払った。

( ^ω^)「わけわかんねえお。なんでこんな扱われ方されなきゃいけねえお」

まさにブーンは怒り心頭といった様子で、今まで自分を抑えていた男たちをにらみつけた。

('A`) 「まあだけどさ、良かったよ。ホントに良かったよ。
   生きて会えただけで俺は嬉しいよ。どこも怪我してないか? 平気か?」

( ^ω^)「別にねえお。でもこれは一体どういうことなんだお?
      町はめちゃくちゃだし、島の端っこのほうなんか沈んでるお」

('A`) 「気でも失ってたのか? なんかでかい地震があってな。
   気がついたらこのざまだ。人が大勢死んでる」

( ^ω^)「俺のカーチャンは?」

眉間にしわを寄せて、ブーンはドクオにたずねた。
久しぶりにあった友人に、ドクオは何か微妙な違和感を感じた。
だがその正体はわからなかった。

 

440 ◆girrWWEMk6 2006/03/32(土) 00:44:38.08 ID:7/f82+zH0

 

('A`) 「……わからん。俺たちも今着いたとこなんだ。ただ、お前の家は……」

( ^ω^)「俺たち? 誰がいるお?」

自分の見たあの光景を話しあぐねるドクオの言葉をさえぎり、
ブーンはドクオの話の中にでた単語に疑問を持った。

('A`) 「ああ、俺のカーチャンとな、ショボンも一緒なんだ」

ドクオが振り向き、若い男女と一緒にいるショボンを指差した。

するとブーンの様子は一気に変貌し、親しみどころか憎悪の視線を向けていた。

( ^ω^)「……ショボン……!」

もともと違和感があった雰囲気はさらに刺々しいものとなり、
そのあまりの変化にドクオは戸惑った。

('A`) 「え、おい」

( ^ω^)「ショボン! こんなところにいたのかお前ーっ!」

叫んだブーンは、一目散にショボンめがけて走り出した。
そのままこぶしを握り、腕を振り上げ、ショボンの顔を、殴り飛ばした。

 

442 ◆girrWWEMk6 2006/03/32(土) 00:58:16.50 ID:7/f82+zH0

 

´・ω・`)「ぐぅ!」

( ^ω^)「お前は! なんでのんきにこんなところにいやがるお!」

倒れこんだショボンに覆いかぶさり、馬乗りになって殴り続けた。
殴られたショボン口から血を流し、顔は苦しげなものになった。

ドクオはそのあまりに突然の事態に驚いたが、すぐにブーンをとめにかかった。

('A`) 「おい、何してんだ! やめろ! お前勘違いしてんじゃねえのか!?
   こいつはショボンだぞ!」

( ^ω^)「ショボンだから、やるんだろうがお!」

休む間もなくさらに殴り続ける。
見かねたドクオは馬乗りになったブーンを突き飛ばし、羽交い絞めにした。

('A`) 「おい、どうしたってんだよ! 落ち着けよ!」

( ^ω^)「うるせえお! 放せお!」

落ち着かせようとしても、怖いくらいの気迫、そしてどこから湧いてくるのか、
すごい力のせいでドクオは殴り飛ばされた。

('A`) 「ブーン!」

( ^ω^)「死ねお! ショボン!」

倒れたままのショボンの頭めがけて、思い切り足をたたきつけようとするブーン。

 

449 ◆girrWWEMk6 2006/03/32(土) 01:24:24.42 ID:7/f82+zH0

 

だがそれは未然に防がれた。
ショボンの隣にいた若い男が取り押さえたのだった。

('A`) 「何してんだよブーン! まさか、お前が通り魔だったのか!?」

( ^ω^)「放せおっ! 通り魔って、なんだお!
     ショボン! ショボォォォーン!」

自分よりも背の高く大柄な男に羽交い絞めにされ、ブーンは宙で足をばたばたとさせた。
それでも必死に抜け出そうとするが、地に足がついていないためか、力が入らないのだろう。

 

 

450 ◆girrWWEMk6 2006/03/32(土) 01:25:01.37 ID:7/f82+zH0

 

('A`) 「おい、どうしたってんだよ!」

( ^ω^)「お前は、こんな奴とのんきやってやがってお!」

やかましくわめき、じたばたさせていた足を落ち着け、
的確に自分を絞める男のすねを狙ってかかとをぶち当てた。
男は弁慶の泣き所を蹴られ、思わずうずくまり、力が抜けた。

そこからブーンは脱し、ショボンとドクオの二人をにらみつけた。

( ^ω^)「……ショボン、お前は必ず、俺が……」

この騒ぎの一部始終を見ていた周りの人間によって、
その先はいえなかった。
飛び掛ってくる男たちをすばやく避け、もう一度憎悪をむき出しにした視線をショボンに送り、
ブーンはその持ち前の足の速さを生かして逃げた。

('A`) 「ブーン! おいブーン! 待てよ!」

ドクオは消え行くブーンの背中に叫んだ。
だが返事は返ってくることなく、言葉は風とともに空に消えていった

141 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 02:07:07.06 ID:YcPHmfi+0
 

('A`) 「ブーン……」

あまりに突然の出来事で、ドクオには何がなんだかさっぱりわからなかった。
久しぶりに出会えた友人に何か違和感を覚えたのもつかの間、
その友人はいきなり同じく友人であるショボンを張り倒したのだ。
あれは本気で殺そうとしていた。

('A`) 「そ、そうだ……」

ブーンによって殴られ続けたショボンをみた。
ショボンは鼻や口から血を流していて、片目をやけに細くしていた。
喉の奥から搾り出すようなうめき声をはなっていた。

('A`) 「おいショボン! すぐフサギコさんに診てもらうからな!」

苦しそうにうめくショボンの肩に手を回し、近くにいた若い男と一緒にフサギコ医院へと連れて行った。

ちょうど診察再開というところで現れた傷だらけのショボンの姿を見てフサギコは絶句した。
ドクオが細かいところを端折って訳を説明すると、フサギコは真剣な顔をしてうなずいた。

ミ,,゚Д゚彡「善処しよう」

それを聞いて二人は外に出た。
結局あとはフサギコに任せるしかないのだ。
若い男はそのまま警邏班に合流するといって、道路へと戻っていった。


142 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 02:12:20.58 ID:YcPHmfi+0

('A`) 「……」

ドクオは一人フサギコ医院の前のコンクリート片に座って考えていた。

あのブーンの様子。違和感の正体。
あれは昔のブーンを彷彿させるものだった。

('A`) 「あのときのブーンに、戻っちまったのかな……」

それはブーンと出会ってすぐのことだった。

他の中学で数ヶ月学んだ結果、引っ込み思案で人見知りのするドクオに友人などできず、
いじめられっ子といういやな役割を受け持ってしまった。

周りの生徒たちはみな小さなコロニーを形成している中、
ドクオだけ孤立無援の学生生活を送っていると、どうやらそれはよく目立ったらしく、
クラスで一番バカ騒ぎが大好きな男子生徒に目をつけられた。

はじめこそ、ただバカ騒ぎの延長でからかわれるだけだったが、
それが徐々にヒートアップしていき、気がつけば上靴に画鋲を入れられていたり、
机の中のものがすべてなくなっていたり、机すらなくなっていたりもした。

引っ込み思案のドクオは口答えができず、苦しみの毎日を過ごすだけだった。

日に日に元気をなくしていくドクオの姿を不憫に思ったドクオの母は、
新しくできた人口島、ニュー速の学校に転入させることを提案した。
ドクオは少し迷ったが、大きくうなずいた。

143 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 02:22:37.48 ID:YcPHmfi+0
 

こうしてドクオはこの島にきた。
同日の転入者はドクオのほかに二人いた。
一人は女の子だったため、ドクオは話しかけづらく、もう一人の男子生徒に話しかけることにした。

久しぶりに自分と同年代の男子に話すことは、ドクオには少しつらかった。
また失敗して転入早々いじめられっ子になることが怖かった。
だからドクオは少し気が大きい男子生徒として話しかけることにした。
あの自分の忌み嫌っていたお調子者の男子生徒のように、どちらかというと横柄なしゃべり方を真似てみた。

('A`)「……よ、よう。お、俺ドクオってんだ。よ、よろしく」

真似してみたところで、結局ドクオはドクオで、そこまで横柄そうな感じはでなかったし、
ところどころ上ずり、心なしかどもっていた気がする。

ドクオが話しかけた男子生徒は、弱気そうな顔だった。
だが返す言葉はその顔からは想像できないくらいこなれたものだった。

( ^ω^)「お、ドクオかお。俺はブーンっつーんだお。よろしくお」

このブーンという少年は、語尾におをつけるおかしいヤツとして、
転入早々いじめの対象にされようとしていた。
同じくいじめられっ子だったドクオには、その雰囲気が読み取れた。
ドクオはブーンという少年が避雷針となり、いじめの対象にはならなかった。


144 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 02:37:21.25 ID:YcPHmfi+0
 

ある日、クラスのDQNたちがブーンを体育館裏に呼んだ。
よってたかって暴力沙汰でも起こすのか、それともねちねちと罵るのか。
ドクオはそのどちらかだと判断できた。
自分がそうだったからだ。

DQNたちに囲まれるようにブーンは連行された。
その様子を見ていたドクオは、どうするべきか迷った。
自分と日を同じくして入学した少年がつらい思いをしようとしている。
そう考えると、ドクオはそれをとめるべきか、見過ごし傍観すべきか、迷った。

あの前の学校で行われていた自分へのいじめの最中、
ドクオは自分を助けてくれる味方がほしかった。
誰か助けてくれ。誰か俺をこの地獄から救い出してくれ。
そればかり思っていた。

だが現実は非情だった。
誰もドクオを助けることなく、ただいじめられるだけの日々だけが過ぎていった。

そして今、それが自分ではなくブーンへと移されようとしている。
自分がいじめの最中思っていたこと――助けてくれという思いを、
ブーンも抱くかもしれない。
それを無視していいのだろうか。
あの日の自分のようなつらい思いをさせてしまってもいいのだろうか。

ドクオは迷った末、立ち上がり、体育館裏へと向かった。
ドクオは臆病で、ただ無力だったが、救いの声を見過ごせるほど強者でも弱者でもなかった。


148 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 03:12:10.23 ID:YcPHmfi+0

だが向かった先の体育館裏で、ドクオは唖然とした。
DQNがみな一様に血を流し、倒れていたのだった。
それだけでなく、倒れたDQNの横腹に罵声を上げながらつま先で蹴りあげていた。

( ^ω^)「なんだこの雑魚はお! さっさと立ち上がって反撃するお!
      まだ子どもがおねんねするにも早い時間だろうがお!」

その蹴りは容赦なくDQNの腹にめり込んだ。
うめくこともできなくなったDQNは為されるがままにその蹴りを受け入れていた。

ブーンの罵声は次第に笑みへと変わっていった。
口から漏れる笑い声は体育館裏の小さな空き地に響いた。

( ^ω^)「ウヒヒヒ! こうやっておとなしくしてりゃ、お前らみたいなバカがよってくる!
      その自信満々な鼻をへし折ってぇ、引きちぎってやるのが楽しみなんだお!」

蹴りの対象をDQNの腹から顔になった。
鼻や口からは大量の血が流れ、顔はところどころへこんでいるようにもみえた。

( ^ω^)「ブヒヒヒヒヒヒ! 次は男の大事なところでも潰していってやろうかお! ええっ!」

そういいながらブーンはDQNの股間を思い切り踏み潰そうとした。
意識のないDQNは何も答えられず、ブーンは嬉々として足を落とす――

('A`) 「や、やめろって」

ところでドクオが飛び出した。


150 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 03:31:49.87 ID:YcPHmfi+0

倒れているDQNたちがかつて自分をいじめていた連中とダブって、
はじめこそいい気味だとか思ってみていた。

でもこれは違う。
やりすぎだ。
自分が受けた苦しみ以上のことを、ブーンはしようとしている。

( ^ω^)「ドクオかお……」

('A`) 「こ、これはっ、やりすぎ、だろ……!」

ドクオはこの惨状に、そしてそれを引き起こしたブーンに対し、恐怖していた。
舌はうまく回らず、喉からしぼりだすように必死になっていった。

そんなドクオを、ブーンは横目でみた。
何を考えているかわからない感情のない、
あるいはさまざまな感情が複雑に入り混じっていたのかもしれないその瞳に、
ドクオはますます恐れおののいた。

だがそれでもドクオは引き下がらなかった。
ここで引き下がることは、敗北にも劣ることだと思えたからだった。


153 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 03:40:13.61 ID:YcPHmfi+0

( ^ω^)「……」

('A`) 「……」

無言のまま、どのくらい時間が経っただろうか。
突然、ブーンは足を下ろし、つぶやいた。

( ^ω^)「まあ、やりすぎかもなお」

あまりに聞き分けが良いブーンに、一瞬ドクオは虚を突かれた感触があった。
疑問符が頭の上に出現しそうになるのを必死にこらえた。

( ^ω^)「何バカみたいな面してんだお。さっさと帰るお」

ブーンはそういうと、ドクオの横を通り、さっさと一人で帰路へと着いた。
その場に残されたドクオはこの惨状を教師たちに報告しようか迷ったが、
そうすればブーンの仕業ということがばれ、停学とか自宅謹慎処分になるかもしれないと考え、
どうせDQNたちが自分たちからはじめたことなのだからと、その場において帰ることにした。

いじめられる側の気持ちが少しでもわかればいいのだが、とドクオは心でつぶやいた。


154 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 03:48:21.42 ID:YcPHmfi+0

結局体育館裏で返り討ちにされたDQNたちは、四人中二人が病院送りとなった。
だがブーンが処分されることはなかった。
DQNたちも自分たちがいじめようとして逆に返り討ちにされたなどと説明するのは、
恥ずかしいことだと思ったのかもしれない。
結果、ブーンの起こした惨劇はみなに知れ渡ることはなかった。

それからブーンはだんだんと横柄な態度を取るようになった。
DQNたちをパシリにしたり、クラスメイトにばれないように暴力沙汰を起こしているようだった。

ドクオとしては距離を置いて付き合っていきたい人間の対象となっていたが、
ブーンは妙にドクオを気に入っていたらしく、何かあるとすぐにドクオを誘った。

( ^ω^)「ドクオ、ゲーセンいくおゲーセン」

( ^ω^)「都市部いって遊ぶお。学校なんかふけちまうお」

( ^ω^)「今日はカバンが重いお。おいDQN、これ持てお。ドクオもこいつらにカバン持たせるお」

( ^ω^)「ドクオー」

ブーンはドクオを完全に対等の存在として扱ってくれているらしかった。
それが何故なのか、ドクオにはわからなかったが、
今まで引っ込み思案で背の低いドクオを対等に扱ってくれる同年代の生徒などいなかったから、
それがとてもうれしかった。

だがブーンのDQNや、他のクラスメイトに対する強気な態度は、
かつて自分をいじめていた人間らを思い出させ、それと行動を共にするのは、
如何ともしがたかった。
自分が前の学校のあの人間たちと同様の存在になったように思え、ただ嫌悪しか覚えなかった。


155 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 03:56:04.27 ID:YcPHmfi+0

そしてある日、いつものように、DQNたちにカバン持ちをさせて下校していたときのことだった。
ブーンとドクオは肩を並べ歩き、
その後ろにDQNたちがかしこまったように二人のカバンをもって歩いていた。

何か口を開こうとするDQNに、ブーンは下僕が勝手に喋るな、と一喝した。
そういうことは何度かあったが、そのたびドクオはさすがにDQNたちが哀れに思えてきた。
それに自分のやっていることが本当にいやになってきたのだった。

( ^ω^)「あ? 何陰気そうな顔してんだおドクオ」

ふざけてにやけるその顔を見たとき、ドクオの日々膨れ上がっていた思いが破裂した。

('A`) 「……こういうの、良くねえよ……」

ブーンから顔を背け、つぶやくようにいった。
ブーンは一瞬ドクオが何を言っているのかわからない、という表情をしたが、
その後、無感情な声だけが返ってきた。

( ^ω^)「……なんかいったのかお?」

にやけ面はすっと消え、ただ無表情な顔になった。
細くなった目からは感情が読み取れず、ドクオは恐ろしくなったが、
いったんいった手前、それを撤回することは敗北を意味していたため、
自分の言葉を引っ込めることなく更にいった。

('A`) 「……こういうこと、やるのは、間違ってると思う……さすがに……」

消え入りそうな声だったが、さえぎるものはなく、確実にブーンに聞こえた。


157 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:02:48.63 ID:YcPHmfi+0

( ^ω^)「……でもお前は、いじめられてたんだお? 見た目そんな感じだもんなお。
      毎日こんな風にされたんだろうがお。
      そんで、それと同じことをしようとした連中が、自分と同じ目にあって、
      かわいそうだとか思ってんのかお?」

('A`) 「だからって、俺たちが同じことしていい理由にはなんねえだろ。
   そりゃ憎いさ。怒りだってある。憎悪しかない。
   でも俺がそれをやったら、そのまま俺も憎悪の対象にしかならないだろ……!」

まくし立てるようにいった。
それを聞いたブーンの表情は変わることはなく、その様子をDQNたちは固唾を呑んで見守っていた。
ただ時間だけが流れた。

( ^ω^)「……だったら、もうお前は誘わねえお」

それだけいって、ブーンはまたDQNたちを伴って歩き始めた。
DQNたちは何か言いたげな顔でドクオを見たが、ブーンに怒鳴られて歩速をあげた。

あの時と同じだ、とドクオは思った。
あの体育館裏でブーンと対峙していたときと、同じだ。

でもあの時と決定的に違っていることがあった。
それは、ブーンと自分は別々の道を歩き出したということだった。


160 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:13:26.08 ID:YcPHmfi+0

その日から、二人が話すことはなくなった。
教室でも帰り道でも無言ですれ違うだけだった。

だがブーンは、その圧倒的な力、権力を持っていながらも、
ドクオを苛めることはなかった。
もとは自分の友人だったから、という思いがあったからなのだろうか。
ともかく、ドクオとブーンは話し合うこともなく、苛むこともなく、接触しあうこともなく月日は経った。

そうして三年生になってすぐ、転入生がやってきた。

(´・ω・`)「……ショボンです、よろしく」

転入生の挨拶がそれだけだった味気のない少年は、早速ブーンに話しかけられた。

( ^ω^)「よう、俺ブーンってんだお。よろしくなお」

DQNたちを下僕として従えていた以外、対等の友人などいなかったブーンは、
ドクオに代わる友人がほしかったのかもしれない。

だがそのショボンという少年が、ブーンの言葉を聞いて、返した言葉はこうだった。

(´・ω・`)「語尾におなんて、変な人だね」

もちろんブーンはその言葉に憤慨し、いきなり殴りかかった。
DQNたちはとめようともしなかった。いや、ブーンに恐れ、できなかったのかもしれない。


161 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:20:34.87 ID:YcPHmfi+0

見るに見かねたドクオがブーンを後ろから羽交い絞めにした。

('A`) 「おい、やめろよ! いきなり殴るなんて、おかしいだろ!」

( ^ω^)「逃げたお前にぐだぐだ言われる謂れはねえお! 黙ってすっこんでるお!」

逆上したブーンはドクオの制止を振り払い、またもショボンを殴り続けた。
結局、ドクオをはじめ、他のクラスメイトらが強引に押さえつけ、ようやくとまった。

( ^ω^)「くそっ、放せお!」

五人がかりで押さえつけられていたブーンは、なおもわめき続けた。

その事件以来、ブーンとショボンの対立は日に日に増すばかりだった。
ショボンも最初こそ悪気はなかったようだが、ブーンの態度に怒りを募らせているようだった。


162 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:33:40.86 ID:YcPHmfi+0

ある日ショボンは、DQNたちに呼ばれ、連行された。
ブーンの差し金であるということは、容易に想像できた。
ドクオは迷ったが、以前友人だったブーンに、これ以上高圧的な行為をさせることが許せなかった。

急いで連行された先、体育館裏に向かったが、
またも目に入ってきた光景は、あの時と丸きり変わらないものだった。

倒れ、うめき声をあげるDQNたち。
そのDQNたちが作り上げる円の中で、ブーンとショボンが対峙していた。
二人の顔は腫れ上がり、鼻血をだらしなくたれ流していた。

息は上がり、これまで必死の攻防を繰り広げていたのは想像に難くなかった。

( ^ω^)「……ショボン……!」

(´・ω・`)「……うざったい……」

肩で息をしていた二人の間に、ドクオが割って入った。

('A`) 「おい、やめろよ! やめろ! ケンカにも限度ってもんがある!」

だがドクオは無力だった。
ブーンの蹴りが腹に決まり、ドクオはそのまま崩れ落ちた。
勇気を振り絞ったところで、ブーンの前では、ドクオはただ無力な弱者だった。

( ^ω^)「邪魔するんじゃねえお……!」

(´・ω・`)「……」


163 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:48:33.44 ID:YcPHmfi+0

視界がかすむ。
いい具合にみぞおちに決まった蹴りによって、胃液が逆流し、口からこぼれた。

('A`) 「や……めろ……」

胃液をこぼす口で、必死に訴えるも、かすれた声は言葉にならなかった。
それでも出せる力を振り絞って、ブーンの足にすがった。

( ^ω^)「……小うるさいヤツだお……」

足を何度も振り、必死に払おうとするがドクオは勇んで放さなかった。
それでも放そうとしないドクオの姿を見て、ショボンは校門のほうへ歩き始めた。

( ^ω^)「おめえ、逃げるのかお!」

気付いたブーンが叫び、引きとめようとするがショボンは振り返ることなく姿を消した。


164 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:50:13.38 ID:YcPHmfi+0
 

( ^ω^)「……くそっ! お前が! お前がこんなことしなけりゃ、殺してやったのに!」

ブーンはそういって、ドクオを蹴り飛ばした。
ドクオはうめき声すら上げられず、意識はすでに消えかかっていた。

その様子を見止めたブーンは、更なる追撃をかけようとした足を止め、
ぼろ雑巾のように転がるドクオを伏し目がちにみた。

( ^ω^)「……くそ、俺を拒絶しやがって……くそっ……」

それが、ドクオの聞いた最後の言葉だった。
消えかけた視界では、それをつぶやいたブーンの表情をつかむことはできなかった。
だがとても寂しそうに聞こえた。

そのすぐ後、意識は海底に沈みこむように掻き消え、世界は闇にまぎれた。


165 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:55:55.20 ID:YcPHmfi+0

次に目を覚ました時、ドクオは保健室のベッドの中にいた。
最初に目に飛び込んできたのは、担任教師のモララーだった。

( ・∀・)「……大丈夫か?」

('A`) 「……大丈夫だったら、こんなとこにはいませんよ……」

( ・∀・)「軽口聞けりゃ、大丈夫か。いったい何があったんだ? ケンカか?」

('A`) 「……」

ドクオは答えあぐねた。
ここでブーンによる、第三者への暴力ということが学校に知れれば、
ブーンは停学、下手をすれば前回の暴力事件も合わさり、退学ということにもなりうるかもしれない。

とめにはいって、突然蹴りかかって来たブーンに恨みがないわけではない。
だが最後に聞いたブーンのあの言葉を思い出すと、あの寂しそうな声が妙に気にかかった。

('A`) 「……ええ、俺とDQNらで、とびきりのAVを争って、ケンカしちゃったんですよ」

切れた唇を無理やりにゆがめてにやけ面をつくった。
モララーは一瞬顔をしかめたが、そのことについて何も言及せず、

( ・∀・)「AVはせめて高校生になってからにしろ。あとそれ、いつか貸せよな」

といっただけで、あとは他愛のない会話をするだけだった。
モララーは事実を知っていながら、あえてドクオの考えを汲み取ったのだろうか。
その真否はわからなかったが、結局この件はうやむやのまま、終わった。


167 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:01:15.33 ID:YcPHmfi+0
 

次の日、ブーンとショボンはいがみ合う事もなかったが、話しているところもなかった。
ドクオのときとまったく同じだった。
ショボンは相変わらず無表情で本を読んでいたし、
ブーンはブーンでショボンの存在を頭から無視しているようだった。

何もなければそれはそれで不安だったが、だが何かが起きるよりもずっと良かった。
このまま平穏な日々が続きますように、とドクオは心から願った。

そして月日は経ち、ドクオたちは受験戦争真っ只中にいた。
だが受験戦争とは名ばかりで、実質クラスのほとんどはそのまま高等部へ上がることになっていたので、
ごく少数の受験派以外はこれまでと同じくのほほんとした生活を送っていた。

この間にも、ブーンとショボンの確執じみたいさかいはなく、
クラスのみなもドクオも、平穏無事な日々を謳歌していた。

そんな時、ショボンが登校しなくなった。
モララーは、ショボンの親戚が一度に大勢事故で亡くなってしまった為、
一度本島に戻っている、と説明した。

それを聞いたドクオは少しばかり心配になった。
ブーンとの確執があったとはいえ、同じクラスメイトなのだ。
その親戚一同が亡くなったというのは、さすがに心配になるのも無理はない。


171 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:07:02.97 ID:YcPHmfi+0
 

ブーンはというと、やはり知らん顔だった。
だがその瞳の奥に、何か考え込むようなものを感じた。
感覚的で、何か裏付けがあるものではなかったが、確かにそう思えたのだ。

何日かして、不思議なことが起きた。
ブーンも登校しなくなったのだ。
これまで早退や遅刻はあったものの、毎日来ていたブーンの姿が消え、
ドクオも、いびられていたDQNたちも面食らった様子だった。

まあ一日くらい、と高をくくっていたのだが、
次の日も、その次の日もブーンは登校してこなかった。

ブーンが登校しなくなってから数日が経った後、モララーは朝のホームルームで
ブーンの単身赴任中の父親が危篤状態だから、と説明した。

だがそのタイミングはショボンの不登校とあまりにも合いすぎていた為、
クラスでは二人の間に何か問題が起きたのではないだろうか、と勝手な憶測が飛び交った。

ドクオもそう感じていた節があったのだが、あえて何もいわなかった。
勝手な憶測だとか、そういうのがあまり好きではなかったということもあったのだが、
何より二人のことが心配だったから、余計なことはいいたくなかったのだ。

不仲になったとはいえ、自分のクラスメイトと、元友人だった人間だ。
心配にならないわけがない。


172 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:13:11.32 ID:YcPHmfi+0

それから一月が経った。
雨の降る日、ドクオがいつも通り登校していると、後ろから声をかけられた。

( ^ω^)「……はぁ……はぁ……おはようだお!」

息を乱しながら走りよってきたのはブーンだった。
突然フレンドリーに話しかけられ、ドクオは面食らった。

( ^ω^)「ん? どうしたお?」

不思議そうにドクオの顔を覗き込むブーン。
久しぶりに話した友人の様子に、ある種の気味の悪さを感じたが、
冷静を装い、上ずった声で挨拶を返した。

('A`) 「あ、ああ、おはよう。親父さん、どうなったんだ……?」

ドクオの挨拶に混じった問いに、ブーンははっとし、うつむいた。
どうやら、峠を越せなかったらしい。

('A`) 「あ、す、すまん……」

( ^ω^)「いや、いいんだお……どうせ、あまり記憶になかった人だお……」

口ではそういっていたものの、どう見てもそれはどうでもいいという風には見えなかった。
そのままのムードで、ブーンとともに教室にはいった。

教室には、懐かしいクラスメイトの姿があった。

('A`) 「ショボン……」


173 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:14:49.34 ID:YcPHmfi+0
 

ショボンはその普段通りの無表情な顔で、机に着いていた。
ブーンが登校し始めたその日に、ショボンも登校してきた。
そのあまりにいいタイミングに、少し疑心がわきあがってきた。
この二人、何か関係があるのだろうか。

ドクオがそんなことを考えていると、ブーンがいきなりショボンに話しかけた。

( ^ω^)「……きょ、今日はいい天気だおね」

ドクオは驚いた。
まったく会話の発端にもならない言葉だったが、
いつもの敵意はまるっきりなく、どこか余所余所しいながらも、まじめに話しかけているようだった。

突然話しかけられたショボンは、驚いたように体をそらしたが、即座に外を見ていった。

(´・ω・`)「……え、今雨降って……」

その返答にも驚いた。
これまで敵意を丸出しにされていたのに、
当然のように素で返すショボンの態度は、不思議なものだった。

( ^ω^)「……えーあー……」

ブーンは真剣に会話の種を探そうとしているのはすぐに分かった。
さっぱり理解できない状況ながらも、ドクオはとりあえず助け舟を出すことにした。


174 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:15:26.12 ID:YcPHmfi+0

('A`) 「……とりあえずな、こいつはお前のことを心配してんだよ」

(´・ω・`)「え……」

虚を突かれた顔のショボン。

( ^ω^)「じ、自分だって心配してたくせに何言ってるお!」

('A`)「や、いや、俺は心配なんてしてないぞ!
   ブーンが心配してたからな、俺もそれを見て心配になったんだ!」

自分で言ってから、気付いた。
ショボンが登校しなくなった日のブーンのあの顔。
あれはショボンのことを心配していたのではないだろうか。
いくらいがみ合っていたとしても、やはりショボンのことが心配だったのではないだろうか。

ドクオとブーンの掛け合いを見て、ショボンは一言だけ、ありがとうとつぶやいた。
その言葉にも、いちいち驚くドクオだった。

ブーンとショボン、そしてドクオの三人が仲良くなったことは、クラスの中では事件として扱われた。
人当たりが良くなったブーンは、DQNたちを下僕扱いすることもなくなった。

ブーンは食事の際、ドクオとショボンを誘った。
都市部に遊びに行こうと二人を誘った。
積極的に三人で遊ぼうとし、いつしかドクオの中の疑問もなくなった。
ショボンも次第に心を開くようになり、三人の仲はますます深まっていった。


176 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:16:48.18 ID:YcPHmfi+0
 

('A`) 「……それなのに、ブーンは、また……」

あのすさんだ時期のブーンに戻ってしまった。
この地震が起き、自分の知らないところで、一体何があったのだろうか。
ドクオは頭を抱え悩んだが、何もわからなかった。

そうやって考えているうち、かなりの時間が経った。
だがショボンはフサギコ医院から出てこなかった。

('A`) 「……死ぬような怪我じゃ、ないよな……」

そうは思ったが、やはり心配になってきたドクオはフサギコ医院を覗いてみることにした。
診療室にショボンの姿はなく、いったん仕事に区切りがついたフサギコが小休止を入れているところだった。

ミ,,゚Д゚彡「お、ドクオくん。どうしたんだ?」

('A`) 「いやあの、ショボンはどうしたのかなって……」

ミ,,゚Д゚彡「ショボンくん? さっき治療を終えて、部屋から出て行ったんだけど……」

フサギコがそういうと、そばにいた看護士が思い出したように付け加えた。

「ショボンくんならトイレにいったよ」

その言葉を聞き、ドクオはトイレにいってみた。


177 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:17:08.38 ID:YcPHmfi+0
 

だがトイレの個室はすべて開け放されており、トイレのどこにもショボンの姿はなかった。
小さなガラス窓は開けっ放しになっており、その窓の外には、二つの足跡があった。
飛び降りたときの重みでついたものだろう。

('A`) 「あの野郎……っ」

つまり、ショボンはトイレからこのフサギコ医院を出て、どこかへ向かったということだ。
今のショボンが向かう先はただ一つ。
自分を殴ったブーンのもとだろう。

突然自分を殴った報復か、それ以外に何か意図があるのか分からない。
だがブーンはあの時、ショボンを殺すといった。殺意もあった。
だから、ほうっておくわけにはいかない。

ドクオはすぐさまフサギコ医院を飛び出し、ブーンの消え去ったほうへと走り始めた。
日は高く、昨日に比べ、比較的暖かい時間だった。

 

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