157 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 15:53:00.08 ID:14juKQqa0
――Intrelude - 2――
同日 時刻不明


男がまた獲物を探して狩りを始めた。

金色に輝く金属の棒を引きずる様に歩く。

ガラガラとアスファルトを削るその音は、
誰もいないこの町に大きく響いた。

ふと目の前を何者かが横切った。

二人分の影。

一人は長身痩躯の男。
一人は小柄な少女。

少女のほうは、男の相手にもならないだろう。
実質獲物は一人。
しかも背が高いだけで二の腕や胸板は細く、
てこずることもなく殺れるはずだ。

『武器』を引きずりながら、男は駆けた。

河辺を歩く二人の男女目指して。
 


158 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 15:55:41.14 ID:14juKQqa0
――ブーン――
同日 PM 0:40


最大の近道である橋が崩れており、遠回りするしかなくなったブーン。
河辺を急いで走った。
50メートル走をずっとやらされているような疲労に、
そろそろブーンの足ももつれ始め、筋肉が思うように動かなくなってきた。


( ^ω^)「!」


道端で、また人が倒れていた。
若い女だった。
女の周囲に血は流れておらず、もしかするとまだ生きているかもしれない。
ブーンはすぐさま女の傍に駆け寄り、抱き起こした。

脈を取る。



……生きている!
 


159 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 16:03:19.62 ID:14juKQqa0
( ^ω^)「おい、大丈夫かお! しっかりするお!」

女の頬を軽く叩く。
何度か叩いた後、女は呻くような声を上げ、ゆっくりと目を開けた。

( ^ω^)「大丈夫かお!? 僕が分かるかお!?」

ξ゚听)ξ「……あんた、誰……」

女はそう答えた。
まだ目を覚ましたばかりで気だるそうな声だったが、
しかし外傷はなく、意識も次第にはっきりしてきたようだった。

( ^ω^)「大丈夫かお?」

ξ゚听)ξ「……なんか不細工な顔が見えるわ」

(#^ω^)「それだけ軽口叩けるならもう安心だお」

密かに気にしていた自分の顔をあっさりと告げられ、
ブーンは内心心外だったが、久しぶりに生きている人間を見つけることが出来た嬉しさも、
ブーンの中に確かにあった。


161 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 16:23:37.32 ID:14juKQqa0
女はゆっくりと立ち上がり、辺りを見渡した。

ξ゚听)ξ「……なんなのよ、これ……」

まだ目覚めたばかりで、自分のおかれている状況が把握できていない様子だった。

無理も無い、とブーンは思った。
自分も初めは何も理解できなかったが、辺りで死んでいる人間を見て、
自分のおかれている状況というものをゆっくりと把握していったのだ。

( ^ω^)「……どうやら、大きな地震があったみたいだお……」

ブーンがそう告げると、女は信じられないといった顔でブーンに迫った。

ξ゚听)ξ「地震って……何で地震程度でこんなことになってるのよ!
     めちゃくちゃじゃない……!
     あたしの家族はどこ!? お姉ちゃんは!?」

混乱しきった頭で、ブーンに詰め寄った。
だがブーンには、さっき知り合ったばかりの女の家族なんて分かる訳も無かった。
 


162 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 16:24:41.97 ID:14juKQqa0
( ^ω^)「お、落ち着くお」

ξ゚听)ξ「お姉ちゃんは? お姉ちゃんはどこ!?」

ブーンの胸倉を掴み、ぶんぶんゆすった。
次第に声は震えだし、眼窩には涙がたまっていった。

( ^ω^)「……」

ブーンには何もいえなかった。
道端に点々と存在した死体の数々を見れば、
安易に大丈夫だといえる状況ではないことを悟っていた。

ξ゚听)ξ「何とか言いなさいよ……! お姉ちゃん……」

女はとうとう地にへたり込み、泣き出してしまった。
ブーンは、慰めることも、叱咤することも、何も出来なかった。


163 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 16:26:27.57 ID:14juKQqa0




しばらくして、女はようやく泣き止んだ。

ξ゚听)ξ「……あんた、誰?」

顔を上げ、ブーンの顔をまじまじと見つめる少女。
その目は赤く、頬は涙が伝ったあとがくっきりと見て取れた。

( ^ω^)「僕はブーンだお。そこの高校の生徒だお」

ブーンはなるべく明るく話した。
ブーンには何も出来ないが、せめて明るい雰囲気だけでも作ってやりたかった。

ξ゚听)ξ「……あたしは、ツン。来週からあんたと同じ学校に通うようことに……なってた」
 


164 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 16:32:58.03 ID:14juKQqa0
自嘲じみた笑みを浮べ、過去形でそう語った。

悔しいが、確かにそうなる。
こんな状況では、この町自体の復旧も難しく、下手すればこの島の放棄ということも……。

( ^ω^)「そうかお。よろしくだお!」

ξ゚听)ξ「……よろしく」

( ^ω^)「とりあえず、僕はカーチャンの元へ急がなくちゃだお。
      カーチャンの無事を確かめたいお」

ξ゚听)ξ「あんたのお母さんも、行方不明なの……?」

( ^ω^)「行方不明ということはないお。
      家にいるはずだお。だから、迎えに行くお!」

ツンは一瞬哀れそうな目でブーンを見たが、すぐさま顔をしかめ、ブーンから目をそらした。

ξ゚听)ξ「……あんたんち、どっち?」

( ^ω^)「この河の向こうだお。
      そこに橋があったんだけど、地震で壊れちゃってて、通れなかったお。
      だから、この先の学校のそばにある橋で向こう岸へ渡るつもりだお」

ξ゚听)ξ「……」
 


165 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 16:37:46.83 ID:14juKQqa0
ツンは口に手を当て、何かを考えているようだった。

ξ゚听)ξ「……あたしの家もそっちなの。
     姉のことが心配だし、でもこの辺の地理はよく分からないから、
     一緒について行ってもいいかしら?」

ツンの申し出を、ブーンは快く引き受けた。

( ^ω^)「もちろんだお! 一緒に行くお!」

ブーンはしゃがみ込んでいるツンに手を差し伸べた。
これからよろしく頼む、という意味合いだったのだが、
ツンはその手を払いのけて自分の足で立って見せた。

ξ゚听)ξ「さっさと行きましょ」

そう言って歩き出すツン。
ブーンは内心不服だったが、何も言わずツンの隣を並んで歩いた。

 

170 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 17:41:40.73 ID:14juKQqa0
――ドクオ――
同日 PM 0:35


時間は少々遡る。

ドクオたちは手分けして近所の家々を見て回ったが、
結局生きている人間は誰もいなかった。

ただ靴が乱雑に散らかっており、それはどう見ても人為的なものだったので、
もう無事な人間はみな逃げた後のようだった。


171 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 17:44:37.69 ID:14juKQqa0
どこに逃げたのかは分からないが、まだ遠くへは逃げていないはずだ。
つまりここから行ける緊急避難場所というと、
ドクオたちの通う学校か、
もっと北のほうにあるフサギコ医院ということになる。

学校へ行く道からドクオたちはやってきた。
だがまだ生きている人間を見ていない。

ということは。

J('ー`)し「みんな、フサギコ医院のほうに逃げたのね……」

電柱に寄りかかるようにして座っている母が、そう言った。

172 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 17:48:32.23 ID:14juKQqa0
フサギコ医院は『医院』という名称通り、大きい医療施設ではない。
このニュー速で一番大きい医療施設は、都市部中央付近にあるニュー速総合病院だ。
しかしフサギコ医院は近くにニュー速体育館があるため、
簡易的な医療施設と収容施設を兼ねた案外万能な緊急避難場所だった。

('A`)「かもしれない。カーチャンの足のこともあるし、俺たちも病院へ行こうか。
   学校はおそらく、まだ医療関係の準備は出来ていないはずだし、
   何よりブーンが近所の人たちと一緒にフサギコ医院へ向かったことも考えられる」

J('ー`)し「あたしはどっちでも構わないよ」

('A`)「なぁ、ショボン、お前はどう思う?」

ドクオがなにやら考え込んでいるショボンに声をかけた。
しかしショボンはドクオの言葉など上の空のようだった。

173 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 17:50:44.24 ID:14juKQqa0
もう一度、今度はショボンの耳に届くよう、はっきりとした声で問うた。

('A`)「ショボン、お前はどう思うんだ?」

はっとドクオの顔を見るショボン。
いつもと同じ無表情なその顔は、一体彼が何を考えているのか、
悟られないようにするための仮面のように見えた。

(´・ω・`)「……ごめん、僕、ちょっと気になることができたんだ」

('A`)「気になること……って、そういえばショボン、
   お前の両親はどうしたんだ?
   もしかして……」

(´・ω・`)「いや、両親は都市部で勤めているからね、
      正直確認のしようがないから今は考えないようにしてる。
      僕が考えているのは、友人のことだよ」

('A`)「ブーンか?」


174 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 17:53:14.33 ID:14juKQqa0
(´・ω・`)「違う。君たちは知らない友人。
      多分まだこの辺で寂しげにしてるはずだから、
      行ってやらなきゃって思えてね」

ショボンのその言葉は、ドクオには真実かどうかなんて分からなかった。
当たり前のようにその顔は、いつもと変わらない無感情そうな顔だった。

('A`)「……そうか。じゃあその友人ってのを連れて、フサギコ医院へ来てくれ。
   俺はカーチャンを連れて行く。お前が帰ってくるまでにブーンのやつも見つけておく」

(´・ω・`)「……わかった」

ショボンはそう残し、元来たほうへと戻っていった。
金属バットを肩に乗せ、まるでどこかへお礼参りにでも行くような格好だった。

('A`)「さて、じゃあ俺たちも行こうか。
   カーチャンの足、早く診てもらわないとな」

J('ー`)し「そうね」

ドクオはまた母を背負い、歩き出した。
背中に感じる母の温かみは、もしかするとブーンも生きていてくれてるんじゃないか、と
そう思わせてくれた。

 

176 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 18:05:18.29 ID:14juKQqa0
――弟者――
同日 PM 0:57


l从・∀・ノ!リ人「おとじゃー、つかれたのじゃー」

(´<_` )「もう少しだ、頑張れ」

弟者が妹者の手を引きながら歩いていた。
さきほどまで元気だった妹者も、兄者と別れてからはいつもの元気が
無くなってきた様だった。

あの橋から学校まではさほど遠いわけではないが、
弟者たちは遠回りしながら向かっていた。

いい加減道に転がるぼろきれの様な死体に、弟者は気付いていた。
だがそれを妹者に見せまいと、わざと道を変えて歩いていたのだ。
 


177 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 18:08:34.67 ID:14juKQqa0
(´<_` )「(……この世界はどうなっちまったんだろうな……)」

弟者はふと思った。

道端に死体が当然のように転がり、家々は潰れ、
所々火の手があがっているような世界なんて、つい先日まで思いもよらなかった。

しかしこれは確固たる現実だった。
人の死体も、崩れた橋も、手に握る妹者の温かみも、
すべてが現実だった。

(´<_` )「(俺が諦めたら、ダメだよな……)」

妹者を一人ぼっちにさせるようなことがあれば、
また母者にコブラツイストを決められ、マウントポジションで顔をボコボコに
変形させられるだろう。
 


183 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 19:18:22.53 ID:14juKQqa0
(´<_` )「(必ず生きて帰らなければ……)」

妹者と、兄者と、母者と父者。
流石家族全員で何としても生き延びてやる。
一生ニートでも構わない。
また一時間前のような、平穏な日々を過ごしてやる。

弟者がそう心に決めたその時。






後ろからアスファルトを削るような音が聞こえてきた。
 


194 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 21:30:20.39 ID:14juKQqa0


(´<_` )「ん、なんだ?」

弟者が振り返ろうとしたとき、瞬間的に黄金色の光が見えた。

その次の刹那、妹者の手を引いていた右腕に酷い鈍痛が襲ってきた。


(´<_` )「うおお……っ!」


皮膚に、筋肉に、骨に響く痛み。
腕はもう一つの関節が出来たかの如く、おかしな具合に曲がっていた。
 


195 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 21:34:18.99 ID:14juKQqa0
蹲り、腕を抱いた。
しかし触るだけでも意識が飛びそうなほどの痛みがあった。
何が起きたかも分からない。
ただ何ともないはずの頭が痛み、胃からは激しい嘔吐感が迫ってきた。

何度も失いかける意識を必死に繋ぎとめ、光の発信源を見た。


男がいた。
ただ無表情そうな顔がそこにあった。
だがしかしその二つの瞳の奥には冷徹さと非情さを剥き出しにしていた。

男の左腕にあるのは、金色の金属バット。

l从・∀・ノ!リ人「おとじゃー!」

妹者が混乱した面もちで、兄の名を呼んだ。
どうやらあの金属バットで殴られたのは弟者の腕だけらしく、
そう考えると弟者は少しばかりほっとした。
 


196 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 21:38:34.66 ID:14juKQqa0


男の左腕が上がり、金属バットが振り上げられる。

弟者は痛みを堪えて立ち上がった。
立ち上がるだけでも広がる痛み。
それは自分が生きていることの証であり、
生きて帰る為にはこの場をどうにか凌がねばならないという、
強い意志を奮い起こすものだった。


(´<_` )「……妹者……とにかく学校に向かって走れ」

l从・∀・ノ!リ人「おとじゃはどうするのじゃ」

(´<_` )「俺もさっさとこいつを倒して逃げるだけだ……。
      学校で落ち合おう。いいな?」
 


199 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 21:43:00.97 ID:14juKQqa0
弟者が男の目を見、牽制しながら妹者に指示した。
妹者はこの状況の危険性を察しているのか、なかなか動こうとしなかった。
自分の兄が殺されるかもしれないという状況に、
すんなりと逃げられるほど、幼く、しかし老成してもいなかった。

l从・∀・ノ!リ人「おとじゃー……」

どうすればいいのか分からず、妹者は次第に声が震えてきた。

(´<_` )「いいからさっさと行け!」

弟者の怒声が、妹者の足を動かす。

妹者は何度か振り向きながらも、学校のほうへ走って行った。

(´<_` )「(初めてこんな大怪我したな……)」

全く、本当に自分がこれまで平和で穏やかな日々を送っていたのかがよく分かった。
今いるこの世界は、下手すれば死んでしまう世界なのだ。
道端にゴミ屑のように転がる死体と同じく、一瞬の気の緩みで自分もあんな風になってしまう世界なのだ。
 


203 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 21:49:46.34 ID:14juKQqa0
妹者を先に逃がした弟者であったが、正直運動をあまりしない弟者には、勝算などなかった。
しかしむざむざ自分から死のうと思ったわけではない。
弟者は覚悟を決めた。
ここでこの男を、自らの力で退ける覚悟だ。
死ぬ気になれば何でも出来るという先人の言葉を信じてみたかった。


男が振り上げたバットを勢い良く振り下ろした。
弟者の脳天目掛けて振り下ろされたその一撃は、空を掠めた。

後ろに飛び退いた弟者が、しきりに苦痛に顔をゆがめた。
折れた腕が、動くたびに痛みを増してくる。

男は何を考えているのか分からない表情で、振り下ろしたバットを構え、
突き、薙ぎ払い、振り上げた。
それを全て間一髪でかわす弟者。
男は振り上げたバットをそのまま返す刀で叩きつけるように振り下ろした。
好機とばかりに弟者は左に少しだけ避け、
非力な右足で懇親のヤクザキックを放った。
 


205 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 21:53:04.72 ID:14juKQqa0
弟者の蹴りは男の鳩尾付近にぶち当たり、男は初めて声を漏らした。
低い獣の呻きのような声質だった。


逃げるなら今がチャンスだった。
腹にダメージがある相手は動きも鈍るということを、弟者はネットで見た覚えがある。

振り返り、腕をかばいながら走った。
額には脂汗が浮び、頭痛は更に酷くなった。
腕が体全てと繋がっているかのような痛みに、次第に足は動きをやめそうになる。


(´<_` )「(……誤算……だった)」


自分の予想では、もう少し、せめて男を振り切れるくらい走れるものだと思っていたが、
現実はそう甘くないらしい。

 

207 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 21:57:25.49 ID:14juKQqa0
足を止め、十数メートル先にいる男を見た。
男は金属バットを握りなおし、弟者と向かい合った。
ゆっくりゆっくりと近づいてくる男。
弟者に逃げる気がなくなったのを悟ったらしい。

(´<_` )「(……兄者と妹者だけでも生き延びてもらえるのなら……)」

――それだけで十分だ。

目を閉じ、近づいてくる死を待った。
結局遅かれ早かれ自分は死ぬ運命だったらしい。
ただ、自分自身の覚悟もなく死ぬわけではなく、
死ぬ前に兄者や妹者たちと会えただけでも嬉しかった。

(´<_` )「(……絶対に生き延びろよ……)」

足音が次第に大きさを増す。
そして、その足音が頂点にまで達し――。




「やめるおーーーーーっ!」

遠くから、一つの声が聞こえた。


 

237 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 00:01:05.44 ID:UWY2xIpP0

( ^ω^)「……」

ブーンは自分が恥ずかしくなった。
遠くで死ぬかもしれない人間を見つけても、いざ目の前に困難がぶつかって来れば
躊躇し、怯え、逃げようとする自分が嫌になった。

橋の向こうでは、女の子が学校のほうへ駆けて行った。
背の高い男はまだ襲い掛かる暴漢と対峙しているらしい。
あの少女を逃がすために。

――そうだ。
僕はこんなところで怯えている場合ではない。
少女を逃がすために一人残ったあの背の高い男。
それだけの勇気を僕も持たなければ、母どころか、自分自身の身だって守れるわけがない――!

一歩足を橋の上に乗せた。もう一歩。

慎重だった歩みは段々と早くなり、五メートル進む頃には
もう駆け足になっていた。
ツンを追い越し、全力で暴漢のところへと向かった。
すれ違いざま、ツンが少し微笑んだように見えた。

( ^ω^)「やめるおーーーっ!」

何十メートルか先にいる暴漢が、ブーンの声に気付いた。

顔を見られまいと空いた右腕で顔を覆い隠しながら、男は去って行った。



247 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 00:33:57.82 ID:UWY2xIpP0

男が去り、一人取り残された背の高い男。
腕を押さえているところから、どうやら腕を痛めてしまったようだった。
いや、暴漢の持っていた『武器』は金属バットだった。
あれで殴られれば、骨折、少なくとも骨にひびが入っているかもしれない。

ブーンは駆け寄り、男に声をかけた。

( ^ω^)「大丈夫かお!?」

男は顔をしかめながら、ブーンを見た。
どうやら相当に痛むらしい。

(´<_` )「……助かった……のか……」

男は呻くように、そう呟いた。
立ち上がろうとして、よろめき、ブーンに寄りかかった。

249 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 00:49:49.01 ID:UWY2xIpP0
( ^ω^)「だ、大丈夫かお!?」

(´<_` )「も、問題ない。腕が折れただけだ……」

男の顔には脂汗がびっしりと浮び、顔色は真っ青だった。
もしかすると、骨折による発熱を起こしているのかもしれない。

(´<_` )「そ、そうだ、女の子を見なかったか……?」

( ^ω^)「女の子って、髪の長い小さな子かお?」

(´<_` )「そ、それだ……あれは俺の妹なんだ……。
      無事学校に着いてくれればいいが……」

男は自身が意識を失いかけているような状況でも、妹の身を案じていた。

( ^ω^)「大丈夫だお、ちゃんと学校のほうへ走っていくのを見たお!」

ブーンは見たままを話した。
それを聞いた男は苦しそうに、しかし喜ぶように口元を緩ませた。

250 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 00:53:22.90 ID:UWY2xIpP0
(´<_` )「そ……そうか……。
      しかし助かった……ありがとう、少年……」

( ^ω^)「ブーンだお! こう見えても17歳だお!」

(´<_` )「なるほど……俺は弟者だ……
      悪い、どうやら意識がもう……」

そう言い残し、弟者はふっと白目を向き、ブーンに全体重を預けた。
一瞬ブーンは死んでしまったのか、と心配になったが、
荒く、微かながらも息はちゃんとしていた。
安堵感に気が緩み、それまで気丈にも保っていた意識が途切れてしまったのだろう。

後ろからツンが息を弾ませながら駆けてきた。

ξ゚听)ξ「はぁ……それ、もしかして……」

( ^ω^)「いや、気を失っているだけだお。
      でも腕が折れてるお。早く学校へ連れて行くお!」

ブーンは弟者を背負おうと試みたが、如何せん長身の弟者の体は
ブーン一人で背負うには荷が重すぎた。
ツンは見るに見かねて、弟者の足を持った。
二人で担架を運ぶようにして、弟者の体を掴み、学校へと運んで行った。

256 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 01:21:03.13 ID:UWY2xIpP0
――ジョルジュ――
同日 PM 0:51


( ゚∀゚)「くそっ、ここもか……」

ニュー速グラウンドへ向かったジョルジュだったが、
心配していた事が起きてしまった。

地震による橋の倒壊である。

都市部には多くの川が流れており、都市部内を移動するには、橋を通ることが必要条件だった。
しかしその橋の多くは、地震により無慈悲にも崩れ落ちていた。

ジョルジュは胸ポケットから手帳を取り出し、自作の都市部の簡易地図に×を書き加えた。
地震ですっかり変わってしまった街を歩き回るには、
こうして少しでも地割れや、倒壊しそうなビルなどの位置を把握しておくことが
重要だとジョルジュは考えたのだ。

マッピングは、ウィザードリィシリーズをプレイしていたジョルジュにはお手の物だった。


258 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 01:27:13.43 ID:UWY2xIpP0
( ゚∀゚)「しっかし、このままじゃニュー速グラウンドに行くことも難しいぞ……」

そうなのだ。

この都市部に流れる川の数は、大体四筋ほどある。
最初にジョルジュがいた場所からニュー速グラウンドに向かうには、
二筋の川は渡らなければならなかった。

だが実際には、一筋目の川を渡るまでに×印が2つ付いた。
そして二筋目の川を渡る前に、四つある橋のうち、もう3つ×印が付いた。

つまり残るあと一つの橋も崩落していれば、ジョルジュはまた一筋目の川へと戻り、
新たなルートを探さねばならなくなる。

( ゚∀゚)「……大事だな」

ポケットからラッキーストライクを取り出した。
箱の中に手を突っ込み、残る本数も少なくなっていることに気付いた。

( ゚∀゚)「八方塞じゃねえか……」

259 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 01:32:28.96 ID:UWY2xIpP0
独り言が多くなった、と自分でも思う。
先ほどまでいた一緒に居た名前も知らない大勢の人間が、一瞬で死んだのだ。
人恋しいのかもしれない。

しかし異常だ。
何故ここまで生存者が少ないのだろうか。
今までジョルジュが見た生存者は、三人。

一人はあの若い女。ビルの屋上広告に潰されてしまった。
一人はどてっ腹に鉄骨が生え、今にも息が絶えんとしていた初老の男。
そして最後は、生き残ることよりも狂い死ぬことを望んだ若い男。
それら以外の人間は、未だ確認できていない。
もしかして、ジョルジュが地震直後、少しばかり気を失っている間に
みんな避難したのだろうか。

260 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 01:36:00.32 ID:UWY2xIpP0
( ゚∀゚)「たったあれだけの時間で、できるわけないよな」

気を失っていたのは15分ほど。
これだけの間に、避難なんてできるわけがない。

じゃあどういうことなのだろうか。

ジョルジュがタバコを吹かしながら思案を巡らせていると、
遠くから一人の男が手を振りながら近づいてきた。
長身で、しかしその肩幅の狭さから、
ジョルジュには思わず、生まれたばかりの頃にやっていた某ニ○レットのCMの
マスコットキャラのように見えた。

 

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