223 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 23:17:10.51 ID:14juKQqa0

――ブーン――
同日 PM 0:50


ツンと二人で肩を並べて歩いていた。
会話はなく、二人の間にあるのはただの沈黙だった。
そもそも、こちらが話しかけようとも、会話があまり成立しない。
明らかにツンはブーンを避けている。
いや、もしかしたら避けているのではなく、元々気に掛けてなどいないだけかもしれない。
なるほど、このツンという名前はツンツンしているからツンなのだな、
とブーンはしみじみ思った。

ちらりとツンの顔を見た。
顔色に異常はなく、平然としている。
背筋は真っ直ぐ伸び、眼差しはどこか遠くを見つめるようだった。
 

 

 


 


224 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 23:29:17.54 ID:14juKQqa0
もう倒壊した家々がほとんどの、この地獄のような町並に順応したらしい。
そんなバイタリティに富んだツンを、少しうらやましく思う心がある。

ブーンは混乱こそ無くなったものの、この世界に順応することはできない。
どこかで、これが現実でなければいいのに、と思う節が多々あった。
カーチャンのことも心配だ。
家はどうなっているのだろうか?
カーチャンは?
それにドクオやショボンたちはどうしているのだろう?

色々な疑問が脳裏を過ぎる。

だが結局のところ、ブーンたちは立ち止まることなく
歩き続けることしかできなかった。
そんな自分が歯痒くて仕方がない。


226 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 23:40:14.86 ID:14juKQqa0
誰かを助けることも、支えることもできない自分が、
何故この世界に生きているのだろう。

答えの見つからない問いの袋小路に迷い込み、
疑心暗鬼と自己嫌悪に陥りそうになった時、
隣のツンが「あ」と小さく漏らした。

ツンの視線の先を見た。

向こう岸、数十メートル先に、二つの人影があった。
背の高い男が小さな少女の手を引いている。
兄妹だろうか。
何はともあれ、ツン以外の生存者を見つけることが出来たのは、嬉しかった。
大声で呼んでみようとした矢先、ツンの視線が別のところにあるのに気付いた。
 


229 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 23:49:16.35 ID:14juKQqa0


男女の数メートル後方に、何やら棒のようなものを持った男が見えた。
その男は男女に走り寄り、いきなり棒を背の高い男の腕にたたきつけた。

ξ゚听)ξ「ちょっと!」

ツンが思わず声をあげた。
ブーンも予想だにしていないその光景に、ただ驚くだけだった。

( ^ω^)「……通り魔かお!?」

ξ゚听)ξ「助けなきゃ!」

そう言った瞬間にはもうツンは走り出していた。
ブーンもそれに賛同し、全速力で駆けた。

向こう岸に行くには、学校側の橋を渡るしかない。
距離的にはあまり長くないが、しかしそれまであの男女が無事でいるという保証はどこにもない。
ただ分かるのは、これが一刻を争う事態で、
しかし自分に出来ることなど数の加勢以外何もないということだった。



233 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 23:54:05.97 ID:14juKQqa0


いつの間にか先に走り出していたツンを抜き、
一人橋の前に立っていたブーン。

( ^ω^)「……これ、向こうの橋みたいに落ちちゃわないかお……」

落ちていた橋とほとんど同じ構造をしたこの橋も、
同じく地震で倒壊寸前なのではないだろうか、とブーンは心配になった。

ただ見た目だけでは、ひび割れなどはあまりなく、乗り捨てられた乗用車が
幾つか橋の上に取り残されている。
それは、乗用車ほどの重さの物でも支えられるほどの
強度を保っていると見ても良いものか……。

悩んでいるブーンにようやく追いついたツンは、
訝しげな顔をした。

ξ゚听)ξ「……行かないの?」

( ^ω^)「……渡ってる途中で落ちたりしたら……」

そう答えるブーンに、ツンは冷ややかな視線を送った。


235 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 23:56:32.89 ID:14juKQqa0

ξ゚听)ξ「あんたね、向こうじゃ人が襲われてんのよ?
     小さな女の子だっているのよ?
     それをあんた、橋渡るのが怖いからって放っておけるの?」

( ^ω^)「……そ、そういうわけじゃないお……」

ξ゚听)ξ「最低」

ツンはそういい残すと、ブーンを顧みることなく橋を渡り始めた。
橋は倒壊する様子もなく、そのまま昨日までと同じく
至極当然のようにそこに架かっていた。


 

268 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 02:02:56.76 ID:UWY2xIpP0
――ブーン――
同日 PM 1:24


弟者を学校に運んだブーンとツンは、学校の体育館に収納されている30人ほどの人々を
少し離れたところで見つめていた。

弟者は学校で待機していたボランティアの人々により、
応急処置を施され、校舎内にある簡易入院施設に運ばれた。
弟者の言っていた少女、妹者はずっと泣きながら、弟者に縋りついた。

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「……」

捜してみたものの、この学校にはブーンのカーチャン、ツンの姉、ドクオやショボンたちの姿はなかった。
校門前に待機しているボランティアの人もそれらしい人は見ていない、と話した。

一刻も早くブーンは母を捜しに行きたかった。
しかしここから家へは、大分ある。
もしかするとブーンたちが捜しに行くのと入れ違いになるかもしれないと思うと、
動くに動けずにいた。

271 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 02:15:43.35 ID:UWY2xIpP0
突如、トントンと誰かに肩を叩かれた。
振り返ると、そこにはまぶたを泣き腫らした妹者が立っていた。

l从・∀・ノ!リ人「……ありがとうなのじゃ……」

口を開くと早々に、妹者は謝礼の言葉を述べた。

( ^ω^)「いや、僕らはただ運んだだけだお。
      君のお兄さんは勇敢だお。一人であんな通り魔に立ち向かうなんて、
      僕には到底できないお」

ξ゚听)ξ「そうよ。それに、命に別状があるわけじゃない。
     そんなに気を落とさなくていいのよ」

l从・∀・ノ!リ人「……」

妹者はツンとブーンの微妙な間に割り込むように座った。


272 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 02:19:15.22 ID:UWY2xIpP0
人恋しいのだろうか、とブーンは思った。

聞けば母親や父親、長兄とも離れ離れ、しかも次兄は意識不明でベッドの中だ。
寂しくないわけがない。

ブーンは妹者の頭をぽんと叩いた。

l从・∀・ノ!リ人「……いたいのじゃ」

そうして頬を膨らます妹者だが、嫌がっている様子はなく、恥ずかしがっているように見えた。

――こんな小さな子でも一人で頑張ってるのに、僕はカーチャンのことばっかだお……。

ブーンは自分の器量があまりに小さなものなのではないか、とも思ったが、
母の身を案じることが、決して恥ずべきことでもないというのも知っていた。
だが今は少しでも妹者やツンのような人々を寂しい思いをさせたくない。
そう思えた。
 

279 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 02:45:12.70 ID:UWY2xIpP0
――ジョルジュ――
同日 PM 0:30


ジョルジュは久々にまともな人間に出会えて、少しばかり落ち着いた。
いや、まともというのは、死にかけているわけでもなく、狂っているわけでもなく、
一回も話すことなく死んでしまったわけでもない、ということでだ。
自己紹介やここに来ることになった経緯などの話を聞いていると、
思考回路のほうは、結構間抜けかもしれないと思い始めた。
男は兄者と名乗った。

( ´_ゝ`)「……というわけで、俺はパンツを換えた。
       住民には悪いと思ったが。
       あ、もちろん男物だ」

( ゚∀゚)「……いちいち見せんでいい。
     しかし、兄者、だったか。お前はどうやってここまで来たんだ?」

( ´_ゝ`)「ああ、この先の橋がまだ無事だったんでな。
       橋にはトラウマがあったが仕方なく渡ってきた」

ジョルジュのラッキーストライクの煙を吐き出しながら、兄者は言った。
この先の橋というのは、兄者がやってきたほうにある橋で、
ジョルジュのマップで唯一×印が付いていない、最後の橋だった。

282 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 02:52:09.21 ID:UWY2xIpP0
( ´_ゝ`)「しかしラッキーストライクはちと癖があるな。
       俺はセッター派だからな。とは言ってもほとんど吸わないが」

( ゚∀゚)「悪かったな。俺はタバコに手を出した頃からラキスタなんだよ。
     ……しかし、あの橋はまだ生きていたか。
     なら、ニュー速グラウンドに行くことができるな。
     良かった良かった」

( ´_ゝ`)「ニュー速グラウンドに何か用でもあったのか?」

( ゚∀゚)「そりゃーここらの緊急避難場所のひとつだからな。
     あそこにいれば救助も来るし、ここらより比較的安全だし、
     行きたくなるに決まってるだろ」

ジョルジュは満足げに、マップの橋に○印を付けた。
本来○印などつける意味はなかったのだが、嬉しさのあまりつい付けてしまった。

286 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 03:02:47.03 ID:UWY2xIpP0
( ´_ゝ`)「ふむ……。そういえば、ジョルジュは都市部から来たんだったな?」

( ゚∀゚)「おう、都市部の中心らへんだな」

( ´_ゝ`)「じゃあ、サスガ株式会社って会社があるビル知らないか?
       俺の父母が働いてるところなんだが」

( ゚∀゚)「……悪いな、あれはまだ見てない。
     サスガ株式会社っていうと、FOX公園へ向かう方にあるビルだしな」

( ´_ゝ`)「そうか……」

兄者は心なしか、気を落としたようだった。
見たところ、兄者は二十歳ほどだろう。
だが幾つになっても大切な人を心配する心は失くす事はできない。
それを知っているのは、ジョルジュも同様だった。

ジョルジュには、本島に家族とおっぱいのでかい恋人がいる。
おっぱいのでかい恋人と電話している最中に、地震が起きた。
突然切れた電話に、おっぱいな恋人は戸惑っているかもしれない。
一刻も早く無事でいることをおっぱいに伝えてやりたかった。

294 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 03:26:38.03 ID:UWY2xIpP0
( ´_ゝ`)「そういえばジョルジュ、携帯電話持ってるか?」

( ゚∀゚)「おう、あるぜ」

( ´_ゝ`)「すまんがちと貸してもらえないか?
       父者の携帯電話に掛けてみたい」

兄者はそう言ったが、ジョルジュには携帯電話が使えないということが分かっていた。
兄者と会うまでにも、何度も何度も試した。
しかし結局、一度も繋がることはなかった。

( ゚∀゚)「……携帯電話も使えねえんだ。
     まあ試してみるといい。俺は何度かやったがダメだった」

ジョルジュはズボンのポケットから携帯電話を投げて寄こした。
兄者はそれを受け取り、素早くボタンを押し、受話器を耳に当てた。

( ´_ゝ`)「……くそ、携帯電話もダメか」

( ゚∀゚)「携帯電話も? もってなんだ?」

299 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 03:34:33.47 ID:UWY2xIpP0
( ´_ゝ`)「ああ、俺はノートPCとエッジを持ち歩いてるんだが、
       インターネットにも接続できないんだ。
       ここに来るまでに見つけた公衆電話も、反応はなかった」

携帯だけでなく、公衆電話も、それにインターネットも使えない状況……?

( ゚∀゚)「電波障害か……?」

だが地震でこれ程までの電波障害が起こり得るのだろうか?
専門知識のないジョルジュには、分からなかった。

( ´_ゝ`)「分からん。ただ、これまでにまだ一度しか地震が来てないことが気になる」

( ゚∀゚)「と、いうと?」

( ´_ゝ`)「あの大きな地震の後、余震を感じたか?」

兄者はタバコを瓦礫に擦りつけながら、ジョルジュに問うた。

( ゚∀゚)「……確かに、まだ一度も余震が来てないな……」

( ´_ゝ`)「本当なら、本震の後、夥しい数の余震が発生するはずだ。
       だが今回のケースには、それがない」

( ゚∀゚)「……」


303 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 03:47:49.92 ID:UWY2xIpP0
( ´_ゝ`)「まぁまだ偶然来てないだけかもしれないからな。
       油断はしないほうがいい。
       またあのでかいのが来るかもしれん」

ジョルジュは間抜けだと思っていた兄者が、こうも冷静に今回の地震について
思案を巡らせているとは、思いもよらなかった。
兄者のことを見直すとともに、少しばかり頼もしく見えてきた。

( ´_ゝ`)「さて、俺はサスガビルへ向かう。
       ジョルジュ、お前はどうする?」

( ゚∀゚)「……俺は……」

どうするべきか。
このまま一人でニュー速グラウンドを目指すか。
もしくは兄者とともにサスガビルに行くか。






( ´_ゝ`)「……どうした?」

( ゚∀゚)「……俺は……
      俺も、お前の両親探しを手伝ってやるぜ!」


305 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 03:51:51.50 ID:UWY2xIpP0
( ´_ゝ`)「……え、ホントに?」

( ゚∀゚)「おう、もちろんだ。やっぱ一人じゃ心細いしな、がはは」

もちろん、それもあった。
だが兄者の、例え自分一人でも大切な人を捜そうとするその強い意志に、
共感せざるを得なかったことも確かだ。

( ´_ゝ`)「そうだな。よろしく頼む」

( ゚∀゚)「おう、こちらこそだな!」

( ´_ゝ`)「……あ、その前に、ちょっと百貨店みたいなのに寄ってもいいか?」

( ゚∀゚)「なんだ? 包帯か? どっか怪我したのか?」

兄者のいきなりの提案に、ジョルジュが心配そうに尋ねた。
見たところ、どこも怪我などしていない。
崩れる橋を駆けて来たときに打ち身でもしたのだろうか?

( ´_ゝ`)「いや、パンツが濡れて困るから、パンパースが欲しくて」

( ゚∀゚)「……」


――こんな奴と一緒にいて大丈夫だろうか――

ちょっと早まったかもしれない。
ジョルジュはそう思った。
 

148 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 15:57:41.22 ID:EBZqdNNi0
女はシートの端を少しだけ持ち上げ、中を確認し、
手に持っているレポート用紙のようなものに何かを書き込む。
一歩分隣に行き、また端を持ち上げ、中を確認し、紙に何かを書き込む。
その動作を何度も繰り返していた。

l从・∀・ノ!リ人「ブーン、あれはなにしてるのじゃー?」

妹者がブーンに問いかけるが、ブーンにもよく分からない。
思い切って、自分もビニールシートの中を見てみることにした。

( ^ω^)「(みんなの荷物かお?)」

駆け寄り、女の向かい側のシートを持ち上げた。

川 ゚ -゚)「……あ、やめろ……!」

( ^ω^)「!」


151 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 16:05:09.97 ID:EBZqdNNi0
女の制止の声は、ブーンのそれよりも一瞬遅かった。
ブーンは目を細めながら覗き込み、すぐさま細めていた目を見開き、




( ^ω^)「オェェェ……」


嘔吐した。


l从・∀・ノ!リ人「ぶ、ブーン、どうしたのじゃー?」

妹者は突然蹲り嘔吐を始めたブーンのそばへ小走りで近寄り、自らもシートの中を覗こうとした。
シートに手を掛けた時、向かい側に居た筈の女性が妹者の腕を掴んでいた。

川 ゚ -゚)「やめろ。用もないのに見るな」

154 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 16:12:41.24 ID:EBZqdNNi0
l从・∀・ノ!リ人「……な、なんでじゃ……?」

妹者は訳が分からず、しかし女のえも言えぬ気迫に、おずおずと手を引っ込めた。
女は無表情な顔で頷き、隣で吐瀉物を撒き散らしているブーンを冷ややかな目で見た。

川 ゚ -゚)「おい、見るなと言っただろう。
    それに彼らの前で嘔吐など、恥ずかしいと思わないのか」

( ^ω^)「……」

女の冷徹さを含むその言葉は、ブーンの耳に届かなかった。

――なんで……。

( ^ω^)「こんなに……」

シートをあけた瞬間にむっと漂った死臭。
皮膚が溶け、毛が焼ける嫌なにおいもあった。
大勢の人間の血まみれの死体。
焼け爛れ、或いは片足がないものもあった。

158 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 16:19:56.94 ID:EBZqdNNi0
これまで当然のように道端に転がっていたはずの『もの』が、そこに並んでいた。

――人が大勢……

だが学校に辿り着き大勢の生きた人間を見て、ブーンの凍て付いた感覚は
すっかり氷解した。

麻痺していた感性が呼び起こされた。
そして、このシート下の現実に、ブーンはただただ恐怖した。


――死んでいる……。

人がゴミ屑同然のように死ぬ世界。
そんな世界にブーンはいるのだ。
つい2時間前までは、当然のように生を謳歌していた人間たちが、
このシートの下に横たわっている。

163 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 16:32:31.21 ID:EBZqdNNi0
ξ゚听)ξ「……」

ツンは何も言わず、ブーンとシートを交互に見た。
何があるのかくらい、ツンはもう察しているはずだ。

川 ゚ -゚)「……これが現実だ。
    この地震で、これだけの人々が亡くなった。
    まだ見つかっていない人々も含めれば、もっともっと死んでいる。
    だが数の上の話ではない。
    これだけの人々が死んだことが、現実なんだ」

女は蹲るブーンにそう言い放った。

ブーンは己の腕で肩を抱いた。
いつ自分が、母が、友人たちが、こうなってしまうのか、分からないのだ。

( ^ω^)「……カーチャン……」

女はシートの中を確認し、何か名簿のようなものをつけていた。

( ^ω^)「……その名簿は、ここにいる人間のものかお……?」

川 ゚ -゚)「ああ、そうだ。名前や身柄を指し示すものを上に置いてあるのでな。
    それを見て、名前をこの名簿に書き込んでいる」

( ^ω^)「その中に……うちのカーチャンや、ドクオ、ショボンって名前はあるかお……?」

ブーンは震える声を振り絞りながら、女に聞いた。

169 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 16:39:04.55 ID:EBZqdNNi0
女は一瞬哀れそうな目をしたが、すぐさま名簿に目を移し、
ぱらぱらと束をめくっていく。

たった数枚の紙をめくる音が、延々と続くように感じた。
女から申告される言葉が恐ろしく、やはり調べるのをやめてもらいたい気分になった。

数分ほど経った。
だがブーンには何時間も経ったような感覚に見舞われた。

女は名簿から顔をあげ、ブーンを見た。
ブーンは死刑宣告を待つ被告人のような気分に陥った。

だが女は、静かにかぶりを振った。

川 ゚ -゚)「これだけ見る限りじゃ、ここにはいない。
    それにまだ途中だからな。安心はするな」

至極冷静な女の声色。

川 ゚ -゚)「……だが……」

それが少し柔らかそうなものに変わった。

川 ゚ -゚)「ここにいないということは、生きていることもある。
    生きていれば必ず会える。これも現実だ」

表情こそ変わらないものの、女のその言葉に、ブーンは少し救われた気がした。

 

200 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 18:27:33.93 ID:EBZqdNNi0
――ドクオ――
同日 PM 1:40


('A`)「ああ、もう! ここも行き止まりか!」

家の倒壊により、塞がってしまった道路を目の前にドクオは叫んだ。
フサギコ医院に向かう途中、このように通行不可能となった道路は幾つもあった。
その度ドクオたちは道を変え、歩き続けるのだった。

J('ー`)し「ドクオ、疲れたんじゃない?」

背中の母が心配そうに声をかけた。
行き止まりのたびに聞くこの言葉に、ドクオはまた同じように返す。

('A`)「大丈夫に決まってるだろ。あんときは走ってたからだよ。
   今は歩きだから、全然疲れてない」

J('ー`)し「そう……」

207 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 19:04:21.06 ID:EBZqdNNi0
本当は、もうドクオの足に感覚はなかった。
思い切り筋肉を酷使したせいか、少し休んだところで全く疲れが取れない。
だがここで弱音を吐くと、また母が心配し、人を呼んできてくれればいいから、
とドクオだけ先に行かせようとする。
ドクオだけにはどうしても生きて帰って欲しいと願っているようだが、
せっかく生きて一緒に居るのに、放り出していくことなどドクオに出来るわけもなかった。

この瓦礫の下敷きになってしまった人間はいるのだろうか。
ドクオは考えた。
地震が来たと思ったら、自覚する間もなく死んだ人間というのは、幸せなのだろうか。
こんな地獄のような世界にほっぽり出されずに、幸せに死ねたのだろうか。

('A`)「(……)」

ドクオには分からない。
ただ皆と生きて帰る。ブーンと、カーチャンと、ショボン、と。
そう思うことだけがドクオの信条であり、この地獄のような世界に見える一条の光明だった。
皆とまた楽しく可笑しく生きていたかった。
そのためには、絶対生を諦めてはいけないのだ。

208 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 19:08:26.35 ID:EBZqdNNi0
倒壊した家屋の瓦礫の山が、ぱらぱらと降って来る。
もし今微弱な地震でも起きれば、たちまち雪崩を起こしそうな雰囲気だった。

今にも崩れ落ちてくるかもしれない瓦礫のそばにいるのは落ち着かない。
ドクオはそこから離れようとした。





そのときである。


小さな、しかし突き上げるような地震が起きた。

('A`)「(余震!?)」

逃げようとするドクオ。
だが母を背負っており、しかも足にはあまり力が入らない。
揺れる大地にバランスを崩しそうになりながらも、何とか駆けようとする。
しかし筋肉が思うように回らない。走ることが出来ない。

案の定瓦礫が耳障りな音を立てて滑り落ちてくる。

高く積まれた瓦礫は、ドクオたちなど一瞬で飲み込んでしまうだろう。

飲み込まれたが最後、生き残ることなど不可能に思えた。


209 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 19:10:33.32 ID:EBZqdNNi0
走った。
実際には足を一歩一歩進ませるような、よちよち歩きにも似た走りだった。

('A`)「んおおおおお!」

力めども、足は言うことを聞かない。

――まずい!

('A`)「(このままじゃ……二人とも……!)」


いや。

俺は皆と生きていくために、

諦めたりはしない。


('A`)「ちっくしょおおおおお」


210 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 19:11:48.32 ID:EBZqdNNi0
ドクオは母を背負ったまま、懸命に足を動かした。

固く食い縛られた歯に感覚はなく、ただ鉄のような酸っぱさだけが口内に広がった。
曲がり角まであと一歩というところまで来て、ドクオの足は遂に止まってしまった。

('A`)「!」

必死に動かそうとしても、足と体の機能が分離してしまったように、
丸きり足は動かなかった。

瓦礫の高波はドクオたちを飲み込もうと迫ってきた。
まさに絶体絶命だった。

213 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 19:14:10.51 ID:EBZqdNNi0

その時、背中の母が飛び降り、ドクオを後ろから突き飛ばした。
ドクオは曲がり角まで飛ばされ、匍匐で自ら這って陰に隠れた。

('A`)「カーチャン!」

母は折れた足を気にすることなく使い、立っていた。

後ろからは乱雑な瓦礫の高波。
埃やガラスの破片を巻き上げながら、どんどん迫ってくる。
その埃らに思わずドクオは目を閉じた。



ゴゴゴゴゴ……ドォーン――



轟音を青空に響かせながら、
それがそのままドクオの目の前の塀にぶち当たった。
瓦礫の山は、激突した塀をバラバラにし、止まった。


 

217 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 19:18:37.92 ID:EBZqdNNi0
('A`)「か、カーチャンは!?」

瓦礫の下敷きになってしまったのだろうか……。
地均しするように長く平らになった瓦礫の下に、母が……。

('A`)「カーチャン……ごめん……ごめんよ……」

ドクオは瓦礫に縋りつくように泣いた。
自分の身を挺して守ってくれた母の眠る墓標代わりの瓦礫。


「……イタタタ」


隣後方から声が聞こえた。

思わず振り向き、その声の発生源を見た。

218 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 19:19:31.30 ID:EBZqdNNi0
('A`)「カーチャン……」

そこには瓦礫に飲み込まれたと思っていた母の姿があった。

('A`)「カーチャン!」

這いながら、うつ伏せに倒れている母の元へ急ぐ。

('A`)「ど、どうやって……! 瓦礫に飲まれたんじゃ…!?」

J('ー`)し「あんたが目を瞑ってる間にね、あたしも跳んだのよ……。
     折れた足、使っちゃったから、すごく痛いわ……」

そうやって冗談のように笑う母。

('A`)「……カーチャン、ありがとう……」

ドクオは母にすがって嗚咽を漏らした。
年甲斐もないと思われるかもしれないが、しかし嬉しかった。

J('ー`)し「何言ってんのよ。一緒に帰るんでしょ……?」

('A`)「うん……うん……」

母が生きて、俺が生きて、一緒に二人で生きて帰る。

これからの生の中で、これほど嬉しいことはないだろう。

226 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 19:53:32.89 ID:EBZqdNNi0
――Introlude - 3――
同日 時刻不明


金属バットを左腕に携え、ずるずると引きずりながら歩く男。

邪魔が入り、長身痩躯のあの男を殺すことが出来なかった。

しかしあの骨のぶち折れる感触……。

男はあの感触を思いだし、身が震えた。
快感で、武者震いで、体の底から打ち震えるこの感覚。

やはり最高だ。
まだまだ殺し足りない。
もっと、もっと、殺してやりたい。

「ワンワンッ」

背後から、犬の吠える声が聞こえた。

227 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/04(土) 19:56:21.17 ID:EBZqdNNi0
振り返ると、茶色い毛並みをした小柄な犬がいた。
首輪がついており、それにはタグのようなものがぶら下がっていた。
犬は男の姿を見つけると、一直線に駆けてきた。
尻尾を振りながら男に飛びつき、嬉しそうに擦り寄ってきた。

男はそれをバットで殴りつけた。
犬は吹っ飛び、塀に打ち付けられた。
弱々しく立ち上がろうとするその犬に、男はもう一撃加える。

犬の悲痛な叫びがこだました。
だがその声に気付く者はいない。

男がバットを振るうたびに形が歪になっていく。

最後には、血まみれのただの肉塊になった。

男の瞳に、喜びはない。
やはり人間でないとダメなようだ。

そう思い、男はまたバットを引き摺りながら歩き始めた。
次の獲物を探して。
 

back < >

inserted by FC2 system