834 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 11:36:44.67 ID:lJ1ZHuOm0
――弟者――
同日 PM 6:31


夢を見ている。
弟者が子供の頃の夢だった。

淡く曖昧な世界の中で、弟者は泣いていた。

(´<_` )「……子供の頃の、俺か……」

遠くから、一人の子供が駆けて来た。
一つ年上の、兄者であった。

――どうした? またいじめられたのか?

――……。
 


837 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 11:46:22.55 ID:lJ1ZHuOm0
――……帰るぞ、弟者。

――……。

――まあ、その前に、少しばかり遊んでっても問題ないよな。

兄者はそう言って、まだ嗚咽を漏らす弟者の手を引いて歩いた。


向かった先は、小さな公園。
そこには一つ年上である兄者より大柄な、いわゆるガキ大将というやつが
手下を数人連れて遊んでいた。
公園を自分たちで占拠することが出来、悦に浸っているようだった。
 


841 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 11:56:29.86 ID:lJ1ZHuOm0
――おい、ブタゴリラ。

何の前触れもなく、兄者がガキ大将に言い放った。

いきなり無様なあだ名をつけられ、憤ったガキ大将。

――なんだお前、弟者の兄貴か。

――お前如きがうちの弟の名前を呼ぶな。名前が腐る。

――なんだと!? 弟と同じような貧相な面してるくせに!

ガキ大将はそう言いながら二人のほうへと迫ってきた。
二人は目配せをし、元来たほうへと逃げていく。
その後姿を見たガキ大将は、意気を揚げながら二人を追い詰めようとする。


844 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 12:07:00.68 ID:lJ1ZHuOm0
どれくらい走った頃か、短い草が地を覆い茂るところに出た。
兄者と弟者は立ち止まり、後ろを振り返った。
ガキ大将が二人を捕まえんとすごい勢いで駆けて来た。


その時。


――ボッシュート。

兄者がぽつりと呟くと、ガキ大将の体は突然大きく傾き、地面に沈んでいった。

落とし穴であった。

ガキ大将の背丈よりも深いその落とし穴は表面がぬかるんでおり、
いくらガキ大将がよじ登ろうとしても、その手を滑らせ執拗に底に落とした。

――おい、弟者、なんだか小便がしたくなったな。

兄者はそう言うと、ズボンのジッパーを下ろし、一物を落とし穴に向けた。
 


845 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 12:14:43.43 ID:lJ1ZHuOm0
ガキ大将は暗い穴の中から兄者のしようとしていることを察し、
大声で喚くように言った。

――おい、や、やめろ! やめて! やめてくださいーっ!

兄者はにやりと笑い、
無慈悲にも、その一物から流れる黄金色の液体をガキ大将の上に降らせた。

――ぎゃああぁああぁぁぁぁああぁぁあぁぁああああっ!

ガキ大将の悲鳴が、落とし穴に響き渡った。


(´<_` )「……そういえば、そんなこともあったな」
 


847 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 12:21:09.66 ID:lJ1ZHuOm0
性格は少しばかり異なれど、体つきや顔つきはほとんど変わらない兄者は、
幼少の頃から、弟者にとって兄者は兄者でしかあり得なかった。
間が抜けたところはあっても、仲が良く、冷静で、とても頼りになる兄者。

弟者は兄者が大好きだった。
自分とそっくりな兄者の姿は、しかし不快ではなかった。
むしろ尊敬にも似た感情を向ける先にいる兄者が自分とそっくりな人間であり、
つまり自分も兄者のようになれるのではないだろうか、と考えるときがある。


……何の前触れもなく、夢は突如として姿を変え、
陽炎のように揺らぎ曖昧ながらも二人の男を映し出した。

(´<_` )「……兄者……?」

懐中電灯を持つ男は分からなかったが、その隣にいる男は、紛れもなく兄者だった。
様々な食料品や雑貨品などが並ぶ建物の中を歩き回る二人は、
どうやら閉じ込められ、出口を探しているようだった。
 


848 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 12:31:49.92 ID:lJ1ZHuOm0
二人はなにやら工作を始めた。
会話の端々から、どうやら脱出するために扉を爆破するらしいことがわかった。

(´<_` )「……こんなこと、あったっけ……?」

弟者の記憶にないその兄者たちは、扉を爆破するも、
その衝撃で崩れ落ちる建物の中から必死に脱出しようとする。

(´<_` )「お、おい……危ないぞ……!」

建物から飛び降り、必死に駆ける兄者たち。
そんな男たちの上に、砂埃を巻き上げながら崩れる建物が、兄者の上に降りかかり――

(´<_` )「兄者! 兄者ぁっ!」

849 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 12:35:25.61 ID:lJ1ZHuOm0
夢は、そこで終わった。

弟者が目を開けると、まず電気のついていない蛍光灯が目に入った。
続いて、少しばかり亀裂が入った天井があり、
視界の隅には瞳を赤くした妹者の姿があった。

l从・∀・ノ!リ人「……おとじゃー……」

弟者の首に、妹者が抱きついてきた。
しゃっくりを上げながら、次第に鼻をすする音が聞こえ始め、最後には大声で泣き出した。

(´<_` )「……妹者、腕に響くぞ……」

そう言いながらも、弟者はあまる左腕で、妹者の髪を優しく撫でた。

834 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 11:36:44.67 ID:lJ1ZHuOm0
――弟者――
同日 PM 6:31


夢を見ている。
弟者が子供の頃の夢だった。

淡く曖昧な世界の中で、弟者は泣いていた。

(´<_` )「……子供の頃の、俺か……」

遠くから、一人の子供が駆けて来た。
一つ年上の、兄者であった。

――どうした? またいじめられたのか?

――……。
 


837 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 11:46:22.55 ID:lJ1ZHuOm0
――……帰るぞ、弟者。

――……。

――まあ、その前に、少しばかり遊んでっても問題ないよな。

兄者はそう言って、まだ嗚咽を漏らす弟者の手を引いて歩いた。


向かった先は、小さな公園。
そこには一つ年上である兄者より大柄な、いわゆるガキ大将というやつが
手下を数人連れて遊んでいた。
公園を自分たちで占拠することが出来、悦に浸っているようだった。
 


841 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 11:56:29.86 ID:lJ1ZHuOm0
――おい、ブタゴリラ。

何の前触れもなく、兄者がガキ大将に言い放った。

いきなり無様なあだ名をつけられ、憤ったガキ大将。

――なんだお前、弟者の兄貴か。

――お前如きがうちの弟の名前を呼ぶな。名前が腐る。

――なんだと!? 弟と同じような貧相な面してるくせに!

ガキ大将はそう言いながら二人のほうへと迫ってきた。
二人は目配せをし、元来たほうへと逃げていく。
その後姿を見たガキ大将は、意気を揚げながら二人を追い詰めようとする。


844 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 12:07:00.68 ID:lJ1ZHuOm0
どれくらい走った頃か、短い草が地を覆い茂るところに出た。
兄者と弟者は立ち止まり、後ろを振り返った。
ガキ大将が二人を捕まえんとすごい勢いで駆けて来た。


その時。


――ボッシュート。

兄者がぽつりと呟くと、ガキ大将の体は突然大きく傾き、地面に沈んでいった。

落とし穴であった。

ガキ大将の背丈よりも深いその落とし穴は表面がぬかるんでおり、
いくらガキ大将がよじ登ろうとしても、その手を滑らせ執拗に底に落とした。

――おい、弟者、なんだか小便がしたくなったな。

兄者はそう言うと、ズボンのジッパーを下ろし、一物を落とし穴に向けた。
 


845 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 12:14:43.43 ID:lJ1ZHuOm0
ガキ大将は暗い穴の中から兄者のしようとしていることを察し、
大声で喚くように言った。

――おい、や、やめろ! やめて! やめてくださいーっ!

兄者はにやりと笑い、
無慈悲にも、その一物から流れる黄金色の液体をガキ大将の上に降らせた。

――ぎゃああぁああぁぁぁぁああぁぁあぁぁああああっ!

ガキ大将の悲鳴が、落とし穴に響き渡った。


(´<_` )「……そういえば、そんなこともあったな」
 


847 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 12:21:09.66 ID:lJ1ZHuOm0
性格は少しばかり異なれど、体つきや顔つきはほとんど変わらない兄者は、
幼少の頃から、弟者にとって兄者は兄者でしかあり得なかった。
間が抜けたところはあっても、仲が良く、冷静で、とても頼りになる兄者。

弟者は兄者が大好きだった。
自分とそっくりな兄者の姿は、しかし不快ではなかった。
むしろ尊敬にも似た感情を向ける先にいる兄者が自分とそっくりな人間であり、
つまり自分も兄者のようになれるのではないだろうか、と考えるときがある。


……何の前触れもなく、夢は突如として姿を変え、
陽炎のように揺らぎ曖昧ながらも二人の男を映し出した。

(´<_` )「……兄者……?」

懐中電灯を持つ男は分からなかったが、その隣にいる男は、紛れもなく兄者だった。
様々な食料品や雑貨品などが並ぶ建物の中を歩き回る二人は、
どうやら閉じ込められ、出口を探しているようだった。
 


848 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 12:31:49.92 ID:lJ1ZHuOm0
二人はなにやら工作を始めた。
会話の端々から、どうやら脱出するために扉を爆破するらしいことがわかった。

(´<_` )「……こんなこと、あったっけ……?」

弟者の記憶にないその兄者たちは、扉を爆破するも、
その衝撃で崩れ落ちる建物の中から必死に脱出しようとする。

(´<_` )「お、おい……危ないぞ……!」

建物から飛び降り、必死に駆ける兄者たち。
そんな男たちの上に、砂埃を巻き上げながら崩れる建物が、兄者の上に降りかかり――

(´<_` )「兄者! 兄者ぁっ!」

849 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 12:35:25.61 ID:lJ1ZHuOm0
夢は、そこで終わった。

弟者が目を開けると、まず電気のついていない蛍光灯が目に入った。
続いて、少しばかり亀裂が入った天井があり、
視界の隅には瞳を赤くした妹者の姿があった。

l从・∀・ノ!リ人「……おとじゃー……」

弟者の首に、妹者が抱きついてきた。
しゃっくりを上げながら、次第に鼻をすする音が聞こえ始め、最後には大声で泣き出した。

(´<_` )「……妹者、腕に響くぞ……」

そう言いながらも、弟者はあまる左腕で、妹者の髪を優しく撫でた。

869 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 14:14:38.22 ID:lJ1ZHuOm0
――ドクオ――
同日 PM 6:33


ドクオはまた母を背負い、フサギコ医院を目指していた。
足の疲れが癒されるまで休憩していたため、その間に夕陽は落ちた。
夜の帳が下ろされ、電灯の灯り一つない不気味な町を、二人は歩いた。

震災後の夜の町を歩くことが、どんなに危険で、自殺的なものか二人は分かっていた。
どこから崩れて来るかも分からない瓦礫。
いつ降り注いで来るかも分からないガラス片。
照らす光は月明かりしかなく、道は暗く、状況の把握が困難である。

872 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 14:28:07.65 ID:lJ1ZHuOm0
それに、夢中で飛び出してきたため、二人は薄着であった。
秋の昼夜の温度差は、大いに襲い掛かってきた。
夜の寒風はドクオの体力を奪い、空に消えていく。
一刻も早くフサギコ医院に辿り着かねばならないこの状況で、
この強行軍は至難を極めた。

('A`)「はぁ……はぁ……」

息を切らしながら歩くドクオの視界には、空に輝く星々の煌きがあった。
あまりに暗いこの町の空にある星はあまりにも美しく、壮大であった。
幾つもの点が、まるでバケツ一杯の砂をばら撒いたように散らばり、輝いていた。

素直に、綺麗だと思った。
こんな星空は初めて見た。
普段この町は夜でも明るく、空を仰げど、ただ点々とまばらにあるだけでしかなかった。
だが今は震災のせいで、町から光が失われ、そのおかげで見事なまでの星の群れを見ることが出来た。

この星空を、ブーンやショボンも見ているだろうか。

ドクオは寒さに耐え、飢えも忘れ、喉の乾きを気にせず歩き続けた。

877 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 15:01:56.60 ID:lJ1ZHuOm0
――ジョルジュ――
同日 PM 6:58


( ゚∀゚)「……で、結局今日はここでビバークってことか」

( ´_ゝ`)「うむ。もう日は落ちているし、下手に動き回るよりも、
       今日はゆっくり休み、明日に備えたほうがいい」

二人は百貨店の崩壊後、付近のビルで休んでいた。
このビルは比較的頑丈そうで、ひびもあまり入っておらず、
ここら一帯で仮寝をするには、一番安全で、野宿に適した場所だった。

部屋の真ん中に、スチール製の灯油缶の上部に穴を開け、
木を何本か突っ込んだお手製の焚き火を置き、それを囲むように二人で座った。


884 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 15:28:44.47 ID:lJ1ZHuOm0
夕食は、ビルの入り口にあったジュースの自動販売機を破壊し、
中から数本思い思いのジュースを取り出した。
偶然缶に入った某キ○トカットもあり、栄養のほうは十分に取れそうだった。

例の如く、二人は『こんな状況だから仕方ない』と言いながらも、
生き残るのには必要ないはずのタバコの自動販売機も破壊し、
ラッキーストライクやセブンスターなどの銘柄を持てるだけ持った。

ビルの窓は砕け、良い具合に通気口としての役割を果たしたが、
同時に止め処なく寒風が舞い込んでくる。

焚き火でタバコに火をつけながら、ジョルジュは言った。

( ゚∀゚)「しっかしよ、ここ何の会社だったんだろうな。
     机はあんましないくせに、棚中ファイルがびっしりだぜ」

辺りを眺めながら、兄者が返す。

( ´_ゝ`)「……法律事務所か何かか?」

( ゚∀゚)「法律? 弁護士とかか?」


889 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 15:40:20.63 ID:lJ1ZHuOm0
兄者は立ち上がり、ガラス戸の割れた棚から一冊ファイルを取り出し、
ぱらぱらと覗きはじめた。
それは色々な新聞や雑誌などの記事をスクラップしたものだった。
記事の内容をジョルジュが聞きたがったため、兄者は声に出してそれを読んだ。

( ´_ゝ`)「……これは、今から8年ちょっと前の記事だな。
       首都機能分散計画の記事だ」

( ゚∀゚)「ああ、首都近郊に経済効果が著しく現れるため、
     首都の機能をいくつかに分散し、この国全体の発展を望もうってやつだな。
     確か、他国の攻撃で、一箇所の首都機能の停止が起こっても、
     他の首都都市で行政やなんかを代行できるってシステムも兼ねてるんだよな」

( ´_ゝ`)「ああ。それでここ、ニュー速も首都都市の一つとして建設された」

( ゚∀゚)「ここが建設されてたった5年。
     たった5年で、首都が一つ壊滅とはな」

( ´_ゝ`)「突貫工事だったのかもな。
       ……住民の訴え……?」

兄者が何かに気付き、手を止め一つの記事を見つめている。

895 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 15:51:07.84 ID:lJ1ZHuOm0

( ゚∀゚)「なんか面白い記事でもあったのか?」

( ´_ゝ`)「……ここ2,3年ほどで、住民の訴えのようなものが多発している。
       なにやら時々地鳴りのようなものが聞こえ、かすかに揺れる。
       だからこの島の強度や何かを調査し、
       何らかの問題があった場合はすぐに適切な処理を行うように……」

( ゚∀゚)「……地鳴りって、もしかして今回の地震に何か関係あるのか?
     ニュー速が一回の地震でここまで破壊されたのも、
     もしかしてこの訴えを放置して、この島の脆弱性をほったらかしにしたとか……」

( ´_ゝ`)「うーむ……国からの調査士や何やらが来て、
       綿密な調査を行い、その結果地鳴りなどは起こらなくなった……
       そういう記事もある。
       今度のはもしかして本当にでかい地震だったのかもな」

( ゚∀゚)「……」

確かに、普通に地面を歩いている人間でさえ死んでいる今回の地震は、
とてつもなく大きいものだったのだろう。
もしかすると、本島の方にまで影響が出ている可能性もある。
ジョルジュは、ふと本島にいる家族やおっぱいでかい恋人のことが気に掛かった

903 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 16:08:46.27 ID:lJ1ZHuOm0
そのファイルを全て読み終わった兄者は、
また別のファイルを覗き見ながら語り始めた。

( ´_ゝ`)「……他には……。
       これは、ここ近年の世界情勢を切り抜いた記事だな。
       20年ちょっと前……つまり俺が産まれたくらいか。
       そこから延々とスクラップしてある。すごいなこれは」

兄者は感心したように記事を読み漁っている。
焚き火に当たっているジョルジュには、どんな記事だかさっぱりわからない。

( ゚∀゚)「おいおい、一人で読んでないで俺にも読んで聞かせてくれよ」

ジョルジュがそう言うと、兄者は忘れていたように、ああと頷き、また記事を読み始めた。

909 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 16:17:13.59 ID:lJ1ZHuOm0
( ´_ゝ`)「これは、アメリカやロシア、
       それに中国などの大国の仲が険悪になった頃の記事だな。
       俺たちの国も、その荒波に揉まれ、
       いくらかの軍事力の増幅を決定したが、
       国民の反対もあり、予定していたほど増力はできなかった」

( ゚∀゚)「ま、戦争なんて起こってもらっちゃ困るからな。
     徴兵なんてされちゃ、俺ならすぐ外国に逃げるな」

( ´_ゝ`)「しかし、近年の世界情勢としちゃ、今はかなり危ないからな。
       何が引き金になって戦争が起こるかもわからん」

戦争関係のファイルを棚に戻し、また他の記事を読み始める。

( ´_ゝ`)「……あとは……。
       鳥インフルエンザやクローン技術の発展、芸能スキャンダル、
       萌え文化の移り変わり、ネットコミュニティの場の拡大……。
       すごいな、ありとあらゆる記事を取り扱っている。
       この事務所の持ち主は、かなり勤勉な人間だったらしい」

兄者はファイルの隅に、油性ペンの擦れた「村…」という文字を見つけた。
この事務所の持ち主の名前だろうか。
村の後ろに何が書いてあったのか、読み取ることはできなかった。

913 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 16:36:23.49 ID:lJ1ZHuOm0
( ゚∀゚)「……萌え文化って何だよ」

( ´_ゝ`)「ギコハニャーン」

( ゚∀゚)「……は?」

( ´_ゝ`)「いや、何でもない」

顔を赤らめながら、兄者は先ほど自動販売機から持ってきたセブンスターを口に咥え、
紫煙を勢い良く吐き出した。
二人は静かにたゆたう煙の行く先を見つめながら、どちらからともなく話し始めた。
内容は取るに足らない世間話のようなものから、自分の生い立ちや生活環境など
突っ込んだ話へと発展していった。

( ゚∀゚)「……俺はな、本島のほうに恋人がいるんだ。おっぱいがでかい。
     もうおっぱいでかいと最高でな。挟んだりな、しちゃったりなグフフフ」

( ´_ゝ`)「俺には彼女など出来たことないから、分からんな」

( ゚∀゚)「お、マジか。女はいいぞー。まずおっぱいがな(作者童貞のため省略)」

……どれくらい語り合った頃か、時計がないため分からない。
だがこの語らいは、二人の中で一番楽しい時間となった。
この震災の中、心配事をすっかり忘れ、楽しみに没頭できるということが、
今出来る、一番の幸せだった。

それから少しして、二人は眠った。
明日に控える旅のために、今日はゆっくり休んでおくのが一番だと考えたからだ。

 

924 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 17:23:12.78 ID:lJ1ZHuOm0
――ギコ――
同日 PM 7:03


(,,゚Д゚)「ぶえっくし! ……なんだか誰かに噂されてるような気がするぞゴルァ!」

夜の寒さは、この二人にも影響し始めた。
何せよ水飛沫を全身に浴びながらも歩き続けていたのだ。
当然乾くはずもなく、女は時々体を震わせている。

(,,゚Д゚)「おい、寒いのかゴルァ」

男がそう言っても、女はただ首を横に振るだけだった。
だがそれは強がりであることを男は気付かなかった。
女は無理やり付いて来たことにやはり罪悪感を感じており、
うかつに男に迷惑をかけるようなことを言い出せずにいた。
 


925 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 17:30:39.65 ID:lJ1ZHuOm0
(,,゚Д゚)「ふうん。ま、とりあえず、今日中にニュー速グラウンドに行けるといいんだがな」

男はそういいながら、もう女のことを気に掛けず、どんどん歩き進んでいく。
男も寒いとは思っていたのだが、沈み行く街を見ていると、
早く避難場所に駆け込んだほうがいいと判断した。

(*゚ー゚)「……」

黙って付いて来る女に、男は声を掛けた。

(,,゚Д゚)「女、お前名前は何ていうんだ?」

(*゚ー゚)「し、しぃです」

(,,゚Д゚)「しぃか。珍しい名前だな、ゴルァ」

(*゚ー゚)「そ、そうですか……」

(,,゚Д゚)「ああ」

二人はまた黙りこくり、無言のまま歩き続けた。
しぃは何か話題を探そうとしたのだが、無闇に話題を振り、
男の機嫌が悪くなることを恐れ、何も言えずにいた。
 


927 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 17:41:29.80 ID:lJ1ZHuOm0
それからしばらく歩いた頃、しぃが意を決して男に話し掛けた。

(*゚ー゚)「あ、あの……」

(,,゚Д゚)「あん? なんだゴルァ」

男のその声を聞き、しぃはまたびくりと俯いた。
自分の命を賭けて助けてもらったはずなのに、いざとなると風貌の悪い男が
怖くて仕方がなかった。

(,,゚Д゚)「だから何なんだ? 用があるんじゃねえのか?」

(*゚ー゚)「あ……いえ……」

やはり臆病なしぃは、躊躇ってしまった。
怖かった。
怒られる事もだが、機嫌を損ね、捨てられてしまうかもしれないと思うだけで、
喉の奥はからからになり、声は絞り出そうとも中々出てこない。
 


938 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 17:54:29.00 ID:lJ1ZHuOm0
(,,゚Д゚)「……」

男のしぃを見る眼がどんどん厳しいものへと変わっていく。
呼びつけておきながら無言のまま俯くしぃに不快そうな顔を向ける。

(*゚ー゚)「……な……」

呻くように、一つの文字を発音した。
そうだ、頑張れ、これ以上機嫌を損ねさせるな。
そう自分に語りかける。


(*゚ー゚)「な……ま、え……は……?」


(,,゚Д゚)「は?」

しぃの必死の言葉は、男に通じなかった。

(,,゚Д゚)「……もう一回言ってみろゴルァ」
 


947 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 18:11:57.42 ID:lJ1ZHuOm0
(*゚ー゚)「な、名前……は……?」

男の気迫に押されながらも、もう一度だけ呟くように言った。
目をぎゅっと瞑り、俯くしぃ。
もうだめかもしれない。
また一人ぼっちになってしまうかもしれない。


しぃがそう思っていると……。



(,,゚Д゚)「あ? 俺はギコだ」

今までの厳しい視線はころっとなくなり、
普段通りの表情らしきものが浮んだ。

(*゚ー゚)「……え?」

別の言葉を予想していたしぃは、思わず呆気に取られた。
 


950 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 18:23:07.55 ID:lJ1ZHuOm0
(,,゚Д゚)「だから、ギコだよ。ギコ。別に珍しい名前でもねえだろ」

フサギコ医院のギコと一緒だな、と付け加える男――ギコ。

(*゚ー゚)「……」

当たり前のように名前を教えるギコに、しぃは思わず疑問符を頭に浮かべた。
その直後、気付いた。
おかしい。
何故この程度のことでびくびく怯えていたのだろう。
自分の臆病の程が、情けなくて、恥ずかしくて、
とても可笑しかった。

(*゚ー゚)「……ふふ……」

(,,゚Д゚)「あん?」

しぃは静かに笑い始めたが、あはは、と声を立てるまでに時間は掛からなかった。

(,,゚Д゚)「な、なんだよゴルァ!」

(*゚ー゚)「ご、ごめんなさい……アハハ……」
 


952 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 18:29:24.32 ID:lJ1ZHuOm0
ギコは訳の分からないという顔で、しぃを見た。
本来のギコならこの笑いに憤慨しただろう。
何故自分の名前を告げて笑われるのか分からなかった。

だが。

今まで沈みがちで根暗そうだったしぃの顔。
しかし初めて見るその笑顔に、ギコは何とも言えない気持ちを感じた。

(,,゚Д゚)「……わけわかんねえぞ、ゴルァ……」

(*゚ー゚)「ご、ごめんね……はぁ……ふぅ……」

必死に息を整え、しかしまた吹き出し笑いを堪えられなくなってしまう。
これを何度か繰り返した後、しぃはギコに言った。

(*゚ー゚)「あ、あのさ、ちょっと寒くなってきたから、服、乾かしていいかな?」

今までとはまるきり違うしぃの態度に、ギコは驚き、何も言えずにいた。


953 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/07(火) 18:31:00.38 ID:lJ1ZHuOm0
(*゚ー゚)「……あ、えっと、すいません……」

しぃはその無言を、機嫌を損ねさせてしまったと考え、また俯いてしまった。
ギコは何だか自分が悪いことをしたように思え、焦りながらも否定した。

(,,゚Д゚)「あ、い、いや、何でもないぞ! 服は乾かさないと寒いなゴルァ!」

(*゚ー゚)「あ……ありがとう」

しぃの笑み。
ギコには自分の中に起こる感情の正体がよく分からなかった。

結局二人は火を起こし、服が乾くまでそこにいることにした。
一瞬ギコは、もしかしてと淡い期待をしたのだが、そんなことはなく、
だが明るくなった女の熱烈なトークを聞きながら、
今までにない感情を味わったのだった。

 

38 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 01:27:56.74 ID:q/REMijf0
――ブーン――
同日 PM 7:05


夕食は、カレーだった。
ボランティアの人間が近所からかき集めた材料で料理したカレーを、
学校内の避難民全員に配給した。
受け取り拒否した住民もいたが、大半の住民はありがたく受け取った。
見ず知らずの人間たちと食卓を囲んだ。
みんなで食べる夕食というのは、やはり元気が出るようだった。
先ほどまで妻を亡くし茫然自失としていた初老の男も、
ボランティアに半ば無理やり参加させられ、働き続けるうちに、
夕食の際には笑顔で会話する姿が見られた。

ブーンたちのテーブルも、大いに賑わっていた。
食事には、先ほど目覚めたばかりの弟者も加わった。
弟者はまだ微かに熱があるものの、腕をかばえばもう十分動けるほど回復していた。
 


40 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 01:39:03.38 ID:q/REMijf0
( ^ω^)「あ、熱いお……」

川 ゚ -゚)「おいブーン、人参もちゃんと食え」

l从・∀・ノ!リ人「おとじゃー、あーんなのじゃー」

(´<_` )「いや、左手で食べられるから」

そんな中、一人浮かない顔をし、カレーに手をつけていない者がいた。
ツンである。
皆から離れるように一人微妙な間をあけて座っていた。

その光景を見つけたブーンは、輪に入れようと声を掛けた。

( ^ω^)「ツン、カレーおいしいお。一緒に食べるお!」

川 ゚ -゚)「カレーを食べると言っても、お前は人参を残しているじゃないか。
    ちゃんと食べろ。食べ物を粗末にするな」

( ^ω^)「に、人参は苦手だお……。ツンはカレーが苦手なのかお?」

ξ゚听)ξ「……」
 


41 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 01:51:27.97 ID:q/REMijf0
だがツンは何も言わない。
ブーンの言葉が聞こえていないわけではないだろう。
しかしツンはただ俯き、何も語ろうとしない。

( ^ω^)「ツン?」

ブーンが顔を覗きこむように、姿勢を低くしながら尋ねた。

ξ゚听)ξ「……あんたは良く……」

( ^ω^)「え?」

呟くような微かな声が聞こえてきた。

ξ゚听)ξ「……あんた、よく自分の母親が見つからないっていうのに、
     そうやって暢気にカレーなんて食べられるわね!」

突如顔を上げ、怒りを孕んだ大きな声をブーンに浴びせた。
 


44 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 02:03:04.60 ID:q/REMijf0
( ^ω^)「……ツン……?」

ξ゚听)ξ「あんた、自分の母親が心配じゃないの!?
     あんたそんなに薄情な人間なの!?」

何の前触れもなく怒るツンに、ブーンは訳が分からなかった。
彼女の荒げられた声に、一番遠くで兄妹仲良く食事していた弟者と妹者、
それにクーも、ツンを凝視していた。

(´<_` )「……どうしたんだ?」

何も言えないブーンに代わり、弟者が尋ねた。

ξ゚听)ξ「どうしたですって? 良くそんなこと言えるわね。
     自分の兄は一人都市部に向かって、聞けばあんたも両親を捜してたんでしょ?
     なのにあんたはここでのんびりカレーなんて……」

ツンは怒りの矛先を弟者に向け、精一杯の怒声を張り上げた。
周りの人間も、何事かとブーンたちを注目し始めた。
 


47 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 02:18:11.77 ID:q/REMijf0
(´<_` )「……カレーを食べなければ、母者と父者が見つかるというのか?
      そんなわけないだろう。飯を食べなければ、俺たちが死ぬ。
      会いたい人間と会えなくなる。
      それくらい分かるものだろう? 子供じゃないんだ」

弟者が冷静に切って返す。
だがツンはそれに納得した様子もなく、またヒステリックに叫んだ。

ξ゚听)ξ「じゃあ今からでも捜しに行くとか!
     そういうことがあるでしょうが!」

川 ゚ -゚)「こんな時間に外を出歩くのは危険だ。
    暗く、どこが脆くなっているかも分からない。
    それに、弟者たちを襲った通り魔というのもいるのだろう?」

ξ゚听)ξ「だからって、それじゃあまりに薄情でしょうが!」

クーや弟者、そしてブーンは、訝しげな顔でツンを見た。
ツンの叫びは、既に論理になっていなかった。
駄々をこねる子供のような、理屈が通っていないただ感情に任せた叫びであった。

そう言えばこの学校にやってきてから、ツンの様子はおかしくなった気がする。
いや、出会った頃からおかしかったのだが、
しかしあのシートの下を覗いてから、一切何も語ろうとしなかった。
 


48 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 02:30:40.93 ID:q/REMijf0

川 ゚ -゚)「じゃあ今から捜してくるといい。お前の姉とやらを。
    この暗さの中、見つかるとは思わんがな」

ξ゚听)ξ「あんたに言われるまでもないわよ!」

そう言って、ツンは立ち上がり、校門のほうへと駆けて行った。
ブーンが止める間も無く、ツンの背中は遠く小さくなり消えて行った。

( ^ω^)「クー、今のは酷いお!
      こんな時に外に出るなんて危険だって、クーもさっき言ったお!」

川 ゚ -゚)「何、どうせ校門にはボランティアの人が交代で待機している。
    こんな時間だ、女一人で外に出すわけがない。
    それに頭を冷やせばすぐにでも帰ってくる」
 


52 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 02:48:03.65 ID:q/REMijf0
クーはカレーが冷めないうちに早く食べろと付け加え、
自らは食事に戻った。

(´<_` )「確かにクーの言う通りだ。
      よほど姉のことが心配なのだろうが、頭を冷やすことも知らなければならん。
      俺も明日になれば、朝のうちから都市部へ向かうつもりだ。
      俺だって、兄者や母者、父者のことは心配だからな」
弟者も左手でスプーンを不器用に動かしながら、そう言った。
腕が骨折したというのに、一人で行くというのだろうか。
弟者の言葉に、食事に戻ったはずのクーが、手を止め反論した。

川 ゚ -゚)「バカな。それこそ自殺行為だ。
    腕が使えないのに一人で行くなど、正気の沙汰じゃないぞ」

(´<_` )「だがな、俺にだって家族はいるんだ。
      今頃兄者は一人じゃ寂しくて小便を漏らしてるかもしれないからな。
      それに妙な胸騒ぎがするんだ。
      変な夢を見たせいかもしれないが……」

 

56 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 02:59:54.31 ID:q/REMijf0
弟者はそう言いながら、かぶりを振った。
しかしブーンも、弟者一人で行かせるべきではないと思う。
都市部も居住区と同じく半壊状態ならば、
居住区に比べ、上から物が降って来る可能性は遥かに高いはずだ。
それに、もう一度通り魔に出会ったとき、今度こそ逃げることなど出来ないだろう。

l从・∀・ノ!リ人「おとじゃ、いもじゃもいくのじゃ」

妹者も勇んで、弟者について行こうとする。
だが勿論弟者はそれを許さなかった。

(´<_` )「ダメだ。危ない。お前はここにいろ」

それは妹を危険に晒したくないという兄心だったが、
妹者は自分だけ仲間はずれにされたと思ったのか、駄々をこね始めた。

l从・∀・ノ!リ人「いやじゃ、おとじゃといっしょにいくのじゃー!
       ちちじゃとははじゃをむかえにいくのじゃー!」

(´<_` )「いい加減にしろ。お前が怪我でもしたら、
      兄者も母者も父者も、俺だって悲しむんだぞ」

l从・∀・ノ!リ人「……」

家族が悲しむと言われ、妹者はしゅんとなった。
目は涙を溜め、今にも泣き出しそうな顔をした。

57 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 03:09:08.28 ID:q/REMijf0
(´<_` )「すまんな……。
      ブーン、悪いが妹者を預かってはもらえんか?
      妹者を一人にするのは、やっぱりな……」

弟者はそう言って妹者の頭を撫でるが、
ブーンも明日の朝からすぐに自分の家に帰るつもりでいた。
ブーンとしては一緒にいてやりたかったが、だがカーチャンの無事を確認したいという気持ちも強かった。

( ^ω^)「……ごめんお。明日は朝から家に帰って、
      カーチャンの無事を確かめたいお……」

それを聞いた弟者はそうか、と短く呟くように言い、
隣りのクーに頼もうとしたが、
それを察したクーが、先に弟者の頼みを断った。

川 ゚ -゚)「悪いが、私も明日はブーンに付いて行く約束をしているのでな」

(´<_` )「……そうか……。妹者を一人にしていくのは心苦しいが、仕方ないか。
      妹者、一人でおとなしくしていられるな?
      もし俺らがいないときに救助が来ても、
      一人でちゃんと救助を受けるんだぞ?」

l从・∀・ノ!リ人「……」

58 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 03:16:12.10 ID:q/REMijf0
皆のやり取りを見て、ブーンはクーに言った。

( ^ω^)「……クー、明日は僕一人で行くお。
      だから、妹者のそばに居てやって欲しいお。
      妹者も一人で寂しいはずだお」

こんな小さな子が寂しい思いをするよりも、
自分が一人で行くほうが、断然良いに決まっている
――ブーンはそう考えた。

川 ゚ -゚)「……お前はそれでいいのか?」

クーが決断を求めるような、強い口調でブーンに聞いた。
何があっても一人で考え、対処する覚悟を問うようなその言い方は、
ブーンの心を一瞬不安にさせた。

本当に一人で大丈夫なのだろうか、と心の底に浮ぶ弱気な言葉を
必死に掻き消し、ブーンは言った。

( ^ω^)「……大丈夫だお。心配ないお。
      だから、クーは妹者についててあげてほしいお」

59 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 03:17:08.59 ID:q/REMijf0
ブーンのその言葉の端々に隠れる感情を読もうと、
クーはブーンの瞳を覗き込むように見たが、結局目をそらし、
わかった、と一言だけ呟いた。

川 ゚ -゚)「では妹者、明日は私と一緒に居るんだぞ。
    寂しい思いはさせないよう、善処しよう」

l从・∀・ノ!リ人「……」

これで、明日の予定が全て決まった。
ブーンは北を目指し、兄者は南を目指す。
クーと妹者はここに残る。

この場に居ないツン。
彼女はどうするのだろうか。
戻ってくるのだろうか。
それとも、本当に一人で行ってしまったのだろうか。

ブーンがそう考えていると、

一つの叫び声が、夜の帳を切り裂くように、
遠くの闇から聞こえてきた。

106 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 16:28:12.14 ID:q/REMijf0
校門のほうから上がったその悲鳴に、ブーンはすぐさま飛び出していた。
先ほど校門のほうへ駆けて行ったツンの悲鳴だろうか。
何が起こったのかはわからなかったが、とにかく悲鳴の主に危険が及んでいるのは確かだった。

ブーンの後ろをワンテンポ遅れてクーが付いて来る。
弟者はギプスをはめていながらも、やはり走ると腕に響くのか、
腕をかばいながら出来るだけ痛まないような速度で走ってくる。

学校内の補強などの手伝いをしていたブーンの足腰には
未だに疲れが残っており、いつものようなスピードは出ない。

( ^ω^)「(……まさか……あの通り魔……)」

ツンが走り去ってからはあまり時間が経っていない。
あの悲鳴の主は、ツンである可能性が高い……!

107 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 16:34:10.43 ID:q/REMijf0
だがいつものように足に力が入らず、普通の人間の走る速度と大して変わらない。
自分の不甲斐なさに一喝しながら、ブーンは必死に駆けた。

何分か走ると、校門のそばに設置されたテントのロウソクの明かりが近付いてきた。

校門に辿り着くと、月明かりとロウソクの光の中に、何人か倒れているのが浮んでいた。
皆一様に頭をかち割られ、白目を向き、微動だにしない。

その中で、倒伏しているボランティアの女性を抱き起こしている男の姿が見えた。


ショボンであった。

121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/08(水) 18:12:08.56 ID:q/REMijf0
ショボンはブーンの声に気付き、顔を上げた。

(´・ω・`)「ブーン……ここにいたのか!」

抱き起こしていた女性を静かに横たえ、何か赤い物体を片手で胸に抱えながら、
ショボンは静かにブーンのそばに歩み寄ってくる。

( ^ω^)「ショボンも無事で何よりだお!
      でも、これは何なんだお……」

ブーンは改めて辺りを見回した。
食事の間交代制で置かれた、外から来る被災者の確認のためにテントにいた
五人のボランティアの人々が殺されていた。
鈍器で殴られたような跡があり、その凄惨さに思わず目を背けたくなる。
その五人の中にツンはいなかった。
それだけがブーンを安堵させたが、しかし五人もの人間が殺されてしまったのは事実だ。
そう思うと、居た堪れなくなる。

122 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 18:21:42.72 ID:q/REMijf0
川 ゚ -゚)「……おい、ブーン、どうだった…… ! これは……」

追いついたクーが、この光景を見て唖然とした。
今まで一緒に働いていた人間が殺されたのだ。
クーとしては、心穏やかなわけがないだろう。

川 ゚ -゚)「お前が……やったのか?」

そう言って、歩き近づいてくるショボンに言い放った。
怒気を含み、明らかにショボンを敵視した物言いだった。

( ^ω^)「ち、違うお! ショボンは僕の友達だお!
      偶然ここに居合わせただけだお!」

ブーンは焦り、友人の誤解を解こうと必死になって弁解した。

128 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 18:33:21.41 ID:q/REMijf0
ショボンが近づくにつれ、ロウソクの灯りで照らされ、どんどん姿は浮き出されていく。

ショボンの横顔が炎によって赤く染められたとき、
胸に抱きかかえているその物体の正体が明らかになった。


その赤く染められた物体は、血で染められた犬の死体だった。
付近で死んでいる人々のように、ぼろぼろになり、しかしもっと凄惨で、
それは犬と識別するのに幾らか時間を要するほど原型を判別するのが難しいものだった。

( ^ω^)「しょ、ショボン、それは……!」

ブーンがそれを問いただそうとしたとき、
背後から弟者と妹者がのろのろと駆けて来た。

130 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 18:48:24.41 ID:q/REMijf0
二人は校門前の悲壮な光景とショボンの姿を見つけ、はっとした。

(´<_` )「おい、ブーン、離れろ!」

弟者の怒声に、ブーンはびくりと体を反らした。

振り向くと、苦痛にもあまり表情を変えないはずの弟者が、
恐ろしい剣幕で立っていた。
目は見開かれ、その瞳の奥には怒りと、畏怖の念が見て取れた。

動かないブーンに、弟者はもう一度張り上げるような声を放つ。

(´<_` )「そいつが、俺たちを襲った通り魔だ!」


( ^ω^)「…………………………………………え?」

136 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 18:58:31.78 ID:q/REMijf0
ブーンには、弟者が何を言ったのか、一瞬理解できなかった。
通り魔?
自分の親友が通り魔?
確かにあの時顔を隠しながら逃げた通り魔に背格好は似ているが、
だがそんなわけがない。
自分の親友が、通り魔なわけがない。

(´<_` )「おい、離れろ、危ない!」

弟者の真摯な声は、ただの冗談にしか聞こえない。

( ^ω^)「……あはは、何言ってるお。そんなわけないお。
      冗談はやめるお。ねえショボン?」

ブーンはからからに乾いた喉を震わせ、笑った。
だがその笑いからは、虚しさしか感じられなかった。

142 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 19:26:40.34 ID:q/REMijf0
ショボンはブーンから三メートルほど離れた場所で立ち止まり、静かに呟いた。

(´・ω・`)「……通り魔……」

そのショボンの右手には、全身を黄金色に輝かせる、金属バットがあった。

( ^ω^)「……そ、その金属バットは……」

ブーンがわなわなと体を震わせる。
口が思うように動かず、出すべき言葉が容易に出ない。
幾つもの思考が交差し、考えるべきことは氾濫する思考に流され纏まらない。

訳が分からない。
何も考えられない。
額から冷たい汗が垂れ、背中はいつの間にか服が濡れて肌に引っ付いている。

146 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 19:30:30.26 ID:q/REMijf0
弟者がそばにあった木材を手に取り、ショボンに向かって駆け出す。
鬼気迫る弟者のその様子に、ショボンは腕に抱く死体を地面に置き、呟く。

(´・ω・`)「……なら僕はまだ、死ねない……」

後ろを振り返り、走り出そうとしたショボンは、ブーンに聞こえるように囁いた。

(´・ω・`)「その子、埋めてあげて」

それだけを言うと、走り出すショボン。
弟者が追いつく前に、ショボンの背中は闇の中へと消えて行った。

160 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 20:05:23.90 ID:q/REMijf0
(´<_` )「……」

思わず武器を持って通り魔に迫ったが、
一度は殺されかけた通り魔と直接対決になるのはやはり恐ろしかったのだろう。
弟者はふうと一息吐き、ブーンを見た。

ブーンはただ呆然とするだけだった。
自分の親友が通り魔であった。
その証拠の凶器も持っており、それは払拭することの出来ない事実である。
ブーンには、何が何だか分からなかった。

(´<_` )「……あいつは、お前の友人なのか……」

そんなブーンに、弟者は質問を投げかけた。
責めている訳ではなく、ただ事実を確認しようとするだけの質問。

ブーンはそれに、一度だけ頷いた。

(´<_` )「……」

162 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 20:14:28.70 ID:q/REMijf0
弟者はそれを聞き、黙りこくった。
ブーンはあの通り魔に襲われているところを助けてくれた恩人であり、
それは事実だ。
だがブーンの友人がその通り魔であるということもまた、事実だった。

沈黙だけが4人の間に渦巻く。

しばらくすると、悲鳴を聞いた他の人間が集まってきた。
彼らはこの場の凄惨さを目に止めると、怒り、悲しんだ。
比較的冷静だったクーが、通り魔の襲来を皆に聞かせた。
その犯人がブーンの友人のショボンであるということは、伏せられた。

ブーンは全てに納得がいかないまま、ショボンの置いた犬の死体に近づき、抱き上げた。
温かみはなく、ねっとりとした血がブーンに張り付く。
だがブーンはそんなことを気にせず、大事そうに抱きかかえ、隅のほうへと歩いて行った。

167 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 20:23:39.09 ID:q/REMijf0
ショボンは、友人であるショボンは言った。
この子を埋めてくれと。
だからブーンは、この犬を埋めてやることにした。

冷たく固い地面を素手で掘る。
手の皮は破け、血が噴出す。
血のついた土は積み上げられ、また血の色をした土によって隠された。

痛みはあった。
それはこれが現実であると思い知るための痛みであった。
ショボンは通り魔犯で、自分は何も知らなくて、犬を埋めるために土を掘っている。
それだけが、今のブーンに与えられた現実だった。

169 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/08(水) 20:28:13.51 ID:q/REMijf0
弟者が歩み寄り、ブーンの掘る地面を一緒に掘り始めた。
同じく素手で、しかも片方の手でしか掘れない弟者は、大した助力にならなかったが、
ただ手伝ってくれるだけで嬉しかった。
妹者もその隣で掘る。
クーは弟者が捨てた木材を拾ってきて、ブーンに渡した。

ある程度の穴があき、犬を布に巻いてそこに埋めた。
布に巻く直前、首輪についたタグが目に入った。
そこにはこの犬の名前と、ショボンの名があった。

( ^ω^)「ショボン……」

彼は本当に通り魔なのか。
そして最後に彼が残した一言。
――なら僕はまだ、死ねない。
これが一体何を指すのか、ブーンには分からなかった。

 

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