51 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/25(土) 01:07:04.38 ID:Dr8L/hn00
しばらくして、ある朝登校すると、ごく当然のようにショボンは教室にいた。
無表情そうな顔は普段どおりのもので、それを見たブーンは安堵した。
一緒に登校したドクオも、ほっと胸を撫で下ろしているように見えた。
( ^ω^)「……きょ、今日はいい天気だおね」
自分の境遇を重ね合わせ、今まで心配していたブーンは、
何気もないように振舞いながら、ショボンに近づいた。
(´・ω・`)「……え、今雨降って……」
突然の言葉に驚き、しかし即座に外を見て、そう返すショボン。
( ^ω^)「……えーあー……」
いきなりつまずき、元々ドクオ以外の人間とあまり話をしないブーンは、
何かいい言葉はないかと探し始め、何も言えなくなった。
('A`)「……とりあえずな、こいつはお前のことを心配してたんだよ」
ぶっきらぼうにドクオは言った。
52 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/25(土) 01:07:38.89 ID:Dr8L/hn00
(´・ω・`)「え……」
( ^ω^)「じ、自分だって心配してたくせに何言ってるお!」
('A`)「や、いや、俺は心配なんてしてないぞ!
ブーンが心配してたからな、俺もそれを見て心配になったんだ!」
照れ隠しのように顔を赤らめながらかぶりを振ってドクオは必死に否定した。
自分の座る机の前で繰り広げられる、その様子を見ていたショボンは、
(´・ω・`)「……ありがとう……」
と一言だけぽつりと呟いた。
その意外な一言に、ブーンとドクオは一瞬耳を疑った。
ショボンの顔を覗きこむように見たが、それはいつものショボンの顔だった。
しかしそれ以来、ブーンは何かにつけてショボンを誘うようになった。
都市部に遊びに行こう、だとか、ドクオの家に遊びに行こう、だとか、
一緒に食事をしよう、だとか、そんな具合にショボンを連れまわした。
そのうち、ショボンは段々と二人に心を開き始めた。
そしていつしか、彼らは仲の良いグループを築き上げていった。
53 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/25(土) 01:08:00.54 ID:Dr8L/hn00
そんな想い出を、ブーンは思い返していた。
( ^ω^)「……そうだお」
仲良く遊ぶようになっても、
あの体育館ですれ違ったときに似た表情を稀にしていたショボン。
( ^ω^)「だけど、信用できないなんて、そんなこと……」
あっちゃいけない。
ショボンは自分の友達であり、それが通り魔などするわけがない。
( ^ω^)「……よしだお!」
ブーンは決心した。
ショボンを疑う自分を捨て、どんなことがあろうとも、ショボンを信じることを。
そうと決まれば、一刻も早く母の安否を確認し、この地獄から生き延びるだけだ。
ブーンは、走り出した。
54 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/25(土) 01:09:18.20 ID:Dr8L/hn00
――弟者――
同日 AM 9:46
ブーンたちと別れて、幾らか歩いた。
学校の傍にある橋を用心しながら渡った。
だが同じような構造をしているこの橋は案外丈夫ならしく、
兄者のときのような、あの二の舞になることはなかった。
(´<_` )「……」
兄者のことを考えた。
兄者はもう母者や父者と再会しているのだろうか。
むしろ、まだ生きているのだろうか。
道端に転がる死体に目をむけ、ふとそんなことを考えた。
このあたりはボランティアの人間が警邏に来ていないらしく、
死体の運搬はまだ行われていなかった。
誰かも分からない死体を見ても、何とも思わなくなった。
それは自然なことなのだろうか。
55 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/25(土) 01:10:05.01 ID:Dr8L/hn00
(´<_` )「(今回の地震、何だかおかしい気もする)」
直感的にだが、そう感じた。
自分が知る限り、余震が一度しかない。
普通の地震なら、もう幾つかの余震が起きてもおかしくないはずだ。
それに、これほどの地震なら、大型の津波が島を襲っても不思議ではない。
しかしそれもない。
ネットに繋げず、学校内の他の人間も試していたが、携帯電話も使えない。
これは明らかにおかしい。
(´<_` )「(俺たちの知らないところで何か起きているのだろうか)」
そんな気がして、仕方がない。
だが今は、とりあえず家族の安否を確認することが先決だ。
家族全員で一緒にいれば、何とかなるという気がする。
生きていれば、この先どうとでもなるという気も。
そんなことを思案していると、ふと妹者の顔が脳裏を過ぎった。
(´<_` )「(妹者を一人にしてきて、悪かったかもしれんな)」
自分も家族の安否を気にかけ、こうして探し回っている。
しかし一番幼く、非力な末女を一人にしてしまった罪悪感じみた感情が、
弟者の心の隅に生まれた。
56 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/25(土) 01:10:59.94 ID:Dr8L/hn00
(´<_` )「(だが、妹者を危険な目に遭わせる訳にもいかんしな)」
そうだ。
妹者を危険な目に遭わせるなど、母者に知れたら
スクリュードライバーやコブラツイスト、マウントポジションでたこ殴りにされる。
その様子を思い浮かべ、気がつくと顔はにやけていた。
母者のあの虐待にも似た躾が懐かしい。
思わず郷愁の念を感じずにはいられない。
(´<_` )「(あの、懐かしい日々に……)」
帰ることが出来る日は、来るのだろうか。
628 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金)
01:12:48.18 ID:Kin8CDio0
――ギコ――
同日 PM 7:59
(*゚ー゚)「この島にはね、いとこに会いに来たんだよ。
ほんとならその子の家族と一緒にいるはずだったのにね。
なんでこんなことになっちゃったんだろうね」
(,,゚Д゚)「……」
初めこそ、このしぃという女のマシンガントークを
珍しく思い、聞いていた。
(*゚ー゚)「あ、それでね、その子のお母さんがすごく優しくて、
それに料理も上手なんだよ。
私いつもそのおばさんに料理教えてもらってるんだ。
おばさん大丈夫かな……いとこの子も。
まああの人たちなら、何とか生き残ってそうな気もするけど……」
(,,゚Д゚)「……」
だがそれも40分ほど止まることなく延々と聞かされれば、
恐らく誰でもうんざりしてくる。
630 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 01:18:51.16 ID:Kin8CDio0
(*゚ー゚)「この辺の地理ってね、あんましよく知らないんだ。
おばさんたちも引っ越してきたのは4年前くらいだったはずだし。
私がここに来るようになったのも、2年位前からだしね。
その頃とは随分街並変わったよ。こんなにビル建ってなかったし」
(,,゚Д゚)「……」
実際、ギコはうんざりしていた。
ギコが何も言わなくても、しぃは勝手に話す。
一方的に語る。
そりゃ今まで一人ぼっちで死の恐怖と寂しさに耐え、
その状況から解放され安堵したから、と考えれば納得はできる。
だがそれを聞かされるほうとしては如何せん黙って欲しいと思うのが心情だろう。
しぃの熱烈なマシンガントークに、ギコは撃ち殺されんばかりに
精神的疲労を感じていた。
だがどうにも話を打ち切るタイミングがない。
ギコがこうして考えている最中にも、やはり一人で喋っている。
634 :◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 01:30:17.77 ID:Kin8CDio0
だがここでギコがうるさいと一言言えば、
しぃは残念そうな顔をし、また俯きがちになる。
どちらにしても、極端なのだ。
極端に明るくなるか、極端に暗くなるか。
全くギコにはこのような手合いとの付き合いがないので、
正直どう接して良いかも分からない。
だからずっと黙りこくっている。
(*゚ー゚)「あ、火小さくなったね。くべなきゃ」
そう言って、しぃはスチール製の灯油缶の中で燃える火に、
その辺で千切って来た木の枝を突っ込む。
その動作の中、しぃが黙った。
(,,゚Д゚)「(……今がチャンスだゴルァ!)」
ギコはその隙を狙い、素早く口を――
639 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 01:39:10.69 ID:Kin8CDio0
(*゚ー゚)「それでね」
(,,゚Д゚)「……」
素早かった。
しぃのトークはマシンガンという域を超えているのではないか。
弾倉を入れ替えている気配がない。
いや、もしかしたら、古今東西あらゆる銃の名手よりも早い
神速とも言えるスピードで入れ替えているのかもしれない。
結局、またしてもギコはこのマシンガントークをその身に喰らうことになった。
(,,゚Д゚)「(……助けたの失敗だったかも……だぞ)」
心の中で、そっと呟いた。
641 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 01:44:56.82 ID:Kin8CDio0
それから数十分経った。
まだしぃは話し続けている。
(,,゚Д゚)「(……)」
もはやギコは何も考えていない。
何も考えないことこそこの場を凌ぐ方法だと悟ったのだ。
しぃはそんなギコを気にも掛けず一人で話し続けている。
そんなしぃを尻目に、ギコはすぐそばで聞こえる海のさざなみに耳を傾けていた。
海にいい思い出はない。
だがこのさざなみの奏でる不規則な音楽は、ギコのお気に入りだった。
寄せては引き、寄せ手は引くこのメロディーは、ギコの心を穏やかにさせる。
ギコがしぃの言葉から耳を塞ぎ、この海の奏でる旋律に溶け込んでいたとき、
ギコの背筋に、悪寒が走った。
645 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 01:55:18.25 ID:Kin8CDio0
(,,゚Д゚)「!」
背筋の悪寒はますます酷くなる。
勘違いではない。
これは長年ギコの家業を支え続けてきた、優れた危険察知の兆候。
つまりこの場にとどまっているのは危険だということだ。
(,,゚Д゚)「おい」
今まで断ち切れなかったしぃのマシンガントークに割り込む。
悪いと思う暇は無い。
(*゚ー゚)「え?」
ギコの低く真剣な声に、
しぃはまた何か不味い事を言ってしまったのかと思い、一瞬体を反らした。
(,,゚Д゚)「ここは危ない。逃げるぞ」
しぃの手を素早く掴み、立ち上がらせる。
火の始末はしない。
ギコの予感が正しければ、始末しなくても勝手に消える。
646 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 01:59:45.85 ID:Kin8CDio0
(*゚ー゚)「え? え?」
何も理解できないしぃは、ただ頭の上に疑問符を浮かべるだけでしかない。
ただ為されるがまま立ち上がり、ギコの後を追い走り出した。
その刹那、地が揺れた。
(,,゚Д゚)「ぐっ……!」
ギコはしゃがみ、踏ん張る。
しぃも一瞬遅れ、ギコのようにしゃがみこんだ。
海辺の道路に亀裂が走り、地が割れる。
割れた地面はたちまち海に流れるように沈み込む。
(,,゚Д゚)「くそっ、島が沈み始めたのかゴルァ!」
ギコの予感は当たった。
海辺のほうから徐々に崩れていく。
崩れた大地は盛り上がり、次々と海に呑まれた。
649 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 02:08:10.56 ID:Kin8CDio0
(,,゚Д゚)「おい、逃げるぞゴルァ!」
揺れる地面を果敢に蹴り、走った。
慢性的に揺れる大地は非常にバランスが取りにくく何度かこけそうになる。
だがこけることは、恐らく死に繋がる。
倒れることなく走り続けるしかない。
次第に海水が島に押し寄せ始め、川は氾濫を通り越し、
アスファルトの大地に水を流し込む。
ギコたちの足元にも徐々に海水が迫ってくる。
急がなければ、このままギコたちも海に呑まれる。
(,,゚Д゚)「急げ、急げ!」
後ろをついて走るしぃを叱咤し、自分も走り続ける。
ギコたちが休憩していた場所は、もう海の藻屑となっていた。
どこまで崩れるのか分からない。
だがとにかく走れるだけ走ることが、彼らに与えられた使命だった。
650 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 02:15:29.92 ID:Kin8CDio0
突如、大きな地割れが視界に入った。
その地割れは10メートルほどの距離があり、飛び越えることは不可能だ。
後ろからはギコたちを追うように、次々と地が割れ、水没していく。
(,,゚Д゚)「くそっ、どうすればいいんだぞゴルァ!」
ギコが辺りを素早く見回す。
何度か視界を行ったり来たりさせているうちに、あるものが飛び込んできた。
(,,゚Д゚)「モールの屋根……!」
それはアーケード街の頭上に架かる、丸みを帯びた大きな屋根だった。
その屋根は所々ひしゃげながらも、
巨大な地割れの向こうのビルとこちら側のビルを繋げていた。
(,,゚Д゚)「あれしかない……!」
ギコは息を切らし、今にもへたり込みそうなしぃの手を引き、
ビルの中へと駆けて行った。
651 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 02:26:08.76
ID:Kin8CDio0
ビルは複数の会社が業種を問わずテナントに入る、所謂雑居ビルだった。
すぐ目の前に階段があり、二人は数段飛ばしで駆け上がる。
普通の人間では暗いビルの中は見通しが悪く、壁に思い切りぶつかってしまうだろう。
だがギコの目は普通の人間のそれより遥かに闇に順応していて、
それがこれまでギコの生業を支えてきた武器の一つであった。
ギコはしぃの手を引きながら三階の部屋を目指す。
時々しぃが躓きそうになるが、だが果敢についてくる様は、
ギコにとって意外なものだった。
出会って間もない二人がこのようなことに巻き込まれてしまったことこそ
意外でしかないのかもしれないが。
三階に着き、そこの窓から下の光景を見た。
水没はビルのすぐそばにまで迫っており、このビルが沈むのも時間の問題だった。
モールの屋根に続く部屋の扉に手をかける。
653 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 02:33:39.32 ID:Kin8CDio0
(,,゚Д゚)「か、鍵だとゴルァ!?」
その扉には鍵が掛かっており、ドアノブが回らない。
仕方なくギコは体を思い切り扉に叩きつける。
だが開かない。
何度も体当たりを繰り返すが、一向に開く気配はない。
(,,゚Д゚)「くそっ……」
ギコが悪態づいた瞬間、ビルが大きく揺れた。
(,,゚Д゚)「うおっ!」
(*゚ー゚)「きゃあっ!」
バランスを崩し、二人とも尻餅をつく。
ビルが沈み始めたのだ。
(,,゚Д゚)「くそぉっ!」
ギコはすぐさま立ち上がり、体当たりを再開する。
揺れるビルの中でショルダータックルを繰り返し、次第に肩から感覚がなくなっていく。
痛みすら消え、自分の肩があることすら分からなくなってくる。
656 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 02:43:29.16 ID:Kin8CDio0
すると突然、扉を叩く音が大きくなった。
背後を見ると、小柄なしぃが必死に同じタイミングで体をぶつけている。
(,,゚Д゚)「もうちょいだ! 頑張るぞゴルァ!」
(*゚ー゚)「うん……!」
空虚なビルに、地鳴りと金属の扉を叩く音だけが響く。
足元がゆれ、何度か転びそうになるが、必死に持ちこたえ、扉にぶつかっていく。
十数度の体当たりの末、鍵が拉げる音がした。
二人が助走をつけ、懇親のタックルを扉に見舞った。
扉は勢い良く開き、壁で跳ね返った。
二人は転がるように部屋の中に駆け込む。
ギコは部屋に入ってすぐの壁際に立てかけてあるパイプ椅子を掴み、
モールの屋根に続くガラス窓に投げつけた。
ガラスは四散し、二人の前に道が出来る。
659 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 02:54:01.27 ID:Kin8CDio0
(,,゚Д゚)「行くぞっ!」
しぃに促し、最初にギコが窓からモールの屋根に飛び移る。
モールの屋根はガコンという嫌な音をさせながらも、ギコを受け入れた。
(,,゚Д゚)「早くこっちに来い!」
しぃに向かって手を指し伸ばす。
だがしぃは力なく首を横に振る。
もし飛び移るのに失敗し、地割れに落ちてしまったら、まず助からない。
それに恐怖し、飛び移ろうとしない。
(,,゚Д゚)「バカ、そっちにいても結局死ぬぞっ!」
(*゚ー゚)「……嫌……」
それでもしぃは首を縦に振らない。
元々彼女は臆病であった。
これまで生きる望みに賭け、ギコの後に続き走り続けたが、
こうしてギコと自分との間に出来た数メートルの距離を目の当たりにし、
彼女の中に恐怖心が芽生えた。
660 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 03:01:31.86 ID:Kin8CDio0
ギコの方でも、いつまでも屋根に乗っているのは当然危険だ。
向こうのビルが沈めば、この屋根も支えをなくし、傾きながら地に落ちる。
そうすればギコもあの地割れの底に流れる濁流に呑まれ、命はない。
これまでのギコなら、他人のことなど放っておいて逃げたはずだ。
自分第一主義のギコなら、きっとそうする。
自分さえ生きていればいい。
他人のことなど気にするな。
そう信じて生きてきた。
だがあのしぃという女と出会い、何故か自分の信じた生き方が、
いっぺんに塗り替えられた。
出会って間もないしぃという女。
自分にとって彼女が何なのか分からない。
しかし、自分の命を懸けてまで救った彼女を見捨てることが、
ギコには出来なかった。
(,,゚Д゚)「来いっ、俺が助けてやるからっ!」
666 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 03:08:05.97 ID:Kin8CDio0
夢中になって叫んだ一言。
しぃが言った、「助けて」という言葉、
そして、かつて自分が溺れながら必死に願った言葉。
それらがギコの中で同調した。
それはしぃの方でも同じことだった。
その一言にはっとし、俯きがちだった顔を上げた。
大きく開かれた目は、やがて意を決した色を帯びる。
(*゚ー゚)「……行くよ……っ!」
窓枠に足を掛け、思い切り蹴り放った。
宙を浮び、ギコのほうへと向かっていく。
そのしぃをギコは抱きしめるように受け止める。
足元がいやな音を立て揺れる。
しかし崩れ落ちる様子はなく、二人は顔を見合わせ、向かいのビルを目指し駆けた。
673 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 03:21:31.17 ID:Kin8CDio0
次第に沈み行くビルにつられ、屋根もどんどん角度を増す。
あちこちで軋むような音を立てながら、屋根に亀裂が入っていく。
ギコはしぃの手を引きながら、果敢に駆けた。
向かいのビルが近づく。
ビルの窓には未だにガラスが張られていた。
掴んでいたしぃの腕を離し、ギコは思い切りガラス窓に向かって飛んだ。
腕を交差させ、顔をかばいながら窓ガラスに突っ込んだ。
腕にガラスの破片が突き刺さりながらも、ビルの中に転がり込む。
痛みなど気にしていられない。
気にするのは、生き延びてからでいい。
しぃがギコの作った道に向かって飛ぶ。
それを抱きとめ、小脇に抱えるようにしてビルの階段を下った。
未だにビルは揺れている。
恐らく沈み行く向かいのビルにくっ付いていたモールの屋根が沈み始め、
それにつられてこちらのビルも沈み始めているようだ。
675 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 03:30:30.93 ID:Kin8CDio0
このビルも向かいの水没するビルと同じような造りの雑居ビルだった。
暗く無機的な階段を転げ落ちるように駆け下りた。
ビルの出口は月明かりが照らし、一条の光明のようなものを放っていた。
そこに飛び込むように二人は走った。
次第に光に包まれる視界。
眩しく白いその光は、まるで夢現を彷徨うような錯覚を与えた。
ビルの外へと駆けた二人は、背後を振り返った。
巨大な地割れの向こうは全て水没し、
自分たちがいたビルもまた、亀裂の中に沈み込もうとしている。
ゆっくりと、しかし次第に速度を増しながらビルは沈んだ。
自分たちの立つ大地はまだ崩落の心配はなさそうで、
ビルが沈んだ後、大地が揺れることは無かった。
678 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 03:44:58.64 ID:Kin8CDio0
(,,゚Д゚)「ハァ……ハァ……ハァ……」
思わず地にへたり込み、呼吸をするたび肩を上下させた。
それはしぃのほうとて同じだったらしく、二人並んで地に這い蹲った。
背筋の悪寒は、消えた。
もう大丈夫。助かった。
自分たちは生き延びることが出来た。
そう思い、安堵した矢先、肩と腕の痛みが神経に響いた。
(,,゚Д゚)「つっ……」
肩は何かで殴られた鈍痛を感じるだけだったが、
腕からは何筋かの血が流れ、海のさざなみのような寄せては引く痛みがあった。
679 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/10(金) 03:45:36.76 ID:Kin8CDio0
苦渋に満ちた顔つきのギコを見て、しぃは息を切らしながらも近づいてきた。
ほつれたスカートを手で破り、ギコの腕を締め上げるように巻いた。
包帯の代わりらしい。
(*゚ー゚)「……ありがと……」
巻きながら、小さく呟く。
(,,゚Д゚)「お、おう、だぞ、ゴルァ」
そっぽを向き、歯切れの悪い返事を返した。
しばらくそうした後、どちらからともなく立ち上がり、
都市部の中央を目指して歩き始めた。
一つの難関を抜けたとて、
未だ生き延びるにはまだまだ歩かねばならないことを二人は知っていた。
912 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/11(土)
20:43:20.34 ID:zgIvYgI00
――ジョルジュ――
20××年 11月 10日(水) AM 7:30
朝。
割れた窓から吹き入る寒風と、差し込む朝日に当てられ、
ジョルジュは目を覚ました。
( ゚∀゚)「……どこだここ……」
寝ぼけた頭をふらふらさせながら、辺りを見回す。
倒れている机、散乱したファイル、そばにある灯油缶で作った焚き火。
それらを見て、まざまざと昨日の思い出がよみがえる。
( ゚∀゚)「……夢じゃ、なかったのかよ……」
そう言いながらも、実際のところ夢ではないことなど、
動かすたびに軋みを上げる体の痛みで分かっていた。
918 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/11(土) 20:50:10.55 ID:zgIvYgI00
懐に入れていたラッキーストライクを取り出し、煙を吹かす。
やはり朝はこれに限る。
習慣付いたこの一本。
この豹変した世界でも、それは変わらない。
少し体をゆすると、床の砂埃が宙を舞う。
それが窓からの朝日を反射しあい、まるで雪のような、
輝かしい世界を作り上げた。
( ゚∀゚)「どんなになっても、朝日は変わらんもんだな」
一日にして平和な世界は地獄と化した。
だがそれとて陽は昇り、風は吹く。
自分の周りが変わろうとも、世界の理が変わるものではない。
そう思うことによって、この世界でまだまだ生きていけるような、
そんな気にさせてくれる。
まったく朝日というヤツは、不思議なもんだ。
922 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/11(土) 20:59:00.89 ID:zgIvYgI00
( ゚∀゚)「おい、兄者、起きろよ。朝だぞ朝」
蹴り飛ばすように足で小突く。
兄者はうんうん唸りながら、やがて上半身だけ起こし、
寝ぼけ眼を擦った。
その寝起き顔は、線のように細い目に、気だるげで、顔に生気というものが無い。
( ´_ゝ`)「元からだ」
( ゚∀゚)「エスパーかお前」
二人はもう一服し、昨日自動販売機から強奪した食料をほおばった。
疲れきった体に栄養が行き渡る。
眠気は覚め、体の痛みさえ我慢すれば、今すぐにでも出立できる。
( ゚∀゚)「……で、サスガビルに向かうんだよな」
( ´_ゝ`)「ああ、少なくとも俺は向かうつもりでいる。
どこか寄っておきたいところでもあるのか?」
二人は法律事務所らしき部屋を暗い階段を下りる。
やはりいくら明るいからといって、日の光の届かない所は
結局暗かった。
925 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/11(土) 21:04:37.41 ID:zgIvYgI00
( ゚∀゚)「寄るところか……そう言われると、VIP商事に寄っておきたいかもしれねえな」
( ´_ゝ`)「VIP商事?」
( ゚∀゚)「ああ、俺の勤めていた所だ」
ジョルジュは頷きながら足を踏み外さないように一段ずつ慎重に下る。
( ´_ゝ`)「VIP商事って、あの大手会社の?」
兄者が目を丸くしながら尋ねる。
兄者のこの反応は、大抵の人間がするものだった。
それほどの大会社である。
ことジョルジュがそこの社員だと言うと、みな冗談だろという顔で見てくる。
( ゚∀゚)「ああ、そうだ。すげーだろ、がはは」
毎度毎度の反応ながらも、俺が大手会社に勤めてたらそんなに意外かよ、と
少しばかり落胆しつつ、冗談のように笑うジョルジュ。
( ´_ゝ`)「うむ。VIP商事ってのはここらはともかく、
本島のほうでも名が知れ渡る会社だからな」
素直に頷きながら、兄者は言う。
932 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/11(土) 21:15:54.42 ID:zgIvYgI00
ビルの出口から抜け出し、空を仰ぎ見た。
清清しいほど抜けた青で、雲はあまり見られない。
居住区のほうに、少しばかり雨雲が見られるが、
しかし都市部は雨なんて降りそうにないほどの快晴だった。
( ´_ゝ`)「ニュー速がこんなになっても、世界は変わらないんだな」
心を落ち着かせながら見る久々の太陽に、郷愁を感じてしまったのだろうか。
ジョルジュと同じようなことを、兄者も呟いた。
二人は少しばかり、手で覆いながら太陽を見た後、
太陽に背を向け、歩き始めた。
サスガビルへの道からは少し外れるが、
ここまで共にやって来た、もはや友人とも言えるジョルジュに
自分もついていくことが、当然のように思える。
( ´_ゝ`)「(友人なんかいなかったな)」
いつも一緒にいたのは、自分と一つしか歳が離れていない、
自分とそっくりな弟だった。
( ´_ゝ`)「(あいつは無事学校に妹者を連れて行ったのだろうか)」
心配になりつつも、だが弟者のことだ、きっと上手くやっている、と
かぶりを振っていやな予想を掻き消した。
兄者にとって、弟者はそれほど頼りになる人間だった。
11 名前: ◆girrWWEMk6 投稿日:2006/03/11(土) 21:58:48.27
ID:zgIvYgI00
――ブーン――
同日 AM 7:41
失意のまま眠り、朝を迎えたブーンだったが、
どうやらボランティアの人間の一員として皆から認識されているらしく、
当然のように朝早くに叩き起こされ、食事の用意を手伝わされた。
ボランティアの人が昨日のうちに五人、亡くなってしまった。
その分やはり補充人員のようなものは必要のようで、
ブーンの他にも新たに立候補者を集い、補充した。
朝は白米、コチュジャンを少しばかり入れた豚汁、
それに焼き魚という、ある意味一般家庭的な料理だった。
それは学校内の人々に大いにうけた。
少し辛みのある豚汁は食欲促進をはかり、かつ体を温めてくれる。
豚肉がダメと言う人間には味噌汁を用意したため、
そちらもあっという間に空になった。
17 名前: ◆girrWWEMk6 投稿日:2006/03/11(土) 22:10:28.43
ID:zgIvYgI00
ブーンたちは昨日と同じく、いや、ツンを除いた四名で食卓を囲んだ。
昨夜のぎこちない空気は、この食卓にまで及んだ。
誰一人として話さず、黙々と食事は続いた。
l从・∀・ノ!リ人「……ごちそうさまなのじゃ」
一番最初に箸を置いたのは妹者だった。
弟者が横目で妹者の食器を覗き、ほとんど食べていないことに気付いた。
(´<_` )「食事はちゃんとしておけ。
食料だって無尽蔵と言うわけでもないし、
何より体が持たないぞ」
l从・∀・ノ!リ人「……いいのじゃ……」
(´<_` )「いや、食べておけ」
弟者の冷静な声は、妹者の心を震わせた。
l从・∀・ノ!リ人「……いいっていってるのじゃ!
おとじゃのおたんこなーす!」
妹者は顔をしかめ、机をばんと叩き、立ち上がった。
そのまま弟者の顔をにらみつけ、校舎のほうへと走っていった。
28 名前: ◆girrWWEMk6 投稿日:2006/03/11(土) 22:22:12.80
ID:zgIvYgI00
走り行く妹者の背中を見つめながら、弟者はため息を一つ吐いた。
その様子を、クーが箸を置き、尋ねた。
川 ゚ -゚)「……駄々をこねたのか?」
(´<_` )「……ああ。どうしても一緒に行くと言って聞かなくてな。
どうも、昨日の惨状を見て、な……」
言ってから、少しばつが悪そうにブーンのほうを見た。
ブーンはその視線に気付かず、心ここにあらずと言う風に黙々と食事を続けている。
食事の手伝いをしているときでも、ブーンの心は上の空だった。
昨夜のあの光景。
人が、人の手によって殺され、その中に一人立っていたショボン。
あの時の顔は、瞳を閉じれば今でもまぶたの裏に浮んでくる。
氷のように冷静そうないつものショボンの顔。
だがそれは普段と違い、いっそう恐ろしく見えた。
34 名前: ◆girrWWEMk6 投稿日:2006/03/11(土) 22:29:39.43
ID:zgIvYgI00
ショボンが、弟者たちの見た通り魔だという。
襲われた当の本人たちだ、顔を見間違えることはないだろう。
しかし、ブーンには分からなかった。
何故、ショボンが通り魔などしているのかということ。
そして最後のあの言葉――まだ死ねない、というあの言葉。
意味が分からない。
何故人を殺すのか。何故死ねないのか。
何も分からないことばかりだった。
今まで、ブーンとドクオ、そしてショボンの3人で一緒にいたとき、
彼はいつも無表情で、しかしふと気難しい顔をすることがあった。
だが声を掛ければその表情は消え、また無表情な顔に戻る。
今思えば、彼はもしかすると、あの平穏な世界に飽き、
悶々として過ごしていたのだろうか、などとも思えてくる。
だから、こんな無秩序な世界になり、嬉々として人を襲い、世界を狂わす……。
( ^ω^)「(……そんなこと、あるはずない……お……)」
43 名前: ◆girrWWEMk6 投稿日:2006/03/11(土) 22:41:49.26
ID:zgIvYgI00
だが断定は出来ない。
彼が通り魔であるという確固とした証人、証拠があるからだ。
……どう考えても、ショボンが犯人であるという可能性が、否定できなかった。
川 ゚ -゚)「おい、ブーン」
呼ばれて、びくりとした。
自分がそんな邪な事を考えていることが、ばれたのかと思い、焦った。
川 ゚ -゚)「どうした。もう空だぞ、それ」
クーにそう言われ、自分の手元の茶碗を見た。
いつの間にか茶碗の中の料理は、全て自分の胃に収まったらしい。
味はなく、食感もなかった。
その様子を不審そうにクーは横目で見た。
川 ゚ -゚)「……そんな調子じゃ、通り魔に襲われるぞ」
クーがぽつりと呟いたその一言に、ブーンが突然立ち上がり、叫んだ。
( ^ω^)「ショボンはそんなんじゃないお!」
喚き散らすような大きな声に、周囲の人間は何事か、という目で見てきたが、
またあのテーブルか、と拍子抜けした様子で、また食事に戻った。
45 名前: ◆girrWWEMk6 投稿日:2006/03/11(土) 22:50:49.33
ID:zgIvYgI00
(´<_` )「……ブーン……」
弟者が何とも言えない目で、ブーンを一目見た。
その目にはっとし、ブーンはしずしずと椅子に座り、俯いた。
思わず大声で否定したものの、
どうしようもなく、ショボンが通り魔であるという結論が
頭の隅にこびり付き、離れない。
今一度ショボンに会って話を聞きたい。訳を聞きたい。
だが、次に出会ったとき、あちらから襲ってきたら、ブーンにはどうしようもない。
それが恐ろしかった。
ドクオなら、この状況でも、ショボンのことを信じ続けられるのだろうか。
ドクオ……彼はどこにいるのか。
まだ生きているのか。
ブーンには何も分からない。