鈍色の空に銀雷が走り、ひびわれた雲をあかるく照らし出した。
嵐であった。
雨が苛烈に城壁を叩き、夜守りの衛兵を打つ。
だが、姦しく喚き続ける空とは裏腹に、城内は鉛のような沈黙に満たされていた。
彼らは待っていた。一人の男の、生死の報せを。
この国には誇るべき英雄がいた。およそ全ての大陸に名を知られた豪傑だった。
五年前の夏に彼が旅立って後も尚、齎される噂は常にこの国を揺らがせ、歓喜に沸かせた。
その名は希望と同義。そは人類の剣にして盾。そは魔を封じる符にして、魍魎を滅する呪。
男の名はオルテガ。
魔王討伐を掲げ、世界の和に奔走した英傑だった。
一筋の雷鳴が沈黙を砕き、轟く。
雷光と同時。俄かに階下が騒がしくなった。
かたく結ばれた沈黙が解け、ざわめきは漣のように謁見の間を揺らす。
汚穢と寂寞の匂いを引き連れて、その兵士は王へと拝謁した。
兜をはずし、強張りきった表情が晒された時、広間を満たしていた緊張が
いっせいにほどけて白熱した。
嗚咽する者。獣のようにうなる者。天に祈る者。立っていられず膝を付く者。
その中で、一人、毅然と背を伸ばす女がいた。
悲壮の沼地へ沈み行くと思われる広間の中で、彼女の周りにだけは光が差すようだった。
女は微笑をたたえていた。決然としたものが彼女の全身を覆っていた。
胸を張り、己への言葉を抱きしめてから飲み込み、女は一人の少年の肩をそっと押した。
城を包む嵐は、大陸をも縦横無尽に襲っていた。
大陸の北方に位置する名も無き村では、男集達が、豪雨に負けじと船の補修に向かっていた。
叫喚する風が荒波を奮い立て、海岸線へと間断なく打ち付ける。
――ふと、嵐を付き従える雲が、割れた。
どこまでも続く灰の闇に、峻烈な闇が混じる。
驚きの声が上がった。嵐の波間を縫い、簡素な小船がこちらへと近づいてくるのだ。
男達が我先にと危険な砂浜に駆け出していく。
朽ち掛け、鋭利な波に削られたその船は、砂浜に乗り上げた直後に瓦解した。
激しい泣き声が、豪雨に沁みていた。
――幼子が、いた。
破砕した船の中にである。布に包まれ、雨に小さな鼻を晒され、それでも窒息せずに
幼子は泣いた。暗雲と雷を糾弾するかのように。
顔を赤く腫らし、幼子はただ泣き叫んだ。
男達は驚愕したが、次第に笑い、そして呆れた。
こんな嵐の夜に、一体どこから来たと言うのか。良くぞ死なずにここまで持ったものだ。
こいつは一生分の運をここで使い果たしたのじゃないか。
いやいや、こいつには幸運の女神が味方しているのかもしれない……
男達は幼子を村へと連れ帰り、村の一員として育てようと笑いあった。
嵐が連れて来たものは二つある。
絶望と、そして、一人の幼子だった。
( ^ω^) 「野いちごうめえwwwwwwwwww」
その日、ブーンは森へと足を伸ばしていた。
ブーンは16歳。そろそろ成人として認められ、船を一艘任されても良い頃である。
( ^ω^) 「……はあ。今日も雑魚一匹捕まえられなかったお」
夏草の茎を噛みながら、ブーンは溜息をついた。
彼は村の落ちこぼれだった。
何をやらせても要領が悪く、人より何倍も時間が掛かってしまう。
そんな自分に嫌気がさして、只でさえ遅い仕事も雑になる。
成人の儀など夢のまた夢だった。
最近では親もあきれ果てたのか、ブーンに何も言わなかった。
( ^ω^) 「どうして僕はこうなんだお……」
( ^ω^) 「ま、いっか。うめえwwwwwwwwwwwwwww」
再び野いちごを頬張ると、ブーンはごろりと寝転がった。
( ^ω^) 「なんもかんもやる気がでないお。寝よう」
目を瞑ると、初夏の風が心地よく鼻をくすぐった。
柔和な風。繁茂する夏草の清明な匂い。
意識はすぐに眠りへと引き込まれていく。
そして、時は過ぎ――……
( −ω−) 「……なんだお… 焦げ臭い……」
( −ω−) 「焼肉にしては熱いお…… カーチャン、火が強すぎだお……」
?「おいッ!寝ぼけてんじゃねえぞ、ゴルァ!!」
( −ω−) 「……なんだお… ん?この匂い……」
ブーンの鼻がひくりと動く。
次の瞬間、弾丸のように彼は飛び起きた。
( ゜ω゜) 「ユッケ!!」
殆ど本能的にブーンは目の前へ踊りかかる。
希少なユッケを確保するための、それは反射的な動きだった。
直後、
「キシャアアァアアッ!!」
響いた断末魔が、ブーンの鼓膜を激しく打った。
(;^ω^) 「な…… ど、どうしたんだお……! くさっ!草クサッ!!」
ユッケの匂いに飛び出したブーンは、下生えの上に投げ出されていた。
つんと鼻を突く青臭さと、そして――
( ゜ω゜) 「!!」
振り返った目に入ったのは、巨大な異形の死体だった。
長すぎる舌をでろりと口腔から垂れ流し、明後日の方向を向いたまま、断続的に痙攣している。
( ゜ω゜) 「う、うおおおおおッ!!」
魔物 ――
久しく見る事のなかったモンスター。
血が間欠泉のように噴出したのを最後、獣の長い断末魔が夜気を鋭く切り裂いた。
ユッケだと思ったのは、血と、生肉の発する匂いだった。
たまらずブーンはえずいた。野苺は出てこず、臓腑を押し上げる苦い液ばかりが彼の舌を汚した。
?「おい、しっかりしろ!お前…レーべの村の人間か?」
( ^ω^) 「……、、 お…?」
?「俺の顔がわかるか?指何本出してるか、言ってみろゴルァ」
パチパチとはぜる松明の音が、影を照らす。
眦の釣りあがった目。気の強そうな口元。
幼さをそこかしこに残しながらも、良く鍛えられた体。
ざんばらに伸びた黒髪を、銀のサークレットで無理やりにまとめている。
凛々しい…と言うには少し荒々しさが勝る、それは少年だった。
ブーンと同年代に見えるが、その力は天と地ほどにも違いそうだ。
( ^ω^) 「さ、三本ですお!!」
( ゚Д゚) 「よし、正気だな。――お前、剣は使えるか!」
(;^ω^) 「はっ…… はあ!?」
( ゚Д゚) 「説明してる暇はないぞゴルァ! ッ、、 来たッ!!」
尻餅をついた侭のブーンは見た。
電光石火で振り返った少年が、一刀の元に巨大な鳥を切り捨てるのを。
( ゜ω゜) 「・・・・・・・」
( ゚Д゚) 「来いッ!くそッ、大陸全土にあふれ出したとはな!」
ブーンは何も考える事ができなかった。
こいつは誰だ?これは一体なんだろう。何故僕は――…
がむしゃらに足を動かしながらも、断片的な思考だけが脳内を支配する。
少年の操る馬に無理やり押し上げられたところで、初めてブーンは抗議の声を上げた。
(;^ω^) 「ちょ、ちょっと待つお!こりゃ一体何だお! …どわあッ!!」
( ゚Д゚) 「舌ァ噛むぞ!命が惜しけりゃ黙っとけゴルァ!!」
( ゜ω゜) 「ふぉ、ふぉおおおおおおッ!!」
( ゚Д゚) 「畜生、間に合ってくれよ…!」
(;^ω^) 「あんた、誰なんだお…!一体これはどう言うことなんだお!!」
( ゚Д゚) 「……後ろ、向いてみろ」
( ^ω^) 「後ろ?アリアハンの方角かお……」
少年の操る馬は、森を抜け出して草原をひた走っていた。
ブーンは少年に振り落とされぬよう、慎重に後方を振り向き、絶句した。
( ゜ω゜) 「あ、アリアハンが!アリアハンが燃えてるお!!」
( ゚Д゚) 「……魔物の奇襲だ。防戦はしているが、奴らのレベルが今までとは違いすぎる……」
( ゜ω゜) 「どどどどどうすりゃいいんだお!!アリアハンはこの大陸の守りの要だお!!」
( ゚Д゚) 「うるせえ、黙ってろ!」
(;^ω^) 「……オルテガ様がいればこんな魔物、一網打尽なのに!!うおおん!!」
驚愕がブーンの全身を覆った。どっと冷や汗が溢れ出る。
幼い頃から聞かされていた英雄譚にすがるのも無理からぬ事だった。
( ゚Д゚) 「・・・・・・」
(;^ω^) 「どわああッ!!あ、危ないお!!いきなり馬ウィリーは禁物すぎるお!!」
(; ゚Д゚) 「・・・ああ。すまねえな。ちょっと、な…」
(;^ω^) 「ともかく、は、はやくレーベへ向かってくれお!カーチャンが、村の人が…!!」
悲痛さの混じる自分の声に気圧され、ブーンは口をつぐんだ。
空は明るかった。さえぎるものの無い筈の闇は、今や炎の絨毯を敷き詰めて赤い。
たちまち光源を変えて行く空に、ブーンは奥歯をかみ締めるばかりだった。
( ゜ω゜) 「・・・・・・・・・・」
( ゚Д゚) 「……遅かったか……」
( ゜ω゜) 「う・・・・うおおおおおおおお!!」
村は、燃えていた。
赤々と煮えた炎がとぐろを巻き、広場も、道具屋も、物見櫓をも巻き込んではしゃぎ立つ。
村の中を縦横に駆けるのは、村人ではなく、異形の群れ。
平和だったレーベは辛酸に舐められ、無残にもその形を変えていた。
( ;ω;) 「うおっ、、 ううっ、、 カーチャン……」
( ゚Д゚) 「待て、おかしいぞ。死体の数が少なすぎる」
( ;ω;) 「……カーチャン……!! カーチャン!!」
( ゚Д゚) 「ッ、待てって言ってんだろ!!」
( ;ω;) 「離すお!!カーチャンが待ってるんだお!!」
( ゚Д゚) 「チッ… 気づかれたッ!」
少年は、腕の中で暴れていたブーンを思い切り突き飛ばした。
( ゜ω゜) 「あいhらgじfhjふぁじゃ」
(;^ω^) 「あ、あんた何してくれますかだお!!燃えてるお!!」
燃え盛る櫓に突っ込んだブーンは、かすり傷を追いながらも抗議する。
が、彼の目に映ったのは、魔物に囲まれた少年の姿だった。
( ^ω^) 「・・・・・・・・・・・・・」
( ^ω^) 「ここで僕が足手まといになって、あの子が死ぬのはあまりにもかわいそうだお!!」
( ^ω^) 「逃げるお」
加勢は、できそうもなかった。
その時である。
( ^ω^) 「ふ、ふおおっ!!」
ブーンの傍を、炎を纏った槍が走りぬけた。
矢のように放たれた凶器が大アリクイの背へと突き立つ。
絶叫。
統制などない魔物達が、一斉にブーンへと振り向いた。
( ゜ω゜) 「僕じゃないお!!僕じゃないお!!!」
新たな獲物を見つけた魔物達が分散し、数匹がこちらへと向かってきた。
尻餅をついたまま動けないブーンへ、青いゼリーにも似た魔物が飛び掛り――
( ゜ω゜) 「アッーーーーーーーーー!!!」
両断され、地に落ちる。
?「――…残念だったな」
耳元で、瓦礫を踏みしめる音。
?「私だよ」
恐る恐る目をあけたブーンは、走り出した影の後姿しか見ることは出来なかった。
( ゚Д゚) 「加勢かッ!ありがたいぜゴルァ」
?「村人は海沿いの洞窟に非難している!この村には留まる必要は無い、行くぞ!」
少年にすら圧倒されていたブーンは、その戦士をどう表現していいのかわからなかった。
特別な動きはない。ただ歩き、そして振り向く。それだけで、魔物が倒れていく。
一呼吸で少年を救い出すと、呆然としているブーンの腕を取り、叫んだ。走れと。
?「行き先は、ロマリアか!少年!」
( ゚Д゚) 「……ああ!東の果てに、泉があると――」
魔物に襲われる事もなく、主人の帰りを待っていた馬達に、二人は飛び乗った。
当然のようにブーンを引き上げようとする戦士に、泡を食ってブーンは叫ぶ。
( ^ω^) 「待ってくださいお!!僕はロマリアなんか行きたくないお!!カーチャンが…」
?「今から洞窟に行けば、魔物を誘う事になる!」
(:^ω^) 「!!!!!」
?「村の子よ。私たちといた方が安全だ。どうしてもと言うなら止めはしない。
が、君の行動に、村人と君自身の命が掛かっている事を忘れるな」
( ^ω^) 「・・・・・・行きますお!!」
?「よし―… いい子だ」
二頭の馬が草原を滑り出した。
戦士の腰に捕まりながら、ブーンは、胸をせりあがる思いで押しつぶされそうだった。
( ^ω^) (この人・・・・・・・ 女だお!!女の人にだきついてるおwwwwwwwうはwwwww)
勃起、しそうだった。
うろつく魔物をかわし、山岳を抜ける頃には、既に日が高くなっていた。
道中の会話によると、黒髪の少年はギコ。アリアハンの出らしい。
女剣士は名をクーと言い、自身を傭兵と告げた。
( ^ω^) 「……なんで魔物が……」
川゚−゚) 「最近、各地で魔物の動きが活発になっている。オルテガ殿の活躍から10年、
異形どもも傷が癒えてきたと言うことかもな」
( ゚Д゚) 「・・・・・・・・・・・・」
ギコが口をつぐむ。
( ^ω^) 「どうしたんだお?ギコ、オルテガ様の事、あんま良く思ってないみたいだお」
( ゚Д゚) 「……うっせーな、黙ってろゴルァ。好き嫌いぐらい勝手にさせろ」
( ^ω^) 「よくないお!!オルテガ様は英雄だお!!」
ブーンの頬に熱い衝撃が走った。
殴られたのだ。
( ゜ω゜) 「なにするんだお!!なにするんだお!!」
( ゚Д゚) 「ベラベラ下らない事喋ってるからだろゴルァッ!!」
川゚−゚) 「……よさないか、二人とも! ほら、あの祠だ……」
ひやりとしたクーの声色に、二人は不承不承口をつぐむ。
( ^ω^) (…クーは一体、何者なんだお?)
ブーンはわずかな疑念を込めて、クーを盗み見た。
アリアハンのものではない着衣。
素人のブーンが見てもわかる業物の剣。
広い額には冷智と意思があらわれ、切れ長の目に惨苦を超越した凪の穏やかさが漂う。
どこまでも真っ直ぐな黒髪は肩の上で切りそろえられ、陽の光で深い緑にも色を変える。
そこに、すさまじいまでの剣の腕だ。
神速の太刀で魔物を切り伏せる姿は、一介の傭兵とは思えない。
何故あの時レーベにいたのかを問うても、シニカルな笑みに交わされるので、
いつしかブーンは考えるのをやめた。
( ^ω^) (まあいいお。美人ということにはかわりがないお)
( ゚Д゚) 「……あれを超えればロマリアか」
ぼんやりとクーを視姦するブーンを尻目に、ギコが厳しい表情で前方を見る。
草原の先。巨大な岩山を背に抱き、その祠はひっそりとたたずんでいた。
( ^ω^) (わからないお・・・なんでロマリアに行くんだお。避難かお?
それにアイツ、むちゃくちゃ切れやすいお。係わり合いになりたくなかったお)
不安を抱くブーン、むっつりとした少年、謎の女戦士。
それぞれの思惑を秘めながら、一行は、祠の入り口を潜った――
( ;ω;) 「うっ、うっ、、 クー・・・」
( ゚Д゚) 「いつまでも泣いてんじゃねえぞゴルァ。仕方ねえだろうが!」
( ;ω;) 「だってクーが・・・ クーが死んじゃうお!!それと言うのも皆ギコがいけないんだお!!」
( ゚Д゚) 「な、なんだと…!!」
少年達の諍いが、じっとりとした地下牢に響いた。
薄暗がりに潜む何かが、今にも飛び出してきそうな場所だった。
幽霊の慙愧にも似た風の音が時折さみしく吹きすさぶ。
鉄格子をがしゃりと殴りつけ、ギコが悔しげに唾棄した。
( ゚Д゚) 「前ロマリア王は賢王として有名だったんだゴルァ。まさか息子があんな奴だったとは……」
話は、数時間前に遡る――
( ^ω^) 「僕達なんにもしてないお!!離すお!!国際問題だお!!」
(’e’) 「黙って歩け!王のご命令だ!」
( ^ω^) 「あんたんとこの王様は、客が来たらふんじばるのかお!!どうかしてるお!!」
ブーンたちは、旅の扉を出たところで、ロマリア兵達に捕らえられたのだ。
有無を言わさぬ捕縛だった。ギコが食って掛かり、クーが冷静に状況を説明しても、
彼らの態度が変わる事は無かった。
見世物のようにロマリアの街を歩かされた三人に、突き刺さったのは嘲笑と嫌悪の視線。
だが不思議な事に、とげとげしさの中には憐憫が含まれているようだった。
ぎりぎりと歯をかみ締めるギコに、ただ泣くだけのブーン。
クーだけがその怜悧な顔に、何の表情も浮かべずにいた。
川゚−゚) 「……ロマリアの愚兄か。ここまでとはな」
( ^ω^) 「? クー?」
川゚−゚) 「何でもない…… 王のお出ましの、ようだぞ」
謁見の間にたどり着いた三人。その頭に兵士達が手を置き、無理やりに拝謁の姿勢をとらせた。
戦いに汚れた彼らが放つ獣臭に、侍女達が露骨に顔をしかめる。
玉座の王は立ち上がりもせずに三人を睥睨していた。
(’e’) 「王よ、こやつらです!旅の扉から出てきた怪しい者たちは」
?「OK、時にご苦労。下がっていいぞ」
そんな中、ギコが、兵士の手を跳ね上げ、勢い良く面を上げた。
( ゚Д゚) 「……貴方がロマリア王であらせられるか。我らはアリアハンよりの使者!
王よりの書状もこちらにございます。即刻縄を解いて頂きたい!」
( ゜ω゜) 「し、使者!?ギコ、どういうことだお!!」
( #゚Д゚) 「黙ってろゴルァ!お前が出てくると場がおかしくなんだよ!」
( ´_ゝ`) 「ふむ…これが書状か。何々、アリアハンが魔物に…」
王は、ギコの懐から、銀製の筒を取り出した。
ブーンが見たこともないような上質の紙。筒だけで幾らするのか見当も付かない。
それらを無造作に放り投げると、王は退屈そうに欠伸をした。
ギコの眦が吊り上る。
( ゚Д゚) 「、、 兵は善戦しておりますが、もって一月かと…」
( ´_ゝ`) 「盟友たる我ら…か。OK、時にこの同盟、先代が結んだものだな、大臣」
(・∀ ・) 「はい、王よ。貴方のお父上が結んだ盟約にございます」
( ´_ゝ`) 「なら・・・・・」
ビリビリビリッ!!
( ゚Д゚) ( ^ω^) 「な・・・・・・・・・・・・」
( ´_ゝ`) 「OK。我らロマリアが、そちらアリアハンと交わした同盟を今破毀いたそう。
自国の危機を他国に委ねるとは厚顔無恥。獣の糞にも及ばぬ行い」
声もでないブーンとギコ。
おぼろげながら、ブーンにも、事の次第が見えてきていた矢先の事だった。
ギコはアリアハンの使者で、ロマリアに救援を求めに来たのだと言う。
だが、その願いは無残にも絶たれた。簡単に、取るに足らないもののように。
国が滅亡するかもしれぬ危機に、欠伸まじりに……
川゚−゚) 「…その同盟は、ロマリアとアリアハンだけに結ばれたものではありますまい」
言葉なく項垂れたブーンの耳に、その時力強い声が響いた。
クーだった。
( ´_ゝ`) 「何だ、お前は?」
クーが兵士の手を擦り抜け、拝謁を解いて立ち上がる。
後ろ手に縛られてはいるものの、毅然と背筋を伸ばし、一歩も引かぬ風情である。
川゚−゚) 「我ら人界の八カ国で結ばれた血盟の筈。それを破ると言う事は、
ロマリアの孤立を意味します。魔の台頭が始まった今、
貴国にとっても懸命な判断とは言いかねるのでは」
ギコもブーンも、唖然としてクーを見るほか無い。
(;^ω^) 「く、クーは一体誰なんだお。というより、何を言ってるかさっぱりわかんないお」
( ;゚Д゚) 「……わ、わからん…」
王の眉が動いた。
じろじろとクーの全身をねめまわし、軽く首を捻る。
( ´_ゝ`) 「……女だてらに剣を握るか。なるほど天晴れな性格をしておる」
川゚−゚) 「……?何を…」
( ´_ゝ`) 「気に入ったぞ。女、そこまで申すなら、アリアハンの命運を背負う気概もあろう…
この女をひったてい!コロセウムに送るのだ」
その途端、謁見の間がざわめいた。
眉をひそめる侍女、慌てる兵士。大臣の薄ら笑いだけが深くなる。
(’e’;) 「お、王よ、コロセウムは魔物の……」
( ´_ゝ`) 「女よ、お前が魔物を1.000斬れば、ロマリアは兵をアリアハンに送ろう」
( ;゚Д゚) 「なッ……ゴルァァッ!!ふざけんな!!そんな事…」
( ´_ゝ`) 「何だ、坊主。お前が代わりにコロセウムに立つと?」
( ;゚Д゚) 「ッ!! そ、それは……」
川゚−゚) 「……わかりました」
広間が水をうったように静まり返る。
兵士の一人が呟いた言葉が、ブーンの耳にこびり付いて離れない。
( ゜ω゜) 「う・・・・・・・」
”あの女、”
川゚−゚) 「私がやります。その子達には手を出さないで頂きたい」
”死ぬぞ ――…”
( ゜ω゜) 「駄目だおッ!駄目だおッ!! クー…!!」
( ´_ゝ`) 「ははははッ!これは愉快!!湯をつかわせてやれい!最も…」
王の声にはいきいきとした嗜虐が蠢いていて、今にも羽根を得て飛び立ちそうなほどだった。
酒精の匂いが鼻をつく。クーの顎を持ち上げる指は、まだらに赤く染まっている。
昼間から酒を浴びているのだと、ブーンはようやく気が付いた。
( ´_ゝ`) 「すぐに血で汚れてしまうだろうがな。魔物のものか、人のものか…楽しみな事だ」
( ;ω;) 「クーッ!! は、はなすお!!そんなことして良い筈が無いお!!」
( ´_ゝ`) 「時にお前。おかしなことを言う。この国の王は私だぞ」
( ´_ゝ`) 「その二人は逃げ出さぬよう、地下牢にでもつないでおけい!」
■□■□■□■□
( ;ω;) 「1000体も魔物を切れる訳ないお、、 いくらクーだって、、」
( ゚Д゚) 「……畜生ッ…!」
そして、二人は地下牢に押し込められたのだった。
時間ばかりがいたずらに過ぎていく。
泣きつかれたブーンが口を噤み、ギコも打つ手をなくしてずるずると鉄格子に寄りかかる。
( ^ω^) 「ま、いいお。きっとこれは夢だお。目が覚めたらお母さんの優しい顔があるお。
おきなさい、おきなさい、わたしのかわいいブーンや…って」
( ゚Д゚) 「ここへ来て、その逃避はたいしたもんだなゴルァ…… ん?」
二人の牢に、足音が近づいてきた。槍の石突が畳を削る音がする。兵士のようだ。
促されたように黙り込む二人。
然し、いつまでたっても、足音の主が体を現すことはなかった。
( ゚Д゚) 「……?」
訝しげに身じろぎしたギコの耳に、その声は、飛び込んできた。
?「……これは寝言だ。だから私の本心ではない。」
( ゚Д゚) ( ^ω^) 「………」
?「王は、お変わりになられた。前王が崩御された後、弟君と二人で政治を行っていたのだ。
兄は武に優れ、弟は学に優れる。お二人は仲が本当によろしかった」
訥々と響く声。亡者の泣く風が、間を埋める。
?「だが、突然だった。王は、弟君に反乱の意思ありとして、捕縛の後に幽閉を。
兵は王が掌握していた……弟君はなすすべもなく、王城の左塔に監禁されている」
?「ところで、我が王家には代々伝わる冠があってな。黄金で出来たそれは、
王位の正当な継承権を示すもの。それがあれば、弟君を王として擁立できるかもしれない…」
( ^ω^) 「まどろっこしいお、三行!」
?「・民は兄の政治に不安を覚えている。幽閉された弟さえ助け出せればなー
・民意は完全に弟にある。冠があれば継承権は弟に移る。
・だが金の冠は北西のシャンパーニの塔に。お前ら強奪して来てくれませんか?」
( ;゚Д゚) 「お前、ひどいな」
( ^ω^) 「長いと覚えられないお。だけど、ブーンたちは牢屋に…」
( ゚Д゚) 「いや…… この風、牢の中から吹いてるぞゴルァ!」
そう言うと、ギコは壁を調べ始めた。
指先が、ブロックの一つに掛かった瞬間――重々しい音と共に、壁がスライドする。
深深とした闇が、奥には横たわっていた。
( ^ω^) 「ぬ、抜け穴だお!!」
苔生した風がひときわ強く吹きつけた。
二人は格子を振り返ったが、もう、言葉は聞こえてこなかった。
( ゚Д゚) 「……恩にきるぜ、ゴルァ」
二人は走り出した。闇は重く、あざ笑うような風は、いつまでも止まなかった。
( ゚Д゚) 「せやあッ!!」
( ^ω^) 「おっおっおっ」
( ゚Д゚) 「そこッ!!」
( ^ω^) 「おーん」
( #゚Д゚) 「……お前、ホントに役立たずだな」
ギコの唾棄に、ブーンは肩をすくめた。
足元には今しがたギコがしとめた芋虫が横たわっている。
キャタピラーと呼ばれる魔物だ。体長はブーンよりも長い。堅い殻を持ったそれに、
ギコも流石に苦戦を強いられていた。それ故の述懐かもしれなかった。
(;^ω^) 「仕方ないお。村人Aに何を期待してるんだお」
( ゚Д゚) 「鎖鎌を背中にぶち当てられたときは、正直殺そうかと思いました」
ひそかに脱出した二人はロマリアの城下町で装備を揃え、馬を買い、すぐさまシャンパーニの塔を目指した。
だが、誤算があった。
ロマリア周辺の異形は、アリアハンとは様相をたがえていたのだ。
より強く、大きく、堅い。加えて、異能を行使するものまで出てきたのだからたまらない。
今まではクーがいたため意識しなかった戦力の差を、ギコは痛感していた。
そしてブーンの存在もある。
いくら武器が良かろうと、使う人間が素人ではどうしようもない。
ブーンは鎖鎌に振り回され、たびたびギコを窮地に陥れた。
かと思えば吹きすさんだくちぶえに、何故か魔物が寄ってくる。
つやつやとした肌のブーンとは裏腹、ギコには生傷が絶える事が無かった。
( ゚Д゚) (こんなところで足止めされてる場合じゃねえぞゴルァ……くそっ)
( ^ω^) 「どうしたんだおギコ。頭でも悪いのかお?」
( ゚Д゚) 「そりゃお前だろ」
( ゚Д゚) 「……ちッ、お前といると調子が狂うぜ」
舌打ちを一つし、ギコは剣にこびり付いた異形の体液を拭う。
辛辣な言葉とは裏腹に声音は穏やかだ。
ブーンといるのは苦痛ではなかった。
どんなにどなりつけてもそ知らぬ顔で、次の瞬間には笑顔を向けてくる。
自分の気性の荒さを受け流すブーンに不思議な安堵を覚えるのだ。
そんな自身に、ギコは苦笑を浮かべる。
( ゚Д゚) (こいつは俺の出生を知らないからな。…いや、考えても仕方ねえ)
( ゚Д゚) 「食料も残り少ない…あの村に立ち寄るかゴルァ」
( ^ω^) 「うう、久方ぶりのベッドだお!美味しいご飯が食べられるお」
涎を撒き散らしながら、ブーンは馬の腹を蹴りつける。
一気に加速した馬にギコは慌てて叫んだ。
( ;゚Д゚) 「お、おい、泊まるわけじゃねえ…ってか突出すんなッ!!
――…ブーンッ!!左から来るぞッ!!」
(;^ω^) 「お、おおおおッ!!」
走るブーンの馬目掛けて、巨大な影が飛びついたのだ。
ポイズントード。毒をもつ蛙の異形である。
たまらず横転し、悲痛な嘶きをあげる馬。弾き飛ばされたブーン目掛けて異形が殺到する。
( ゜ω゜) 「だおおおおおおおッ!!」
思わず目を瞑ったブーン。
だが、予想した痛みと衝撃は、いつまで立っても現れなかった。
?「ガキ二人が、こんなとこでなーにやってんだ?」
場違いに陽気な声が、ブーンの耳に届く。
恐る恐る開いた目に飛び込んできたのは、満面の笑顔だった。
( ゚∀゚) 「そうかあ…そんな事になってたとはな」
( ^ω^) 「そうなんだお。まあ、ぼくの手に掛かれば、
シャンパーニの塔なんて赤子の手を捻るも同然」
( ゚Д゚) 「へッ!さっきまで村人Aとか言ってたくせによ」
ぐびりと杯を傾け、男が笑う。
彼はジョルジュ。世界中を旅する武道家だと言う。
筋骨隆々とした体躯を窮屈そうに椅子にうめている姿がユーモラスだ。
太い眉の下、くりっとした目が豊かに感情を映して広がり、狭まる。
赤銅の肌に焼けた金髪。頬から鼻に一直線に入った傷跡が目立つ。
威圧的な風貌であるにも拘らず、不思議と人好きのする笑顔だった。
( ゚∀゚) 「鉄の爪を探してここいらまで来たがよ。アリアハンがやられるとなりゃ、黙ってられるか」
( ゚Д゚) 「! 力を貸してくれるのか!」
( ゚∀゚) 「あったりまえだろうが。ここでやらなきゃ男がすたるぜ。
それになあ、お前ら… あんな蛙に血相変えてるようじゃ、
いつおっ死ぬかわかったもんじゃねえ。
危なっかしくて見てられねえよ」
( ゚Д゚) 「クッ……」
悪気がないにせよ、ジョルジュの言葉はストレートにすぎる。ギコの顔が歪んだ。
確かにジョルジュは強かった。
流れるような体捌きで異形の懐に飛び込み、強烈な一撃を食らわせる。
なにより魔物の急所に精通しているのだ。会心の一撃が異形を沈める姿は、
ギコをして惚れ惚れとうならせた。
( ^ω^) 「あの時のギコってば傑作だったおwwwwwうはwwwww」
( #゚Д゚) 「てめえ、それ以上言ってみろゴルァッ!二度と口が聞けねえようにしてやるぞ!」
山岳でブーンを助けたジョルジュは、はやるギコを押さえてこの村で一泊を提案したのだ。
勿論ギコは抵抗した。早くしなければクーは嬲り殺され、ひいてはアリアハンの滅亡につながる。
一刻も早く冠を入手しなければ、と息巻くギコの膝を、ジョルジュは、
……後ろから軽く押した。
それだけで、ギコは立ち上がれなくなったのだ。
特別な事をしたわけではない。限界まで蓄積された、疲労と緊張の所為だった。
それを思い出すだけで、ギコはわめいて転がりまわりたい思いに駆られる。
赤子の手を捻るようにいなされたのは自分だ。
( ゚∀゚) 「物事には時期ってのがある。果物は若すぎても熟しすぎても駄目だ。
一番うまい時に刈ってやんなきゃ、結局捨てるばっかりになっちまわあ」
大きな杯を一息に干すと、無精ひげの浮いた顎を撫でて、ジョルジュはげっぷをした。
( ゚∀゚) 「まあ、あれだ。おっぱいな。おっぱいだよ。小さすぎても大きすぎても駄目だろ。
いや、どんなおっぱいでもおっぱいはおっぱいであるだけで……」
( ^ω^) 「ちょwwwwwwww酔いすぎwwwwwwwwwww」
(*゚∀゚) 「うはーーー!!じーーまみーーー!!!」
( ゚Д゚) 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
( ゚Д゚) 「大丈夫なのかゴルァ・・・・・・・・」
三人はその日、カザーブで一夜を明かした。
朝日を背に、馬首は西を向く。
地平の向こうに、雲を纏って聳える塔――それこそが、金の冠が眠る、シャンパーニの塔だった。
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