第4幕:2日目の幕開け、記憶の幕開け

 
 …あれ?

 ……俺は何でこんな所に立っているんだ?

 ………確か高松に居たんじゃなかったっけ?

 …………じゃあ何で周りはこんなに山が深いんだ?

 ………………………………………

 
 自分は今、明らかに高松とは違うところにいる。

 目を擦る。目を凝らす。

 今、俺は森の中の遊歩道らしき所に立っているようだ。頭上には広葉樹が鬱蒼と生い茂り、
日光が届かないぶん空気が冷んやりとしている。風が吹くと木々の枝が揺れ、森全体がざわつく。

 ………まったく今の状況がつかめない。

 こんな木立の中に居たのでは、周りの状況が掴めないし、ただぼんやりと突っ立ってても
仕方が無い。
 
 俺は前に向かって歩き出す。

 
 さくさく。さくさく。

 どうやら小径は緩やかな上り坂のようだ。地面には枯葉が敷き詰められている。

 さくさく。さくさく。

 木立の中から空を見上げてみると、葉と葉の間隙から太陽の姿が見える。雲は見えない。

 さくさく。さくさく。

 後ろを振り返る。径は続いているようだが、径そのものが曲がりくねっている上に、なにぶん
木立が目隠しの役割も果たすので、100メートル後方の様子も満足に掴めない。

 さくさく。さくさく。 

 さくさく。さくさく。

 暫らく歩くと、前方に何か構造物が見えてきた。大きさは……ちょうど百葉箱ぐらいだろうか。

 さくさく。さくさく。
 
 径の前方の視界が開けてくる。どうやら……、この構造物は祠のようだ。
 祠の周囲だけ径は広がり、頭上を覆う木々はぽっかりと無くなって頭上からは太陽の光が
燦燦と降り注いでいる。

 ……ん…………?

 さく、さく、ざくっ。

 ………この景色……………

 
 ……………見覚えが………………ある?


 足を止める。もう一度目を凝らす。

  
 ここは………


 ……………………


 …………………………だめだ。思い出せない。


 唯一思い出せたのは、俺がここに居るのは何か理由があってのことである、ということぐらいだ。


 深呼吸し、集中する。

 
 思い出せ


 思い出せ


 俺は何のために此処に居るんだ…………


 集中しろ……………… 


 もっと集中しろ…………………………………………………………………………………………


 。


 。


 。



  


 
  


 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!! 

('A`)「ん……。何だよ」

 細く目を開ける。旅館の天井が、電燈が見える。
 雲が出ているせいか、部屋の中には日の光が満足に差し込んでこない。
 ここは確かに旅館だ。高松だ。そして、いまドクオの枕元では携帯が合成の金属音をけたたましく
鳴り響かせている。

 リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!! 

('A`)「ったく……うるせぇな………」
手を伸ばし、携帯を手にすると、ボタン一押しでそれを止める。

 目覚ましの音が止む。
 それに反比例するかのように、風で旅館全体がガタゴトと揺れる音が鮮明に認識される。
本格的に台風の暴風域に入ったかな、とドクオは考えた。

('A`)「ったく……台風の野郎もうるせぇな………」

 本当にうるさい。よくこんな中で寝ていられたものである。
 ドクオは、隣で寝ているブーンのほうを見る。
 ブーンは……まだ寝ている。

('A`)「おーい、起きろー」
へんじがない。ただの(ry

 揺すってみる。

('A`)「起きないかコラー」

 蹴ってみる。踏んづけてみる。それでも起きない。

( -ω-)zzZ………

 …埒が開かないので、言いたくないがカマをかけてみることにした。

('A`;)「ウホッ、いい男…………」

煤i ゚ω゚)「!!」

('A`)「起きたかブーン?」

( ;゚ω゚)「い、い、い、今何と……」

('A`;)「さて、何のことだ?それより、もう起きる時間だぞ。目覚ましが鳴っても寝続けやがって」

 ほら起きた起きた、と言うと、ドクオは自分の布団を三重に折り畳む。

 
 それにしても……、あの夢は何だったんだろう?

 夢の記憶は薄れつつあるものの、今までに見た夢とは明らかに違っていた。知っている人が
出てこないし、そもそもあそこが何処だったのかすらもわからない。

 なぜ、あんな夢を見たのだ……?


('A`)。○(まあ、そんなこと考えても埒が開かないか)

( ^ω^)「おっおー。何ぼーっとしてるんだお?」

 自分の布団を畳みながら、ブーンが尋ねてくる。

('A`)「ん。ちょっと考え事をな。そんなに重要なことでもないんだが」

 布団を畳み、浴衣からワイシャツに着替え、顔を洗うともう8時になっていた。

('A`)「朝メシ、喰いに行くか」

( ^ω^)「そうするお」

 2人は、昨日のように連れ立って1階に降りる。昨日と違うのは、1階に降りてからは食堂に向かう
ことだ。食堂には4人がけのテーブルが整然と並べられており、ドクオたちが泊まっている
『亀の間』と書かれたテーブルには2膳の朝食が用意されていた。
 2人が座ると、食堂の奥のほうから和服姿の渡辺さんがやってきた。

从'ー'从 「お早うございます。風が強かったですが、よく眠れましたかぁ?」
 訊きながら、ドクオたちの据え膳に味噌汁やご飯を配膳する。
 
( ^ω^)「お早うございますお。バッチリ眠れましたお」

('A`)「ああ、よく眠れました」

从'ー'从「それは何よりです。ではごゆっくり」

 ぺこりと頭を下げると、渡辺さんは盆を抱きながらいそいそと奥へと戻っていく。それを
見届けてから、2人は朝食に手をつける。カマボコに卵に漬物に…と、ごく標準的な朝食だ。

( ^ω^)「ドクオ、ちょっと」
ブーンが箸を止めて訊いてくる。

('A`)「ん?何だブーン」
こちらも箸を止めて訊き返す。

( ^ω^)「朝食の後、いきなりタクシーで巡るのかお? お腹が正直キツいかも知れないお」

('A`)「ふむ…。確かにそうだな。……じゃあ、まずはどこかで時間を潰すか」

 朝食を残してまでうどんを食べるのものも勿体無いし、と言うと、ドクオは再び箸を進める。
ブーンもそれに従った。
 やがて、食べ終わる。
 今は、2人とも食後のお茶をすすりながら、窓の外に目を遣っている。相変わらず雨風は強いが、
これから段々弱まるはずだ。
 ほどなくして、お茶も飲み干した。
 
('A`)「戻るか」

( ^ω^)「そうするお」

 席を立ち、ふたりは食堂から出て行こうとする。
 が、そこに渡辺さんがやってきた。見ると、うつむき加減でかなり困っている様子だ。

从'ー'从「あ……、えと…………申し訳ないんですが………」
 
('A`)「どうかしましたか?」

从'ー'从「はい……。実は、橋が通行止めになったお陰で、今日の晩御飯に出す予定だった
 本州からの食材が入ってこないんです。有り合わせで良ければ頑張って晩御飯を用意
 しますが……、いかがでしょう?」
もじもじしながら渡辺さんがふたりに訊いてくる。 

('A`)「うーん。今日は日中にうどんを沢山食べるだろうから、夕飯まで腹には入らない
 のじゃないか?ブーン」

( ^ω^)「んー。でも、うどんは消化が早そうだお……」

('A`)「そん時は近くのコンビニにでも行ったらいいだろう。厨房だって時間の制約があるぜ?」

( ^ω^)「……わかったお。なら日中に食べまくるお!!」

('A`)「その意気だ。というわけで、俺たちは今日の晩飯はいいですよ」

从'ー'从「申し訳ありません。では、宿泊料から今日の晩御飯代は引いておきますね」

('A`)「把握しました。あ、それと」

( ^ω^)「ご馳走様でしたお!!」

('A`)「俺のセリフ取るなよ……。まあいいか、引き上げるぞ、ブーン」

从'ー'从「ありがとうございましたぁ〜」

 2人の背中から、渡辺さんの声が聞こえてきた。




 食後は普通に部屋に戻ってきた。
 部屋の布団は既に上げられ、洗濯物を入れたビニール袋も取り去られてがらんとしている。

('A`)「ところで、もう行くか?歯磨きしたらすぐ食べる気にもなれないだろう?」

( ^ω^)「うーん。まずは駅に行ったらどうかお?」

('A`)「駅に?そりゃまた何故?」

( ^ω^)「乗れなかった夜行の切符の払い戻しと、明日の列車の切符を買うお」

('A`)「なるほどな。そうするか」

 それぞれがそれぞれの切符を取り出し、簡単に荷造りをする。
 
('A`)「うん……もうやる事は無いな。じゃあ行くか」

( ^ω^)「長岡タクシーへいざ参るらん!!」

('A`)(コイツ食い物のことになると妙にテンションが上がるよな……)



第4幕:2日目の幕開け、記憶の幕開け                       了

 

 

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