477 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:25:34.61 ID:KoR2TBeQ0
 

――ギコ――
同日 12:43


ギコがニュー速グラウンドに着いたとき、そこには文字通り何もなかった。

(,,゚Д゚)「……」

いや、あるにはあった。

(,,゚Д゚)「なんなんだこりゃあ……」

ニュー速グラウンドと言われた場所に、ぽっかりと大きな穴が開いていた。
そこに水が流れ込み、巨大な湖のようなものができあがっていた。

(,,゚Д゚)「……ニュー速にこんなところ、ないよな……」

突然の出来事に、さすがのギコも順応することができなかった。
端から崩れていくと思われていたニュー速が、いきなりど真ん中から崩れてしまったのだ。

(,,゚Д゚)「これじゃ、どこにいても危険じゃねえかよゴルァ……」

絶望にも似た虚脱感が浮かび上がったとき、ギコの脳裏にあることがよぎった。

(,,゚Д゚)「……しぃは? 先生は?」

はっとして、湖のほうへ駆けた。


478 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:26:07.19 ID:KoR2TBeQ0
 

(,,゚Д゚)「しぃ! しぃ! 先生! どこだよゴルァ!」

走りながら叫んだ。
だが返ってくる声はなく、ギコの発する音だけがあたりに響いた。

(,,゚Д゚)「……なんなんだよ……どこにいるんだ……
    もしかして、この湖……」

湖をのぞきこんだ。
湖の端から流れ込む海水は、だんだんと湖の水位を上げていたが、
まだ現段階の湖の水位自体は淵から地下10メートルほどの高さまでだった。

ギコは肩を落とし、グラウンドに背を向けた。
足取りは重く、全身に力が入らない。

認めなくなかったが、しぃと先生の二人がいなくなって、分かった。
――俺は、二人のことが好きだったのか。
恋愛感情とか、そういうちゃちなものではなく、
自分の薄幸な人生の中で見出した、初めて気の許せる仲の人間だった。

その二人が所在不明となった今、ギコの心に、
このニュー速グラウンドのように、大きな穴がぽっかりとあいた。

何もできない。
ただうなだれるしかなかった。
えらそうなことをいってても、結局ギコは頭の先からつま先まで無力な子どもだと
理解してしまった。


480 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:27:25.42 ID:KoR2TBeQ0
 

(,,゚Д゚)「……くそっ……」

喉に違和感があった。
涙が出そうになる。
もう誰もいなくなってしまった、いっそのこと大声で泣いてしまえば楽になるかもしれない。
そうギコは考えた。

(,,゚Д゚)「しぃ……先生……」

「呼んだか?」

声がした。
聞こえなれた声。
聞きたかった声。

( ・∀・)「よう、無事だったんだな」

(,,゚Д゚)「せ、先生……」

いつの間に現れたのか、こうべを垂れていたギコの目の前にモララーはいた。
タバコの紫煙を口から吐き出しながら、右手を軽く上げた。

( ・∀・)「どうしたよ。幽霊見たように固まっちまって」

(,,゚Д゚)「……生きて、たのか……」

( ・∀・)「なんだよ、死んでてほしかったのか?」

(,,゚Д゚)「んなわけねえだろゴルァ!」


481 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:28:16.42 ID:KoR2TBeQ0
 

ギコは迷わず駆け寄った。
先ほどまで重かった足取りは嘘のように軽かった。
全身の虚脱感はまるっきり影を潜め、今なら無愛想なギコでも喜びで顔をほころませそうだった。

( ・∀・)「おかえり」

(,,゚Д゚)「た、ただいま、だぞ、ゴルァ……」

自分より背の高いモララーを見上げるほど近くに寄った。
久しぶりに見る恩師の姿は、当然だが、ぜんぜん変わらないものだった。

( ・∀・)「おう。それで、頼んでいたあれはどうだったんだ?
      その小脇に抱えてるやつか?」

モララーが人差し指と中指に挟み込んでいるタバコで、
ギコの脇に抱えられてる書類袋をさした。

(,,゚Д゚)「あ、ああ、そうだ。これがたぶん、あんたが言ってたやつだよ。
    ちゃんと中に図面らしきものもあったしな」

そういって、脇に挟んでいた書類袋をモララーに差し出した。
モララーはそれを受け取り、中身をぱらぱらと確認しながらうなずいている。


482 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:31:08.37 ID:KoR2TBeQ0
 

(,,゚Д゚)「そ、それよりさ、これ、どうなってんだよ!
    なんでいきなりグラウンドが消えちまってるんだよ!」

( ・∀・)「……ありがとうな。たしかにこれで合ってる。
      よくやってくれたよギコ。さすがは俺の生徒だ」

(,,゚Д゚)「おい、そんなことより、どうなってるんだよこれは!」

モララーは一拍置き、ギコの目を真正面から見ていった。

( ・∀・)「みんな死んだ」

(,,゚Д゚)「え……」

( ・∀・)「と、いったら、お前は納得するか?」

問いかけるようにモララーはいったが、
その声と表情はギコの導く答えを先読みしているようだった。

(,,゚Д゚)「そんなわけねえだろゴルァ!」

ギコはもちろん憤った。
自分が真剣に聞いているのに、モララーは軽い冗談をいうようにはぐらかしたからだ。


483 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:31:48.66 ID:KoR2TBeQ0
 

モララーは歪ませていた口元を固く縛り、ギコを見た。
今まで見たことのない恩師の真剣な表情に、ギコは虚をつかれた。

(,,゚Д゚)「な、なんだよ……」

( ・∀・)「……ニュー速総合病院なら、間もなく救助ヘリが来るだろう。
      お前はそこに行って救助を受けろ。
      そして、もうこの件について首を突っ込むな。
      何を聞かれても、逃げるのに必死だった、とでも答えて生きろ」

(,,゚Д゚)「な……!」

( ・∀・)「じゃあな。書類のことは、本当に感謝する。
      これがあれば、これさえあれば……」

(,,゚Д゚)「先生、あんたが俺を……」

そのとき、上空から大きなプロペラ音がした。
次いで細かな砂煙が巻き上げられ、ギコは思わず目をかばった。

「……しぃちゃんは無事だ。だから、もう彼女のことは諦めろ」

モララーの声が、プロペラ音に紛れてギコの耳に届いた。
ギコが目を開けたときには、モララーは降りてきたヘリコプターに乗り込んでいた。

(,,゚Д゚)「な、なんだよそりゃあ! モララー!」

ギコは声を張り上げて叫ぶが、モララーはまったくギコを見ようとしなかった。


484 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:33:10.38 ID:KoR2TBeQ0
 

(,,゚Д゚)「先生ぇーっ! モララー、あんたは俺を裏切ったのか!」

ヘリコプターの中のモララーはヘリのパイロットに何かを告げていた。
その口が止まると、ヘリは次第に上昇を始め、またも砂煙を巻き上げながら
中空へと浮かび上がった。

(,,゚Д゚)「モララァーっ! お前は! お前ぇーーーーっ!」

ヘリはそのまま、上空に上がり、西のほうへと彼方へと飛び去った。
モララーは最後までギコを一瞥することもなく、ヘリと共に消えた。

(,,゚Д゚)「くそったれえええええええ!」

ギコは叫んだ。
恩師だと思っていた男は、自分をいいように欺き、そして裏切った。
今まで自分に良くしてくれていたのは、こういうことだったのか。

許せなかった。
自分が慕われていることを知っていながら、それを利用したのだ。

(,,゚Д゚)「俺の気持ちを踏みにじった、土足で、容赦ねえんだなあおい……!」

こみ上げる感情は、裏切られたショックなどより、怒りのほうが純粋だった。
心のほとんどを怒りが支配し、突き動かされる衝動はすべてモララーに対する恨みだけだった。


485 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:33:35.38 ID:KoR2TBeQ0
 

モララーは最後に、しぃのことは無事だから諦めろといった。
つまり、ヤツの向かう先にしぃはいるかもしれない。

ギコはそう考え、モララーの乗ったヘリが飛び去った方角を見た。
そこは都市部でも高層ビルが多く林立しているところがあった。

ヤツの欲しがった図面に記載されていた、P4という場所がその地域にあった。
P4は、サスガビル。
あの地域一帯の中でも一番高く、屋上にはヘリポートがある。

何かの因果だろうか。
別れた矢先、またジョルジュたちと同じところへ向かうことになるなど、
思っても見なかった。

(,,゚Д゚)「この恨みは必ず……」

晴らしてやる。
あいつの好きなようにはさせない。
必ずモララーの思い描く野望か何かを打ち砕き、しぃを助けて生き延びてやる。

ギコは、そう誓った。


563 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 00:31:28.80 ID:9tPN6dkR0
 

――ジョルジュ――
同日 PM 00:43


( ゚∀゚)「くそっ! おい、兄者、こっちだ!」

( ´_ゝ`)「わ、わかってる……!」

鳴り響く地響き、うなる大地。
地は割れ、裂け目へと建造物は吸い込まれていく。
流れ込んだ川の水は滝となって流れ落ち、ところどころ足場は崩落していく。

( ゚∀゚)「なんなんだいきなり……」

( ´_ゝ`)「島が崩れだしたんだ。ギコも言ってただろ、東の海岸沿いは沈んでいったって」

島の崩落に巻き込まれないよう、走りながら会話していた。


567 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 00:40:48.42 ID:9tPN6dkR0
 

( ゚∀゚)「海岸沿いだろ! 内側から崩壊するもんなのか!?」

( ´_ゝ`)「わからん! でも現に足元が崩れ始めてる!」

固まった大地の崩れる音は鳴り止むことなく続く。
林立するビルはその震動などの影響で横倒れになっていく。
倒れた先にまたビルがあるところなど、ドミノ倒しのように
連鎖的に、しかし行儀悪く倒れていった。

壊れたビルから大小いろいろな形のコンクリートが降ってくる。
比較的小さな欠片でも、都市部の中でも高層ビルが多く存在するこの地域では、
高さと相まって重力に引かれ威力を増しており、
文字通りそれらはアスファルトの大地をうがった。

当たっただけでもおそらく致命傷になるであろう破片が雨のように降り注いでいた。
足を止めるのはもちろんのこと、運が悪ければ気付いた瞬間あの世にいるという
由々しき事態も起こりうる。

二人はただ神に祈りながら走り続けるしかなかった。


569 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 00:51:33.08 ID:9tPN6dkR0
 

( ゚∀゚)「うおっ」

祈っていると、自分の真横数センチに、自分の頭ほどのコンクリート片が落下してきた。
祈りのおかげなのか、祈りに気をとらわれていたせいなのか。

( ´_ゝ`)「いらんことは考えるな! とにかく走れ!」

( ゚∀゚)「言われんでも!」

( ´_ゝ`)「むおっ」

今度は兄者の鼻先をかすめた。
あまりに突然の出来事に一瞬立ち止まってしまうが、
そのコンクリート片が砕ける音で気を取り直し、再び走り出した。

( ゚∀゚)「こりゃもう……ほとんど……運じゃねえか……!」

( ´_ゝ`)「だから……最初っから、そう、言ってるだろ……!」


571 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 01:08:05.38 ID:9tPN6dkR0
 

事の発端は十分ほど前のことであった。
サスガビルを目指していたところ、足元に小さな揺れを感じた。

二人は咄嗟に身構え、地にしゃがみこんだ。
続く大きな地震に備えての行動だった。

だが少し経っても何も起きない。
ジョルジュたちは首をかしげながらも、ギコから聞いていた島の倒壊による局地的な震動だと結論付けた。
立ち上がり、一刻も早くサスガビルにたどり着けるよう、速度を上げて歩き始めた。

その直後のことである。

突き上げるような震動が起きた。
二人とも気が付けば体が浮かんでおり、次の瞬間には全身をアスファルトに叩きつけられていた。
背中に感じる疼痛にもだえる暇も無く、地にひびが入り始め、苦しみながらも走り始めた。

それが今回の逃避行の始まりだった。


577 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 01:26:02.32 ID:9tPN6dkR0
 

( ゚∀゚)「こ、このまま逃げ続けても、サスガビルから離れちまうんじゃねえか!?」

( ´_ゝ`)「……はぁ……いや……この道なりに行けば……サスガビルのはずだ……
      むしろ近づいてるはずだが……はぁ……はぁ……
      問題は……サスガビルまで倒壊してしまうんじゃないかって、ことだ……」

力の続く限り走り続けた。
体にうずく痛みは、走っているうちに影を潜めた。
いや、痛み自体はかすかに感じるが、それを気にしていては走ることなどできない。
そうなれば自分の人生の幕は閉じられるということを、二人は痛みに実感していた。

足元に次々と亀裂が走った。
それはまるで意思あるもののように二人を追いかけてくる。
亀裂は時間が経つとともに横に開き、次第に大地の裂け目を作り始めた。
十中八九、落ちれば死ぬ。

( ´_ゝ`)「はぁ……はぁ……」

( ゚∀゚)「……」

言葉を紡ぐことも困難になってきた二人は、息遣いを荒くしながら走った。
倒れるビルに巻き上げられる砂埃が目にはいりそうになる。
それを手で覆い防ぎながらも、ただただ、ひたすらに走った。


578 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 01:37:32.39 ID:9tPN6dkR0

( ゚∀゚)「……はぁ……はぁ……」

立て続けに起こる崩落音のせいか、耳鳴りがする。
遠くで聞こえるような微妙な違和感も、そのせいなのだろうか。

耳に聞こえる音が遠く、淡く、曖昧に聞こえるためか、
何故だか風呂上りに起きる目眩のときのような、現実味のない世界にいるような錯覚が起こった。

足取りもおぼつかない。
それは震動のためか、三半規管が異常をきたしているためか。

何もかも架空の世界で起こっているかに思えた。

( ゚∀゚)「(いや、違うんだ……)」

これは錯覚なんかじゃない。
架空の世界での出来事でもない。

自分が今おかれているのは、自分の親しかった上司が死んだ世界、
生きるか死ぬか、その二択しかない世界なのだ。

降り注ぐ大きな破片に当たれば死ぬし、ここを逃げ切ることができれば生きていくことができる。

死にたくない。
ジョルジュはそれだけを願った。

( ゚∀゚)「(だったらするべきことは)」

ただこの場を走り抜けることだけだった。


588 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 02:22:38.30 ID:9tPN6dkR0


――――……

( ゚∀゚)「はぁ……はぁ……震動も……収まったな……はぁ……」

( ´_ゝ`)「ああ……ここまでくれば、大丈夫だろうとは……思うが……」

二人は地べたに力なくしゃがみこんでいた。
肩は忙しなく上下に揺れ、吐き出す息は深く、だが多い。
秋だというのに、走り続けて極限まで温まった体に吹き付ける冷たい風は、
火照った身を程よく冷ました。

ジョルジュは立ち上がり、振り返った。

視線の先にあるものは、海のように大きな水溜りだった。
濁った水の中には倒れたビルの群れがあった。

湖から突き出る何本かのビルは、斜めになっていたり、
震動や水の勢いに負けず真っ直ぐのものもあったが、
どれも、二度と復旧することはできないほどボロボロになっていた。


590 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 02:35:12.12 ID:9tPN6dkR0

( ´_ゝ`)「……」

( ゚∀゚)「……」

この散々な光景に、二人はただ呆然と見ているしかなかった。
今まで自分たちがいたところが、あまりに短い時間で海底にあるという理不尽さに、
恐怖で身が打ち震えた。

これが今のニュー速の現状だ。
いつ島全体が崩れ落ちてもおかしくない。
そんな危険な状況だった。

( ´_ゝ`)「……行くか」

兄者がそう促した。
いつまでもここにいるわけにもいかないということを、理解しているのだろう。
それはジョルジュも同じだった。

( ゚∀゚)「ああ、そうだな……」

だが自分の過ごしてきた島が、三年間の思い出とともに沈み行くのが、
どことなくつらかった。

 

 


591 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/04/09(日) 02:36:41.08 ID:LVa8CQ5J0

これって終わりに近い?
もっと見ていたいんだがどうなの?


592 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 02:38:38.08 ID:9tPN6dkR0

話としては中の下、または下の上あたりですお( ^ω^)
今日の投下としては、今からバイトなのでこれ以上の投下は難しいです。
ごめんして。

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