( ^ω^)が歌手になりたいようです-第三部

ピンポーン。ピンポーン。ピンポンピンポーン・・・ 

( ^ω^)「ドクオー!!開けるおー!!」 

('A`)「なんだようるせーな・・・」 

ブーンがいきなりドクオの家にやって来たのは3月も終わりの頃だった。 

( ^ω^)「聴いてくれお!できたんだお!!歌ができたんだお!!」 

ブーンは興奮してドクオにつめよる。手にはカセットテープが握られていた。 

('A`)「えっ。マジか。どれちょっと聴かせてみろ。」 

ブーンはドクオにちょっとした音楽講座を開いてもらったその日から、 
今まで以上に一生懸命練習した。 
その甲斐あってかもうほとんどもたつく事なくコードチェンジが出来るようになった。 

( ^ω^)「ああっ。でもいざとなると何だか恥ずかしいお! 
優しくしてくれお!こう見えて初めてなんだお!!」 

('A`)「キモい事言うなよ・・・」 

そう言って、ドクオは古いラジカセにブーンの持ってきたカセットを入れる。 
再生ボタンを押し、曲が始まった。 

('A`)「・・・ほう・・・」 

良い曲だな。素直にドクオは思った。 
はっきり言って音質は最悪だしギターもパワーコードのみでいかにも初心者の作った 
ソレだった。しかしブーンの言いたい事は歌を通してハッキリと伝わってきた。 
やっぱりコイツは才能がある。とドクオは思った。 

( ^ω^)「うpログフィッシュに会った時の感動を歌にしたんだお。」 

('A`)「ああ、だからいやに明るい感じだったのか・・・。まあ、良い曲だと思うよ。」 

( ^ω^)「ホントかお!?」 

('A`)「おう。ただし、音質は最悪。 
とてもじゃないけどお前の事を知らない他人に聴かせられる様なレベルじゃない。」 

( ^ω^)「うう・・・」 

('A`)「あと、なんつーかこの曲の感じだとギター一本のみじゃ物足りないっつーか。 
バンドサウンドにした方がしっくりくると思うんだ。 
お前、打ち込みとかしねーの?」 

( ^ω^)「打ち込みってあのスートレーナーとかアナルとかがやってるピコピコかお?」 

('A`)「そうそう。あれだったら一人でも頑張ればバンドっぽくできる。 
まあシーケンサーは扱いになれるまで時間かかると思うけど・・・」 

ちなみにスートレーナーとは2004年に解散したバンドで、 
打ち込み特有のキラキラピコピコしたサウンドと透明感のある男性ボーカル、 
そして女性ベーシストの可愛らしいコーラスで若者の人気を集めた。 

そしてアナルとは最近東京に進出してきた3人組でこちらもキラキラしたサウンドと 
不思議な世界観を持った歌詞が持ち味である。 
近頃では映画メゾン・ド・イモコに曲を提供したりして徐々に世間から注目されている。 

( ^ω^)「シーケンサーか・・・興味はあったけど触った事ないお」 

('A`)「あれはハマると本当に楽しいらしいぞ。それにどうせお前宅録派だろ? 
バンドやりたいけど友達いない、 
ストリートやろうにも根性がない、そんなお前にはピッタリだと思うがな。」 

宅録とは自宅録音の略で最近のミュージシャンはこの宅録でネットに曲を配信して 
お金を貰うといった活動をしている人もいる。 
一人でやる人にはレコーディングの度にスタジオにいったら費用がかなり高くつくので 
宅録の方が何かと都合が良いのだろう。 

( ^ω^)「うーん。来月バイト代入るし・・・ちょっと検討してみるお。」 

('A`)「いきなりだけどお前が歌手になりたいって事をお袋さんや親父さんは知ってるのか?」 

そう言うとブーンはギクっとした。 

( ^ω^)「じ・・・実はまだ言ってないお。」 

('A`)「マジでか。まあ・・・言いづらい事ではあるよな・・・」 

( ^ω^)「うー・・・」 

('A`)「ま、こういう事は早く言ったほうがいいぞ。」 

( ^ω^)「それは分かってるんだけお・・・」 

ブーンはいまいち両親にこの事を打ち明けるチャンスを掴めないでいた。 

それから1ヵ月後・・・ 

(・∀・)「いらっしゃいませー。何かお探しですか?」 

( ^ω^)「あ、あの、シーケンサーを探してるんですけお・・・」 

バイト代の入ったブーンは結局シーケンサーを購入する事にした。 
やはり打ち込みもできた方がこれから何かと役立つと思ったからである。 

(・∀・)「シーケンサーですか・・・お客さん、DTMは初めてですか?」 

( ^ω^)「あ、はい。そうですお。」 

(・∀・)「でしたら、これが良いのではないかと・・・」 

そう言って店員は奥のほうからシーケンサーを持ってくる。 

(・∀・)「これはKOLGという会社の製品でして、値段もお手ごろですし 
ボタンとつまみ操作で簡単にトラックが作れるので私どもの店では 
初心者の方にはまずこちらの製品をお薦めしています。」 

( ^ω^)「はあ・・・あの、ちょっと触ってみていいですかお?」 

(・∀・)「はい。もちろんです。」 

店員は手馴れた感じでシーケンサーをモニターにつなぐ。 

(・∀・)「さ、これで音がでます。ちなみに音質に拘らなければ 
モニターを買わなくてもご自宅にあるヘッドフォンで十分楽しめますので 
安心してください。ではそちらのSoundと書かれたボタンを押してみてください。」 

( ^ω^)「こ、これですかお?」 

ブーンが恐る恐るボタンを押すと軽快なユーロビートが流れ始める。 

(・∀・)「はい。それでですね、このツマミをこうしてこのボタンを・・・」 

店員が適当にツマミやボタンをいじりだすと曲はどんどん変化していった。 
音程が高くなったりエコーがかかったりディストーションがかかったり・・・ 

( ^ω^)「おおーすごいですお。」 

(・∀・)「こんな感じで既存の曲にアレンジをしたり、慣れてくれば 
自分で一からトラックを作成することもできます。」 

( ^ω^)「(これは意外と簡単そうだお。値段もこれくらいなら 
今月十分やっていけるお。よし・・・) 

( ^ω^)「あの、これ下さいお。」 

(・∀・)「あっ、はい!ありがとうございます!」 

( ^ω^)「即決したんだからまけて下さいおwww」 

こうしてブーンはシーケンサーを購入した。 
楽器屋は何度言っても楽しいし、何を買ってもとても嬉しかった。 
一生懸命お金をためて少しずつ楽器を買っていく。 
その度にレベルアップしていくようで嬉しい。 
また一つ世界が広がった喜びをブーンは噛み締めた。 

( ^ω^)「ただいまおー」 

J(‘ー`)し「ブーン。お帰り。あらあら、大きな荷物ね。何買ったの?」 

( ^ω^)「シーケンサーっていう電子楽器だお。すごく楽しいんだお。」 

J(‘ー`)し「そう・・・はやく、上手になると良いね。」 

( ^ω^)「うん。ありがとだお。」 

J(‘ー`)し「そういえばお隣のトリ男くん。ほら、今大学4年生の。 
あの子もう内定もらったんですって。早いわねえ。 
ブーンはもうどこに就職したいか決まった?」 

母のその言葉にブーンは表情を強張らす。そして思う。言うなら、今だと。 

( ^ω^)「・・・ちょっとそれについては話があるお。 
父ちゃんが帰ってきたら言うから聞いてほしいお。」 

J(‘ー`)し「?ええ・・・。」 

ブーンは部屋に戻った。ベッドに腰を下ろし、ふうっとため息をつく。 

( ^ω^)「・・・・・・」 

ブーンはドクオにメールを打った。 
「今日、打ち明ける」と。 
そしてすぐに、「ガンバレ」とだけ書かれた返信がきた。 

( ^ω^)「ああ〜ドキドキするお。そだ。久しぶりにショボンに電話するお。」 

トルルルルルル・・・トルルルルルル・・・ 

ガチャ 

(´・ω・`)「やあ。」 

( ^ω^)「あ、ショボン!?久しぶりだお。実は・・・」 

(´・ω・`)「うん。留守なんだ。すまない。仏の顔もっていうし謝って許してもらおうとも・・・」 

あいにく、留守電であった。 

( ^ω^)「あらら・・・じゃ、ギコに・・・」 

トルルルルルル・・・トルルルルルル 

ガチャ 

(゚Д゚)「おうブーンか!?久しぶりじゃねえか!」 

今度はちゃんとギコが出た。 

( ^ω^)「もしもしギコかお?本当に久しぶりだお。急にゴメンお。今、いいかお?」 

(゚Д゚)「ああ。丁度バイト終わったトコだ。全然いいぜ。」 

ブーンは一呼吸置き、話し出す。 

( ^ω^)「いきなり本題に入るけど、実は僕、歌手になりたいんだお。」 

(゚Д゚)「ええええええええ!?本当いきなりだな!それマジでか!?」 

( ^ω^)「うん。マジだお。」 

(゚Д゚)「んー・・・ま、お前マジ歌うまいし。いいんじゃねーの?俺は応援するよ。」 

ギコのその言葉にブーンは少し勇気が湧いた。 

( ^ω^)「ありがとだお。嬉しいお。で、今日その事を父ちゃんと母ちゃんに言おうと 
思うんだけどどうも緊張してしまうんだお。」 

(゚Д゚)「あー。まあな。少なくとも平凡な将来像は描けないもんな。お前の夢。」 

( ^ω^)「そうなんだお・・・」 

(゚Д゚)「でもさ、お前んとこのお袋さんも親父さんもすげえ良い人じゃん。 
いつもブーンの幸せ願ってますって感じでさ。だからきっと応援してもらえんじゃん? 
特にお袋さんなんかまだ歌手になりたいって言っただけなのにいきなり 
近所中に自慢げに話し出したりしてなwうちの子歌手になるのよーとか言ってw」 

ギコと話している内に段々とブーンの緊張は解けてきた。 

( ^ω^)「どうもありがとだおギコ。なんだか元気出てきたお。 
長く話し込んじゃってスマンコ」 

(゚Д゚)「良いって、気にすんな。また遊ぼうぜ。ショボンともさ。あ、一応結果教えてくれよ。」 

( ^ω^)ノシ「もちろんだお。また連絡するお。ばいばいおー。」 

大丈夫、きっとうまく伝えられる。そう思った。 

( ´∀`)「そういえばブーン。俺たちに話があるんだってな。」

父がそう切り出したのはその日の夕食時であった。

( ^ω^)「うん・・・」

( ´∀`)「なんだい改まって。ほら、言ってみなさい。」

J(‘ー`)し「なにか悩みでもあるの?」

( ^ω^)「違うお。実は僕・・・か、歌手になりたいんだお。」

( ´∀`)J(‘ー`)し「えっ!?」

そう言ったきり二人は黙りこんでしまった。時計の音だけがリビングに響く。

どれくらい経っただろうか?やがて父がゆっくりと口を開いた。

( ´∀`)「・・・良いんじゃないか?やってみなさい。」

( ^ω^)「えっ!?良いのかお!?反対しないのかお!?」

ブーンは驚いて聞く。母はともかく父には絶対反対されると思っていたのに。

( ´∀`)「そりゃビックリはしたけどブーンはまだ若いし、
夢にむかって頑張ってみるのも良いと思うぞ。
それに父さんも母さんもブーンが音楽が大好きって知ってるしな。止める権利はないよ。」

( ^ω^)「父ちゃんありがとうだお!!」

( ´∀`)「な、母さんも、賛成だろ?」

父のその言葉に、今まで黙っていた母が口を開く。

J(‘ー`)し「・・・母ちゃんは、反対だな・・・」

( ^ω^)「え!?どうしてだお!?」

ブーンは父が賛成してくれた時よりもっと驚いた。
正直、ブーンは父には反対されても母には反対される事など絶対にないと思っていた。
なぜなら母はいつだってブーンの理解者だったからである。ブーンの味方だったからである。
その母に反対されるなんて信じられなかった。

J(‘ー`)し「いい?ブーン。音楽で食べていくっていうのは夢のある事だと思う。
だから音楽を仕事にしようと思ってるブーンは本当に素敵だと思う。」

( ^ω^)「そ、それなら・・・」

J(‘ー`)し「だけどね、音楽で食べて行くっていうのは、それ以上に大変なの。
一生芽なんてでないかもしれない。
もし運よくデビューできたって売れなければすぐ事務所との契約は切れてしまうのよ?
母ちゃんはブーンをそんな不安定な職業につかせたくないの。」

( ^ω^)「じゃ、じゃあ売れれば・・・売れればいいんだお!!」

そう言って、自分はなんて子供じみた事を言ってるのだろうと恥ずかしくなった。

J(‘ー`)し「そうね、売れればね。でも仮に売れたとしても
ずっとずっと売れ続けなければならないのよ?それがどんなに大変な事か分かってる?
20代の時は売れても30代で急に売れなくなってしまうかもしれない。
そうしたらあなたの収入は限りなく0になってしまうのよ?」

( ^ω^)「・・・・・・」

J(‘ー`)し「そうしたら当然再就職になるわよね?
面接の時あなたがどんなに音楽を頑張ってきたって言っても
世間はあなたをフリーターとしか見てくれないわよ。それにあなたは耐えられる?」

( ^ω^)「で、でも僕は、本当に歌が・・・大好きで・・・だから・・・」

J(‘ー`)し「歌が嫌いで、歌手になりたい人なんていないわよね?
好きだけじゃ、どうしようもできない事だってあるわよね?」

( ^ω^)「・・・・・・」

J(‘ー`)し「・・・ごめんね。でも母ちゃん、ブーンには平凡でも幸せに生きて欲しいの。
歌なら職業にしなくたって歌えるでしょ?それで良いじゃない。ね?」

( ^ω^)「・・・・・・」

そう言い聞かせる母の目には、うっすらと涙が滲んでいた。
本当は母も心の中では賛成してくれているのだろう。
でもそれ以上に母はブーンには安定した職業を選んでもらって、
ささやかな幸せを掴んでいってほしいのだろう。
母はブーンに苦労などさせたくないのだ。愛しているから。心から愛しているから。

その気持ちが痛いほど伝わって、ブーンはもう何も言えなくなっていた。

( ^ω^)「・・・もう、部屋行くお・・・変な事言ってごめんお・・・」

J(‘ー`)し「・・・ブーン・・・!」


落ち込むブーンの腕を、母は掴もうとして、そして・・・やめた。

部屋に入り携帯を見ると着信が入っていた。
ショボンからだった。ブーンはあわててかけなおす。

トルルルルルル・・・・トルルルルル
ガチャ。

(´・ω・`)「やあブーン久しぶり。さっきは出れなくてごめんね。」

すぐにショボンがでた。

( ^ω^)「ショボン・・・久しぶりだお・・・」

(´・ω・`)「どうした?元気ないね。」

( ^ω^)「実は・・・」

ブーンは歌手になりたい事、その事を両親に打ち明けられた事、
父は賛成してくれたが母に反対された事、その全てを話した。

(´・ω・`)「うーん・・・そうだったのか・・・」

( ^ω^)「もう僕はどうすれば良いのか分からないお・・・」

(´・ω・`)「これは・・・難しい問題だね・・・」

ショボンは返答に悩んだ。正直ブーンの母の気持ちは分かる。
自分にもし息子がいて、ブーンの様な事を言い出したらやはり諦めるよう諭すだろう。
そんな成功するかもどうかも分からない道を、自分の子供に選ばせたくない。
それが親のエゴだとは分かっていても。

しかしブーンの気持ちも痛いほどわかる。
高校の時、あの打ち上げでの出来事がショボンに蘇ってくる。
あんなに生き生きしたブーンは初めて見た。
「カッコいい。」本心からそう思った。

どうすれば両者納得の行く答えがでる?
どうすれば誰も傷つかない?
どうすればいい?どうすれば・・・

( ^ω^)「ショボン?もしもし?」

ブーンの声にハッとなる。

(´・ω・`)「ああ、ごめんごめん。」

( ^ω^)「どうしたお?」

(´・ω・`)「ね、ブーン・・・僕は思うんだけど、」

( ^ω^)「うん・・・。」

(´・ω・`)「やっぱり、もう一度お母さんを説得してみなよ。」

( ^ω^)「・・・それは僕も考えてるお。でも・・・」

(´・ω・`)「また反対されるかもって?」

ショボンの問いにブーンは「うん。」と小さく呟く。

(´・ω・`)「そんなんで弱きになってちゃダメだよ。ブーン。
1回や2回反対されただけで諦めるような軽い思いじゃないんでしょ?」

( ^ω^)「そっ、そんなの当たり前だお!」

(´・ω・`)「僕さ、昔打ち上げの時歌ってたブーンは本当にカッコいいと思った。
何回聴いても飽きなかったし、ううんそれどころかもっともっと聴きたいって思った。
あの時の感動は今も残ってる。それはすごい才能だと思うよ。」
 


( ^ω^)「ありがとうだお。」

(´・ω・`)「でもお母さんの言ってる事もわかる。反対されて当然だよ。
誰だって自分の子供にはわざわざ苦労する道を選んでなんてほしくない。」

( ^ω^)「・・・うん。」

(´・ω・`)「けどこのまま諦めたらお互いが傷つくと思うんだ。
ブーンのお母さんも本当はブーンの夢を応援したいんだと思うよ。」

( ^ω^)「それは僕も感じたお。」

(´・ω・`)「ならなおさら弱気になってる場合じゃないよ。
何回だって説得しに行かなきゃ。自分は真剣だってこと伝えなきゃ。」

ショボンの言葉はブーンの胸に深く染み入る。

(´・ω・`)「何が正しいのか僕には分からないけど、とにかく今は
ブーンもお母さんも両方納得のいく結果を得なきゃ。
そうしなきゃ何も始まらないよ。」

( ^ω^)「ショボン。どうもありがとうだお。ショボンの言うとおりだお。
母ちゃん一人説得できないようじゃ歌手になんてなれっこないんだお。」

(´・ω・`)「そうそう。ガンバレ!ブーン。」

( ^ω^)ノシ「うん、頑張るお!本当にどうもありがとうだお!!じゃバイバイおー」

(´・ω・`)ノシ「うんバイバイ。またいつでも連絡していいから。」
 

 

それから1週間後・・・
コンコン

( ´∀`)「ブーン。入っていいかい?」

( ^ω^)「父ちゃん?どうぞだお。」

ブーンがそういうと、父はゆっくりとブーンの部屋のドアを開けた。
そしてブーンの隣に腰をおろす。

( ´∀`)「ふー・・・そういえばブーンの部屋に入るの久しぶりだな。
CDがたくさんあるなあ。ギターも・・・」

( ^ω^)「急にどうしたんだお?」

( ´∀`)「実はお前に話したい事があってな・・・母さんには、内緒だぞ。」

この話をすればブーンが傷つく事ぐらい、父には容易に想像できた。
でもどうしても今話さなければならないような気がした。
母の為にもブーンの為にも。

( ^ω^)「?なんだお?」

( ´∀`)「実はな、母さん、ブーンが生まれる前まで、ピアニストだったんだ。」

( ^ω^)「えええええええええ!?そうだったのかお!?」

父の話に驚く。母は一度もそんな話をした事がない。

( ^ω^)「だ、だって家にはピアノも楽譜も何もないお!?」

( ´∀`)「捨てちゃったんだ。母さんが、全部。」

( ^ω^)「な、なんでだお!?何で捨てちゃったんだお?」

ブーンの言葉に父は少し躊躇って、やがて決意したように、言う。

( ´∀`)「母さんが父さんと結婚して、1年経ってお前を身ごもった。
その頃母さんはすでに国内ではちょっとした人気ピアニストになっていて
いろんなコンサートにひっぱりだこだった。
でも父さんは子供が生まれるまでは仕事を休んだらどうだい?って言った。
疲れが溜まったら大変だろうと。でも母さんは笑って俺に言うんだ。
やっと仕事が軌道にのってきた。ここで休む訳にはいかない。私は大丈夫、って。」

( ^ω^)「・・・・・・」

( ´∀`)「だけどやっぱり、疲れてたんだろうな。
やがてお腹が目立ち始めた頃、・・・あの日も母さんはコンサートを行っていた。
そこは世界的に有名なオーケストラもやってくるとても大きなホールだった。
演奏が終わり、さあアンコールだと壇上に上った時母さんを眩暈が襲って・・・」

( ^ω^)「まさか・・・」

ブーンに嫌な予感が走った。

( ´∀`)「・・・母さんは、壇上の一番上から落ちたんだ。」

( ^ω^)「!」

( ´∀`)「その時母さんはとっさにお腹の中にいるお前を守った。
片手でお腹を抱え、もう片方の手で地面をついた。」

( ^ω^)「え・・・」

( ´∀`)「幸いお腹にいたお前には何の異常もなかったが
母さんの地面についたほうの手は骨折。そして折れた骨が指の神経を突き刺して・・・
母さんの指はもうピアノが弾けなくなってしまったんだ。」

( ^ω^)「そんな・・・」

( ´∀`)「だがピアノを弾けなくなっても母さんの人気は消えなかった。
いろんな大学や専門学校から講師に来てくれとの依頼が絶えなかった。
でも母さんはその全てを断った。もうピアノの事は考えたくないと言って。
そしてピアノも、自分で出したCDも全て・・・捨てた。」

そう言うと父はポケットからCDを取り出す。
ジャケットには笑顔の、今よりだいぶ若い母が写っていた。

( ´∀`)「これはお前がお腹にいた頃、事故にあう直前にレコーディングされたアルバムだ。
父さん、これを母さんが捨てるのはどうしても忍びなくてとっさに隠してさ・・・聴くか?」

( ^ω^)「・・・うん・・・」

そして父はコンポにCDを入れる。CDからは母の人柄が前面に現れたような、
優しいピアノの旋律が流れた。

( ;ω;)「・・・・・・」

ブーンは涙が溢れて止まらなかった。
こんなに優しい旋律を、美しい音楽を、自分が壊してしまった。
母の音楽を楽しみにしてくれた人はきっといっぱいいただろう。
母の音楽に救われた人もきっとたくさんいただろう。

でももう母の音楽は聴けない。消してしまったから。自分の手で。
そうしてそうさせたのは、紛れもなく・・・

( ;ω;)「うっ、うわああああああん!!」

( ´∀`)「ブーン!?」

ブーンはたまらず、部屋から飛び出した。

( ;ω;)「母ちゃん!!」

J(‘ー`)し「ブーン!?どうしたの!?」

突然泣きながら現れたブーンに母は何事かと驚く。

( ;ω;)「母ちゃんごめんお!!僕のせいで・・・僕の・・・」

J(‘ー`)し「どうしたの、一体・・・」

( ;ω;)「父ちゃんから聞いたお。母ちゃんが僕のせいでピアノ辞めたって・・・」

J(‘ー`)し「そう・・・父ちゃんから聞いたの・・・」

ブーンを追って下りてきた父は、そう母に言った。

そして母はぽつりぽつりと語りだした。

J(‘ー`)し「「ブーン。あなたはまだ大学生よね。当然まだ社会の事なんて知らない。」

( ^ω^)「・・・うん。」

J(‘ー`)し「前も言ったけど、音楽だけで生きていくって本当に大変なのよ。
売れてないときは這いつくばって、泥水をすすって・・・
それでも、報われるとは限らない。」

J(‘ー`)し「母ちゃんね、小さい時からピアノが大好きで、いっつもピアノを弾いてたの。
大きくなったら絶対ピアニストになるんだーって言ってきかなかった。」

懐かしそうに、遠い目をして母は話す。

J(‘ー`)し「両親も音楽が好きだったからすごく応援してくれてね、
二人とも一生懸命働いて、音大にいかせてくれて、最終的にウィーンに留学までさせてくれた。
だから母ちゃんも一生懸命頑張った。二人が喜んでくれるように。
一生ピアノ弾いていられるように。
留学中は、寝てる時以外ほとんどピアノ弾いてた。」

( ^ω^)「・・・・・・」

J(‘ー`)し「学費払って、楽譜を買ったらあっという間にお金がなくなって
3食パンの耳と水だけの日なんてザラにあった。
同じ科の学生に、お前は才能がないから早く日本に帰れなんて事も言われた。
でも母ちゃんは頑張った。見てろよ!絶対見返してやるからな!
って、思ってますますピアノに没頭した。
ピアノが大好きだったから、母ちゃんはどんな事だって耐えられた。
そしてこれからも耐えられる、そう思ってた。」

( ^ω^)「うん・・・。」

J(‘ー`)し「やがて留学の期間が終わって日本に帰っても母ちゃんは
アルバイトしながらずっとピアノを弾いてた。
そしたらある日、レコード会社の人で母ちゃんのピアノを気に入ってくれた人がいてね、
うちの会社からCDを出さないか?って言ってくれたの。母ちゃんすぐOKした。」

ブーンは黙って母の話に耳を傾ける。

J(‘ー`)し「だけど無名のピアニストがだしたCDなんて誰も買う訳がなくて
最初売り上げは散々だった。それでも母ちゃんは嬉しかった。嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
これからだ、これをチャンスにして絶対のしあがってやる!って思って、
今まで以上に寝る間を惜しんでピアノを弾いた。
そしてゆっくりだけど仕事も軌道に乗ってきて、いろんな所から公演依頼がくるようになった。
父ちゃんと結婚してブーンを身ごもってる時も母ちゃんは休みたくなんてなかった。
休んだら仕事がなくなるんじゃないかって怖かったの。
でも、それがいけなかったのね・・・」

母は、悲しそうにうつむく。

J(‘ー`)し「疲れも限界に達して・・・そしてあの事故が起こってしまった。」

( ^ω^)「・・・」

J(‘ー`)し「母ちゃん当時はすごく頑張った。あんなに頑張ったのは、後にも先にもあの時だけだった。
だからもうピアノ弾けないって分かったとき母ちゃん目の前が真っ暗になった。
何日泣き通したか分からない。そしてそれ以来、
あんなに大好きだったピアノを見るのも嫌になっちゃた。
だから捨てたの。ピアノも、楽譜も、全部。」

( ^ω^)「ごめんお・・・僕のせいで、ごめんお・・・」

ブーンのその言葉に母は口調を荒げる。

J(‘ー`)し「何言ってるの!?あれは母ちゃんが悪いの!ブーンのせいなんかじゃない!
ブーンのせいなんてそんなことある訳がないじゃない!」

( ^ω^)「でも・・・」

母は話し続ける。

J(‘ー`)し「母ちゃんはあの時ブーンを守れて本当に良かった。
それは今も思ってる。ブーンを産めて良かった。
ピアノは捨てたけど、音楽も聴かなくなったけど、母ちゃんすごく幸せだった。
ああ、こういう幸せもあるんだって思った。」

( ^ω^)「母ちゃん・・・」

J(‘ー`)し「やがてブーンが高校生になって音楽を聴き始めて、
大学生になったらドクオ君といろんなコンサートに行って、ギターも買って・・・
ブーンがこんなに一つの事に熱中してるの母ちゃん初めて見たから嬉しかった。
だけどその事が怖いとも、母ちゃんは思った。
もしブーンも私みたいに音楽の道に進みたいって言ったらどうしようって思った。」

母は優しく、そして悲しそうに続ける。

J(‘ー`)し「そしてブーンも私みたいにこれからだって所でダメになったらどうしようって・・・
母ちゃんそれが怖くてたまらなかった。
ブーンには母ちゃんみたいな思い絶対してほしくなかった。
だけど、それでもブーンは音楽をやりたいって思うの・・・?」

母の目はまるで「頼むから諦めてくれ。」そう懇願しているようであった。
しかしブーンの決意は揺らがなかった。

( ^ω^)「・・・うん。それでも、僕は音楽をやりたいって、思うお。」

J(‘ー`)し「ブーン・・・。」

( ^ω^)「母ちゃんがピアノを好きだったのと同じくらい僕も歌が好きなんだお。
もし僕が将来喉の病気かなんかになって歌を歌えなくなったらやっぱり僕も
目の前が暗くなって母ちゃんみたいにCDもギターも、全部捨てると思うお。」

J(‘ー`)し「・・・」

( ^ω^)「でも僕は、僕はやっと生き甲斐をみつけたんだお。
もしいつか歌えなくなるとしてもその前に精一杯歌って、頑張って頑張って
それから歌えなくなりたいんだお。」

その言葉を聞いて、母はブーンに問いかける。

J(‘ー`)し「ね、ブーンはどうしてそんなに歌手になりたいの?
歌が好きだったら、例えば音楽の先生になったり、ボイストレーナーになったり
道はいろいろあるじゃない。それがどうして歌手なの?」

( ^ω^)「・・・それは歌ってる時が、すごく楽しいから・・・だお・・・。」

J(‘ー`)し「それだけの理由?ならそれこそ就職したって何も問題ないじゃない。
歌ならいつだって歌えるわ。」

( ^ω^)「確かに、それだけの理由なら母ちゃんのいう通りだお。
好きなCDをかけてそれに合わせて歌って、それで満足するなら・・・」

J(‘ー`)し「そうでしょう?」

( ^ω^)「でも僕の歌を聴いて喜んでくれる人がいたんだお。
僕の作った歌を、真剣に聴いてくれてもっともっといろんな人に聴いてもらえるように
アドバイスしてくれた人がいたんだお。」

J(‘ー`)し「・・・・・・」

( ^ω^)「僕だって自分だけの力で誰かを喜ばす事ができるんだお。
それが分かったんだお。だから僕は・・・」

たどたどしい言葉でけれど真っ直ぐにブーンは言った。やがて母は小さくため息をついて、言う。

J(‘ー`)し「24歳・・・」

( ^ω^)「へ?

J(‘ー`)し「お前が24歳になるまで時間をあげる。
それまでに何としても歌手になりなさい。そうしたら母ちゃん認めてあげる。
だけど、もし24歳になっても歌手になれそうもなかったら何が何でもお前を就職させるからね。」

( ^ω^)「母ちゃん!!」
 

J(‘ー`)し「それと大学も絶対卒業する事。中退なんて母ちゃん許さないからね。」 

( ^ω^)「うん!うん!分かったお!!母ちゃんありがとうだお!!!」 

ブーンは何度も何度も母にお礼をいって頭を下げた。 
嬉しさと同時に絶対母を裏切ってはいけないという責任も生まれた。 

( ^ω^)「僕、歌手になるお!!絶対絶対なるお!!」 

J(‘ー`)し「うん。約束よ。じゃ、母ちゃんそろそろ夕飯の買出しに行くからね。」 

( ^ω^)「やったあああああ!!やったおおおお!!!」 

( ´∀`)「やったな!これから頑張るんだぞ!ブーン!」 

無邪気に喜ぶ二人を後にして母は家から出る出た。そして呟く。 

J(‘ー`)し「頑張るのよ・・・母ちゃんずっとあんたの味方だからね・・・!」 

これからブーンはたくさんたくさん辛い思いをするだろう。 
人知れず泣く夜なんて、数え切れないほどやってくるだろう。 
夢に絶望して、それでも夢にすがりつく自分に嫌気がさすかもしれない。 
それでもブーンはみんなの前では愚痴一つこぼさず、ニコニコと笑っているのだろう。 

だれよりも頑張れ。そして誰よりも幸せになれ。 
母は強くそう思った。 

近所の奥さん「あら、内藤さんの奥さんこんにちは。どこかへお出かけ?」 

J(‘ー`)し「あらこんにちは。ええ、ちょっと買い物に。 
ところで奥さん、聞いて下さる?」 

近所の奥さん「ええ?なあに。面白い話?」 

J(‘ー`)し「あのね、家の息子、今度歌手になるの。私はファン1号なのよ。」 

近所の奥さん「まあ!すごいわねー歌手なんて。でも、大変でしょう?」 

J(‘ー`)し「ええ。とっても大変。でも頑張るって言ってたわ。 
だから大丈夫よ。なんせ、私の自慢の息子ですもの。」 

近所の奥さん「ふふ。また内藤さんの口癖がでた。 
何かって言うと「自慢の息子がー」って」 

J(‘ー`)し「え?そうだったかしら?」 

近所の奥さん「そうよお。うふふ・・・」 

J(‘ー`)し「ふふふっ・・・」 
 

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