69 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 00:43:36.83 ID:14juKQqa0
――ブーン――
同日 PM 0:08

( ^ω^)「はぁ……はぁ……」

ブーンは来た道を急いで引き返していた。
道すがら、幾人かが倒れていたが、生きている者はいなかった。
老人、子供、女性……。
皆が皆、力なく後ろへと首を反らした。

ブーンは頭を抱え、身を小さくしていたから助かったのだが、
他の人間は何が起きたのかすら分からぬまま、地面に激しく叩きつけられ、
首の骨を折れたり、肋骨が肺に突き刺さったり、倒れた電柱に潰されて死んでいたりした。

最初は恐ろしかった。
死んでいる人間一人一人に悲しみ、自分の無力さに涙した。
出来るだけ死体の姿勢を正し、胸に手を組ませたりもした。

だがいつしか悲しいという感情はなくなり、
ただ家にいる母の安否だけが気になり始めた。

カーチャンに会いたい、カーチャンの無事を確かめたい……!

その一心で駆けていた。

しばらく歩き、家まであともう少しというところまで来たとき、
ブーンは目の前自体にただ目を大きく見開くことしかできなかった。
 


70 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 00:44:16.94 ID:14juKQqa0
( ^ω^)「橋が……落ちてるお……」

ブーンの家がある区画とこちらの区画を結ぶ橋が落ちていた。
橋は長さ50メートルほどはあっただろうか。
そんな大きな橋が落ちているという事実は、ブーンの中に大きな不安を抱えさせた。

――もしかすると、僕の家はもう……。

向こうの様子が知りたかった。
空には黒い煙がもくもくと上がってはいたが、
その煙は少量で、まだ安心できるほどだった。

しかしこのままでいい訳もなく、ブーンは一人思案した。

( ^ω^)「遠回りになるけど、学校側の橋から回り込むしかないお……」

どうせここで立ち止まっていても、どうしようもない。

そう考え、ブーンは自身の中の全体力を総動員して、学校近くの橋へと向かうのだった。


72 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 01:24:16.31 ID:14juKQqa0
――兄者――
同日 PM 0:01

(´<_` )「なぁ、兄者」

( ´_ゝ`)「なんだ弟者」

(´<_` )「母者と父者は無事だろうか」

( ´_ゝ`)「分からん。ともかく都市部に行ってみる以外方法はない」

l从・∀・ノ!リ人「兄者ー、母者はどこじゃー」

( ´_ゝ`)「妹者よ、もう少し我慢するんだ」

三人の兄妹が歩いていた。
彼らは家から出た瞬間地震が起き、しかし地面はアスファルトではなく
土だったため、身を伏せていただけで助かった。


73 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 01:32:45.01 ID:14juKQqa0
(´<_` )「しかし兄者よ」

( ´_ゝ`)「なんだ」

(´<_` )「俺たち流石兄弟がPCなしでは様にならないな」

弟者が寂しげに手元を動かした。
すると兄者は不敵な笑みを浮べ、弟者を横目で見た。

( ´_ゝ`)「ふっふっふっ。実はな、そういうと思って」

ジャーン。

l从・∀・ノ!リ人「おお、PCなのじゃ!」

(´<_` )「……兄者、出かける時必ずPCも持って出る癖抜けてないのは流石だな」

( ´_ゝ`)「弟者、そう誉めるな」

(´<_` )「しかしPCがあってもネットにつながってなければ、
      ほとんどただの娯楽用具ではないか」

( ´_ゝ`)「なに、これさえあればたちまちネットに繋がる。
       救助も呼べる。明日の天気も分かる。
       優れものだ」

そう言って兄者が取り出したものは、エッジだった。
エッジをノートPCに差し込み、電源を入れた。

74 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 01:33:39.12 ID:14juKQqa0
(´<_` )「エッジとはまた懐かしいものを……」

( ´_ゝ`)「何、まだまだ現役だぞ弟者。
       ……よし立ち上がった」

PCの電源が立ち上がり、デスクトップ画面が表示された。
兄者はインターネットエクスプローラーを起動させ、
このニュー速一帯の地震情報、救助状況などを調べようとした。




しかし。

( ´_ゝ`)「……おかしい。ネットに繋がらない」

(´<_` )「契約切れてたんじゃないのか?」

( ´_ゝ`)「いや、そんなことはない。先日払い込みしたばかりだ」

(´<_` )「じゃあなんで繋げないんだ?」

( ´_ゝ`)「電波が悪いからかもしれん」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/03/03(金) 01:43:48.57 ID:14juKQqa0
兄者はPCの電源を落とし、肩にかけたバッグの中にノートPCを突っ込んだ。
妹者は暇そうに、小走りで先へ先へと進んでいる。
もしかすると、危機感のようなものが妹者にはないのかもしれない。

彼らは幸いにも、死体を見ずに住んだ。
だから現実味というものが失われ、みんな既にどこかに避難しているのだろうと、
楽観的に考えることが出来た。
その分、混乱もなく、冷静に対処することができた。

彼らは都市部に向かおうとする道すがら、大きな橋に着いた。
この橋を渡れば、一直線に進むだけで、母者や父者のいる都市部へと向かうことが出来る。

( ´_ゝ`)「さて、渡るか。妹者よ、こっちへ来るのだ」

兄者がそう促すが、先ほどまで先頭を楽しげに走っていた妹者は、
兄弟から一歩引いたところにいた。

l从・∀・ノ!リ人「……なんかいやなよかんがするのじゃ」

そう言って、妹者は橋に近づこうとしない。

77 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 01:44:50.98 ID:14juKQqa0
( ´_ゝ`)「悪い予感? 俺は別に感じないが」

(´<_` )「やはりこの橋は高いからな。妹者もそれが心配なのだろう」

( ´_ゝ`)「ふむ。じゃあ俺が先に渡ろう。
       弟者は俺が渡りきったら妹者を連れてきてくれ。
       妹者、それでいいな?」

l从・∀・ノ!リ人「……うん……」

( ´_ゝ`)「じゃあ先にあちらで待ってるぞ」

兄者は橋に右足を乗せた。
続いて左足。
そのまま橋の真ん中を歩く。

10Mくらい歩いたところで、
何ともないではないか、と兄者が思ったその時。

78 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 01:45:38.85 ID:14juKQqa0
嫌な音が聞こえてきた。

(´<_` )「……おい、兄者、嫌な音がした。戻れ」

弟者のその言葉に、兄者は賛同し、振り返った。

( ´_ゝ`)「OK、弟者」

すると橋は大きく揺れた。
兄者が戻ろうと足を踏み出した瞬間。



バキッ、ガラガラ……



( ´_ゝ`)「うおおおおおおおおおお!」

(´<_` )「兄者!」

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/03/03(金) 01:54:01.12 ID:14juKQqa0
兄者の踏み出した右足が接地するはずだった橋の床は、
音を立てて崩れ落ちた。

兄者はそのままバランスを崩し、前のめりに倒れそうになる。

(´<_` )「兄者! 落ちたら助からんぞ!」

l从・∀・ノ!リ人「あにじゃー!」

兄者は倒れそうな体をひねり、空中でまだ壊れていない床を掴んだ。
いつ崩れるかも分からない床にぶらさがる兄者。

(´<_` )「兄者、大丈夫か!」

弟者の心配そうな声が響いた。

( ´_ゝ`)「……な、何、平気だ」

兄者は腕の力を振り絞り、しかし掴まっている床が崩れないように、慎重にのぼった。
パラパラと小さな破片が宙を舞った。


82 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 01:55:36.47 ID:14juKQqa0
( ´_ゝ`)「ぬおおお」

まさに必死の形相で、兄者は床に体を乗せた。
しかしその床も、今にも崩れてしまいそうなほど不安定だった。

( ´_ゝ`)「うおおおおおおおお!」

兄者は一か八か、思いっきり橋の上を駆けた。
ついさっきまで兄者のいた床は、ガラガラという音を立て、十数メートル下の河へと叩きつけられた。
兄者は駆けた。
床は兄者を追うようにどんどんと崩れていく。

l从・∀・ノ!リ人「あにじゃーがんばるのじゃー!」

弟者と妹者は心配そうにそれを見つめるしかなかった。

( ´_ゝ`)「まだまだブラクラ踏み足りんのに死んでたまるか!」

84 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 01:57:16.99 ID:14juKQqa0
足がもつれそうになる。
疲れのせいか足がうまく回らない。
しかし倒れてしまえば、自分の命は河の藻屑となる。

必死だった。
死にたくない。
まだ俺は生きていたい。
――そう兄者は思った。

橋の終わりまであと数メートルというところまで来た。
その時、兄者のぴたり後ろにくっ付いていた崩落は、
突如兄者の足元にまで迫った。

( ´_ゝ`)「くそっ!」

兄者が飛んだ瞬間、橋は一気に全て崩れ落ちた。
兄者が岸に手を伸ばす。
届くか、届かないか――!

(´<_` )「兄者ーーーーっ!」

85 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 01:58:20.29 ID:14juKQqa0
兄者の腕は、岸の地面をしっかりと抱きかかえるように捕まえていた。
宙にだらしなく垂れる下半身を、ゆっくりと持ち上げ、全身を岸へと乗せた。

( ´_ゝ`)「……死ぬ」

足に力が入らない。
体が震え、動悸は激しくなる一方だった。
心臓が肋骨を突き破って出てきそうな感覚に、兄者は思わず嘔吐した。

(´<_` )「兄者ーーーーー、平気かーーーーーーっ!」

数十メートル離れた向こう岸で、弟者が声を張り上げていた。

兄者は声も出せず、手を小さく振った。
弟者にはそれが見えていた。

(´<_` )「兄者ーーーー、平気なら先に都市部へ行っていてくれ!
      俺は妹者を学校に送ってから後を追う!」

小さくなった兄者が、力なく腕を振った。
了解という意味らしい。

86 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 01:59:08.79 ID:14juKQqa0
(´<_` )「妹者、そういうわけだ。
      お前は学校で待ってろ。母者と父者は俺たちが連れ帰る」

l从・∀・ノ!リ人「……わかったのじゃ」

先ほどまでは微塵もなかった警戒心が、
今では強固なほどに芽生えていた。



( ´_ゝ`)「……俺も……行くか……」

兄者と弟者は離れ離れになり、兄者は一人、向かおうとした。

90 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 02:25:17.54 ID:14juKQqa0
――ドクオ――
同日 PM 0:21


('A`)「はぁ……はぁ……」

ドクオの息は荒く、走る速度はどんどん落ちていった。
基本的にドクオは運動音痴で、体力もない。
そんな人間が人を背負いながら全力で走ることなど、無理に近い。

J('ー`)し「ドクオ、あたしを降ろしてあんたたちだけで行きなさい」

('A`)「う……うるさい……はぁ……俺は……負けねええええええ!」

母の気遣いは、ドクオにとって自分を発奮させるための薬でしかなかった。
隣を走るショボンはいつもどおりの涼しげな顔だった。
 

91 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 02:26:06.17 ID:14juKQqa0
(´・ω・`)「僕が代わってもいいんだよ」

('A`)「カーチャンは……俺のカーチャンだ……」

(´・ω・`)「そうか」

金属バットを肩に背負い、ショボンはまた走った。


ドクオの家からブーンの家までは結構な距離があった。
だがここまで時間のかかる道筋でもない。
理由はいろいろあった。
道が地割れのため、非常に進みにくくなっていたり、
車が道端の塀に突っ込み、今にも爆発してしまいそうな様子だったりで、
いちいち進路の変更を余儀なくされたのだ。
 


92 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 02:26:52.09 ID:14juKQqa0
ドクオは疲れを紛らわせるために、ショボンに話しかけた。

('A`)「なあ……ショボン」

(´・ω・`)「なに?」

('A`)「お前のそのバット……やけに年季入ってるな……なんか凹んでるし」

(´・ω・`)「ああ、これね。家から持ってきたんだよ。
      昔父さんと野球やってた頃のバットだよ」

('A`)「ふうん……」

(´・ω・`)「それに、ドクオんちの窓ガラス割っちゃったりしたしね。
      多少そのせいもある」

('A`)「そうか……悪かったな、想い出の品なのに……」


93 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 02:28:57.97 ID:14juKQqa0
(´・ω・`)「いやいや、言い方が悪かったね。
      僕は別にこのバットがそこまで重要というわけじゃないさ。
      むしろこのおかげでドクオのおばさんが救えたなら、
      それを善しとしなきゃ」

ショボンは相変わらずの無表情でそう語った。

('A`)「……すまんな」

二人(と一人)は並んで走る。
ブーンの家は、もうすぐだった。


124 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 10:08:58.75 ID:14juKQqa0
――ジョルジュ――
同日 PM 0:24


つい30分ほど前と同じ場所とは思えないほど、居住区の様子は一転した。
だがそれは都市部のほうとて同じだった。

今にも崩落しそうなビルが林立した都市部のとある交差点。
一人の男が耳に当てた携帯電話を、忌々しげに半分に折りたたんだ。
パァンという小気味の良い音は、ビルの林に響き渡った。

( ゚∀゚)「くそっ! 電話すら通じねえなんてよ!」


125 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 10:13:55.55 ID:14juKQqa0
男の名前はジョルジュ長岡。
社会人としては冴えない風貌の男だった。
紺色のスーツを身にまとい、ネクタイは緩み、だらしなく垂れ下がっていた。

( ゚∀゚)「さっきまで電話してたってのに……。
     地震のあとって携帯電話も通じなくなっちゃうものなのか」

ジョルジュはそう独り言を言っては見たものの、
まだ生きている連中が必死に携帯電話で連絡を取り合っていると考えると、
なるほど、通じない理由もよくわかった。
 


127 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 10:20:17.63 ID:14juKQqa0
とりあえず、ポケットに入っていたラッキーストライクを一本取り出し、
口に咥えた。
地震が起こる直前も吸っていたはずだが、何だか半日ぶりに吸うような
懐かしい感覚に見舞われた。

( ゚∀゚)「まったく……ついてねえぜ」

たゆたう煙を目で追いながら、呟くように悪態づいた。


( ゚∀゚)「……ん? 人じゃねえか」


視線の先、のろのろと歩く人の姿があった。
ようやくこの街で生き残りを見つけることが出来たことを、
ジョルジュは嬉しく思い、思わずその人影に向かって叫んだ。

( ゚∀゚)「おーい、大丈夫かーっ!」
 


128 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 10:23:04.25 ID:14juKQqa0
若い女だった。
その女はジョルジュの姿を捉えると、嬉しそうに小走りでやってきた。
人に出会えた安心感で、ジョルジュもその女も、ほっとした。

その時、また小さな揺れが起こった。

( ゚∀゚)「うおっ」

ジョルジュはよろめき、跪いた。
女を見ると、気丈にもバランスを取りながら走ってきた。

地震はやんだ。
しかし何かが崩れる音が聞こえる。

数十メートル先の女の上に四角い影ができた。
しかしジョルジュしか見ていない女は、その影に気付くことなく、








ビルの屋上広告によって潰された。
 



129 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 10:25:33.91 ID:14juKQqa0
( ゚∀゚)「……」

何が起こったのか、ジョルジュにもわからなかった。
跪いた両膝をゆっくりと持ち上げ、屋上広告へと歩み寄った。

無機的なそのコンクリートの塊の下から、赤い血が流れた。


( ゚∀゚)「な、なんなんだよそりゃ……」

やっと人に会えたと思ったのに。

呆気ない別れ。

( ゚∀゚)「俺たちが何したっていうんだよ!」

ジョルジュはこの世の不条理を呪った。


 

130 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 10:46:51.64 ID:14juKQqa0
――Interlude――
同日 時刻不明


――一人の男がいた。

思考に淀みはなく、態度は至極冷静なものだった。
男は自らの思いの丈をぶつけることだけを望んでいた。
そのための行動には一切の無駄がなかった。

路上で倒れ、意識が混濁し、だがしかし必死に助けを求める女がいた。

男は傍に静かに寄った。

女は冷静そうな若い男が来てくれ、安心した。
自分が助かると確信した。

女の視界に、一瞬だけ一条の光が見えた。
男の手にあるものが、秋の陽光を反射させ、煌びやかに輝いたのだ。
 


131 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 10:52:50.29 ID:14juKQqa0
風を切る音が聞こえた。


女は頭から血を噴出し、息を止めた。


自らの得物についた赤い血を、男は布で丁寧にふき取った。

もう動くことのない女の姿を一瞥し、また男は歩き始めた。

新たな獲物を探して――。

136 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 12:15:29.83 ID:14juKQqa0
――ドクオ――
同日 PM 0:30


今にも倒れそうな程疲労困憊としているドクオを支えるように、
ショボンは隣をついて歩いた。

('A`)「あと……どれくらいだ……」

息を漏らすように、ドクオは弱々しく呟いた。

(´・ω・`)「そこの曲がり角を曲がればすぐだよ」

J('ー`)し「ドクオ……」

背中の母が本当に申し訳なさそうに息子の名を呼んだ。

('A`)「もう……少しじゃ……ねえか……はぁはぁ……」

体中から吹き出る汗が、ドクオの体力を奪うのに加担していた。
11月の寒さは、身にしみた。
 


137 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 12:20:50.68 ID:14juKQqa0

(´・ω・`)「ブーン、いるといいんだけどね」

('A`)「いるに決まってるだろ……みんなで生きて帰るんだ……!」

潰れた家屋ばかりのこの団地で、ブーンの家が無事だという保障はなかった。
むしろその辺の家々と同じく、もう潰れてしまっているんじゃないだろうか。

そう三人の脳裏によぎる。

だが誰も口にしなかった。

それは言ってはいけないことだと三人ともよく分かっていたし、
何よりブーンは無事だという保障がないからこそ、
藁にも縋る思いで、無事に生きているという小さな可能性に賭けていたかった。


十字路を右に曲がり、真正面にある家を見た。
ブーンの家だった。

138 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 12:27:58.02 ID:14juKQqa0



('A`)「……」

過去形で表されるその材木は、無残につぶれ、原型をとどめてはいなかった。

(´・ω・`)「……」

J('ー`)し「……」

三人は何も言葉にすることができなかった。

あれでは家の中にいたとすれば、絶対に、百パーセント、生きているはずがなかった。

ショボンは思わず手にある金属バットを隣の塀に打ち付けた。

その金属音は、雲一つ無い晴れた青空に響き渡った。
 


139 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 12:32:49.29 ID:14juKQqa0


('A`)「……まだだ」

ドクオは呟いた。

(´・ω・`)「……何が」

('A`)「……まだだ、まだブーンが死んだと決まったわけじゃない。
   ブーンは外にいて助かった。
   もしくは、俺たちと同じく家が潰れる前に脱出したかもしれない……」

ドクオは喉の奥から搾り出すように、微かな声でそう言った。

その言葉は、ショボンにとって、ただの諦めの悪い子供の駄々にしか聞こえなかった。


140 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 12:36:53.15 ID:14juKQqa0
(´・ω・`)「ドクオ、つまらん望みは捨てろ。
      君は自分の家の前にいた死体を見ただろ。
      それに、ここまで来るまでにあった死体。
      あれは全部外にいたせいで死んだんだ。
      だから、ブーンだけが無事なんて保障は……」

('A`)「だからって、友達が死んだなんて、そうやってほいほい諦められるわけねえだろうが!」

先ほどまで疲れのあまりいつ倒れても仕方がなかった様子のドクオが、
喚くような怒号を撒き散らした。

('A`)「まだ死体を見たわけじゃねえ! ブーンは生きてる!
   そう信じてやらなきゃ、せめて俺たちが!」

(´・ω・`)「……」

ドクオの怒り狂った表情を、ショボンは痛ましいものを見る目で見た。



142 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 12:43:05.38 ID:14juKQqa0
ドクオ自身、これがどんなに絶望的な状況かは分かっていた。
分かっていたからこそ、どんな可能性にでも縋っていきたかった。

それこそがドクオたち自身が生き延びるための救いであり、
どこかで生きているかもしれないブーンの救いにもなりうる気がした。

J('ー`)し「……とりあえず、この辺りでまだ生きている人がいるなら、
     救助してあげましょう。
     その後みんなで学校へ行けばいいわ」

ドクオは頷く。ショボンは俯いたまま、何も答えることはなかった。


151 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 14:37:23.35 ID:14juKQqa0
――ジョルジュ――
同日 PM 0:38


( ゚∀゚)「……いつまでもこうしてても、何もはじまらねえよな」

女の眠る広告の前で呆然としていたジョルジュは、ふと立ち上がった。
目にはもう悲しみは残れど、絶望の色はなかった。

( ゚∀゚)「とりあえず、ここらの避難場所を確認してみるか」

ジョルジュは未だに少しばかり混乱している頭を鎮め、
脳内に地図を作ってみる。

都市部に於ける緊急避難場所として選ばれているのは、
・FOX公園
・ニュー速グラウンド
の二箇所だった。
 


152 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 14:40:11.67 ID:14juKQqa0
FOX公園はここからかなりある。
それにビルの林を通らなければならない。
ビルの屋上広告の下でつぶれている女を見れば、FOX公園へ向かうのは下策と思えた。

ニュー速グラウンドはここから近く、それに上から何かが降ってくる危険性は少ない、
見晴らしのいい道の先にあった。
ジョルジュとしてはこちらへ行きたかったが、
そこへ行くには幾つもの橋を通らなければならない。
もし橋が地震で落ちていたとすると、
FOX公園よりも時間のかかる危険性があった。

どちらにしても、危険はあった。
いや、結局どこにいようとも危険だ。
ここにずっと居た所で、いつかはビルが崩れ、ジョルジュは女のように潰されて死ぬだろうし、
公園やグラウンドに居た所で、地震が起き、死ぬかもしれない。
 


153 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/03(金) 14:49:12.36 ID:14juKQqa0
どこにいても変わらない地獄。
そこが『海の楽園』とはよく言ったものだ。

( ゚∀゚)「……」

とりあえずジョルジュは歩き始めた。
向かう先は、ニュー速グラウンド。

 

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